初めてのアレは血の味
少し残酷な描写があります。
種族的に仕方ないと思ってください。
中二病的に種族を選んだら……こうなる確率が非常に高いです。
ユエの肉体再生Lv.1を臓器再生に変更しました
「リン、朝よ。起きなさい」
「んんっ……」
お母さんの声で目を開けると見た事の無い凄く美人な人。いや、今はお母さんの顔なので知っているけれど。そういえば僕も髪の毛が銀色になって長くなってるんだよね。サラサラで少しくすぐったい時がある。
「おはよう」
「おはよう。あれ、ひなたは?」
「あそこよ」
お母さんが指さした所ではひなたが寝転がっているクマのお腹の上で丸まって寝ていた。その横では狼がお座りしていて、虎が伏せしている。その背後には巨大なサイが控えている。付いていた傷も魔法の糸で縫合されて治療が住んでいる。どうやらあれからも起きてやっていたようだ。
「なんていうか、悪の親玉だね」
「そうね。どれも凶悪そうなのよね。っと、今日は外に出るから早くご飯を食べなさい。ひなたは起きたら食べさせるわ」
「わかった。お父さんは?」
「大きい子に座る場所を作っているわ」
「そっか」
朝ご飯に硬いパンを食べた後、お父さんを手伝っていく。サイの上に像に付けるような鉄製の乗り場を作った。それもスプリングまで取り付けた奴を鎖でハーネスのようにしっかりと設置した。事前にひなたが僕達の言う事を聞くように指示していてくれたお陰で全て順調に進んだ。
「準備が出来たな。じゃあ出るぞ」
「うん」
アイテムボックスに4匹を仕舞って通路から外に出る。窪みの部分を開いて草原に出たら改めてサイを出して乗り込む。ひなたはお父さんがおんぶして上に連れて行った。
「さて、どちらに向かう?」
「森がある北は無いとして、東か西か南ね。リン、どっちがいい?」
「僕が決めるの?」
こういう事は家長であるお父さんが決めた方がいいと思うんだけど。
「どうせならリンの強運に賭ける。その方がリンにとってプラスになるだろうしな」
「ええ。お母さん達はどっちでもリンの為になるならいいからね」
「わかった」
目を瞑って確かめてみるけどわからない。なのでその辺にある帽を用意する。それを立てて手を離してみる。すると西に向かって倒れた。
「西で!」
「わかった」
お父さんが西に向けてサイを進ませる。サイはどんどん加速していく。僕は千里眼で西側を確認するととんでもない姿が目に飛び込んできた。複数の鎧を着た男達達が僕くらいの年齢の女の子の手を切り落としている姿だった。それも僕と同じ学校の制服を着ている長く艶やかな黒髪をツインテールにした子だ。僕はサイから飛び降りてアイテムボックスから虎を呼び出して飛び乗る。
「っ!?」
「どうしたの?」
「リン!?」
「女の子が襲われてるから助けに行ってくる!」
「ちょっと待ちな――」
虎を全速力で走らせる。巨大な事とモンスターな事もあってとんでもない速度が出た。僕は振り落とされないようにしっかりと首の毛を掴んで抱きしめる。
千里眼で確認すると腕を着られて必死に逃げている女の子は次に足を斬られて倒れた。倒れた女の子に男達は掴み上げて十字架に縛り付ける。
「もっと速く!」
急かしながら彼らのエネルギーである魔力を与えると速度が急激に上がった。アンデットなだけあって無茶ができるし非常に助かる。
女の子は胸元から服が破られて上半身を露出され――槍で串刺しにされた。
「あっ、ああああああああぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ!!」
