リンとユエの出稼ぎ④
ボクとユエ、ヴェロニカさんに騎士の人達と一緒にウルカレル領のいろんな村や街に移動しながらレールを引いていく。もちろん、精霊さん達に大量の魔力を払って土を盛り上げているし、護衛の黒騎士と白騎士を配置してモンスターや盗賊などを退治してもらっている。
そう黒騎士と白騎士。ひなが少量ではあるけれど工場化して量産に成功したらしくて数が揃ってきている。戦力としては申し分ないし、冬の間なら人がいなくても大丈夫だと思われる。
そうこうしていると前にとった方法だと大変だから、本当は駄目だけれど必殺技というか裏技を使った。遠見などを妨害する結界も街の中からは効かないからね。
「発見。書類の内容は脱税と横領。場所は二階の廊下の壁画の後ろにある金庫だね。番号は……」
「やっぱりリン君の千里眼は反則ですね~」
「ずるだけどね」
「犯罪者逮捕のためならいいんじゃないですか?」
「そうですよ~それにこれから戦争をするんです。領内の不穏分子は排除して後顧の憂いを絶ちたいと思います」
ユエの言う通りだし、ヴェロニカさんも真剣な声で言ってくれた。なら、ボクもボク達家族が過ごしやすい環境を作るために頑張ろう。
「では行ってきますね」
「頑張ってきてください」
「いってらっしゃい」
ヴェロニカさんが騎士の人達を連れて代官の家に向かっていくので、ボクとユエは街の外に出て簡単な駅を作る。街の外に作るのは街の防壁に穴を開けないといけないし、街に入る時に支払わないといけない税金の徴収のためだね。
駅はこれからのことも考えてホーム四つと車両を止める場所も考えて多めにとって精霊さんに土の防壁を作ってもらって焼きた固めておく。土地の確保だけで本格的なのは戦争が終わってから、人を雇ってやっていくって調が言ってた。そうしないと経済が回らないらしい。
土地の確保と簡単な駅が終わったら食料を降ろし、屋台に乗せてユエと一緒に引きながら街の中に入っていく。
入口はヴェロニカさんが連れてきた騎士の人達が制圧しいるので、そのまま通してもらえる。
街の中を簡単に千里眼で調べてから、スラムと思われる場所に移動する。炊き出しの場所はボク達の好きに決めていいので、ボク達にもメリットがあるスラム街にしている。
スラム街なら、人手を確保できて外に連れていっても問題ないからね。
「リン君、ここもスラムでいいですよね?」
「うん。何時もの通り、募集も同時にかけるよ」
「わかりました。今日のメニューはどうしますか?」
「腹持ちがよくて温まるのがいいだろうし、豚汁にしようか」
「豚汁ですか、いいですね」
「美味しいよね」
「はい♪」
スラムを歩いているボクとユエに視線が集まってくる。けれど気にせずに歩いていると、路地に倒れている人影を何人もみる。彼等の身体には雪が積もっていて、すでに息をしていない。
「どう?」
「駄目ですね」
「残念。精霊さん、お願い」
『『『あいあいさー』』』
死んだ人の身体がボクのお願いによって火に包まれてすぐに灰になっていく。その灰は風によって運ばれてボクが持つ便に収まっていく。これらは後で供養してあげる。
「死体の処理はしないと病原菌の温床になりますしね」
「だね。こっちも片付けたいけれどこれは仕事になるし……」
「私達がやるわけにはいきませんね」
糞尿がそこら中にあって臭いけれど、風の魔法でこちらにこないようにしているので問題ない。
色々な話をしながらユエと一緒に進んでいると崩れた建物の中から人の視線を感じる。それもよからぬ感じの奴で、ボク達に危害を加えようとしている奴だ。
「リン君、どうしますか?」
「ん~とりあえずは放置かな。襲ってきたら倒そう」
「はい。私はできたら襲ってきて欲しいですね」
「あははは」
ユエは真祖の血族で相手の命を吸い取ってストックしたりもできる。それに加えてユエの強さは血の総量でもかわってくるから、襲撃者はユエにとって歓迎することでもある。とくにボクを狙ってくる人にボクが大好きなユエが容赦するはずもない。
