クリスマス限定ミッション2
本日2本目
街から離れて数時間。道先を千里眼で調べていると待ち伏せをしている者達を発見した。その数は本隊三十九人。伏兵十六人の合計五十五人。このままだと二時間くらいで接敵する。
「調は戦った事ある?」
「あるけど、それが何?」
「人殺しは?」
「ある訳ない」
「だよね。ユエもだよね?」
「はい……でも、リン君が望むなら……」
ユエにはそんな事をして欲しくないけど、僕は攻撃力がないしどうしようかな。
「居るんですか?」
「予定通りじゃない」
「そうなんだけどね」
「リン君。私は大丈夫です」
「そうね。殺してやりたいくらい……ううん、殺したい」
「そっか」
調は過激だ。いや、神様が何かをしているのかな? 僕もあんまり気にならなくなってきた。
「あの、どうしたのですか?」
「えっとね。待ち伏せが居るんだよ。奴隷商に居た奴等も居るからお仲間なんだろうね」
「それは……」
「ティナは何も心配しなくていい。私が潰すから。もっと早くに潰しておけばよかった。あの時は皆を人質に取られて何も出来なかったけど、今なら……」
「守りは任せてくれていいから、二人は思う存分、暴れていいよ」
「分かりました。調ちゃん」
「ええ。感謝するわ」
調の態度も多少は軟化したみたい。さて、相手の戦力とこちらの戦力を考えるんだけど、ぶっちゃけ今のユエならどうとでもなるね。真祖の血族で大幅にスキルレベルが強化されているし。でも、保険は入れるべきだよね。
「調って夜でも戦える?」
「もちろん。暗視が有るから平気よ」
「わかった。じゃあ、ここで止まろう」
僕は御者の人に馬車を止めるようにして野営の準備をしてもらう。準備して貰っている間も千里眼で開始しておく。相手側は僕達が何時まで待っても来ないのでじれているようだ。
「進まなくていいの?」
「わざわざ相手が待ち構えて居る所で戦うとか嫌だし。あ、調とユエは寝ておいて。ティナは皆を使って食事の手伝いをお願い。食材はいっぱいあるから」
「わかりました」
アイテムボックスから食材や調理道具を取り出して食事をお願いする。食材も共有スペースを使って送ってもらったものだ。
「こんなに沢山……よろしいのですか?」
「うん。お腹いっぱい食べれないと可哀想だしね。僕には君達の衣食住を保証しないといけない義務もあるし、気にしないで食べて」
「ありがとうございます」
ティナが沢山の食料と調理道具を持って手伝いをしてくれる人を呼びに行った。
「それで、貴方は何をするの?」
「僕は罠を作るよ」
出来る限り被害を減らすには罠が一番だ。どうせ街道を通らずに森の中を進んでくるはずだ。なら、落とし穴や草を結ぶだけでも結構な罠になる。街道に罠を作るのは他の人に迷惑だしね。
日が落ちた街道の端っこで皆が楽しそうに食事をしている。奴隷の人達も笑ってご飯を食べている姿は嬉しくなってくるね。特に僕より幼い子供達。帰ったらヴェロニカさんと相談して開放してあげないと。
「ありがとうございます。子供達の笑っている顔を久しぶりに見れました」
「そうなんだ。これから沢山見られるよ。住む場所もちゃんとあるしね」
「はい。しかし、本当に良かったのですか? あの剣は開拓資金にするはずのものだったのでは……」
「だ、大丈夫……だと思う。お、遅かれ早かれ人は呼ぶんだし……」
ダラダラと汗が流れてくる。大丈夫。お母さんやお父さんもわかってくれる。きっと、多分。