絶叫が近づくこちらにも響いてくる。次々と男達が女の子を嬲るように刺していく。
「やめろぉおぉぉぉぉぉっ!!」
僕は思いっきり叫ぶ。すると相手もこちらに気づいたのか、慌てて整列して槍を構えてくる。男達の一部が女の子の足元に藁を置いていく。一人が馬に乗って西へと走っていく。西の更に先には大きな石で出来た壁があった。
「ブラッドタイガーだと!?」
「くそ、こいつの仲間か!」
「応援が来るまで耐えるんだ! 魔法師隊は防御魔法を貼れ!」
虎は飛び上がって背中に僕が居る事も気にせずに爪を振るう。すると光の膜みたいなのと爪が衝突する。膜みたいなのはあっさりと切り裂かれた。それだけじゃなくて爪から赤色の光が爪の延長のように伸びて男達に向かう。男達は大きな盾を構えて受け止めるけれど、弾き飛ばされる。
「女の子の横につけて!」
僕の言葉に従って直ぐに飛び上がる。いや、従ったんじゃなくて飛んできた炎を避けたみたい。でも、僕の言葉の通りに貼り付けにされた女の子の近くに着地してくれた。それでも、女の子の足元には火が付けられてしまった。
「やはり仲間か!」
「なんとしても殺せっ!」
僕達を囲む男達に僕は焦ってしまう。今まで味わった事の無い恐怖に身が竦んでしまう。凄く怖い。
「……っ、た、助け……て……死にたく……な……ゴホッゴホッ」
「っ!? 待ってて!!」
僕が悩んでいる暇なんて無い。死ぬのが怖いのは僕だって知ってる。余命を宣告される前からも治療でいっぱい痛い思いをしたんだ。この子だってこんな辛い目に合わされても生きたいって願ってる。なら、頑張るしかない!
「アイテムボックス、オープン。クマさん、狼さん、お願い! 僕達を守って!」
アイテムボックスの中から熊と狼を呼び出して応戦させる。その間に僕はアイテムボックスからショベルを使って土をいっぱい取り出して火にかけて消火する。金属のシャベルは熱くて掌が焼けちゃうけど無視して行う。
「ドラゴンベアにガルムだと!!」
「てっ、撤退っ!!」
「逃げろぉおおおおおおおっ!!」
消火した後は手がくっついているのを無理矢理引きはがして、シャベルを手放す。それからナイフでロープを斬って救出する。
「大丈夫!?」
「……っ、ありがっ……ごふっ!?」
女の子は血を吐き出した。身体は冷たくなりだして明らかに死にそうになってる。間に合わなかったの?
そんなの嫌だよ!
「何やってるのよ」
「これは酷いな。どっちの意味でもだが」
「お母さん、お父さん! お願い、この子を助けて!」
サイに乗って追いついて来たお母さん達にお願いする。お母さんは降りてきて彼女の容態を見ていく。
「手足がなくて腹部に損傷。肺もやられてるわね。なんでまだ生きているのか不思議だけど、種族特性かしら?」
「か、回復魔法はないの!」
「やめなさい。この子の種族次第でトドメになるわ」
「そんな……」
「……痛いっ、痛い、痛い痛いっ……いやっ、こんな所で……死にたく……ゴホッゴホッ」
「種族は何? わかれば助けてあげられるかも知れないわ」
「……はぁ、はぁ……ヴァ……パイ……は、は……はー……」
何を言っているかわからない。ヴァパイハ?
「ああ、ヴァンパイアのハーフね。なら方法はあるわ」
「本当!?」
「……おね、がい、し、まぁ……しま……」
「タダじゃ出来ないわ。代価として貴方が身も心もリンに捧げるなら助けてあげる」
「お母さん!?」
こんな時に何を言っているの!? 助けられるなら助けた方がいいのに!