「あ、リン君。あそこでいいんじゃないですか?」
「そうだね。あそこにしようか」
ユエが指さした先には井戸のある広場のようなところがあった。その井戸の前に人が立っていて、並んでいる人からお金を受け取って井戸を使わせているみたい。
「あれはいいんでしょうか?」
「わからないから、確認してみるね」
「お願いします」
風の精霊さん達にお願いしてヴェロニカさんに声を届けてもらう。
「ヴェロニカさん、聞こえますか?」
『リン君ですか? どうしました?』
「実は……」
ボクが現状を伝えると、ヴェロニカさんは怒りを含んだような冷たい声で言い切った。
『その人達は犯罪者なので生死問わずで倒してください。できれば情報が欲しいので生きている方が望ましいです』
やはり、犯罪みたい。なら倒してもいいよね。
「任せてください」
『お願いしますね』
「はい。ユエ、殺さないでね」
「わかりました。それでどうしますか?」
「まずは相手から手を出してもらおうかな」
「じゃあ、予定通り配給をしましょうか」
「うん」
広場に入って端の方に移動する。ボク達に気付いた人達が少し、こちらを見詰めてくる。明らかに場違いな視線を向けてくる。まあ、ボクはともかくユエはゴシックドレスみたいなフリルのある奴だからしかたない。
視線を無視して屋台の準備を始める。まずは台をだして複数の机と椅子をアイテムボックスから取り出していく。ユエはアイテムボックスから大量の食材を取り出して切っていく。
「リン君、お願いします」
「うん。水の精霊さん、火の精霊さんよろしくね」
『はいなの~』
大きな鍋に水を作ってもらい、火をかけてもらう。そこにユエに切ってもらった野菜を入れて、オークの肉を入れる。後は魔法で時間を瞬時に経過させる。
その間にお米を焚いていく。ユエは野菜炒めを作ってくれている。
しばらく経ったら、鍋にお母さんが作った味噌を投入して味を確かめる。ボクだけじゃ不安だから、小皿に入れてユエにも確認してもらう。ユエはボクが差し出した小皿に口をつけて飲んでいく。
「どう?」
「良い感じですね。こちらもどうぞ。あ~ん」
「あ、あ~ん」
恥ずかしがりながらユエから野菜炒めを食べさせてもらう。野菜の甘みもあってすごく美味しい。日本の野菜より美味しいかもしれない。
「どうですか?」
「いいと思うよ。美味しいし」
「良かったです♪」
満面の笑顔を向けてくれるユエにボクは思わず見詰めてしまう。こんな感じで料理を作っていると、なんだか人だかりができている。かなりぎらついているし、お腹の音が鳴っている。
「今から配るので順番に並んでください。後、手を洗ってから食べてもらいます。こちらで両手を綺麗に洗ってください」
水の精霊さんに作りだしてもらう水を垂れ流しにしてもらって、地面の水は火の精霊さんに乾かしてもらう。これで綺麗に手を洗った人に渡していく。
「いっぱいありますから、しっかりと並んでくださいね」
ユエと一緒にちゃんと手を洗った人に野菜炒めと豚汁、おにぎりを渡して食べ方も説明していく。
「お嬢ちゃん達、本当に無料なの?」
「はい。これは配給でもあるのでどうぞ食べてください」
「お水も無料ですので、どうぞ」
本当に渡すと美味しそうに……というより、無我夢中で食べていく。その姿を見て他の人もどんどん貰いにくる。ボクとユエでいっぱい作っていく。
しばらく料理を振るまっていると、なんか悪い人達がやってきた。彼等はボク達を囲むように立ってくる。
「嬢ちゃん達、誰に断って商売をしているんだ?」
「商売ではないです。お金を貰っていませんから商売とはいえませんね」
「そんなことを言っているんじゃない! 誰の許可をもらってやってるかだ!」
「そうだぞ。ここは俺らの島だから、代金を払ってもらおうか。身体でもいいぞ。嬢ちゃん二人は高く売れそうだな」
もしかして、ボクは女の子だと思われているのだろうか?
