暗い穴の下で
お気に入り登録ありがとうございます。
よろしくお願いします。
空間設定と重力操作。どちらも強力無比な能力だと思う。でも、難しいのはわからないから空間設定を使ってみる。指定した空間の設定がある程度自由にできるみたい。
「結界はないけど空間設定と重力操作があったよ」
「空間設定で代用できるわね」
「というか、そのものだな」
「ん。魔力、遮断」
「魔力の遮断か。でも、遮断したらこっちから攻撃できなくない?」
「コントロールの練習には使えるだろう。それに設定できるならこっちからの攻撃は通して相手からの攻撃は遮断できるようにすればいい」
「それもそうか。でも設定できるのは一つみたい」
二つ以上、設定しようとしたら強制終了して魔力だけが取られちゃった。それもかなりの量。今のボクの魔力量だと2回が限界か。でも極大魔力をオンにしたらいっぱい魔力が手に入るし試してみようかな。
もう一度空間設定を行なって魔力の遮断を選択し、ボクの周りの空間に設置する。すると半透明な球体が現れた。そのままボクはステータスを操作しようとすると――
「ストップよ。それは危険だからもうちょっと経ってから試しましょう」
「今、気付かれた大変だから」
「そっか、わかった」
お母さんの言う通り、せっかく隠れているのにモンスターがこっちに来たら大変だ。
「ん、食事、する?」
「そうだな」
「用意するわね」
お母さんが料理を用意してくれるみたい。といっても火も使えないので硬そうなパンをちぎってるだけだけど。
「あなた、鍋を作れるかしら?」
「ふむ。できるだろうな」
「お願い」
「わかった。少し待て。凛、鉄を渡してくれ」
「はい」
ボクはアイテムボックスから鉄を取り出してお父さんに渡す。お父さんは土魔法でそれを粘土のようにして不格好な鍋を作成した。
「もうちょっと待ってくれ」
作った鍋を壊してまた作る。何度か繰り返して綺麗な鉄鍋を作ってしまった。それはもう売れそうなくらい綺麗な鉄鍋だ。
「これでいいか。しかし、改めて経験値10万倍は恐ろしいな」
「そうね……」
「6回で60万回繰り返したのと同じか」
お母さんはお父さんから受け取った鉄鍋に精霊魔法を使って水を入れて、ちぎったパンを入れていく。そこに干し肉を刻んだ物を入れて鍋を揺らして混ぜる。その間にお父さんが器やお箸を作ってくれている。
「さて、不味いでしょうけど我慢して食べなさい」
「ん、我慢する」
「仕方ないよね」
「そうだぞ」
お母さんとひなたは小さい器でボクとお父さんは大きい器だった。お母さんは一番小さい。
「私はいいわ。肉を食べられないみたいなのよ。貴方達で食べなさい」
「そうだぞ。子供は気にせず食べろ」
「うん」
お母さん達に進められるように食べてお腹を満たす。お父さんに色々と質問してみよう。
「そういえば来るのが遅かったみたいだけど、どうしたの?」
「ああ、それはあの声に質問してた。色々と教えてくれたよ」
「聞かれなかったら答えなかったわね、アレ」
「だな。とりあえず必要そうな所は聞いてから、お前達の下に飛ばしてもらった」
「少しの時間で追われているなんて思わなかったけどね」
「あははは、ごめんなさい」
「ごめん」
2人で頭を下げるとお母さんが頭を撫でてくれた。
「気にしなくていいわよ。それよりもこれからどうするかよね」
「せっかく獲物が居て、こちらの戦力を強化する手段があるんだ。この世界の事を考えると戦力はあった方がいい」
「そうね。迫害もあるみたいだし」
「迫害?」
「ええ。私達がなったエルフやドワーフは亜人といって人間至上主義の所では迫害されているらしいのよ」
嫌だね。迫害なんて辞めたらいいのに……虐めは良くないよ。
「そんな訳で父さん達はお前達を守る為にも力が必要なんだ。大型のモンスター相手でも戦えるだろう」
「そうだね。でも、勝てるかな?」
「策を使えば勝てるわよ。落とし穴だって策の一つだしね」
「うむ。飯も食ったしやるとするか」
お父さんが立ち上がって少し離れた所にある地面に手を付く。すると石のシャベルを作った。
「凛、いやリン。アイテムボックスの口を地面に繋げて出せるか?」
「多分できるよ」
「なら、一応荷物を全部出してくれ」
「わかった」
お父さんの言われたように地面にアイテムボックスを開いて荷物を全て出すイメージをする。すると開けた場所から弾き出されるようにいっぱい出てきた。
「ひなた、運ぶのを手伝ってちょうだい」
「ん」
