アバター作成
僕の名前は望月凛13歳。家族は父さんと母さん、それに義妹のひなた。ひなたは父さんの友人の子供で、小さい頃から家族同然に過ごしてきた。けれど5年前にひなたの両親が研究所の事故で死んで、引き取り手がなく、父さん達が引き取って一緒に暮らしている。
そんな感じでも仲良く過ごせていたんだけれど、少し前にひなたと一緒に出掛けた時に交通事故にあった。ボクはひなたを庇って大怪我を負い、その時に腹を貫いた物から感染症などを患った上に大切な臓器も傷ついたようで下半身が動かないまま過ごしている。
医者は余命が残り2ヶ月と匙を投げて残りの人生を家族と共に自宅で過ごす事になった。両親は会社の人に頭を下げて長期休暇を貰い、ひなたは休学して一緒に居てくれる。
でも、僕は家から出る事で悪化する危険があるので外にもいけない。世話をしてくれる家族を見ているとなんだかいたたまれなくなる。発作もあるし、早く死んだ方が家族も皆も楽なのかもしれない。でも、やっぱり最期まで一緒に居たいとも思う。
「……お兄ちゃん……ゲーム買ってきた。皆で、やろ……」
「うん、いいよ」
8歳になるひなたがノートパソコンを持ってきた。その後ろには父さん達も居る。皆でって全員でやるのかな?
「4人で遊べるオンライゲームというのをやろうと思ってな。それなら凛も友達も楽しめるだろう」
「あっ……」
もしも病気が感染したら嫌だから友達には電話だけでしか知らせていない。お見舞いに来たがってたけど、感染症で皆に迷惑は掛けたくなかった。ひなたはちゃんと予防接種をしているから来ても問題無い。でも、大勢の人がネットで繋がって遊ぶオンライゲームなら予防接種とか関係なく友達とも遊べて最期の思い出が作れる。
「ありがとう……」
「いいのよ。それよりやりましょう。βテストってのに参加できるから」
「そうなの?」
「ん。VRの実験ゲーム。TVでもやってる」
「そんなのあるんだ……」
「父さんも知らなかったが、いつの間にか技術がそこまで進歩していたんだよ」
「そうね。それに応募の時のメールにゲームを求める理由を書くようになってたから、家の事情を駄目元で書いたらあちらさんが特別枠を用意してくれたわ」
お母さんが楽しそうに話している。運営会社の人達っていい人なんだね。そんな事を思っていると父さんやひなたが4台のパソコンをケーブルで繋げて準備をしてくれていた。
「まず、アバター、作る」
「これはヴァーチャルじゃないんだな」
「ん、3D」
「そうね。えっと、説明書によるとオーソドックスなファンタジー世界みたいね。種族もいっぱいあるみたいよ。初期作成はポイントを振って決めるみたいね」
「っと、手紙が付いてるな……」
お父さんが手紙を読み出して嬉しそうな顔をしていく。いや、涙すら出てる。
「彼らは私達の為に家族システムを用意してくれたそうだ」
「家族、システム?」
「なんなの?」
「一緒にできるのかしら?」
父さんが教えてくれた内容は子供が両親に設定した種族の血を引けるとの事だった。つまり、ハーフエルフとかが出来るってみたい。それにしてもゲームの中でも家族になれるなら嬉しいな。
「母さんはなんの種族にする?」
「エルフね。若いままでいられるとか素晴らしいわ」
「父さんはドワーフにしようかな。武器を作ってやりたいしな。凛もひなたもそれでいいか?」
「僕はいいよ」
「エルフとドワーフのハーフって面白そう」
ヴァンパイアとかは大変そうだけど、エルフとドワーフなら魔法が使えるし、強靭な身体もあるしいいよね。
「じゃあ、種族は決定だな。容姿の決定をしようか」
「そうね。でも、ダンディにしてよ?」