「大丈夫なのですか?」
「うん。子供達には被害が及ばないようにするから」
「そういう事ではないのですが……」
「?」
「ご主人様はどうして私達まで買ったのですか? シラベちゃんだけでも良かったはずです」
ティナが疑問をぶつけてきたので、僕もしっかりと答える。
「確かにね。でも、そうすると彼女は悲しむだろうし、可愛い女の子の前ではいい格好したいしね」
「ふふっ、そんな理由ですか」
「うん。そんな理由。まあ、あの場ではあの剣一本で出来る限り引き出せるようにしないといけなかったから、ティナや調達には嫌われたかも知れないけどね」
「大丈夫ですよ。私は救っていただいた事を感謝しています。あのままでは子供達やシラベちゃんが悲惨な目に合わされていたでしょうし」
「そう言ってくれると助かるよ。よし、決めた! ねえ、ティナ。親の居なかったり、捨てられたりした子供達を出来る限り助けよう。だから、手伝ってくれないかな?」
「ええ、喜んでお手伝いさせて頂きます」
お母さん達が僕を支えてくれて、神様がこの世界に連れてきてくれた。なら、僕もこの世界の人達に出来る限りの事をしよう。
「その為には……まず悪い大人……害虫駆除をしないとね?」
「どうしましたか?」
「ティナ。直ぐに全員を馬車に入れて。僕は二人を起こしてくる」
「わかりました」
残りをティナに任せて馬車に入る。中ではユエと調が床に座って話ながら食事をしていた。ユエは調に食べさせて貰っていたのだけど。
「リン君」
「どうしたの?」
「招かれざる……いや、招いたお客さんだよ」
「へぇ……便利な力ね」
「リン君の力は凄いですからね」
「はいはい」
立ち上がった調は片刃の反り返った自分と同じくらいの大剣を持って立ち上がる。彼女の武器は刀身の部分がチェーンソーと同じ刃になっている魔導剣と言われる物らしい。普通の大剣より重量は重く、とてもじゃないが彼女が持ち上げられるとは思えない武器だというのに軽く持ち上げている。
「それじゃあ、行きましょうか」
ユエも立ち上がってデスサイズを持つ。なんだか可愛い少女二人が身の丈に合わない大型武器を振り回すというなんとも言えない雰囲気が出ている。そう、まるでアニメの世界のような。
「どうしたの?」
「いや、その武器がね?」
「こんなの近頃の魔法少女なら普通だけど」
「そうなんだ」
「一緒に兄さんの部屋でこっそり見てましたしね」
「続きがどうなったのか気になる」
「諦めるしかないです」
「そうね」
「あはは、とりあえずあちらが来てるからよろしく。防御は気にしないでいいから。空間魔法で位相ってのを変えるし」
「わかったわ。ティナ達をよろしく」
「任せて。命に代えても守るから」
「それは駄目ですからね、リン君。リン君の命が最優先です」
「どっちでもいいから行くわよ」
大剣を肩に担いで外に出て行く美少女の調。その後を追うユエ。その姿はヒーローとダークヒーローみたいな感じだ。なんていうか、ライバル的な感じの。
「リン君、何処に居るんですか?」
「ユエは森の中をお願い。調は街道を来る敵をお願い。危なくなれば馬車の近くにこればいいから。二人は入れるように設定しておくからね」
「わかった」
「はい。それで、リン君。その……」
「うん。いいよ、おいで」
「はい!」
