砦での話し合い
ワンダーランドを北欧繋がりでアースガルズにしました。
クロードさんの執務室に案内された僕は、ヴェロニカさんから渡された手紙をクロードさんに届けた。そのまま執務室にあるソファーに座るように勧められ、僕が座るとギュンターさんが紅茶を入れてくれた。紅茶を飲みながらクロードさんが手紙を読み終えるのを待つ。
「待たせたね。まず、商会を作る件は認める。商会の名前は何にするんだい?」
「名前ですか?」
「そうだ。先ずは君達を表す名前を決めないと商会を作る事は出来ない」
名前か。僕達を表すものがいいんだよね……何がいいかな? うん、これにしよう。
「アースガルズで」
アースガルズは北欧神話に出てくる王国の名前だ。世界樹みたいな精霊樹があるのだからこれでいいと思う。鉄道はビフレストにすればいい。僕達の住む所がミズガルズにすればいい感じかな。逆の方がいいんだろうけれど、アースガルズの方が格好良いし。うん、これにしよう。
「アースガルズだね。ギュンター、手続きを頼むよ」
「畏まりました」
「さて、ヴェロニカの手紙では君達が作る商会が輸送を担ってくれるらしいが、本当かい?」
「はい。そのために道の作成と整備、交通機関の設立をさせて頂きたいです」
僕は調に作ってもらったカンニングペーパー事、カンペを見ながら言っていく。
「整備をしてくれるのは嬉しいので許可する。道を作るのは後程こちらに連絡を入れてくれたら構わない。問題は交通機関だが、それはどういう物かな?」
「え?」
「初めて聞いた言葉なのだが……」
ああ、こっちにはその言葉が無いんだね。
「不特定多数の人々が利用する乗り物の事です。こちらじゃ馬車がそれにあたるかと」
「馬車か。辻馬車みたいなものかい?」
「辻馬車が分かりません」
「辻馬車はあらかじめ決められた場所でお客様を乗せて運ぶ馬車の事です」
「あ、それで合っています」
「しかし、設立と言ったね」
「はい。僕が作りたいのは馬車よりも速くて大量に人と物資を輸送出来る公共交通機関です」
列車の事を説明していくと二人は驚いた表情をして、詳しく聞いてくる。僕は思い出せるだけ、話していく。
「なるほど。流石はエリゼさんやアースさんの息子さんだ。その列車というのは分かった。出来れば作って欲しい。いや作ってくれ。我々も協力を惜しまないと言いたいが、人手はあまり出せない」
「はい。忙しいんですよね?」
「そうだ。アムシャヌス王国や他領の動きもある。だから我が領内に関しては君達だけで出来るなら許可する」
アムシャヌス王国ってのが西にある敵国かな。しかし、国内も不安なんだ。これは本格的に不味いのかな……? お母さん達がどうにかするとは思うんだけどね。
「分かりました。それで、もし作った場合の警備などをこちらがした方がいいですか? 例えば鉄道警察とか……軍隊になるなら憲兵?」
「ふむ。色々と教えてくれ」
「はい」
僕は軍隊の事も含めて説明していく。
「確かにリン君の言う列車……鉄道は軍事利用が充分に出来るね。そうなると狙われる確率は非常に高い。独自に警備出来る部隊が必要か」
「戦争を行っていない平常の状態でなら民間人の輸送により経済活動も活性化致しますね」
「流石に領内に部隊を作るとなると私の権限を超えるな。父上の指示を仰がねばならない」
「いえ、ここはやってもらって事後承諾で構わないかと。エリゼ様達の主動で部隊を組織して頂ければ補給を生産から輸送まで任せられます。旦那様の説得はお任せ下さい。それに開拓された場所は原則として開拓された方の物です」
「そうだな。なら、そちらは任せる。リン君もアースさん達に話しておいてくれ」
「分かりました」
僕が主動しているんだけど、流石にわからないよね。まあ、お母さんには言わないといけないし、仕方ないよね。
「さて、次はゴブリンに関してだ。本当に出たんだね?」
「はい。何かおかしいんですか?」
「それなんだが、少し前に徹底的に狩ったはずなんだよ。それも軍隊を投入してね」
「投入時期から考えると明らかにおかしいのですよ。いくら繁殖力の高いゴブリンとはいえこの短期間で村が作られる程の数が増えるとは信じられません」
「う、嘘は言ってない……よ?」
「ああ、わかっているよ。アムシャヌスが関わっている可能性があるって事だよ。森について他に分かる事はないかな?」