「ああ」
父さんと母さんが相談しながらアバターを作っていく。ボクはよくわからないのでひなたや母さん達にお任せしよう。
「僕のもお願い」
「ええ、任せて」
「やる」
ニコニコしながら見ていると母さんと父さんが何か相談しだした。
「いいぞ、やってしまえ」
「ええ、ここまでしてもらってるのだから少しでも貢献しましょう」
「お兄ちゃん、スキル、何が欲しい……?」
スキルか。動物を飼ってみたいんだよね。モンスターに乗って移動したりするのとか楽しそうだし、可愛い動物と触れ合うのも楽しそうだよね。
「モンスターとお友達になりたい」
「テイム系、わかった」
「スキルは開始と同時に決めるみたいだからまだだけどね」
「そろそろ時間だけどな。私達は違うけれど、凛は名前をそのまま使ってちょうだい」
「うん」
それから時間になってヘッドマウントディスプレイを装着してゲームを開始する。すると真っ白な空間にお父さん達と居た。目の前には4台のパソコンが置かれたテーブルがある。
「凄いな。感覚があるぞ」
「そうね。二人とも大丈夫?」
「平気」
「大丈夫だよ」
皆の姿はまだゲームのアバターじゃない。まだ完成していないみたいだ。
[スキルをパソコンで選択してください。なお、現在作られているのは特別限定版の物です。こちらのスキルは人数制限があるものもあり、通常版には存在しません。また世界も通常版とは違います]
「こうしちゃいられないわね」
「すぐ取る」
僕もパソコンの前にある椅子に座ってやってみる。残りポイントが43万ポイントか。いっぱいあるね。スキルは肉体系、魔法系、技術系、特殊系に別れている。
「ひなた、さっき言ってたモンスターとお友達になるにはどうすればいい?」
「……テイムだから……魔法か……特殊……」
「あ、特殊系から見なさいよ」
「そうだぞ」
「うん」
言われた通りに特殊系から見る。スキル強奪(4/4)、スキル改造(2/2)、極大魔力(1/6)、千里眼(0/1)、時読み(0/3)、石化の魔眼(0/2)……色々とあるけどスキル強奪や改造は灰色になって選択できなかった。誰かが選んでしまったようだ。どれもポイントが高い。1万くらいする。でも目的のものじゃないから気にしないでいいや。検索機能があれば楽なのに。そう思うと検索機能が出てきた。
さっそくテイムと打ち込んでみる。すると色々と出てきた。ビーストテイム、ドラゴンテイムなど各種族のテイムスキルが表示された。高位のモンスター系ほどポイントが高く、ドラゴン系は5万もいた。弱いのになると10とかなのに。全種族ができる奴がないかと探しているとエクストラテイミングがあった。説明を見てみる。
[エクストラテイミング(1/3):全ての種族をテイミング(テイム)できるテイミング系最上位スキル。使役できる数は使役獣の格などによって変動する。必要魔力量(大)]
消費ポイントは1万なのでこれを選択する。すると(1/3)が(2/3)になった。これは一度いいのを選んだほうがいいかな。まずは極大魔力(4/6)を選択する。千里眼は3万もするので悩むけど(0/1)から一人しか選べないと思うので選んでおく。後で返却もできるみたいだしね。とりあえずこれで5万を使ったので残り38万。いっぱいだ。
「あっ、すごいの見つけたわ!」
「ん、こっちも。でもポイントが高い」
「どれどれ……ああ、一緒の方法ね」
「ドラックして炙り出しなんて懐かしい方法だな。ポイントが必要なら凛の所で摂ればいい。凛のは40万ほど課金してあるからな」
「「えっ!?」」
お父さんの言葉に驚いた。つまりこの初期の43万って課金されたポイントなの!?