お母さんとひなたが荷物を端っこにずらしていく。お父さんは暗い中でもボク達と同じように見えているみたいでどんどん掘って土を積んでいく。
「リン、精霊魔法で手伝ってくれ」
「わかった」
「エリゼとひなたは掘り出した土をアイテムボックスに入れていくんだ」
「エリゼ?」
「私の名前よ。絵里だったからね。それと呼ぶ時はアバターネームにしておきなさい。ステータスを表示して見せないといけない時、違う名前だと疑われて面倒になるからね」
「なるほど。わかった」
エリゼがお母さんの名前なのか。お父さんはなんだろ? パーティー欄から見てみると名前がアースになっていた。元の名前が大智だからそうしたのかな。
「ほら、どんどん掘るぞ」
「頑張る」
お母さんが精霊魔法で土を動かしていくから、凄い速さでどんどん穴ができていく。それをお父さんが土魔法で崩れないように補強してくれている。
『アルもするー!』
「網目にするのよ」
蔦がどんどん出てきて壁に取り付いて植物のアーチを形成して補強してくれた。それもお母さんが言ったように網目になって強度が増している。
「ありがとう」
『んー!』
頑張って掘っているとお父さんがシャベルを渡してきた。
「交代だ。ここからは俺が魔法で掘る」
お父さんは深くなった底の部分から壁に手をつけて魔法を発動する。すると壁が崩れてサラサラした物に変わちゃった。
「錬金も出来るな。リン、掻き出してくれ」
「わかった」
ボクはシャベルと精霊魔法を使って掘り出していく。ボク一人じゃ無理だから精霊さん達にも魔力をあげて手伝って貰う。
『えっさ』
『ほいさ』
『はこべはこべー』
小さな精霊達が頑張って運んでいく。ボクも一緒に近くにアイテムボックスの入口を作って入れていく。精霊さん達の協力もあってどんどんトンネルが出来ていく。
4時間くらい経てば窪みからある程度離れた位置まで到着した。そこからお父さんは下に向かって掘り出した。
「リン、後はお前達で掘っていろ。俺は天井を補強する」
「わかった」
お父さんは天井を支える為に支柱を立てたり、支え棒をしたりと補強を行っていく。ボク達はその周りをどんどん掘っていく。3人で精霊さん達に協力してもらってるので早い早い。
「しんどい。疲れた」
「駄目だよ。身体も鍛えないと」
「ん~」
「それに鍛えたら鍛えただけ強くなるんだから」
「そうよ。貴方のペットを作る為なんだから頑張りなさい」
「ん、頑張る」
ひなと一緒に頑張っていこう。早く外にでたいしね。
地下に潜ってから時が経ち、次の日には千里眼による計測で深さ100メートル、中心にある支柱から半径50メートルの落とし穴が出来た。お父さん達もどんどんレベルが上がったお陰で作業効率も跳ね上がったのが原因だ。
「これでいいのだけれど、まだ足りないわね」
「そうだな」
「ん、敵、どう……?」
「あ、忘れてた。ちょっと待ってね」
千里眼で改めて見てみる。虎と狼がお互いに血を流しながら避けながら隙を伺っている。クマとサイはお互いに削りあっている。回転する角を持つ巨大なサイが物凄い速度で突撃して来るのをクマが受け止める。すると地面にクマの足が沈んでいく。腕はサイの突進を受け止める事で筋肉が盛り上がっている。それでもクマの眼前にある高速回転するドリルが段々と迫って来る。それに対してクマは大きな口を開けて口の中に光を収束させた。
「ビームっ!?」
「え?」
クマの口元に集まって放たれた光の奔流はまさに光線で、サイは駄目かと思った。でも、ドリルの角が光を拡散させていく。拡散された光は周りを破壊していくんだけど、狼や虎にも被害が及んで2匹はサイを襲い出さす。それでも、サイの皮膚は厚いのかあんまり効いていない。どちらにしろ、クマの光線でサイは突撃の勢いを殺されてクマに投げ飛ばされた。サイは空中で器用に身体をひねって方向転換して着地する。
「クマがビームを吐いたんだけど」
「流石はファンタジーね」
「あれか、SFなのか?」
「ん、ブレス?」
「みたいな感じ。決着はついてないみたい」
「まあ元気そうで何よりだ。こちらも最終調整を行おう」
「うん」
底から少し上がった位置に通路を作って上がれるように横道を掘る。そこに螺旋状の階段を設置して上の通路に戻れるように作成された。お父さんは建築士の仕事をしていたので設計は得意なので強度も心配ない。
「よし、準備は完了。リンかひなたには下で極大魔力のスイッチを入れてくれ。それから直ぐに階段を上がるんだ」
「これで誘き出すの?」