「リン、全部を助ける事もできないし見捨てるしかできない時もあるのよ。ましてやここは平和で最低限の保障がされている日本ではなく、弱肉強食の異世界。私達もこの子みたいに死に掛ける事なんて沢山あるでしょう。私達にとってリンとひなたが一番大切なの。それ以外を見捨ててもいいほどに」
「でも……」
「……りん……望月……君……?」
「僕の名前を知ってるの?」
「……わた、し……たけ、う……ち……かえで……」
「竹内さん!?」
クラスメートの竹内さんだったんだ。小学校の頃から何度か一緒のクラスになって友達になったけど、中学に上がって疎遠になってた子だ。
「お母さん、お願い、助けてあげて! 友達なの!」
「この子の現状からして助けるなら生活の面倒を見なきゃいけないのよ? 介護だってしないといけない。私達にはそんな余裕はないわ」
「僕がするから! お願い!」
「リンはこう言っているけれど、あなたはどうなのかしら?」
お母さんが竹内さんの耳元で何かを告げると、竹内さんが真っ赤になった。
「……り、りん君に……なら……全部、あげま……す……」
「よしよし、いい子ね」
「なななな、何言ってるの!?」
「それじゃあリン。さっさとこの子をテイムしちゃいなさい」
「お母さんっ!? だから話を――」
「いいからさっさとこの子をテイムしなさい! 貴方のエクストラテイミングならあらゆる種族をテイムできるのよ! つまり、この子もテイムできる! ほら、殺したくないならさっさとする!」
「で、でも……」
「……おねが、い……助け、て……くださ……ゴホッゴホッ! 死にたく……ない……よ……」
「ああ、もう!」
ステータスを起動してエクストラテイミングをオンにして起動させる。対象に竹内さんを選択して発動する。
「行けっ! あれ、弾かれた!?」
「アンデットの時と一緒じゃないかしら? ここはキスしてやっちゃいなさい」
「え!?」
「ピンチのお姫様を王子様がキスで救う。女の子なら憧れるシチュエーションよ。いいからやっちゃいなさい。この子は身も心も捧げるって同意してるんだから」
「で、でも……」
「……り、りん君に……なら……」
竹内さんが目を瞑った。なにこれ、やるしかないじゃん! お母さんとお父さんを見るとニマニマして楽しそうに見ている。
「ああ、もう!」
「怪我しているんだから優しくよ」
「わかってるよ!」
竹内さんの可愛らしい小さな唇に僕のを近づけてキスをする。
「ほら、舌を入れないと中からした事にならないわ」
ええい、こうなればやってやる! ここでやらなきゃ男じゃない!
「んっ、んんっ!」
竹内さんの口の中に舌を入れて触れ合わせると血の味がする。なんだか凄く不思議な感じで嫌じゃない。でも、今はそれどころじゃない。急いでエクストラテイミングを発動させる。
「貴方も自ら受け入れなさい。そうした方が成功率はいいでしょ」
「んっ、ちゅっ……は、はい……」
竹内さんの身体が光って直ぐに消えた。ステータスを見ると原因がわかった。
[対象者の怪我が深すぎます。対象者をテイムするには魔力が足りません。極大魔力をオンにしますか?]
指でオンを選択して魔力を流し込んでいく。すると今度は消えずに光が竹内さんの全身を包んだ。それから竹内さんの傷口から煙が上がりだした。
「ああ、やっぱり再生には魔力が必要だったのね」
確かにヴァンパイアには再生能力が備わってるはずだよね。ハーフだったら弱いのかも知れないけど。
「ふむ。リンは上に行ってその子に魔力を送っておけ」
「あら、どうしたの?」
「増援だ」
向こうを見ると壁の一部が開いて沢山の鎧を着た男達がこちらに向かって来ている。もしかし兵士だった?
