表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
ぼくは異世界で付与魔法と召喚魔法を天秤にかける  作者: 横塚司


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

81/264

第81話 城塞都市の戦い5

 魔王軍。

 メニー・タンズをかけた直後に聞いた、ホブゴブリンの叫び声が、これである。

 なんかもう、いきなりすごくアレな言葉を聞いてしまった気がする。


 魔王。

 いつの時代だよ、ドラクエかよ、といいたくなる単語だ。

 メニー・タンズの野郎、いったいなにをどう翻訳してやがる。


 いや、待てよ。

 ぼくは少し冷静になって考える。

 手当たりしだいにモノを放り投げたくなる。


 そもそもこの翻訳、さきほどちょっとミアと話したように、PCでのモンスター名翻訳と同様、「現地民での言葉を、ぼくたちが認識するなにかに置き換える」ものである可能性が高い。

 たとえば、ぼくが最初にオークという単語をPCで知ったあのとき、すでに山の誰かがあの豚顔のモンスターを見て「オークだ」と認識していたから、PCがあのモンスターを「オーク」として登録したという推論である。


 なにがいいたいかというと、この「魔王軍」というのも、ぼくらの誰かが勝手に彼らをそう呼んでしまった結果ではないか、ということだ。

 仮にメニー・タンズ翻訳機構のようなものがあるとして、この集団が翻訳機構によって「魔王軍」と登録されてしまった。

 だがそれは、最初にオークを見た誰かが「なんだよこれ、魔王軍かよ!」と叫んだだけかもしれない……とか、そういう話だ。


 うん、別にだからといってなにがどう、というわけではない。

 ただ、本当に魔王がいるとかそういうアレな予断を持ちたくないだけである。


 やー、だって……。

 魔王だぞ。

 そんなものがいる世界に飛ばされたぼくらが、なにをやらされるかとか……ああもう、考えたくない。


 よほど奇異な顔をしていたのだろうか。

 ミアがぼくを見上げてくる。


 ああ、そうだ。

 いるかどうかもわからない魔王とかいうすっとこどっこいな野郎より、まず現実の問題に対処しなければ。


「ここにいるのは、危険」

「後退するか」


 ミアは少し迷ったすえ、「上に」といって自分自身とケンタウロスナイトにフライをかけた。

 なるほど、逃げるにしてもなんにしても、フライがあるとないとじゃ機動性が違う。

 ぼくは飛ぶのが苦手だから、ケンタウロスナイトに運んでもらえってか。


「んじゃ、頼むよ、ケンタウロスナイト」

「任せて欲しい、主」


 ぼくはケンタウロスナイトの背に飛び乗る。

 ミアとケンタウロスナイトが空に舞い上がる。

 ウィンド・エレメンタル二体が追従してくる。


 おお、ぼくの使い魔は、ぼくよりよほど飛ぶのが上手い……って。


 なんだ、いまの渋い声。

 ……あれ? いま、こいつしゃべった?