「そうよ。でも、ひなたは危ないからリンがお願いね。強運もあるから大丈夫でしょう」
「わかった。ひなたを危険にさらしたくないし、ボクがやる」
「お兄ちゃん……」
心配そうなひなたの頭を撫でる。ここはお兄ちゃんの出番だ。お父さん達は極大魔力とかは持ってないし、一緒に居たら邪魔になってしまう。下に居ないといけない理由は上の通路でやると、落下している間に攻撃されるかもしれないし、ボクならアイテムボックスを開いて土を吐き出しながら階段を登れる。
「準備はいいか?」
「うん。配置につくね。お父さんはボクが叫んだら補強したのを壊してね」
「ああ、任せておけ」
「じゃあ、行って来ます」
「いってらっしゃい」
「気をつけてね」
「……頑張って」
家族の声援を受けて下に降りていく。下から少し上がった場所にある通路に顔を出して相手の様子を確認する。相変わらず4匹で戦いあっている。
「問題なし。スイッチオン」
身体の中から凄い量の魔力が溢れ出して来る。今までの数千倍はあるかも知れない。そんな魔力に4匹が気づいて我先にと争いながらこちらに走って来る。4匹の速度は物凄くてすぐに到着してしまう。
「お父さん!」
「わかっている!」
天井からパラパラと土が落ちてきて4匹が上に来た事を理解したのか、お父さんが天井を支えている支柱の支え棒を破壊した。その瞬間、上に乗っている4匹の体重に耐え切れずに天井が崩壊して落ちて来る。落ちてくる一瞬で4匹はボクを睨みつけてくる。
「っ!? アイテムボックスっ!!」
慌ててアイテムボックスを出しながら土を吐き出しつつ極大魔力を切って階段を登っていく。後ろでは巨大な音がして振動が伝わって来た。それでも頑張って手摺を掴んで上がっていく。
「リン、速く!」
「うん!」
通路から大きな空間を見るとボクが上がってきた通路に向かってサイが突撃して角で壁を掘り起こしている。他の者達も爪とかで掘り出そうとしている。
「アイテムボックス、フルオープン!」
開いたり大きな入口から一気に中身の土を放出する。掘っていた分の土が全て吐き出されて4匹を埋めていく。盛大な雄叫びを上げて埋まっていく。千里眼で見てもとんでもない重量に押さえられているのに生きている。
「凄い生命力だよ……」
「窒息するかもあやしいわね」
「ど、どうする……?」
「何か方法はないのかな?」
「あるわよ」
不安そうなボク達にお母さんが頭に手を乗せて力強く答えてくれる。お母さんはそれから水の魔法を使った。
「普通の土じゃなく泥だったら大変だろう。ましてやそれが固まればな……」
お母さんの水魔法とお父さんの土魔法で泥が形成されて4匹は泥に飲み込まれた。その後、しっかりと固められて数時間様子をみた。
数時間後、動かなくなった事をボクが千里眼で確認し、ひなたにも闇魔法で確認して貰う。
「ん、大丈夫。アンデット化の選択が出た」
「それじゃあ、掘りましょうか」
「そうだな。だが、腹が減った」
「先にご飯かしら。まあ、同じ食べ物しかないのだけど」
「食糧事情はどうにかせねばならんな。あと、煙草が欲しい」
「駄目よ。子供達に悪い影響を与えるんだから」
「わかったよ……」
ボクの事故からお父さんも禁煙しだした。身体の事を考えてくれたんだよね。まあ、こっちには煙草がないかも知れないけど。
「さて、ご飯にしましょう」
「うん」
「ん、食べる」
食事を簡単に済ませて掘り出す作業に戻っていく。これらも全部アイテムボックスに入れ直す。でも、その前に空間設定でこの空間と外部の空間を魔力が通らないように遮断する。これでボクとひなたが極大魔力を使っても大丈夫な環境になった。
「精霊さん、よろしくね!」
「……お願い……」
精霊さん達に沢山の魔力をあげる大変よく働いてくれる。彼らにとって魔力はご飯で、成長する糧らしい。沢山の魔力を貰うとそれだけ強く成長するらしい。つまり、元気いっぱいで一生懸命に働いてくれる。
『いっち、に』
『さん、し!』
『ごー?』
『わかんない! もう一回、いっち!』
光だけだった精霊さん達は小さな可愛い小人さん達になって頑張ってくれる。お陰で4匹のうち一番大きなサイの背中を簡単に掘り出せた。全身を掘り出すにはまだ時間が掛かる。
「ひなた、どれにするの?」
「ん、全部!」
「そっか。じゃあ頑張ってね」
「やる」
ひなたがサイの上に乗って両手を背中に触れさせる。
「……ん……クリエイト・アンデット……」
ひなたが大量の魔力を使っても何も起こらない。レベルが足りないんじゃないかな?
