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クリスマス限定ミッション1



 気が付くと目の前に知らない真っ白の長いお髭に赤い服のお爺さんが居た。その人は一言で言うならサンタクロースだ。


「メリークリスマスっ!!」

「メリークリスマス」

「イエス、キリストとかこの世界には一切関係ないが、この世界に来てもらった子供達の為にささやかなプレゼントを用意したぞ!」

「えっと、誰?」

「この世界の神様じゃ。ちなみに苦情は一切受け付けんし、成人前の子供の前にしか現れん。成人をした者達にはミッションとして限定イベントを発令しておる」


 つまり、子供に対する補填って事?


「それもあるの。可哀想な子供が何人かおるからの」


 ユエみたいな子が居るんだ。なら、助けてあげたいな。


「ふぉっふぉっふぉ。死んでしまった子は聖なる夜にちなんで再誕させておいたので問題は少ないの。生きてるこの子達の方が心配じゃ。なので出会ったら助けてやってくれんかの?」

「わかりました」

「うむ。差し当たって主が居る近くの街に不幸になる女の子がおる。その子はユエちゃんの友達じゃから助けてやるといい」

「ユエの友達……なら、なんとしても助けないと」

「では、よろしく頼むぞ。プレゼントは枕元に置いてある。中には無印のスキルカードが入っておるはずじゃ。欲しいスキルを書くとええ」

「ありがとうございます」

「では、さらばじゃ」


 サンタクロースさんの姿が消えると僕の意識は覚醒した。周りを見るとお城にある僕の部屋で、隣にユエとひなたが寝ている。枕元の方を見るとベッドの横に大きめのクリスマスツリーがいつの間にか有った。その下にはあったかそうな赤い靴と靴下が置かれている。


「サンタさんっ!?」


 がばっと起き上がったひなたが周りをキョロキョロと見渡す。


「サンタさん、どこ?」

「帰ったよ。プレゼントは置いてくれてるよ」

「ひなの、ある?」

「有るよ」

「ん! ユエお姉ちゃん、起きて」

「んんっ、おはようございます……」

「おはよう」

「プレゼント、あるよ?」

「ああ、すごく謝ってましたけど、夢じゃなかったんですね……」

「みたい」


 起き上がってユエを抱き上げる。流石に寝ている時はあんな物騒な装備は外している。なので毎朝取り付けてあげる。


「あ、これひなの。中は……サンタさんの服だ!」

「え?」

「可愛いですね」


 見ると、ひなたの手には赤い靴から出るには明らかに大きい可愛らしい服が出てきた。ひなたのはドレスっぽいもので、いそいそ着ていくひなたは可愛い。


「僕達のもあるのかな?」

「そうですね」


 見てみると僕のはズボンで、ユエのはミニスカートだった。あと、ユエのはオフショルダータイプのサンタコスチュームで胸元が露出している。袖の部分が長く、手の甲辺りまで隠れてしまう。それと赤と白のあったかそうなコートまで出てきた。靴下と靴を履けば完成した。


「いい感じですね」


 ユエのはカバータイプのようで、義足を入れればしっかりと嵌った。


「そういえばリン君とひなたちゃんはスキルカードがあるはずですよ。私は既に要望を伝えて貰いましたし」

「そうなんだ。んーポケットか」


 コートのポケットの中にカードが入っていた。ここに書けばいいんだね。


「ひなも有った。何しよ?」

「なんでもいいよ。ひなの思うようにすればいいからね」

「ん」

「じゃあ、お母さん達の所に行こうか」

「はい」


 ひなたとユエを連れて食堂を目指す。そこではお母さんとお父さんが難しそうな表情をしていた。


「どうしたの?」

「ああ、それがね……あら、可愛らしい格好ね」

「うむ。似合っているな」

「サンタさんに、スキルカード、服、貰った」

「良かったわね。こっちの内容は簡単よ。貴方達もミッションが出ているはずだから」

「?」


 ステータスを開いていみると直ぐにわかった。


[クリスマス限定ミッション:本日中に沢山の子供達に喜ばれるプレゼントを配れば豪華特典を差し上げます。景品は下記の通り。

 10人=ポーション詰め合わせ

 100人=道具

 1000人=武具

 10000人=スキルカード]


 神様が言っていたのはこれか。しかし、1万人にプレゼントを配るとか無理じゃない?