「誰の許可かというと、領主様の息子さんですけど?」
「ああ? 嘘言っているんじゃねえよ」
「本当ですよ。ほら、依頼書です」
「まあ、どっちにしろ関係ないな。払うものを払ってもらおうか」
相手の男性がボクの服の襟を掴んで持ち上げると、彼の腕が斬り落とされた。
「あ? な、なんで……」
「リン君に汚い手で触れるなんて……万死に値します」
声に後ろへ振り向くと、血塗れの大鎌を持ったユエがハイライトのない瞳でみていた。
「あっ、ああぁぁああぁぁぁぁっ!? うっ、腕がっ、腕がぁあぁぁぁっ!?」
「てめぇっ!」
「ユエっ、殺しちゃ駄目だからねっ!」
「わかりました」
武器を抜いて迫りくる男達は……ユエの二つに別れた大鎌によって瞬く間に両手両足を落とされた。傷口から噴き出すはずの血液は何故か切断面で固まっている。
「ユエ、情報を聞き出さないといけないんだよ?」
「大丈夫ですよ、リン君。彼等から血を吸いとれば記憶がみれますから……だから、ここで地獄をみせてあげます」
怒ったユエは止まらないので、今の間に白騎士と黒騎士を呼び出して彼等を積み上げておく。逃げて行った人達はおびえながらもこちらをみている。
ちなみにユエはどんどん人を倒していっている。しばらくみていると、ボクの方にくるので槍を取り出して応戦する。ユエの言葉から手加減する必要もないので、相手の急所をいっきに九回突いていく。ほぼ同時に突くことで相手を倒すこの技はテレビでやっていた剣士の真似だ。あちらは刀だけど突きなら槍でやるべきだよね。
「リン君、制圧が終わりました」
「ご苦労様。じゃあ、お願いできる?」
「任せてください」
「たっ、たすけ……ぐぁぁっ!?」
ユエは触りたくないのか、助けを求める人の頭に大鎌を突き刺す。突き刺された相手は身体中の血液が大鎌に吸われていっているようで、ミイラ化して最後にはサラサラの砂になっていく。倒れている人も同じで、すぐに人がいなくなった。
「ユエ、どうだった?」
「場所もしっかりと判明したので少し、席を外しますね」
「うん、気を付けていっておいで」
「はい♪」
どうやらまだ満足できていないようなので、ボクは片付けが終わったら配給を開始する。怖がられて全然人がこない。このままじゃ人を連れていくことも難しいかもしれない。
こうなったら最終手段というわけで、一旦転移魔法で戻る。向かった先は神殿で、ステンドグラスから入る光に照らされる中で祈っているシスターのところに向かう。彼女は太陽の光を受けて青みのかかった銀髪がきらきらと綺麗に光っている。
「ティナ」
「ご主人様、お帰りなさいませ」
ボクが近づくと、ティナはボクを抱きしめてくれる。彼女は顔を赤らめながらお帰りのキスをしてくる。ボクも顔を真っ赤にしながら、ティナの顔をみると恥ずかしがりながらそっぽを向く。
「そっ、それでどうなさいましたか?」
「少し手伝ってくれる?」
「畏まりました。どうすればよろしいでしょうか?」
「数人連れて移動しよう」
「わかりました。少し待っていてください」
ティナがすぐにシスター見習いの子達を連れてきてくれたので、転移して元の街に戻る。
スラムの住人は現れたシスター達に驚いている。その間にボクは指示をだして食事の準備をしてもらう。ティナには別にお願いがある。
「ティナは治療をしてあげて欲しい。魔力がなくなればボクがあげるし」
「かっ、畏まりました。頑張ります」
「ここで無料で治療してもらえますので並んでください」
治療を餌に人を呼びこむ。同時に皆の回復魔法の修行にもなるので、こちらもメリットがある。だから、全員をパーティーにいれてボクも料理を頑張る。
しばらくするとユエやヴェロニカさんが戻ってきた。二人はここの代官と組んでいた犯罪組織の関係者を撲滅しにいった。
こんな感じでボク達の旅は終わり、冬の季節が過ぎ去って温かくなって新たな生命が芽吹いていく。同時にそれは戦争が始まることになる。




