ミノタウロス
食事を終えた後、フランと話す事にした。膝の上に乗せて抱きしめながらだ。自殺されたり、途中で逃げられるのも困るから。
「フラン、耳とかを触った件なんだけど……」
「なんだ、です?」
「僕、ワーウルフ達の事は知らなかったんだ。それが求婚だったなんて」
「な、なら、フランはいらねー、です?」
悲しそうに涙を浮かべて見上げて来るフランに罪悪感が浮かび上がってくる。
「そういう事じゃなくて、僕とフランは出会ったばかりでしょ。お互いに何も知らない訳だから、知って嫌いになったりするかも知れない。その逆で好きになったりするかも知れない」
「つまり、フランは捨てられねえー、です?」
「捨てないよ。フランが僕から離れない限りね。それで、僕とフランがお互いに好きになって愛し合ったらその時は結婚しよう」
「仕方ねえーです。どっちにしろ、フランはリンに助けられた恩を返すために仕えてやるだけ、です」
「気にしなくていいのに」
「恩返しはワーウルフの誇りだから拒否する、です」
まあ、納得したみたいだし、恩返しに関してはいいかな。
「他の連中から聞いたら、フランだけじゃねーからフランも同じ扱いをしやがれ、です」
「それって指輪を渡せって事?」
「そうだ、です。もらわないと、フランが皆にボコボコにされる、です」
「え?」
「違った、です。怒られる、ハブられる、許されねえ、です」
ワーウルフってそこまでするんだ。
「姉様、こええ、です」
「わかった。指輪はあげるよ。でも、皆と仲良くするんだよ?」
「耳と尻尾を触られねえ限りは問題ねえ、です。リンは好きなだけ触りやがれ、です」
そう言って僕に頭を擦り付けてくるフラン。
「えっと、分かってる?」
「リンをフランに惚れさせたらいいだけ、です」
「そりゃそうだけど……まあ、いいか。耳の感触とか凄く好きだし」
本当に気持ちいいんだよね。
「お兄ちゃん、何してる」
「ひなた?」
「ん。そこ、ひなたの!」
「譲らねえ、です」
抱きついて来たひなたがフランを睨みつけてどかしに掛かるが、フランも抵抗する。
「仲良くしなさい」
「「あうっ」」
頭を小突いて大人しくさせる。
「フランはひなたから服を借りるんだから、お礼を言いなさい」
「むぅ。感謝してやる、です」
「感謝してない!」
「はぁ……」
仕方ないので抱え上げてそのまま外に連れて行く。
「仲良くしないと放り出すよ。わかった?」
「「こくこく」」
「よろしい」
部屋に戻ってベットに入る。今日はユエが見張りをしてくれるので気にしなくていい。調とティナはあちらのツリーハウスで泊まるので三人で寝る事になる。大人しくなった二人と一緒に眠る。
次の日、朝食を食べたらひなたを送っていってフランと一緒に出かける。ユエは眠っているし、調とティナは本格的に始まったらしくて手を離せないらしい。僕とフランは邪魔だから牛を手に入れて来いと言われた。そんな訳で千里眼で確認してからゲートを使って移動する。
「どうしやがる、です?」
「フランは土魔法が得意だっけ」
「その通りだ、です」
「なら囲える?」
「一人じゃ無理だぞ、です」
「協力するよ」
「なら、可能だ、です」
土の精霊さん達に協力を依頼してフランを手伝ってもらう。群れで草を食べているバイソンの周囲を土壁で覆って貰う。逃げ場が無くなったバイソン達は仕切りに土壁に体当たりを繰り返す。壊れた部分は直ぐにフランが魔力に物を言わせて修復する。
「フラン、あそこを一部壊して」
「逃げられる、です」
「問題無いよ」
「どうなっても知らねー、です」
「いいよ」
フランが一部を再生させないとそこが弱点だと考えたバイソン達が何度も突撃して破壊する。破壊された場所から逃げていくバイソン達は草原に出る事無く別の草原へと消えていく。そう、僕が設置したゲートによって。