「プレゼントをどう用意するかね」

「そうだな。配る方法はあるから物を用意しないといけない」

「ん、ひな、頑張る。ぬいぐるみ、いっぱい作る」

「そうね」

「子供なら刃引きした剣も喜びそうだな」

「やる気満々ですね。それに配る方法まであるなんて凄いです」

「そうだね。でも、ぬいぐるみの材料を取りに行かないといけないんじゃない? 金属のぬいぐるみは……置物だし」

「ぬい、ぐるみ!」

「ぬいぐるみだね」


 ひなたの言葉に慌てて訂正する。


「買い出しが必要だな」

「そうね」

「それとこれはサンタさんから聞いたんだけど、ユエの友達が不幸な目に遭うんだって。助けてあげたいけど、いい?」

「ええ、構わないわよ」

「ありがとうございます。でも、私には教えてくれませんでした。なんででしょう?」

「僕が主人だから?」

「それなら納得ですね。私はリン君の指示に従いますし、迷惑が掛かりそうなら黙って助けに行こうとするかも……」

「ふふふ、どっちも助ける気満々じゃない」

「少し待っていろ。売り物を用意してくる」


 お父さんが出て行った。僕も何かを考えていないと。


「そういえばユエは何にしたの?」

「私は真祖の血族というスキルを貰いました」

「ちょッ!?」

「カッコイイっ!」

「どうせなら行くとこまで行こうかと。真祖は段階を踏まないと駄目らしいので血族で我慢しました」

「精神障壁はどうしたのよ?」

「あっ……」

「忘れてたわね。罰として無理矢理覚えさせましょう。やっちゃいなさいひなた」

「ん!」

「まっ、待ってくださ――」


 闇魔法をユエに駆け出したひなた。それによって苦しみ出すユエ。助けたいけど精神障壁を覚えないと大変な事になるので我慢して貰う。ただ、蹲って頭を掌で抑えているユエを抱きしめてはあげる。


「あっ、付与魔法にしよう」

「あら、どうして?」

「アイテムボックスの鞄とか作りたいから」

「確かに私じゃ無理ね。いいんじゃないかしら? それなら待ってなさい」


 お母さんが出て行ったので、付与魔法を最大値と書いてみる。


[付与魔法を最大値で習得……エラー。最大値を認識できません。99に再設定……エラー。最大値を認識できません。999に再設定……エラー。付与魔法の再構築を開始。付与魔法における最上級を作成。技能付与を作成しました。技能付与を習得しました]


 何かバグったようだ。技能付与ってなんだろ? 取り敢えず説明をみようか。


[技能付与:スキルをアイテムなどに付与できる。魔法などを付与する場合、上位互換のものに変更される]


 なんか、凄いのを手に入れたや。特殊項目だし、ありといえばありか。


「ひなたは選んだ?」

「ん、多重操作。一気に操る」

「あうあうあうあう」

「なんだか危なそうなんだけど」

「危ない」

「あっ……」


 ユエが痙攣したかと思うと女の子としては危ない不祥事が起きたので慌てて処理する。


「うぇぇぇんっ」

「よしよし」

「やりすぎた。でも、手に入ったからおっけー?」

「全く……ちょっとお風呂に入れてくる」

「ん」


 ユエをお風呂に連れて行って身体を洗ってあげる。それから洗濯もしてさっさと乾かして下着だけ変えて元の服を着てもらう。

 食堂に戻ればお父さん達も戻っていた。


「とりあえず金になりそうな物を作った」


 そう言うと、お父さんが複数の鍵付き宝石箱と豪華な剣を取り出した。剣は刀身がルビーで柄などにはサファイアが施されている。


「また凄い物を……」

「簡単に出来たからな。それとこっちが俺とお前の本命だ」


 お父さんが出して来たのはダイヤモンドで出来た指輪だった。それが五個もある。


「ダイヤモンドも出来たんだ」

「構成物質はわかっているからな。それよりもこれにアイテムボックスを付与してくれ」

「わかった」


 技能付与でアイテムボックスを付与する。上位互換になるだけあって色々と設定できるようになった。とりあえず、入る数を武器、防具、アクセサリー、道具、素材の枠内に各99種類に設定した。1種類99個まで入る。同時に共有設定も作って家族内で同じだけ入るようにしておいた。それとショートカット転送を登録できるようにして武器を手元に呼び出せるようにした。残りのしたい事は時間の停止だけど、これは時間魔法を持っていないので出来ないのでこれで完成でいいだろう。消費魔力は大きいけれど極大魔力level2でどうにかなる。五個も作ったら極大魔力でも枯渇しかけた。そのお陰でlevelが3になったけれど。


