砦へと向かう道①
なんの獣人がいいか悩んでいます。どれがいいでしょうか?
商会を立ち上げる許可を貰ったので先ず初めに砦に向かう事にする。というのも、食料や武具類を届けて欲しいとヴェロニカさんにお願いされたからだ。
「それではお願いしますね」
「分かりました。父さん、頼んでおいた物は?」
「出来ているぞ。ほら」
「ありがとう」
父さんから受け取った指輪にアイテムボックスの魔法を付与してから食堂を出る。既にユエと調が準備してくれているので外に行けばいいだけ。今回は三人で作られた道をブラッドタイガーとガルムで進んでいく事になる。
必要な荷物を受け取って外へと出ると皆が待っていた。ティナは子供達の面倒をみるので留守番という事になっている。
外に到着して二人と合流してブラッドタイガーに僕が乗って前にユエを乗せる。ガルムには調が荷物と一緒に乗る。
「よし、出発」
「気を付けて行ってきてください」
「うん」
ティナにお見送りされて三人で作った道を走らせていく。僕達の背後にはシルバーウルフ達が付き従ってくれる。新しく作った道にはモンスターが出現するので彼らに狩ってもらうのだ。もちろん、これには理由がある。ヴェロニカさん曰く、大量にモンスターを狩り続けたり、強いモンスターが縄張りとしている所には弱いモンスターが来なくなるらしい。つまり、モンスターを討伐しまくればいいという事だ。
「道ができてない所はどうする?」
「退いてもらうから大丈夫」
「わかった」
「調ちゃん、敵の排除をお願いね」
「ええ」
調が円月輪を無数に作り出して空中に浮かせておいてくれる。それらも時速60キロという速度に付いてくる。実際にしばらく進んでいると緑の小さな鬼みたいなのが出て来たが、円月輪に輪切りにされた後、後続のシルバーウルフ達に美味しく食べられた。遅れる子達は食べた後、急いで追ってきてもらう。彼らは倍の速度までなら出せるらしいから楽に合流出来るはず。
「さっきのはゴブリンですね」
「そうね。雑魚よ、雑魚」
「そうなんだ。まあ、食べられなさそうだからいいけど、食料に出来るオークとかは確保するよ」
「了解。でも、砦の先の方が強いの居るんでしょ?」
「そうだよ。この子達もその森の奥に居たから。こっちの森からでも行けそうだけど」
「それじゃあ、後で狩りに行きましょうか」
「うん」
しばらくブラッドタイガーやガルムに乗って走らせていると道の終点まで到着した。ここからは木々に退いて貰わないといけないので時間が掛かる。
「はい、休憩していいよ」
シルバーウルフ達が思い思いに座ったり伏せしたりして休憩を取っていく。アイテムボックスから器を取り出してお水を配っていく。
「ちょうど中間地点だから、休憩所でも作る?」
「サービスエリアみたいなのですか?」
「そんな大きなのじゃなくていいけど……」
「野営出来るようにしておこうか。どうせ道を作る訳だし」
「ええ」
精霊さん達にお願いして広場を作ってもらう。同時に道を砦の方へと作るようにお願いして大量の魔力を渡しておく。渡し終えたら千里眼を使ってモンスターを探していく。比較的近くに緑の小鬼……ゴブリンが54体。そこから更に奥に視線を送ると豚の顔をした大きな人型生物が128体。更に奥には大きな牛の化け物、牛の鬼みたいなのが32体。どれも村を作って生活している。他のモンスターは大きな鶏の様な鳥にブラッドタイガー、ガルムやシルバーウルフ、熊や蜂などなど。軽く見ただけでもこんなに沢山のモンスターが居る。
「森の深い所はモンスターがいっぱいだね」
「どんなのが居るの?」
「えっと……」
僕が見た事を二人に伝えていく。
「オークにミノタウロス、コカトリスですか?」
「危険なモンスターが多いわね」
「大丈夫かな?」
「近場のゴブリンを先ずは片付けた方がいいけど……ねえ、捕らえられているような人は居る?」
「え?」
「ゴブリンやオークは……その、女の人を攫って……」
「繁殖の道具にするのよ」
「っ!? 待って」
慌てて調べてみると捕まっている女性が居た。それもとても言えないような悲惨な姿だ。特にオークに捕らえられた女性は既に全く動かないし、曲がってはいけない所が曲がっている。
「居た」
「助ける?」
「でも、二人を危険に晒す事になる……」
