リンとユエの出稼ぎ①
あれから数日。盗賊に捕らえられていた人は僕達が預かり、捕らえた人達や残っていた人達は全員奴隷にして僕達が引き取った。彼らは作っているターミナル駅に行ってもらった。これ以外にも商売の交渉を任せた調が村長と商談を行ってくれて、沢山の奴隷を手に入れていた。もちろん、周りの村々にも出向いて食料を運ぶついでに商談を行って奴隷を確保した。村としては食い扶持を減らして食料を購入していきます。同時に冬には必要のない人手を雇う事で食料を配給し、奴隷になる人を少なくしたよ。
「大分人が集まったわね」
僕達の前に複数の村から集めた沢山の少年少女が並んでいる。
「そうだね。でも、奴隷は子供ばかりだね……」
「私達の知識を教えて鉄道の運営や警備に使えるようにする為よ」
「でもかなりの時間がかかるよ」
「その為に時間を増やしてね」
「わかったけど、教師は?」
「私がやるわ」
「わかった」
大量の魔力をあげて増やした精霊さんと協力して草原に学校のような建物を作ります。
数日で校舎と寮、グラウンドを作って貰う。精霊さん達は凄すぎると思う。ちなみに石とかしか作れないので大理石で出来た校舎とかになっちゃうんだけど。
「問題は教師ですね」
「僕達が教えるんじゃないの?」
「時間が掛かりすぎるわ。だから、リンは奴隷を買ってきてくれない? 出来れば長命種がいいけど」
問題となるのが人材な訳で……それを解決する手っ取り早い手段は職業斡旋所とかじゃなくて奴隷を買う事なんだよね。
「長命種といえばエルフとかドワーフだね」
お母さんとお父さんの種族の人が奴隷になっているなら、他の人達と一緒にひどい目に遭う前に助けてあげたい。
「そうですね」
「出来ればエルフね。あとは騎士とかがベストかしら」
「色々な技術者がほしいですね。でも、お金はどうするんですか?」
「売却用の食料はいっぱいあるから、それを売るよ。護衛は……」
「私がしますから、調ちゃんは皆さんの事をお願いします」
「わかったわ。それじゃあ時間の結界を貼っちゃって。教育も出来る限りしておくし」
「任せて」
僕は時間の流れが違うようにターミナルの周りごと時間の流れを早くします。これで精霊さん達が直ぐに作ってくれるし、教育は調に任せておけばいいだろうし、こっちはこっちの準備をしようかな。
「リン君、それでこれからはどうしますか?」
「先ずは戻って食料の補充だね」
「わかりました」
ユエと手を繋ぎながら短距離転移で母さんの所へ向かう。お母さんは倉庫で沢山の食料を集めて在庫を確認していた。
「母さん」
「リンとユエじゃない。どうしたのかしら?」
「食料をいっぱい欲しいんだけど、いいかな?」
「別にいいわよ。そっちの端っこに積み上げているの以外は別に要らないわ」
「わかった」
「リン君、どうせなら他の人も連れて行って調ちゃんに任せましょう」
「それもそうだね」
纏めて教育した方が効率がいいからね。こっちにあるインスタントダンジョンとかはこっちまで線路を引いて遠足や合宿みたいな形で来る事にする。もしくは学園の方にゲートを設置する。これは相談しよう。
「どういう事?」
「えっと、あちらでターミナル駅を作っているんです。ついでに学校みたいな場所も作る事にしたんです」
「こっちに作らなかったの?」
「こっちじゃ何かあった時に困るかなって」
ひとつ場所に全てを固めると何かあった時に困るんだよね。それに学校はいろんな所に作りたいしね。
「確かに密偵とかが入ってきたら鬱陶しいわね」
「それに鉄道関係の人達を鍛える為だからあっちでするよ」
「そう。まあ、食料くらい直ぐ出来るから好きなだけ持って行きなさい」
「ありがとう」
「ありがとうございます!」
直ぐに種類ごとに別けられた箱をアイテムボックスに仕舞っていくよ。
「リン君、どれを持っていくんですか?」
「出来る限り多く。一気に稼ぐからね」
「わかりました」
オークの肉も含めて二人でいそいそと回収していく。沢山の食料を調達したらラプシン以外の大きな街を千里眼で探してその近くへとユエと一緒に転移する。
ラプシンに比較的近くにあった街にやって着た。もちろん、街から離れた所に転移したよ。そこからユエと一緒に出した馬車で街道を進んでいく。
「リン君、リン君」
「何?」
「手をつないで……いいですか?」
「うん、いいよ」
御者台の隣で座っているユエがおずおずと義手の手を差し出して来るので握って一緒に進む。現在のユエの義手は左手が鉤爪の凶悪なタイプでそちらにデスサイズの柄を持っている。右手が普通の手になっている。僕は僕で直ぐ横にいつでも取れるように槍を置いている。
「えへへへ」
嬉しそうにしているユエを見ていると僕も嬉しくなってくる。もちろん、危ないので直ぐに前を見るんだけどね。