「出来たよ。家族内で共有フォルダも作っておいたから、受け渡しも可能だよ」

「さらりととんでもない事をしているわね」

「そうだな。さて、エリゼ」

「ええ、よろしくね」


 お父さんがダイヤモンドの指輪を持つと、お母さんが左手を差し出す。お父さんがお母さんの手を取って薬指に指輪を嵌めた。


「わぁぁぁっ」

「おー」

「ふふ、やっぱりいいものね。次は私ね」

「ああ」


 互いに指輪を嵌めて嬉しそうにしている。


「リン君!」「お兄ちゃん!」


 二人が一斉に左手を差し出してくる。これはつまりそういう事?


「虫除けにもなるからやっておきなさい」

「そうだぞ」

「「わくわく」」

「わかったよ」


 ユエの薬指に指輪を嵌めてあげると凄く嬉しそうに笑った。その笑顔が可愛くてつい見惚れてしまう。


「お兄ちゃん、ひなにも」

「うん」


 しかし、妹に薬指はまずいので腕を変えようとする。


「お兄ちゃん、ひなの事……嫌い?」

「いや、そんな事はないよ。ひなの事は好きだよ」

「じゃあ、お母さん達と一緒の所」

「それは……」

「リン君、ひなたちゃんにもお願いします」

「いいのかな?」

「はい。やっちゃってください」

「うるうる」

「わかったよ」


 可愛い妹の涙目上目遣いには勝てない。勝てるはずがない。おとなしく薬指に嵌めてあげる。するとひなたも凄く喜んで抱きついてくる。僕はひなたの頭を撫でてあげる。


「あれ、皆さん今日は早いですね」

「おはよう。色々とあってね」

「あ、ヴェロニカさん。ここから一番近い街ってどこですか?」

「ここからだとラプシンですね」

「方角は?」

「えっと、南東ですね」

「あっちか」


 そちらの方を見ると確かに大きな街が見える。リーブル村から東に進んだらあるようで、それなりの距離がある。


「それじゃあ、後で行ってくるよ」

「そうね。行くのはどうするの?」

「空間魔法がレベル4になったから見える範囲なら転移できるよ」

「リン君の見える範囲って4千kmじゃなかったですか?」

「今は倍かな」

「規格外ですねえ……」

「じゃあ、買い出しよろしくね」

「うん」


 それから果物を中心に食べた。特に精霊樹に実る果物は魔力を回復する効果もあるので沢山食べる。


「連れて行けるのは何人なの?」

「僕一人かな。ユエは僕の従魔扱いだからいけるみたい」

「そう。なら二人でいってらっしゃい。ひなたとあなたはプレゼント作り。私はヴェロニカさんと道をラプシンの方へ作っておくわ」

「ラプシンですか? いいですけど、出来たら砦の方に……」

「あっちは食料確保の手段があるでしょ。しばらくは大丈夫のはずよ」

「それもそうですね。何かあれば早馬が来るでしょうし」

「ええ」


 お母さんの指示に従って食事が終われば皆が動き出す。


「それじゃあ行こうか」

「はい」


 サンタコスチュームのまま抱き合って転移する。回復した魔力は殆ど消えたけどユエが居れば荒事も大丈夫だ。


 さて、ラプシンから少し離れた位置に転移した僕達は歩きながらラプシンへと向かう。流石に無断侵入は色々と不味いだろうしね。それに腕を絡めて来るユエと歩くのもいいと思ったから。ただ、ユエの手には気を付けないといけないけれど。