僕は千里眼で森を確認しながら話していく。クロードさん達は子供の僕の話でも真剣に聞いてくれた。特に出現しているモンスターについては詳しく聞いてきた。
「どうやって調べたんだい?」
「えっと……」
流石に千里眼の事は不味いと思うのでここは便利な言葉を使っておく。
「精霊さんが教えてくれたよ」
「精霊様か」
「確かにエルフは精霊様との親和性が高く、会話もできますからハーフの彼ならば聞けるかと」
「あんな物を生み出す彼女の息子なら精霊様も気に掛けるのは当然か。対策を取らねばらならないが……ラプシンにも監査を送らねばならん。オークなら冒険者に依頼すれば何とかなるかも知れないが、ミノタウロスやコカトリスとなると軍隊を動かさねば対処出来ない」
「そんな人手はありませんよ。我々が動けばこれ幸いとアムシャヌスが攻めて来るでしょう。いくらドラゴンベアやドリルホーン・ライノクスが居ても危険です」
えっと、現状だと軍隊は動かせないから冒険者さん達、外部の力でどうにかするしかないのか。でも、そこまで強力なモンスターなら人死が出るよね。僕達なら勝てると思うし、ここは――
「あの、鉄道に関して独自の権限を認めてくれるなら僕達の方で何とかしますよ」
「独自の権限?」
「はい。鉄道に関する自治権や治安維持のための捜査権、逮捕権が欲しいです。妨害されたら大変ですから」
「いいだろう。モンスターを処理出来たらウルカレル男爵領内において鉄道のある場所を任せる治安維持の権限を持つ独立した騎士団の設立を認める。ただし、我々から資金提供は出来ないので輸送によって資金を稼いでくれ」
「わかりました」
要は日本の会社と同じって事だよね。なら、問題無いや。
「それと捕らえられていた女性はどうなりますか?」
「住人ならば彼女達の意思を尊重してあげてくれ。奴隷なら拾得した君達の物になる」
「では、彼女達の意思に任せます。それで……ライちゃんを連れて行きたいのですけど、いいですか?」
ちなみにちゃんまで付けないとひなたが怒るのでちゃんずけだ。
「むっ」
「ライちゃんには列車の動力になってもらおうと思ってるので」
「代わりのを置いて頂ければよろしいのではないでしょうか?」
「そうなだ。ブラッドタイガーを置いていってくれ」
「では、それでお願いします」
交渉は終わったので契約書をお願いする。
「騎士団についても後ほどそちらに伺うのでエリゼさんにはよろしく伝えてくれ」
「はい」
食料と武器の代金を受け取り、書いてもらった契約書も貰う。
「それではお部屋を用意しましょうか」
「いえ、すぐに出るので大丈夫です」
「そうですか。ではご案内致します」
「ギュンター、頼むぞ。私は仕事の続きをする」
「畏まりました。それではこちらへ」
「はい。ありがとうございました」
「こちらこそ助かったよ」
クロードさんと別れてター君を連れて大樹へと出向いて魔力を補充しておく。こっちは魔力を生み出せないしね。それが終わればライちゃんの下へと向かう。到着すればライちゃんをアイテムボックスに仕舞ってター君に防衛をお願いしておく。
「アイテムボックスは便利ですな」
「そうですね。あ、アイテムボックスっておいくらくらいで取引されているんですか?」
「物によりますが、最低でも白金貨10枚以上です」
金貨が100万円で白金貨が1億円。それが10枚だから10億円か。高過ぎだよね。これだけ売ってれば遊んで暮らせるじゃん。あれ、売れば調達を開放出来る?
「買い取れたりは……」
「無理です。我が領内の財政状況ではそんな金額を捻出できませんね。それと他領などで売られては困ります。今は時期的にも大変ですから」
「ですよねー」
仕方ないから保留にしておこう。
「それじゃあ、僕は戻りますね」
「わかりました。それではご武運をお祈り致しております」
「ありがとうございます」
ライちゃんに乗って作った道からユエ達の所へと向かっていく。流石にライちゃんは巨大なので道はまだ狭い。精霊さんに拡張をお願いしないといけない。そちらをお願いして砦から充分に離れてから短距離転移を使う。それにしても、僕の場合は8000Kmの視界内なら転移出来るので短距離転移という名前はおかしいかも知れない。