こちらにやって来たユエに首筋を差し出して血を吸ってもらう。ユエが血を飲んでいくと彼女から桁違いの力が発せられた。
「な、何よそれ……」
「リン君の力です」
デスサイズは黒から血のように赤い深紅に染まり、髪の毛も赤黒く変色していく。
「真祖の力、素晴らしいですね」
「……それ、どうしたの?」
「スキルカードで貰いました」
「ずるい! 私も貰う! 炎の神様がいいな。何がいいかな……」
「たんま、たんまっ!!」
「な、何よ……?」
「止めて! お願いだから今は止めて! 大火事になっちゃうよ!」
「ちっ、森だったか。仕方ない、諦めて後で決めよう」
何とか止められて良かったと思う。本当に危ない存在になりそうだから。
「ふぅ。ご馳走様でした。それでは、行きましょうか」
「はいはい。森は任せたわよ」
「任されました」
夜の中、森を見ると何人かが落とし穴に掛かったり、こけたりしている。何人かは諦めて街道に出てこちらを目指している。
「しかし、寝てから襲って来ると思ったんだけど……」
「食料も用意せず、夕暮れ前に攻撃してさっさと戻るつもりだったんじゃないかな? それを僕達が早い時間で手前に止まったから食料とか準備していない段階で森の中に長時間居る事になり、我慢できなかったと」
「リン君のお陰ですね」
「全部を見られるってのは辛いわね」
馬車の前で軽く準備体操を行う二人。この姿を見ていると今から競技を行う感じにしか見えない。間違っても戦うって感じじゃない。
「よーし、どっちが多く倒すか勝負しよ」
「わかりました。負けた方はなんでも一つ言う事を聞くという事でいいですか?」
「上等! って言いたいけどハンデは? そっちの方が強いけど?」
「……調ちゃん。課金してますよね」
「……な、なんの事やら知らないな~」
「あれ、課金しているの?」
「しているはずですよ。調ちゃんのお家はお金持ちでお小遣いもいっぱい貰ってますし。それに魔導剣なんてスキルを持ってる時点で……」
確かにその通りだよね。ステータスを見てみようかな。
「わかった。わかったよ! リン、スタートの合図をして!」
「いいよ。それじゃあ、金貨を僕がキャッチしたらスタートで……」
そんな話をしていると沢山の男達が森からでてきた。どの人達もニヤニヤと笑っていやらしい顔で僕達を見る。
「大人しくしやがれ! 金と荷物を置いていけ。そうしたら命だけは助けてやる!」
「あと女もだな」
「何、俺達がたっぷりと可愛がってやるから安心しろよ」
「ひっひひひっ、たっぷり遊んでやるからな・・・・・」
何とも言えない。
「テンプレね」
「テンプレですね」
「テンプレって何?」
「テンプレート。在り来りな事よ」
「こういうのは異世界モノの定番だって本で読みました。王道展開とも言いますね」
「そうなんだ。ひょっとしてやられ役?」
「そうです」
「「誰がやられ役だぁっ!!」」
怒っている人達を無視して話していく。
「つまり気にしなくていいんだね。そもそもこの程度の数なら僕達だけでどうとでも出来そうだけど」
「ええ、どうせ雑魚よ、雑魚」
「そうですね。でも、一応役には立ちますよ?」
「そうなんだ?」
「教育すればいいらしいです」
「却下よ。こいつらは殺す。私達の裸を見た男は燃やしてやる」
「だそうですので、諦めてください」
「なめんじゃねえっ!! 街からの応援なんて来ないぞ!!」
街からの応援がないのが当然って事? やっぱり繋がってるのかな?