 しばらく歩いて中に入る為に並んでいる列に加わって順番を待つ。


「人が多いですね」

「街だからね。そういえば砦以外で初めて入るね」

「そうですね。ここに私の友達が居るんですね」

「うん。どうにかして助けてあげないとね」

「はい。でも、無理はしないでくださいね」

「頑張るよ」

「もう。無理するって言ってるようなものじゃないですか」


 実際に助ける為に無茶はしそうだ。


「次。子供が二人か」

「はい」


 男の兵士にユエは僕の後ろに隠れる。隠れていても常に警戒はしてくれている。


「もう片方は奴隷か。カードを見せろ」

「どうぞ」


 カードを取り出して渡す。すると兵士の顔が変わった。


「ダンピールにハーフか」

「何か問題でも? 僕達の身分はウルカレル男爵家が保証してくれていますが?」

「ちっ、なんでもない。行け」


 カードを投げ渡されたので受け取ってさっさとユエと共に入っていく。


「嫌な感じですね」

「そうだね。色々と根が深いみたい。まあ、そんな事は無視してさっさと行こうか。まずは宝石商からだよ」

「はい」


 色んな人達が僕達を見てくる。種族と服装のせいだろうけど、気にせず千里眼で高級な宝石商の元へと向かっていく。

 僕がユエを連れて向かった宝石商は大通りに面する三階建ての建物に店を構えていた。中に入るとアンティークで統一された高級感溢れる作りでありながら落ち着いたら品のある雰囲気を醸し出している。


「高そうですね」

「だね」

「いらっしゃいませ。本日はどのようなご要件でしょうか」


 執事服を着た男性がこちらに気付いてやって来て頭を下げる。他の店員も全員が執事服を男女関係なく着ていて本職だと思っても違和感がない。


「宝石を売りに来ました」


 僕はそう言いつつ薬指のダイヤモンドの指輪を見せてあげる。するとあちらも一瞬だけ固まった後、直様案内をしだした。


「こちらへどうぞ。あちらにてお受けいたします」

「よろしくお願いします」


二人で頭をさげる。


「それと申し訳ございませんが、武器はあちらでお預け頂いても構いませんか? ここは貴族の方もご利用致しますので……」

「こういう事なので無理なんです」


 僕はユエの腕を見せてあげる。すると納得したようだ。


「畏まりました。それでは申し訳ございませんが、個室でよろしいでしょうか? そちらの方でしたらそのままで構いません」

「ええ、お願いします」

「ではこちらに……」


 案内してもらった個室はソファーとテーブルがあり、絵が飾ってある部屋だ。ソファーも明らかに高い。


「どうぞお座りください」


 僕達が座ると店員さんも目の前座る。直ぐにノックがされて紅茶が運ばれて来た。


「砂糖とミルクをお好みでどうぞ」

「ありがとうございます」

「リン君」

「うん。ちょっと待ってね」


 僕はポケットの中に手を入れてアイテムボックスを開く。その中から宝石箱を取り出してテーブルの上に置く。


「今回これが売ろうと思っている物の一つです。どうぞ査定してください」

「拝見いたします」


 細工が施された鉄製の箱に散りばめられた宝石類。それらをしっかりと見ていく店員さん。


「これは素晴らしい細工ですね」

「ドワーフの父が作った物です。中に宝石が入っています」

「なるほど。そちらのお嬢様がしていらっしゃる指輪もその方の作品ですか?」

「はい」


 店員さんは蓋を開けようとして止まった。


「鍵が掛かってますね」

「こちらが鍵になります」


 鍵も綺麗に装飾が施されている。


「失礼致します」


 鍵で開けて中身を確認していくと店員さんはどんどん真剣な雰囲気になっていた。


「ダイヤモンド、ルビー、サファイアの指輪にペンダント、どれも素晴らしい作品ですね。付与された効果もある。マジックアイテム扱いでも充分な物です」

「お値段はどれくらいですか?」

「カットも素晴らしいですし全部で金貨30枚でどうでしょうか?」


 30枚だと日本円にして3000万円か。充分だね。


「わかりました。この宝石箱が全部で20個ありますが、どうしますか?」

「少々お待ち下さい。オーナーに確認します」

「どうぞ」


 水晶のような物を二つ取り出した店員さんは片方を耳に当ててもう片方を口元に持っていった。それから何やら話しだした。


「もう少しお待ちください。遠見の水晶を用意致しますので」

「わかりました」


 店員さんが出て行ったので僕は砂糖とミルクを入れてユエに飲ませてあげる。僕も飲みながら待っていると大きな水晶を持って店員さんが戻って来た。


「それでは繋げます」


 水晶が光ったかと思うと映像が映し出された。そこは空の上のようで風の音が凄い。直ぐに狸耳をした女性が映し出された。


『初めまして。移動中なんでこんな形でしつれいします。うちはオーナーをしてるエミルと申します。宝石箱20個、確かに買わせて貰いますが、定期的に仕入れる事は可能やろうか?』