 ぼくはケンタウロスナイトの顔を見る。

 使い魔は、兜の奥の赤い目でぼくを見返す。


「ひょっとして、メニー・タンズのおかげ?」

「左様だ、主」


 なるほど、これまでもカラスなんかとはテレパシーっぽい意思疎通ができていたけど、ほかの使い魔とはまったく会話できなかった。

 でもそれは、こうした使い魔たちが独自の言語を保有していたってことなんだろうか。


 あー、うーん、でもなあ。

 こうして会話できちゃうと、使い捨ての駒にするのもためらわれてくるなあ。


「主よ、われらこの地に降り立った肉体は、所詮、移し身。本体は別に存在する。遠慮なく捨て駒として利用されよ」

「う、うん、わかった」


 やべぇ、一瞬で思考を読まれた。

 いやまあ、使い魔の前で、どう使い捨てるか、みたいな話をよくしてたわけだしなあ。

 向こうとしても、そこは釘を差してくるか。


 正直、ケンタウロスナイトの気遣いはありがたい。

 いまここで、ぼくの思考がへんなところで鈍るのは、かなり危険なことである。


 彼らは駒、使い捨てできる便利な駒だ。

 そう考えていかないと、本当に大切なものを守れなくなる。


「ええと、そうだ、ウィンド・エレメンタルたち、きみたちは……」

「はい、なんなりとお命じを」


 あ、やっぱしゃべれるんですね。

 なんとなくそんな気がしてました。

 でも、これはこれでデカい。


「ふたりは左右にわかれて、屋根の上伝いに移動しつつ、敵の動きをチェックして」


 二体のウィンド・エレメンタルは、ぼくの指示に従い散っていく。

 ミアがぼくを見て、「わたしにも、メニー・タンズ、ちょうだい」といった。


 ああ、そうだな。

 これはきみにもかけておいた方がよさそうだ。


 ぼくはミアに魔法をかける。

 メニー・タンズを貰ったミアは、さっそくケンタウロスナイトに話しかける。


「おっぱいのおおきな女の人と、お尻のおおきな女の人、どっちが好み?」

「おいこら。えーと、答えなくていいからな」

「ちぇっ。……じゃあ、ケンちゃん、あなたはこの世界について、どれだけ知ってる? もしこの町についてわかるなら……」


 ケンちゃんって、おい。

 いいけどさあ。

 それに、質問そのものは非常に鋭いところを突いている。


「残念だが、わたしはこの世界の存在ではない。必要ならば、詳しいことはのちほどに」

「ん。じゃあもひとつ。あなたという個人を次も召喚とか、できたりする?」

「いまの状態では、次に召喚されるケンタウロスナイトがわたしになるとは限らない」

「『いまの状態では』っていったね。じゃあ、次もあなたという同じ個体を呼び出す方法ってある?」

「専従契約を結ぶことで、可能となろう。だがわれは、その方法を知らぬ」

「そか……」


 なんか、ミア、すごいな。

 ゲーム的な発想なんだろうけど、ぼくが思いもよらなかった概念を発掘してきたぞ。

 専従契約ってなんだよ。


 でも、いまのところそういった契約とかはできないのか……。

 同じ使い魔を何度も呼び出せるなら、情報の共有とかでラクもできそうだし、結構よさげだけど。

 そのあたりは今後の調査課題かな。


 ま、そのあたりはあとの話だ。

 いまは目の前のホブゴブリンたちを迎撃しなければ。


 ぼくたちが登った建物の屋根から見た限りだと、ホブゴブリンたちは狭い通路をふた手にわかれ、挟み撃ちを狙おうとしていたようだ。

 その後、ぼくたちが屋根にいることを見つけた者たちが大声で連絡を取り合い、向こうも別の建物の屋根によじ登ろうとしている。

 弓矢で勝負をつける気らしい。


 こちらに来ているホブゴブリンの総勢は、二十体程度。

 ただ気になるのは、ホブゴブリンたちの発言のなかに「インジュタイを呼んで来い」というものがあったということ。


「インジュタイ、ってなんだと思う、ミア」

「淫獣……あ、嘘、耳、引っ張っちゃいやん。語の意味でもって日本語に翻訳されていると考えるなら……陰呪隊、とか」


 ああ、なんかよくわからないけど、理解した。


「魔法使いか」

「たぶん。……だから、カズっち」


 わかってるって、耐性付与だろ。

 敵の魔法使いがどんな魔法を使って来るかは、偵察の結果、ある程度わかっている。

 最低でも火魔法。


 ちょうどそのタイミングで、ウィンド・エレメンタルたちも戻ってきた。

 どうやらぼくたちが把握している以上の敵戦力はなさそうだ。


「ディフレクション・スペル。……レジスト・エレメンツ:火」


 ここはMPをケチらず、全員に火耐性をつけておく場面だろう。

 オークの魔術師たちのように、いろいろな属性持ちがいる可能性もあるが、とにかく火の攻撃だけは段違いにダメージがでかい。

 そもそも地魔法とかなら、ヒート・メタルとかの絡め手できそうだし。


 はたして、警戒は正解だったようだ。

