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八七月短編集

うちには鬼がいるから豆まきしない。

作者: 八七月

節分なんて、、、嫌いだ。

皆んな辺りに豆を投げつけながら『鬼は外、福は内~♪』ってなんだか本当に馬鹿らしい。

それと…えーなんだっけぇ?恵方巻?

あれもそうとう胡散臭い。ある方角目掛けて無言で巻きずし食べるだけとか、何そのシュールな光景は?


…でもまあ私には関係ないことだよ。そんなこと興味もないし、やるだけ無駄だって思うから


だからだから私は目の前に存在する3メートルは超える赤い巨体、一般的には『鬼』だと言われても仕方のない生物に目をそむけた。




鬼…まあ彼は自分のことを『豪』なんて名乗っているけどね―――――は私が部屋に飼っている相当気弱な鬼である。

獄卒ともいわれる想像上の鬼は、死後の世界で大いなる猛威を振るっているそうだがここでは何のことはないただの穀つぶし以外の何物でもない。

彼がやってきたのは、およそ1か月前のことで滝のように降る大雨の中『ひろってください』と張り紙のしてある段ボール箱にポツリとそれは座っていた。

彼は項垂れて時々聞こえるは「なんでこんなことに…なんでこんなことに…」という泣き言のみだ。

通り過ぎる通行者も関わってはいけないのだと彼を無視して、誰も気に留めない。

そんな中私は彼に手を差し伸べた。

理由は…正直わかんない。純粋な善意であったかもしれないし何か打算してのことだったのかもしれない。

でも彼はそんなわけのわからない私の手を取って、こうして今隣で座っている。

…本当これからどうしようかなって、お姉さんとても迷っちゃうなあ。




「ひかり、きょう、せつぶん、まめまき、しないと。」



彼は難しい顔でもしているだろう私を見てぎこちないながらも升に入った豆を渡してきた。

それに対し、私は特にありがたみも感じることなく



「…ありがとう。でも、いいわ。私豆まきなんてしない主義だし」



ツンと彼を一瞥することすらなく升を受け取ることはさえせずに外を眺める。

外は雲一つもない晴天で、この芯から冷えるような寒ささえなければどこかピクニックにでも出かけたいくらいだ。

…まあ彼を一人この部屋に置き去りにするのはなんだか怖いので、中々出来ることではないのだが



「それは、よくない。ひかりに、ふくが、こなく、なる。」



「…いいのよ。私は、どうせ福なんて訪れやしないのだから」



豆まきしたら本当に福が訪れるのか?ばかばかしい。そんな都合のいい話があってたまるか。

結局幸福など自分の力で掴み取るしか方法はない。

豆まいて福がおとずれたらいいなあって惚けてる暇があれば、ちっとはそうなるように努力しろって話ですよ。

だから何の意味もないんだよ。豆まきなんて



「でも、でも」


「でも、じゃない。それに、私には『鬼』がついているからねぇ福も裸足で逃げ出そうものさ。」



彼があまりにもおどおどしているので、私は一発その額にデコピンを食らわせる。

ピンッッ

思いのほか軽快な音が鳴り、彼は「あいたっ」と小さく声を上げて涙目でこちらを睨む。

…多分私の指はそれ以上に悲鳴を上げて、最早再起不能かと思われるほどじんじん痛むのだけど黙っておこう。

だってぇー相手は『鬼』だしぃー石頭にもほどがあるっていうかぁー。でも痛むような素振り見せたら負けのような気がするし、何よりかっこ悪い。

私はかっこよくありたいのだ。…何事にも、ね。



「ひかりは、とても、屁理屈。」


「はいはい。ここにいる鬼さんは外に出されたくないなら、ちゃんといい子でいることだねぇ」



私はコンロに水の入った薬缶を置いて、火をつける。

隣にはカップ麺の山。その中でも私のお気に入りの味であるしょうゆラーメンの蓋がお湯を待ちわびているかのようにぱくりと空いていた。

…まあ、言いたいことは分かるよ。そりゃあ私みたいなうら若き乙女(笑)が真昼間からカップ麺は流石に引くだろうさ。

でも安価で栄養価が高く、何より洗い物をする必要がないし、ラーメン好きだから問題はないのさ。

…体重計に乗るは、ホント怖いんデスケドネ。



「また、ひかり、カップ麺?からだに、よくない。」


「うっうるさいよー!今日はサラダも一緒に食べるから大丈夫、大丈夫!」



私の隣にはそこらへんのコンビニで買ってきたサラダが置かれている。

こっこれでバランスは取れているはずだから、大丈夫です大丈夫なんです大丈夫なんですよ、ね?(困惑)



「カップ麺、塩分多い、太る、よ?」


「鬼に、鬼に言われたくないわよ!みょーにそういうの詳しいんだから鬼の分際で!」



ジト目を向ける彼に私はそう糾弾して、カップ麺にかやくをいれる。

固くなった野菜どもがまだお湯もいれていない固麺に落ちていく。

鬼である彼はそんな光景に深いため息をついた。



「ひかりが、だらしないから、おぼえた。えいようがく、とても、きょうみぶかい。」


「…うちの鬼さん、一体何になるつもりなんですかねぇ?」



私もため息をついて鬼である彼の将来に不安を感じた。

…確かここに来る前は地獄でぶいぶい言わせていた悪逆非道の鬼(自称)であったらしいのに、道に迷って私に拾われるなんて彼の人生って結構面白い。

だからこそ今彼には聞きたいことがある。



「…あなた、今幸せ?」



私は出来るだけフランクに、でも真剣な眼差しを相手には向けて、聞いた。

彼はとっても驚いた顔を見せたけど、すぐにその凶悪な顔を皺くちゃにさせて



「しあ、わせ。ひかりに、あえて、よかった。」



それは今まで彼を見た中で、一番輝いた笑顔であって、私はそれに見合うようにニッコリと笑った。

















豆をまく―――――確かに、大事なことなのだろう。

一年間の悪を払い、福を呼び込む。

日本古来の古き伝えであり、伝統であり、そこに私のちっぽけな意見なんて反映されることもないのだろうけど

でも、言いたい。

鬼にもいろんな奴がいて、優しいやつがいて、私の為に栄養学なんて学んでいる猛者がいる。

鬼は悪には違いないんだろうけど、でもちょっとだけの良心で全ての鬼を外に追いやることはしないでほしい。

鬼を糾弾するような、そんな内容は省いてほしいなって私は優しいとても幸せそうな彼を見て思うのでした。

そして彼らは幸せに暮らしましたとさ。おしまい。(小並感)




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