「可能ですね」

『専属契約はどないですか?』

「それは両親と相談してください。僕は買い出しのお金を作りに来ただけですから」

『そうですな。では、後ほどお伺いしてもよろしいでしょうか?』

「場所が特殊なのでこちらに出向いて貰いますね」

『わかりましたわ。彼らに遠話の水晶を渡しておきなはれ』

「はっ」


 う~ん、好感触。これはいい当たりかな。そうだ、この人なら適正な値段を判断してくれるかな?


「それと一つ査定して欲しい物がありますけど、いいですか?」

『構いませんで』

「これです」

『これはまた偉いもんどすな』


 宝石剣を取り出して見せると、表情が明らかに変わった。


『500、いや、600……うちやったら最低60、出せて850ですな』

「一括で支払えます?」

『無理ですわ。いくらなんでもそんな高いのを即金なんて出来まへん。手形で後払いなら買わせて貰います』

「手形?」

『商業ギルドが発行してる取りっぱくれない引換券ですわ。それなら850を出しましょ。無論、金貨で』

「ふむ」

「商業ギルドに登録されて口座を作られてはどうですか? それなら何時でもギルドで引き落としが可能です」


 こっちにもあるんだね。


「リン君、そっちの方が便利だよ」

「そうだね。じゃあ、とりあえず宝石剣は後回しにして宝石箱の代金は貰えますか?」

『せやね。そっちやったら即金で払いましょ。まだ捌き易いですし。用意しておくれ』

「はっ」


 テーブルの上に大量の金貨が置かれていく。僕はそれを10枚ずつ重ねて60個を並べる。


「確かに600枚ありますね」

『金額を教えてないのに暗算どすか。これは賢い坊ちゃんですな』

「これぐらい普通ですよ?」

「リン君、こっちじゃ普通じゃないよ」

「あ、そっか」

『まあ、普通やありまへんな。宝石剣の事は考えておいてくんなさい』

「わかりました」

「それではこちらが契約書になります。それと宝石剣の方の鑑定書です。こちらはサービスしておきます」


 渡された契約書をしっかりと読んでから署名する。これで契約は成立した。鑑定書までもらえたのでホクホクだ。


「「ありがとうございました」」

「こちらこそいい商売ができました。ご連絡をお待ちしております」

『ほな、また逢いましょう』


 600枚の金貨と遠見の水晶をアイテムボックスに仕舞って外に出る。


「それじゃあ、買い物をしながらユエの友達を探そう――どうしたの?」

「見つけましたっ! 停止世界っ!」


 大通りを通りが掛かった大きな馬車を見た瞬間。ユエが消えて馬車の方から馬が鳴いて急停止した。僕はユエが何をやったのか理解して慌ててそちらへと向かう。


「なんだお前っ!?」

「調ちゃんを返してください!」

「なんだと!?」

「まあまあ、落ち着いてください」

「いいからさっさとどきやがれ! 痛い目を見るぞ!」

「中の女の子はなんですか?」


 僕は自分のカードを出してウルカレル男爵の関係者だという事を示すと、途端に態度が変わった。


「奴隷ですよ。借金の形に買い取ったんですよ。何の問題もありませんぜ」

「そう。いくら?」

「え?」

「だからいくらだと聞いているの」

「買ってくれるんで?」

「ええ」


 奴隷なら買うしかない。少なくとも今なら僕が帰るはずだ。


「なら、奴隷商の所に行きましょうや」

「ユエ、少し待ってて」

「はい……」


 奴隷商に到着すると男を待っていた人達が騒ぎ出す。


「こちらの人が中の奴隷を買ってくれるそうだ。案内してやれ」

「へい」


 馬車の御者台から降りた僕の横にユエが立って移動する。中に入ると直ぐに太った人がやって来て案内してくれる。さっきの店とは全然違う。


「ようこそいらっしゃいました。入荷したての奴隷をお求めとか」

「そうだよ」

「……」

「直ぐに準備致しますのでお待ちください」


 案内された部屋で少し待っていると後ろ手で拘束されて首輪が嵌められた裸の少女達が首輪に付いた鎖を引っ張られて連れられて来た。どの子も虚ろな瞳をして身体には痛々しい鞭の跡がある。少女達の年齢は14歳くらいの人と13歳の調ちゃんを除けば残りの子はかなり下だ。