「これで一つの群れは確保したね。こんな感じでどんどん行くよ」
「了解した、です」
何個かの群れを捕獲して移していく。バイソンの世話はミノタウロス達にお願いするので数が居ても大丈夫だろう。
「おい、変なのが来やがった、です」
「ん? ああ、確かに」
土壁の上から草原を見るとサーベルタイガーが物凄い速さでこちらに向かってくる。
「どうする、です?」
「手に入れる」
時空魔法でサーベルタイガーの前に見えない壁を作り出す。そのまま突撃して来たサーベルタイガーは空間の壁に衝突して吹き飛んだ。
「きゃいんっ!?」
転がるサーベルタイガーを空間設定で隔離して酸素を下げる。次第に意識レベルが低下して倒れた。意識を失ったら空間設定を解除する。強風に煽られながらサーベルタイガーに近付いてテイミングを発動させる。
「捕獲完了」
「すげえ、です」
「捕獲出来たし、次に行こうか」
「おー、です」
バイソンだけじゃなく、サーベルタイガーや豹、ブラッドタイガーやガルム、ドリルホーン・ライノクスなども追加で捕獲していく。奥地まで千里眼とゲートのコンボで移動して大量に捕獲した。魔の森や魔境と言われるだけあって強そうなモンスターが一杯だった。中には空間を破壊する奴まで居たので、流石に逃げたけど。
次の日も狩りを続けて更に翌日の約束の日となった。ワーウルフ達も無事にゴブリンの影響から抜け出して回復に向かっている。なので、ミノタウロスとの話し合い次第でここを引き払う事にする。その準備もあるのでティナはお留守番。今回は僕も含めて前回のメンバーだけだ。もちろん、複数転移で移動する。こっちはゲートと違ってパーティーメンバーだけで移動が可能で、魔力消費が低い。昨日まではフランをパーティーに入れていなかったら使えなかったけどね。
「戦士長ミルトスだ。こちらは妻のアドニアだ」
「よろしくお願いします」
「リンです。こちらが――」
お互いに紹介し合ってから話し合いを始める。条件は調が言ってあった通りで受け入れてくれるそうだ。
「直ぐに治療を行なってもらいたい。もう長く無い者が多いのだ」
「分かりました。ゲートを開くので運び込んでください」
「了解した」
巨乳のお姉さんの指示に従って移動を開始する。ゲートで移動してもらう。僕も向こうに戻って精霊さん達にお願いする。
「光の精霊さん、魔力を好きなだけ使っていいから治療をお願い」
運び込まれてくる大量の怪我人達を急いで治療してもらう。調達も引越しのお手伝いをして貰ってどうにかなりそうだ。
「それで、貴方達はどうしてこんなことになっているんですか?」
「うむ。我々はここより北にある山脈を超えた先に住んでいたのだが、ダンジョンから出てきたドラゴンに住処を奪われ、逃げている途中に勇者と名乗る奴等に襲われたのだ。人間にしては恐ろしく強い奴等だった」
「勇者にドラゴン……」
僕達と同じ存在なのかな。
「それでも我らは逃げ、なんとかこの地に到着した。するとこちらでも人間に襲われたが、そいつらは弱かったので蹴散らす事ができた。奴等は我らの主食であるオークの居場所を知っているから見逃してくれといってきおった」
「それでこっちに移動して来たんだね」
「そうだ。ゆっくり村を作ろうかと思ったが、逃避行によって力を失い過ぎた我らは貴君らを頼る事にしたのだ」
アヌシャヌスの工作か。
「ここなら好きにしていいからね。オークも増えてるし、全滅させない程度に好きに食べていいよ。一部は駄目だけどね」
「わかった」
ミノタウロス達は回復したら砦の戦力に送った方がいいのかな? まあ、いいや。それより列車を作ろう。ドリルホーン・ライノクスも追加で手に入ったし、十両編成の列車を二機作れる。っと、ライノクスは死体もあるしひなたに頼まないといけないや。