僕にとって、前とは違ってユエ達の方が大切だから、二人を危険に晒したく無い。二人が強いのも分かっているけれど、もしも負けた場合の事を考えると心配になる。実際にこの目で見てしまったから。
「リン君、安心してください。リン君、私はゴブリンやオークなんかに負けません」
「私達なら勝てる。でも、心配なのはむしろリンかな」
「うっ……確かに僕は戦闘向きじゃない」
「リン君は助けたいですか? それなら命令してください。私達が助けてみせます」
「わかった。じゃあ、命令は嫌だからお願いするね。彼女達を助ける為に力を貸して欲しい」
「もちろんです。私の力は全てリン君のものです。自由に使ってください」
「お願いされたら仕方ない。安全に狩る為に作戦は何かある?」
「作戦か……」
一匹として逃がしたくない。先ずは離れているゴブリン達から始末するべきだよね。各個撃破は集団戦の基本だし。そいつらを始末したら空間魔法で隔離してシルバーウルフ達に包囲させる。防衛を行ってきたらユエが時間を凍結して内側に入り込んで強いのを蹴散らす。混乱した所をシルバーウルフ達と僕達が突撃する。これで終わると思う。そう思って二人に話してみる。
「確かにそれで終わりでしょうね」
「ゴブリンは弱いから充分ね」
「じゃあ、行こうか。道が出来るまでに終わらせるよ」
「「はい(ええ)」」
シルバーウルフ達に命令して行動に移す。ゴブリンは一匹たりとも逃がさない。
深い森の中、道なき道を道を作り出して進む。木々が自ら退いてくれるので簡単に進める。すぐに狩りか警戒かは知らないけれど、外に出ている数体のゴブリンに近づけた。
「気付かれたくないから、ユエ」
「はい。任せてください――終わりました」
ユエが消えたと思ったら、ゴブリン達が大鎌によって一刀両断されて倒れた。微か数秒で始末されたゴブリン達の表情は一切変化がなく、何時攻撃されて殺されたのかも分かっていないと思う。
「死体はどうする?」
「回収して後で餌にする」
「分かりました」
ユエがゴブリンの死体を回収していく。それを見た調がユエの指に注目した。
「アイテムボックス、いいな……」
「調にもあげるよ。左手を出して」
「はい。これでいい?」
「うん」
調にも父さんに作ってもらった指輪を薬指に嵌める。もちろん、僕が作成したアイテムボックス機能付きだ。
「装備を手元に転送する機能もあるけれど、外に出しておいた方がいいからね」
「要らないトラブルを防ぐ為に武装している事を見せて警戒させるのね」
「うん。まあ、調の場合は円月輪だけでいいかも知れないけどね」
「私としては油断してくれる方が嬉しいから、チェーンブレードだけは仕舞っておこうかな。重いし」
「魔法使いに見えるから別に大丈夫じゃないかな。分からないけれど」
「ローブは着ていないし、和服だから無理かな」
今の調の格好は黒の布地に赤色の牡丹の花の着物を白い帯で結んでいる。髪の色さえ違えば大和撫子といえるような姿だ。ユエはオフショルダーのセーターにスカート、マントといった姿だ。鎧すら着ていない。買っていないからだだけど。
「終わりました。次に行きましょう」
「そうだね」
「手早く終わらせないと」
すぐに移動して集団から離れたゴブリンを狩り続ける。村から外に出ているゴブリンが居なくなったのを千里眼でしっかりと確認した後、シルバーウルフ達に包囲をお願いする。
ゴブリンの村は洞窟の前の部分を使って作られていた。洞窟のある崖を背にしている上に木の柵も作られていて防衛力も少なからずある。洞窟の前の広場などではゴブリン達が警戒している。流石に外に出ていた者達が戻って来ないとなると警戒をするようで、防衛の準備をしている。準備していなければさせるつもりだったので手間が省けた。包囲が完了したとの連絡にシルバーウルフがきたのでユエにお願いする。
「広場で杖を持っている奴が指示を出しているから、それを優先してお願い」
「はい」
すぐに杖を持っている奴等が切断された。その直後なのに傍らにユエが居る。ゴブリン達は急に司令官が倒れた事で恐怖し、混乱している所に調の円月輪が飛んでいって前線のゴブリン達を切り裂いていく。
「皆、よろしく」
シルバーウルフ達も森の中を駆け抜けて接近し、喉笛に噛み付く。中には崖の上から鹿のように降りて強襲していく子達も居る。指揮官を倒されて烏合の衆となったゴブリン達はたった数時間で全てを倒された。