「調ちゃん!」

「……誰?」


 調ちゃんは赤い髪の髪にストレートにしている綺麗な少女だ。スレンダーだけどお腹は引っ込んでくびれができている。


「楓だよ」

「楓ちゃん?」

「おや、知り合いですかな?」

「あの子はいくら?」

「そうですな。借金の形で特殊な力を持ちますから金貨560枚ですな」


 5億6千万か。買えるけど高いな。


「待ってて。直ぐに助けてあげるから」

「楓ちゃん、その手……」

「あっ、これは……」


 ユエの手を見て震えだした。


「いっ、いやっ、放っておいて」

「五月蝿いっ、黙れっ!」

「あぐっ!?」

「ティナっ!!」


 調ちゃんに鞭が振るわれたが、14歳くらいの銀色の髪の毛の少女間に入って代わり鞭を受けた。連続で振るわれようとした鞭は直ぐにユエによって切断された。そして、鞭を振るった男にはユエが殺気を放って何時でも殺せるようにしている。


「お客様? どういうおつもりで?」

「そっちこそ買おうとしている子を傷つけないでくれる?」

「それは……」

「この店、男爵様に言って潰すよ? ボクの後ろ盾は男爵様だから」

「っ!? 申し訳ございません!」


 こいつらは嫌いだ。早くどうにかしたいな。


「シラベお、お姉ちゃんとティナお姉ちゃんを虐めないで!」

「ねえ、彼女達は知り合いなの?」

「はい。同じ孤児院で住んでいたのです。あちらのティナと呼ばれた女性はシスターでして……光魔法を使うので高くなっております」

「それってここに居る子は全員が孤児院の子?」

「はい。そういう事ですね」

「じゃあ、全員買うよ」

「「っ」」


 皆が身体を震わせている。勘違いなんだけど、今は仕方ないや。むしろ、これを利用した方がいいかな。


「そうそう、さっきの件だけど。僕、奴隷を直ぐ壊しちゃうんだ。だから子供の奴隷がもっと欲しい。他にも居る?」

「えっええ、もちろん居ますよ」

「全部、これで売ってくれたらさっきの件は不問としてあげる」


 僕は宝石剣を鑑定書と一緒に出して見せる。


「こ、これを譲っていただけるので?」

「うん。それ、献上品にも使えるだろうしもっと高いか」

「うちの奴隷を全て差し上げます!」

「彼らを連れて行く馬車も付けて」

「わ、分かりました。直ぐに準備致します!」


 太った人は慌てて他の者と出て行った。僕はクスクスと笑いながら宝石剣に触れる。


「で・て・お・い・で」

『いいのー? いい住処なのにー』

「代わりをあげるよ。お願い」

『代わり~? じゃーあれ!』


 宝石剣から出て来た炎の精霊さんは調ちゃんの方へと飛んでいった。


『これがいい~』

「そっか。ちょっと待ってね」

『わかった~』

「さて、調ちゃん」

「私の名前を呼ぶな!」


 睨みつけてくる深紅の瞳。炎の精霊が気に入ったのもわかるようなサラサラの深紅の長い髪の毛。気の強い子みたいだ。


「調ちゃん! リン君はご主人様になるんだよ!」

「誰が認めるか!」

「駄目よ、シラベさん」

「ティナ……」

「すいません。どうか私の身は如何様にしても構いませんので、子供達だけはどうかお救いください」


 銀色の長い綺麗な髪の毛に深い水色の瞳の美少女。この子も値段が凄く高いだろう。むしろ、狙われたのかも知れない。


「回復魔法ができるんだよね?」

「はい」

「じゃあ、ティナさん……ティナと調が頑張れば他の子達の負担は減るだろうね」

「最低ね」


 何か勘違いされたような? まあいいや。ここで解くのも都合が悪いし、子供達には勉強と田畑とかのお手伝いもしてもらうしね。


「シラベ。行けません。もう私達に選ぶ権利はないのです。精一杯お使えさせて頂きましょう」

「わかったわよ。でも、装備も取り返して貰わないと何も出来ないわよ」

「それもそうだね」


 直ぐにその事を伝えて装備も準備させる。売られる前だったようで、ちゃんと手に入れることができた。その間にお母さんに一筆書いて共有に放り込んでおく。それから少しして準備が整ったとの事で契約が完了次第馬車に乗ってもらう。