「逃げるのが得策ね。ほら、早く乗りなさい」
「う、うん」
「ベーちゃん、ブレス、放て」
上からひなたの声が聞こえたと思うと熊の口に光が集まって行く。それを見た人達は我先にと逃げ出した。
「ほら、行くわよ」
「痛いと思うけど我慢してね」
「は、はい」
僕は竹内さんを抱えてサイの上に登って席に着く。それから毛布を取り出して彼女の体にかけてあげる。ひなたはじーと竹内さんを見ている。人見知りだから仕方ないね。そんな事を思っているとお母さんやお父さんも登ってきた。
「リン、熊がブレスを放ったらアイテムボックスに回収しろ。サイで一気に逃げる」
「わかった」
直ぐにブレスという名の光線が放たれて壁の一部を破壊する。僕は直ぐにアイテムボックスを開いて3匹を回収する。それと同時にお父さんがサイを発進させた。その直後、砦から矢がいっぱい飛んできた。
「さあ、突き進め!」
「どっちに行くの?」
「適当だ」
「あ、それなら反対側にも壁があるよ。そっちに行ってみようよ。旗も違うし、こっち側を見てている兵士が多いよ」
「さっきの所と敵対しているなら行ってみてもいいか」
「敵対、してる?」
「国境じゃない砦にしては警備が物々しいからな。それに旗が違いこちらを監視している兵が多いなら敵対しているのだろう。草原にも戦いの痕跡があったしな」
お父さんが言ったとおり、草原に何個か剣や槍が落ちていたり、えぐれた地面がある。しかし千里眼は便利だね。4000Kmまで見れるし。
「ほら、早く回復させてあげなさい」
「う、うん」
「お、お願い……します……」
お互いに顔を真っ赤にしてキスしながら竹内さんの治療を行っていく。
「むぅー」
ひなたが剥れているけれど、そっちは置いておいて治療に専念した。少しすれば竹内さんの傷は癒えたけれど、斬られた手などは再生せずにそのままになっていた。つまり、お母さんが言った通りに介護が必要だ。
「やっぱり再生は止まったわね」
「うぅ……すいません。私の再生スキルは臓器しか再生できないんです……」
「臓器を再生出来るだけ大概なんだけどね。吸血鬼が貫かれても大丈夫な理由がこれなのかしら? どちらにしろ再生しないなら対策は考えないといけないわね。ひとまずリンは極大魔力を切りなさい」
「うん」
お母さんに言われた通りにステータスを開く。するとユエという項目が増えていた。そちらを見ると竹内さんの姿がステータスと同時に表示された。スリーサイズとか体重とかも纏めて表示されていた。
名前:ユエ
種族:吸血鬼/人間
肉体:肉体強化Lv.1、臓器再生Lv.1、状態異常耐性Lv.1
魔法:吸血魔法Lv.1、時間魔法Lv.1
技術:
特殊:血の従者
状態:手足欠損、隷属
スリー
「っ」
「あっ……見ないでください!」
「ご、ごめんっ!」
慌てて消して僕の項目に戻して極大魔力をオフにする。竹内さんは僕の膝の上に座って貰っているので見られてしまったのだ。手足の無い竹内さんは転がっちゃうし危ない。
「うぅ……全部見られました……」
「いいじゃない。それよりも基本的な世話はリンにしてもらうとして、彼女の手足をどうするかよね。リンの護衛にしたいのだけど」
「義手や義足だろうな」
「……モンスターの手足、くっつけて、キマイラ化……」
「ひっ!?」
むすっとしながら物騒な事をいうひなたに竹内さんは怖がってる。
「ひなた、どうしたの?」
「ひなたはお兄ちゃんが取られると思って拗ねてるのよ。でも、大丈夫よ。あの子はお姉ちゃんになるだけだから」
「はうっ!?」
「間違ってないね」
「あのっ、それは……」
「家族になるんだしね」
「で、ですよね……」
どうしたんだろ? まあいいや。しかし、何か忘れて……あ、自己紹介だ。
「皆、自己紹介をしよう。僕はこっちでもリンだよ」
「それもそうね。私はエリゼで、この2人の母親よ」
「俺はアース。父親だ」
「ひなた。妹」
「ユエです。ご迷惑をお掛けします……でも、皆さんは家族できているんですね」
「そうだ」
「僕の為に一緒に初めてくれたらこんな事になっちゃったんだ」
「そうだったんですか……うっ、うぅっ……」
竹内さん、ユエが泣き出した。家族の事を思い出せちゃったのかな。僕は彼女の涙を拭いていく。
「ごめん、なさい……」
「あら、いいのよ。それと貴女はもう私達の家族なんだからそれだけは忘れないでね」
「は、はい」
「泣きたい時は泣くといい」
「僕の胸ならいくでも貸してあげるよ」
「ん……」
ひなたが泣き出したユエの背中を優しく撫でた。僕やひなたの場合は両親も一緒に来ているけれど、ユエの場合はそうじゃない。もう両親とは会えない。だから僕達が新しい家族になってあげないと。僕はユエが泣き止むまで頭を撫で続けた。