「アンタ達みたいな気持ち悪いのを舐めないわよ」
「そうですね」
「絶対に舐めさせてやる!」
「どっちだよ!!」
馬鹿な事を言っているからつい突っ込んじゃった。矛盾してるよね。意味が違うだろうけど。
「気持ち悪いロリコンなんてさっさと焼却よ」
「そうですね」
というか、男の僕にも気持ち悪い視線を送ってくるしホモなんだ。
「ああ、もう……気持ち悪いし殺っちゃえ、二人共!」
金貨を取り出して宙に放る。当然のように金貨が落ちてくるのでちゃんと両手を叩くようにしてキャッチする。その瞬間、二人は足元を陥没させて視界から消えた。調の方は炎が残っており、見ると火の塊が光速で移動しているのがわかる。それとキィィィンという音も聞こえた後、何かを削るような音が断末魔と一緒に聞こえた。
「ヴォーテックス・イグニス!」
調の声が聞こえる無数の光速回転する炎の円月輪が出現して駆け抜けていく。なんで人質を取られて大人しくなったのかがわからない戦闘能力だ。人質を取られても直ぐに奪還する力はありそうだけど。
「どうしました?」
「ティナ……そっちは大丈夫?」
「はい。全員、馬車に入りました」
「わかった」
やって来たティナの言葉に僕は空間魔法で馬車の周辺をまとめて隔離する。これで空間を捻じ曲げるような力じゃないと攻撃は届かない。ユエ達は入ってこれるようにしてあるので大丈夫。
「ねえ、少しいいかな?」
「なんですか?」
「なんで調って捕まったの?」
「私達のせいなんです。子供達が攫われて何処かに監禁されたんです。それで調が大人しく奴隷にならないなら子供達を殺すと……確かに借金を返せなかった私達が悪いんですけど……」
「そもそもなんで借金をしたの? 援助とか普通はあるんじゃなかったけ?」
「確かに国からの援助は少ないですがあります。おそらく国の上の人と組んで仕組まれた事だったんでしょうね。急に孤児院への援助が資金不足を理由に打ち切られました。食糧難になっていて生きる為にはお金が必要でした。もう、借金をするか身売りをするしか無い状態になったのです。この時、シラベちゃんが路地裏で倒れている所を助けました。それから彼女がモンスターを狩って食料を微かながら提供してくれたのです。それでも日に日に食料は高額になっていった時、彼らが現れてお金を貸してくれるとの事でした。契約の時もしっかりと読んだんですが……いつの間にか契約書をすり替えられていたのに気付かずに院長がサインをしてしまったのです」
完全に嵌められてるね。この世界、本当に怖いね。しかし、上の腐敗も進んでいるのかな。本で読んだだけだったけど、これは大変だ。クロードさんに頑張ってもらうしかないかな? お母さん達だったら何か出来るかも知れない。子供の僕に出来る事なんてない――いや、ここは地球とは違うから僕でも精霊さん達に協力して貰えれば食料を増やす事は出来るかな。でも、食料が出来ても輸送手段が無いと問題になるよね。大量に輸送出来るといいんだけど、そんなのトラックとか列車とかだよね。
ん? 列車? 列車なら確かにいっぱい運べる。でも蒸気機関なんて作り方を知らない。蒸気機関に変わるエネルギー……魔力? 魔力で代用するとなるとどうやって動かす? モンスターでも代用は可能だろうけど……疲れたりするからコストパフォーマンスが悪い……あっ、そうか。アンデットに引かせればいいんだ。上位のモンスターなら弱いモンスターは寄ってこないし休まずに引かせる事が出来る。試作品を作って段々と改造して魔力で動く列車を最終的に完成させればいい。うん、僕でもできそうだ。
「あの、どうしましたか?」
「あ、大丈夫。理由はわかった。孤児院の人達は連れてきたの?」
「院長先生は合わせる顔が無いといって残りましたが、他の人達を送り出してくれました」
「そっか。落ち着いたら迎えに行こうか」
「はい。どうかよろしくお願いします。私達のお父様なんです」
「なら尚更だね。食料とかは定期的に僕が運べばいいし、任せて」