「では奴隷契約の変更を行います」

「うん」


 全員との契約変更は時間が掛かる。なので先にティナと調だけを優先してもらった。もちろん、服も着てもらっている。


「二人はこの街に居る孤児や孤児院の職員、職も無く食べれていない人を集めて連れて来て。これは命令だから。調はティナを守ってね」

「それは……」

「最低ね」

「これが資金」


 隷属の首輪で二人は言う事を聞くしかないので、お金を渡す。


「向こうじゃ頑張り次第でお腹いっぱい食べれるからね」

「どうだか」

「シラベ、信じましょう。神様は私達を見てくれています」

「わかったわよ」


 二人が行った後もひたすら契約する。契約が終わったら御者が出来る物に馬車を街の外に出すようにお願いしておく。護衛のユエを連れて急いで店を回る。まずは馬車屋だ。


「いらっしゃいませ」

「馬付きで馬車を五台欲しいんだけど。直ぐに」

「すぐですか? それならこちらの中古になります」

「じゃあ、それで。いいのを選んで。お金は?」

「はい。こちらに――」


 身分証でウルカレル男爵家の影をちらつかせていいのを売ってもらう。それを外に送って貰う。それが終われば次は布屋さんに向かう。


「いらっしゃ――」

「この店の売れるだけの布と糸を売って」

「――はいっ!?」


 金貨をどんと置いてあげると慌てて作業に入ってくれる。


「大人買いですね」

「いちいち来るのが面倒だし」


 買った物は全部、共有スペースに入れておく。手紙の返信が入っていたので、読んでみると了解という返事を貰った。


「次は?」

「布団と毛布、シーツかな」

「そうですね。機織り機もあった方が……」

「急ぐよ!」


 急いで街を駆けずり回って大量の品物を購入してから街の外に出るとずらーと馬車が並んでいて、沢山の人が居た。だいたい大人が11人で子供が20人。奴隷を追加すると大人が27人で子供が38人。合計65人もの人数になった。家のお城なら問題無い範囲だ。


「あの、こんな人数になりましたけど……」

「いいよ。ほら、乗って乗って」


 各馬車を周りながら毛布や布団を入れていく。準備が整ったので僕は出発の合図を出す。


「待ちやがれ!」

「そいつらは借金が有るんだ! 逃がさねえぞ!」

「取立てなら後で取りに来たらいいよ。それじゃあね。出していいよ」


 僕の指示に従って多数の馬車が移動していく。僕は馬車の中に入ると、奴隷商で調と一緒に出会った女の子達と二人が居る。


「それで何を企んでるのよ」

「え? 害虫駆除だよ」

「来ますか?」

「来るだろうね。ここまで派手にお金を使ってあげたんだし」

「それにさっきの人達も態々こちらが動くのを待ってましたしね」

「確かに護衛もろくに居ない美味しそうな獲物に見えるわね」

「何の話をしているのですか?」

「これから来る襲撃よ」

「大丈夫なのですか?」

「平気じゃない? 悪巧みしてるぐらいだし」


 悪巧みとは失礼な。


「そういう調こそ戦力になるんだよね?」

「任せて。戦闘用のスキル構成だから」

「それじゃあ、期待させて貰おうかな。僕は防御くらいしか出来ないし」

「リン君の武器は私ですから問題ありません」

「楓、貴方……」

「あ、調。私はこちらではユエです。調は?」

「私は本名の調のまま。楓……ユエが見つけやすいようにね」

「ありがとうございます。それじゃあどうせしばらくは暇なのでリン君の事を話しますね」


 友達か。僕の友達はどうしてるんだろうか? 僕は色々と考えながら女の子達の話は聞かないようにした。ユエが誤解を解いてくれる事を期待しよう。





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