少しするとラプシンよりも大きな街が見えてくる。門の前には数人が並んでいる。僕達も並んで順番を待つ。すぐに順番が来て兵士の人がやって来た。
「身分証をお願いします」
「はい、どうぞ」
ヴェロニカさんから受け取った身分証を渡すと兵士の人が驚いた表情をした。
「確認しました。御用はなんでしょうか?」
「商談です。滞在は一日から二日ですね」
「畏まりました。積荷を改めさせて貰う必要はないのでそのままお進みください」
「ありがとう」
馬車を動かして門を潜っていく。
「検閲も税金もありませんでしたね」
「そういう契約だしね。男爵領なら無料だよ」
「それは助かりますね」
「もっとも、別の形で支払っているんだけどね」
「食料で、ですね」
「うん」
正確には今回、砦や村々に配る分と鉄道に関する事などで税金を安くして貰っている。もちろん、クロードさんには後で色々な形で支払うんだろうけれどね。
「それでこれからどうしますか?」
「先ずは馬車を置いてからかな」
「では宿を確保しますか?」
「いや、預かり所でいいかな」
「わかりました」
大通りにある預かり所に馬車を預ける。1日銀貨5枚もするけれど問題はない。それよりも千里眼を使って街で売っている食料の値段を一気に調べる。
「ユエ、紙とペンを頂戴」
「はい、どうぞ」
ユエがインクを浸した羽ペンと紙を渡してくれる。僕はそれに値札のついている品物の値段を書いていく。
「値札がないのが多いや」
「この文明レベルだと仕方ありませんよ」
「なら、直接見に行こうか」
「はい!」
ユエと手を繋ぎながら街を歩いていく。事前に千里眼で街の中を覗けたらいいけれど、結界が貼ってあるせいで覗けないからめんどくさい。
「あっ、果物屋さんですよ」
「いらっしゃい。何にするんだい?」
屋台に少数の果物が置かれている。どれも鮮度は悪そうで、売っているお兄さんも元気がない。
「いくらくらい?」
「アプラの実が銅貨6枚だね」
「高いですね」
「今は食料不足でどれも値段が跳ね上がってるよ。前は同じ値段で6個は買えたんだけどね」
林檎みたいなのが6倍か。ある所にはありそうな気もするけどね。やっぱり、調べてみるか。
「色々と教えて欲しい事があるんだけど、いいかな? もちろん買うからさ」
「買ってくれるならいいぞ」
「それじゃあ、先ずはこの街にある食料を扱っている商会の場所と経営している人達の情報と奴隷商の場所をお願いします」
銀貨を2枚渡して話してもらう。
「助かるよ。行くならコルベア商会がいいぞ。あそこは良心的で出来る限り安く俺達に売ってくれるからな。他の連中は直ぐに買い占めたりしてやがる」
「全部教えてください。こちらで判断するので」
「わかったよ。まあ、忠告はしたらからな」
「はい」
商会の場所とかどんな状態かを聞いていくと悪口とかもどんどん出てくる。ユエが聞いた情報を左手を下敷きにしてどんどんメモしてくれる。
「ありがとうございました」
「おう。また来な」
「はい。行くよ、ユエ」
「わかりました」
少し離れてからユエが不思議そうに聞いてきた。
「全部の商会を回るんですか?」
「もちろん。次はあそこだね」
「はい」
それから何件かの食料品店を覗いて情報を聞いていく。聞き取り調査が終わったので馬車を取りに行く。それから馬車に乗って聞いた商会へと移動する。
「すいませ~ん、食料を売りに来たのですが店主さんはいらっしゃいますか?」
「ああ?」
商会の前に到着したら馬車から降りて店員を呼んで馬車に積んだ商品を見せる。
「商談がしたいのですが、いらっしゃいますか?」
「それなら俺が買ってやるよ」
「それなら結構です。別の所に売りに行きますので。行こうか」
「はい」
「待て待て! わかった! 呼んでくるから待ってろ!」
僕達が別の商会に行こうとすると慌てて止めてくる。今は食料不足だから食料は売れば売るだけ儲かるから、儲けのタネを逃すはずがないよね。
「成功しましたね」
「第一段階だけどね。護衛をよろしく」
「任せてください。リン君を傷つける者は誰であろうと許しませんから」
「ありがとう」
「♪」
嬉しそうなユエと待っていると直ぐにさっきの人が戻ってきた。
「中に案内するから馬車はこっちに止めてくれ」
「わかりました」
直ぐに駐車場みたいな所へと止めてから商品である食料の箱を持つ。
「あ、運ぶのを手伝ってください」
「わかった。直ぐに手伝いを呼ぶ」
食料が沢山入った箱を運んで貰って一緒に店主さんの待つ場所へと向かう。途中で細工されるのは嫌だからね。
案内された部屋には恰幅のいい人が護衛を伴って待っていた。手には大きな宝石をつけている。
「ようこそ。食料を売っていただけるとの事ですが、これらがそうですか?」