「本当にありがとうございます」
そんな話をしていると矢が飛んでくる。矢は全て空中で弾かれて地面に落ちていく。
「くそっ、化け物めっ!!」
「人質を取るんだっ!! それしか手段はねえっ!!」
こちらに向かって走ってくる人達。彼らの背後から炎の円月輪が襲いかかって来る。何人かは振り替えって剣で防ごうとするが――円月輪が到達する前に馬車に向かってきた者達の首が撥ねられた。それもタイムラグなく一斉に。そして直ぐに突風が吹き抜けた。
「リン君に危害を加えようとする者は許しません」
僕達の前には血塗れの深紅になった柄の短いデスサイズを片手に一つずつ持ち、血を浴びているユエが居た。
「リン君、もう少し待っていてくださいね。直ぐに処理しますから」
「う、うん」
ユエはニコリと笑ってまた消えた。
「こ、怖いですね」
「そうだね……守ってくれるのは嬉しいけど」
ちょっと怖いけど、言ったら悲しみそうだから言わない。
「あっ、なんか増援が来たや」
「味方ですか?」
「いや、わからない。ちょっと行ってくるね」
「はい。お気をつけて」
僕は馬車から出て後ろの方へと向かう。増援が来たのは街の方からだ。彼らの言い分だと街から僕達の増援は来ない。じゃあ、来るのは敵になる。でも、相手の言葉をそのまま信じるのは駄目だから自分の目で確認しようと思う。
後ろに向かうと沢山の馬に乗って鎧を着た人達がやって来た。その背後から馬車もやって来る。その人達は僕達の前で止まる。馬車からあの太ったおじさんが出てきた。
「アイツ等で間違いないか?」
「は、はい! 間違いありません!」
「わかった。お前達を拘束する! 抵抗は無意味だ。大人しくしろ!」
「あの、なんで拘束されないといけないんですか?」
「貴様らが奴隷を騙して奪い取ったからだ! ウルカレル男爵の名まで使った詐欺行為は分かっている!」
ちゃんと交換で手に入れたんだけど。
「まず、ちゃんと剣と交換で買いました。ウルカレル男爵に保護されているのは事実ですし、名を語って詐欺なんて働いていません」
「そのような事実は無い。貴様ら薄汚い亜人の言う事など信じられん。貴様らが使った大金の出処も気になるしな」
えっと、つまり最初からお金が目当てと。奴隷商のおじさんと組んでる訳だ。なるほど、あの盗賊が捕まらないし、街から僕達の増援が来ない訳だね。
「大人しくし投降して商品を返して貰おうか。そして、貴様達はわしの奴隷だ」
こんな人達が本当に居るんだね。僕も覚悟を決めて手を汚そう。クロードさんやヴェロニカさんには悪いけど、僕にとってユエ達の方が大事だし。
「気持ち悪いから顔を見せないでくれる?」
「貴様っ!」
「投降する気はないようだな」
兵士達が僕を扇状に囲んでいく。騎馬から降りていないけれど、近づいているので騎馬最大の武器である機動力がでない。僕には必要無いと思っているのかな? でも、そもそもさ。
「ねえ、たったこれだけの人数でいいの?」
「何?」
「だから、たったこれだけの人数で僕の防御を破れるのかと聞いているの」
「はっはっはっ、当然だろう」
「じゃあ、やってみせてよ。タイムリミットは後二十分くらいだよ」
「馬鹿が――殺れ」
槍を持ってゆっくりと近付いて突きを放ってくる。当然、ただの槍から放たれた突きが空間障壁を撃ち抜けるはずもなく、そのまま槍が折れて手首を痛めたようだ。
「いっ、いてぇえぇぇぇっ!?」
「どうしたの? ほら、破れるんでしょ? 頑張って頑張って」
馬車の屋根の上に飛び乗って、座って足をプラプラさせながら見学する。
「何をしている。掛かれ!」
「「うぉおおおおおおおおおぉぉぉっ!!」」
突撃しても無駄。火力が足りないんですよ、火力が。
「魔法障壁か! ええい、別の所から向かえ!」
しばらく攻撃して無駄だとわかったのか、数騎が別の場所へと向かう。意味が無いけど馬が勿体無い。
「ユエ~調~馬は欲しいから乗り手だけ潰してね」
「わかりました~」