「ちょっと何考えてるの!?」
「気にしないでいいわよ」
「そうだぞ。お前の入学資金とかに貯めていたお金だからな。どうせなら凛の為に使わないといけない」
「そうよ。それにお年玉とかもちゃんと含まれているんだからね」
「うっ」
確かにそれなら……いや、ひなたの為に使ってくれたらいいのに。
「私も、課金したい」
「仕方ないわね。一人1万円よ」
「やった!」
「いや、勿体無いよ!」
「いいさ。それよりも何か見つけたんだろ?」
「おっと、そうだったわね。凛、ちょっと貸しなさい」
「うっ、うん」
「やる」
お母さんに言われて少しスペースを空けると、僕の膝の上にひなたが座ってきた。僕は慌ててひなたを抱っこする。ひなたはそのまま操作して特殊項目を選択して検索機能で経験値を選択した。表示されたのは経験値10倍(59/80)、100倍(30/60)、1000倍(4/9)と表示された。1000倍で必要ポイントは1万6千。
「そこからドラッグして、下げてみなさい」
「ん」
一番下に行くと今まで表示されなかったのが表示された。10000倍(0/3)、100000倍(0/1)が表示されたのだ。必要ポイントは5万、10万となっている。
「高いな。凛、元はポイントいくつだった?」
「43万だったよ」
「43万か。初期が1万だったから40万円の課金で2万のボーナスか」
「酷い比率ね」
「全くだな」
「ん、ひなたが見つけたのは、これ」
ひなたは経験値にパーティーと入れた。するとパーティー全体に効果がある経験値アップ効果が出た。それをドラックして下にやると100000倍(0/1)が出現した。
「あったよ……」
「値段、20万。お得?」
「だろうね」
「じゃあ、これにしようか」
僕は100000倍(0/1)を選択する。これで残り18万。選択すとお母さんが成長限界突破、パーティーといれた。これも同じ方法で出現した。こちらは経験値より低く15万だった。
「これも選択しなさい。皆に効果があるからね」
「うん」
これで残り3万。こうなるとスキルの強奪系が怖くなるね。
「あとはどうしよう? 強奪が怖いけど……」
「1000ポイントの精神障壁で防げるわね」
「後は適当に決めましょうか」
それからお母さん達に選んでもらって僕のスキルはこうなった。
名前:リン
種族:エルフ/ドワーフ
肉体:肉体強化Lv.1、肉体再生Lv.1、状態異常耐性Lv.1
魔法:精霊魔法Lv.1、空間魔法Lv.1
技術:
特殊:エクストラテイミングLv.1、極大魔力Lv.1、千里眼Lv.1、経験値10万倍(PT)、成長限界突破(PT)、精神障壁Lv.1、強運Lv.1
肉体系はお母さん達がどうしても取れって言われたので取った。精霊魔法は種族的に手に入った。鍛冶か精霊魔法か選択だったけど、こっちを取った。空間魔法は便利だし、大型のモンスターをテイミングしたら絶対に使うしね。
お母さんは支援系を中心で、お父さんは生産系を中心に取ってくれた。ひなたは闇魔法とか人形魔法とか、極大魔力とかを取ってた。
「使い切ったわね」
「ん」
「こんな感じか」
「だね」
決定ボタンを押すと最終確認が出てきた。
[これで決定しますか? 以降、アバターの再設定は不可能になりますのでご注意ください]
最終確認もはいを選択して押すと新たに出てきた。
[地球人を辞めて新たな世界に旅立ちますか?]
どうせ死ぬんだし、はいを押す。
「ねえ、何か変じゃない?」
「そうだな」
「ん?」
「どうしたの?」
僕とひなたはボタンを押した。その瞬間、身体が光に包まれた。
[貴方達の目的は生命の循環です。ダンジョンを攻略し、世界を崩壊へと導く邪神を倒してください]
「まっ」
[なお、二度と地球には戻れません]
「「凛、ひなたっ!?」」
次の瞬間、僕はひなたと一緒に知らない場所に立っていた。右半分が草原で左半分は深い森だった。空からは雪が降っている。
「……お兄ちゃん……雪……すごい……」
「そうだね。現実と変わらない……」
隣を振り向くと耳が尖った銀髪の美少女がいた。服装はゴスロリで頭には目が沢山付いている三角帽子を被っていて、手には眼帯をしたクマのぬいぐるみが握られている。
「ひな、た?」
「ん、ひなただよ。似合う……?」
「うん、似合ってるよ」
小首をかしげて聞いてくるひなた頭を帽子ごと撫でながら改めて周りを見る。
「わぷっ」
「お母さんやお父さんは……」
「知らな、い」
「一旦ログアウトしようか」
「ん……ログアウト、ない」
「え?」
ひなたがステータスを開いて確認している。僕も慌ててステータスを開いて確認するが、ログアウトやGMコールといった物は一切なかった。震えだしたひなたが僕の服を掴んでくる。僕が頑張らないと!