「こちらに売れるのはこの箱で後300箱ですね」
「300ですかっ」
僕が持ってきた箱は縦×横×高さが全て50センチの奴で、持ち込んだのはそれが10箱。
「明日、街に到着する予定です。なのでこちらにある10箱以外は契約書という形になります。別の街にも売りに行こうと思っているので取引は外でお願いします」
「ふむふむ。とりあえずお座りください」
「はい」
僕はソファーに座って、その後ろにユエが立つ。ユエまで座ると護衛が出来ないしね。あちらも同じように護衛が背後に立っている。というか、ユエは真似しただけだと思う。
「300箱との事ですがまだそれ以上に売ってもらう事は可能ですか?」
「もちろんです。引き取っていただけるなら他の街にいく理由がありませんからね」
「では、ひと箱銀貨200枚でよろしいですか?」
「ご冗談を。現在の値段からして売値の3分の2は頂きたいですね」
「こちらは売る手間や保管もありますので、それは無理ですね」
「別の商会に売りに行っても構わないのですが……」
「現物ではなく、あくまでも明日届くとの事ですし安くしてもらわないと」
「では……」
それから交渉を重ねて現在の売値の半分という事で落ち着いた。その代わり大量に購入して貰った。
「契約書を交わしましょう。もちろん、契約魔法で」
「当然ですね」
店主さんと条件を調整していく。
「条件は明日の明朝、食料が入った箱を1200箱と金貨1200枚と交換する事。もし、互いに支払えない場合はお互いの持つ全財産を相手に引き渡す事。また、取引が終わるまで互いに妨害せず、財産の移動を認めない。これでよろしいですか?」
「ええ、かまいませんよ」
互いに厳しいかも知れない条件だけど、僕はウルカレル男爵が損害を保証してくれるという証明書があるのでこちらの信用は問題ない。相手は大きな商会なので契約を破ると大変な事になるからしないだろう。
「それではまた明日、お待ちしています」
「こちらこそ」
ユエと一緒に空になった馬車で移動する。少ししたら馬車の中に食料を補給する。
「明日まで待つんじゃないんですか?」
「まさか。どんどん行くよ」
「り、リン君……?」
「絞れるだけ絞らせてもらうよ? 一部以外は」
「あははは……」
それから同じように商会を回って契約を行っていく。契約魔法なので違えると命すら関わってくる危険な物だしね。
そして、最後にまともな商会と教えられたコルベア商会へとやって来た。
「私が当商会を取り仕切るフェルディナンド・ゴルベアだ」
鍛え抜かれた身体を持つダンディなおじさんが居た。今回はユエも隣に座って出して貰ったお茶を飲んでいる。
「リンです。早速ですが食料100箱と情報を買いませんか?」
「食料はともかく情報もか?」
「はい。食料の買取金額を店で売っている半分にしてくれるならおつけしますよ」
「いいだろう。ただし、他の商店よりも安くなるぞ」
「かまいませんよ。それで情報ですが、明日大量の食料がこの街に溢れます。なので売るのは今日中にしておいた方がいいですよ」
「……」
「他の商会は大変でしょうね。高値で買った品物が同じ値段では売れないのですから」
ユエが笑いながら喋りだした。
「お前達が仕掛けているのか。なぜ私に教える?」
「それはもちろん、民の味方をしていたからですね」
「そういう事。そういう訳で明日までに売り切っておくといいですよ」
「わかった。何か必要な物はあるか?」
「大丈夫です。何かあった時にお願いします」
「了解した」
これで残りは奴隷商だけだ。そちらは今日手に入れたお金で買えるだけ買っておく。販売員は必要だからね。本格的に購入するのはもうちょっと経ってからだ。これまで暴利を貪ってきた連中は必死に利益を回収するとするだろうけれど出来ずに手痛い痛手を負うことになる。そうなると少しでも稼ぐ為に奴隷を手放したりすると思う。そこを狙えばいい。それに奴隷商にはエルフやドワーフはもちろん、人間でも優秀な人が入ったら優先的に売るように契約を持ちかければいいしね。
そんな訳で奴隷商も回って人員を買ったらスラム街に移動してそこに居る人達炊き出しを行っていく。これはここに居る街の人に配る分だ。もちろん、奴隷の人やスラム街の人に手伝って貰う。スラム街の人には給金を支払ったよ。それから希望する人は家族ごと雇うし孤児達も養うという事を伝えて、明日集まるように言っておいた。もちろん、明日も炊き出しを行う事は伝えた。
その後、街から出てしばらくした所でライちゃんと列車を出してそちらで明け方近くまで待つ事にする。奴隷の人達は驚いていたけれど、言わないと事を約束して貰った。しばらくしたら解放する事もしっかりと伝えておいた。