 ぼくたち全員が火防御を固めた、その直後。

 彼方から飛来した無数の炎の矢が、ぼくたちより少し高いところにいたウィンド・エレメンタルたちの肌を焼く。


 間一髪だった。

 レジスト・エレメンツのおかげで、ウィンド・エレメンタルたちはほとんど傷ついていない。


 飛んできた方向を見れば、ローブを羽織った者たちが、全部で四体。

 皆、三十メートル以上離れた建物の屋根に立っている。


「メイジか」


 時間をかけては、厄介なことになる。

 ならば……。


「ケンタウロスナイト、突っ込もう。あいつらを掃討する」

「了解した、主」


 ケンタウロスナイトは、ぼくを乗せたままフライによる飛行を器用に操り、ローブの者たちに突進する。

 ローブの者たちは慌てたように炎の矢を集中してくるが、ケンタウロスナイトの頑丈な身体は、それらをものともしない……。


 どころか、ケンタウロスナイトは剣を一閃。

 炎の矢を断ち切ってみせる。


 おいおい、魔法すら斬れるのか。

 これもレジスト・エレメンツ:火で耐性がついているからかもしれないけど、それにしてもすごい。


 距離が詰まったため、メイジはぼくたちにファイア・ボムを使ってくる。

 これは目標に当たった瞬間、爆発し、広範囲に被害を与える、いわば魔法の手榴弾だ。

 手榴弾と違って投擲するわけじゃないから、多少、その射程は長いのだけれど……。


 というわけで、ぼくの騎乗するケンタウロスナイトの眼前で、炎の球が爆発……。

 する直前、ケンタウロスナイトは剣を投擲する。


 剣は炎の球を真っ二つに断ち切る。

 火球が、爆発せず、そのまま消滅する。

 投擲された剣はさらにまっすぐ飛び、魔法を使ったローブの者の胸もとを襲う。


 ローブの者が、慌てて身をすくめる。

 ちっ、避けたか。

 でも、そのおかげでローブがはがれた。


 緑の肌、無毛。

 つぶれた鼻のついた、ひらたい顔。鋭く尖った耳と、おおきく横に裂けた口。

 そして橙色の目。


 いままでのホブゴブリンは、深くヘルメットをかぶっていたから、顔を見ることができなかったけど……。

 これが、ホブゴブリンの顔なのか。

 やはりこいつは、ホブゴブリンの魔法使いか。


 とりあえず、メイジ・ホブゴブリンと呼称しよう。

 なお残る三体のメイジは、距離を取るべく高くジャンプし、別の建物に逃げようとしていた。

 これ、ハイジャンプか?


 となると、風魔法も使える?

 まずいな、ライトニングとかを喰らうと、さすがにぼくでも痛いはず。

 いや、痛いはず、程度ですむと確信してはいるのだけれど……。


 ケンタウロスナイトはランスを構え、正面のホブゴブリンを串刺しにする。

 メイジは断末魔の悲鳴をあげてその身を弛緩させる。

 露と消えたあと、ドロップしたのは青い宝石ひとつ。


 直後、左右の建物に散った三体のメイジが、ぼくに対して立て続けにライトニングを放つ。

 あー、ぼくが司令官だと思ったかー。

 大正解だよちくしょう!


 胸と肩、腕。

 幾筋もの鋭い痛みが走り、身体が硬直する。

 ぼくは呻き声をあげ、しかし……なんとか馬上でこらえた。


 かろうじて落ちないで済んだけれど、ケンタウロスナイトの胴体に必死にしがみついている状態だ。

 ああもう、くそっ!


「ウィンド・エレメンタル!」


 ぼくの指示に従い、追従してきたウィンド・エレメンタルたちが、左右のメイジに攻撃を仕掛ける。

 メイジは逃げようとするが、こちらの方がはやい。


 ケンタウロスナイトも、ウィンド・エレメンタルが追っていない一体に向き直り、そちらに突進する。

 メイジは必死になって、ぼくにライトニングを放ってくるが……。

 これも、なんとか耐えた。


 歯がガチガチいっているけど、なんとか無事だ。

 心臓がぎゅってなって痛いけど、でも生きているから、きっとだいじょうぶだ。

 ええい、レベル23のヒットポイントをなめんな!


 そして、こいつらメイジどもさえ倒してしまえば……。

 距離を詰めたケンタウロスナイトが、二体目のメイジ・ホブゴブリンを仕留める。

 少し遅れて、二体のウィンド・エレメンタルが、それぞれのメイジを仕留めた。


 四体のメイジは全滅。

 ケンタウロスナイトは、屋根に落ちていた剣を拾う。

 ぼくは荒い息をついて、ちからを抜いた。


 あー痛かった。

 けど、これで敵の魔法使いを潰せた。

 今後を考えると、でかいアドバンテージだ。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
[気になる点] このメイジの放ったライトニングってケンタウロスナイトには影響はなかったのかな?
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