「了解~」
僕達の言葉を聞いて怒ったのか、顔を真っ赤にして突撃してくる。でも、やっぱり火力が足りないんです。
「ええい、どうにかならんのか!!」
「魔法使いを呼んで来い!!」
「はっ!!」
しばらくぼーと見ているとユエと調がやって来た。あっちは終わったみたい。こちらもタイムリミットが近い。
「それで、コレはどうするの?」
「殺りますか?」
「いや、いいよ。もうすぐ終わるし」
「何が……」
「あれ」
指差した方向にある森。そこには無数の瞳が茂みから浮き出ている。
「おじさん達。タイムオーバーだよ。こっちの増援が到着したし」
「何を馬鹿な事を……」
「食べていいよ。馬は残してね」
僕がそう言うと、森からガー君に率いられた沢山の狼さん達が出てきておじさん達に襲いかかる。
「が、ガルムにシルバーウルフだと!?」
「ひっ、ひぃいいいいぃぃぃぃっ!?」
「じ、陣形を組んで突破するぞっ!」
「逃がしちゃ駄目だよ」
今度は逆に狼さん……シルバーウルフ達が包囲して殲滅に入った。
「動きが悪いですね」
「二十分も壁に突撃を繰り返させられて酷使されたら疲弊はするよ。それにガルムのガー君が威圧を与えれば馬は殆ど動けない。動けない騎兵なんてただの餌だよ」
「えげつない」
「何時から呼んでたんですか?」
「調達を購入する時。お母さんに手紙を出しておいた。道を作りながらこっちに来てるから、ガー君とシルバーウルフ達を寄越してって」
馬達は自分達が襲われずに乗り手だけが攻撃されている事に気付かされたら必死で騎手を落としに掛かった。騎手が落なければ地面に座って騎手を差し出した。
「見捨てられたね」
「見捨てられた」
「当然ですね」
ガツガツと食べられていく兵士さん達。それを見ていると気分が悪くなる。二人はアドレナリンが沢山出ているのか、平気そうだけど僕は吐きそうだ。
「た、助けてくれぇぇぇっ!!」
「と、投降する! だ、だから!」
「やだ。投降は認めないよ。僕は僕の意思で君達を殺すって決めたんだ。だから、彼らの餌になってね」
人差し指を唇にあてながらいってあげる。僕が彼等を助ける理由なんてないし。
「ま、待ってください!」
声に振り向くと慌ててティナがこちらに走ってくる姿が見えた。
「どうしたの?」
「彼らが居ないとモンスターや盗賊に襲われた時、街の人々が困りますのでどうかご再考をお願い申し上げます」
必死に頭を下げてくるティナ。確かに治安も悪化しそうだよね。
「じゃあ、投降した人は助けてあげる。いいよね?」
「私はリン君に従います」
「まあ、街の人が困るのは嫌だし、別にいいかな」
「だって。武器を捨てた人は襲っちゃ駄目だよ」
「ありがとうございます」
「ああ、でもその二人は駄目ね」
「そうですね」
ユエと調の二人が奴隷商のおじさんと引き連れてきた隊長さんの横に着地した。
「ひっ、たっ、助け――」
「く、来るなっ、来るなぁぁぁっ!! 俺を誰だと――」
奴隷商の人は火だるまにされ、隊長さんは身体を真っ二つに斬られた。そして、そのまま狼達の餌になっちゃった。
「他の人は投降していいよ?」
僕の言葉に慌てて武器を捨てて投降する人達。
「馬は貰っていくけど、このまま帰っていいからね」
彼らは急いで街へと逃げていく。
「あらあら、随分と派手にやったようね」
森が勝手に開いて大きな道が出来た。そこからお母さんとヴェロニカさんが歩いてくる。
「ええと、一応報告しますね。流石に騎士の殺害ですし」
「正当防衛だよ?」
「わかっていますよ。ですが、色々と調査をする為に必要なので諦めてください」
「あの、こちらのお方は?」
「僕のお母さんとヴェロニカさん」
「炎獄の魔女……」
「はい、とりあえず撤収しましょう。道も出来た事だし、色々とお話があるからね」
「そ、そうだね……」
とりあえず、お城に向かうとしよう。その前にお馬さんのテイムをしないといけないし、お母さんに調とティナ達を紹介しなきゃ。