「……」
「頑張るのよひなた!」
「そうだ! ここで諦めたら試合終了だ!」
「大丈夫。成功するまで何度もチャレンジすればいいんだよ!」
涙目のひなたにボク達は声援を送る。ひなたは涙を腕で拭いてもう一度魔法を発動……させた。今度は連続で。
「……クリエイト・アンデット……クリエイト・アンデット……クリエイト・アンデット……クリエイト・アンデット……クリエイト・アンデット……クリエイト・アンデット……クリエイト・アンデット……クリエイト・アンデット……クリエイト・アンデット……クリエイト・アンデット……クリエイト・アンデット……クリエイト・アンデット……クリエイト・アンデット……クリエイト・アンデット……クリエイト・アンデット……」
極大魔力にものを言わせた数を放つ戦術に出たひなたの横でボク達は他のを掘り出していく。
数時間経って掘り出し終えたのでサイ以外をアイテムボックスに仕舞う。アイテムボックスはそれなりに大きな生きている物は入れられない。酵母とか発酵とかに関わるのは大丈夫だけどね。何が言いたいかというと、アンデットも仕舞えるんだ。
「ひなた、ちょっと休憩しましょう」
「……闇魔法、5になった。でも、駄目……」
「何か方法はないのか?」
「人形魔法を使うとか?」
「死体を人形にか?」
「あら、結構ありかも知れないわね。やってみなさい」
「ん」
ひなたが魔力の糸をサイの皮膚につけると弾かれた。
「……うぅ……」
「ひなた、ひょっとして皮膚が駄目なんじゃないか?」
「弾かれたし、口の中からやってみなさい」
「皮膚が魔力を弾くのか」
「……やって、みる……」
大きな口に手を入れて魔法の糸を放つひなた。今度は弾かれずにそのまま入った。
「糸を身体を制御している中心に送ればいいかも知れないよ?」
「そうね。脳に送ってみなさい」
「ん。到達……クリエイト・アンデット……失敗……でも、手応え、ある……」
「頑張るのよ」
「もうちょっとだからな」
「ひなた、ボクにできる事はあるかな?」
ボクはひなたの為に何か出来ないか聞いてみる。
「ある。抱きしめて」
「わかった。ボクの強運を別けてあげる」
「ん……クリエイト・アンデット……」
ひなたを後ろから抱きしめてあげる。安心したひなたがクリエイト・アンデットを発動させる。すると少しサイが動いた。
「動いたわね」
「もう少しだ!」
「ん。……クリエイト・アンデット……クリエイト・アンデット……クリエイト・アンデット……クリエイト・アンデット……」
何度も唱えるとサイがその度に動き出し、4回目で完全に魔法が掛かったのか高さ3メートルはある巨大なサイが起き上がってひなたの顔を舐めだした。
「わぷっ」
「やったね!」
「ん。お兄ちゃんのお陰」
「ボクは何もしてないよ。全部ひなたの頑張りだ」
「違う。お兄ちゃんが居たから、成功した」
「どちらでもいいじゃない。それよりも早く外に出ましょう」
「そうだな。だが外は夜だ。ここで一泊しようじゃないか」
確かにもう夜だ。異世界に来て三日目。そろそろ食べ物も心ともないしね。
「その子達の肉を食べるのは勿体無いわね」
「ん。いっぱいレベルアップした。勿体無い」
「そうよね」
「しかし、今はいいが腐るだろ」
「ん、大丈夫。腐敗防止、できる。掛ける」
腐敗防止の魔法が掛けられるのなら安心だね。いざという時の食料にもできるし。美味しいかはわからないけど。
「じゃあ、今日は寝ましょう。護衛はその子にお願いしたらいいから」
「ん、お願い」
「俺も眠いから寝る。2人もあんまり起きてるんじゃないぞ」
「うん」
「ん。お兄ちゃん、他、出して。腐敗防止、掛ける」
「わかった」
それからひなたがクリエイト・アンデットを作る姿を見ながらしばらく時間を潰しているといつの間にか寝ていた。