表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
ぼくは異世界で付与魔法と召喚魔法を天秤にかける  作者: 横塚司


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

68/264

第68話 北の森を攻略せよ4

 ほぼ無傷で第二防衛ラインを突破したぼくたちだったけれど、代償としてぼくは、二体のウィンド・エレメンタルを失った。

 ランク5の使い魔を召喚するために必要なMPは25点、いまぼくはレベル19だから、三十分ほど休むことでこの損耗を埋められる。


 だが、いまは敵陣のど真ん中だ。

 呑気に三十分近くも休むわけにはいかない。

 このまま行くしかないだろう。


 かといって、戦力を低下させることも論外だ。

 ぼくは新たに二体のウィンド・エレメンタルを呼び出す。

 生き残りで傷ついたウィンドエレメンタルは、MPに余裕のあるアリスが治療する。


 ぼくのMPは、現在、60プラス自然回復分。

 おそらくは七十あるかないか、といったところだろう。

 敵の本体がどこにいるかもわからない現状、これ以上の使い魔の損耗は避けたいところだ。


 志木さんが少し偵察し、戻ってくる。


「この先は、密集しすぎているわ。ちから押ししかないみたいね」

「どれくらいの敵がいる」

「アーチャーが八体から十体、ジャイアント・ワスプが六体以上、それと地上には、雑魚のオークが二十体くらい」


 かなりの陣容だった。

 これは……諦めるべきか?


 いや、もうここまで来れば、敵側に襲撃を察知されようがどうしようが関係ない、と考えることもできる。

 オーク側の本陣は、間違いなくこの近くにあるのだ。

 ならば、ぼくたちが見つかることを恐れず、この先の敵を片端から掃討するべきだろう。


「アリスとたまきを突っ込ませて掃討する作戦でいきたい」

「待って、カズくん。それは危険すぎるわ」


 志木さんが慌てる。

 だけど、ぼくが彼女の方を向くと……。

 悪戯っぽく笑っていた。


 ああ、そういうことか。

 彼女が止める役、ぼくが説明役か。

 本当にいやらしいひとだなあ。


「ミアのワールウィンドで竜巻を発生させて、アーチャーの弓矢をある程度封じようと思う」


 ミアが新たに覚えた風魔法ランク4、ワールウィンドは、竜巻を発生させる魔法だ。

 さきほど使った限りだと、樹上のアーチャーが足もともおぼつかなくなるほどの強風を発生させる。

 うまくすれば、それだけで地面に落下させられるだろう。


「そのうえで、アリスとたまきにフライをかけて、突っ込んでもらう。接近さえしてしまえば、アーチャーなんてふたりの敵じゃない」

「それは……そうね。でもまだ、蜂と雑魚オークがいるわ」

「雑魚オークの相手は、ぼくの使い魔と桜さんが担当する」


 長月桜は、さきほどの戦闘でレベル5になり、槍術のランクを3に上げている。

 彼女もアリスと同様、生粋の戦士だ。

 雑魚オークを相手にして、そうそう遅れを取ることはないだろう。


「蜂については、遠隔攻撃担当の志木さんと火魔法のふたりにお任せだな。うまくやって欲しい」

「そう……ね。わたしも含めて、敵が逃げても構わないって態勢で正面からゴリ押しするなら……なんとかならないこともない、か」

「うん。さっき苦戦したのは、あくまで敵を一体も逃さないため、だったからだと思うよ。そんな余裕をかなぐり捨てていけば、充分に勝てるんじゃないかな」


 その場合、逃げた敵がさらなる増援を引き連れてくる可能性もあるが……。

 森の外側には逃がさないようにして、ひたすら敵の拠点に追い込んでいくなら、まあいいか、という感じだ。


 ボスが出てくるなら上等だ。

 うちのたまきが相手になる。

 どのみち、ぼくの付与魔法がたっぷりかかったたまきで勝てないような相手なら、いまのぼくたちに勝ち目なんてない。


 そしてこれは、カンだけど……。

 ジェネラル以上の敵がいたとして、そいつはそうそう、拠点から離れないんじゃないだろうか。

 自由に動けるような戦力だったら、昨日の時点でそいつがぼくたちの拠点、育芸館に強襲してきていたと思うのだ。


 もちろん、その自由に動ける強大な戦力が、蜂同様、今朝になって出現した可能性というのもありうるわけだけど……。

 その場合、いろいろどうしようもないからなあ。


 はたして、ぼくと志木さんは、アイコンタクトでそういったことをわかりあう。

 互いにうなずいてみせる。


「わかったわ。リスクはあるけど、これは必要経費ね」


 しばしののち、志木さんがうなずく。

 作戦決定だった。



        ※



 アーチャーたちの警戒域に、突如として竜巻が巻きあがる。

 同時にフレイム・アローがジャイアント・ワスプの一体を焼き、地面に落とす。

 だがオークたちは迅速に反応し、敵の襲来を警戒する。


 そこに、空を飛んだアリスとたまきが強襲をしかける。

 エクステンド・スペルをかけたヘイストの赤い軌跡を残して、ふたりは一直線に樹上のアーチャーへ。

 アーチャーたちは弓に矢をつがえてアリスたちに放つも、竜巻がつくり出す強い風に邪魔され、狙いが外れる。


 今回、たまきは大盾を置いてきている。

 一体でもはやく敵を始末することがなにより重要だからだ。

 その大盾は、ぼくがよっこらせと背中にかついでいる。


 すごく……重いです。

 前進する仲間たちを追いかけながら、ぼくはよろめく。

 振り返った桜が、「持ちましょうか」と声をかけてくる。


「いや、きみはオークの方に当たってくれ。ぼくは付与魔法をかけたら、あとは指示を出す以外、なにもすることがないから」


 そういってぼくは、前方の木々の間から飛び出してくる雑魚オークを見る。

 桜はその視線に気づき、前を向いて、鉄槍を握る。


「後衛の護衛は、ぼくの使い魔がやる。桜さんは自由に動いて……」


 ぼくが最後までいう前に、桜は飛びだしていた。

 槍一本でオークの群れに飛び込み、片端から血祭りにあげていく。

 突進してきたオークたちだが、たちまち混乱をきたす。


 一方、頭上から飛来するジャイアント・ワスプだが、こちらは火魔法の使い手たちと志木さんが相手にしている。

 志木さんの方は、あえて隠密せず、投擲で敵の注意を引きつけることに専念していた。


 メインの火力は、フレイム・アローだ。

 ジャイアント・ワスプたちが志木さんに気を取られている隙に、ぼくの背中の大盾のさらに後ろから火の矢が放たれる。


 って、ふたりともぼくの後ろに隠れてるんですか。

 どうにも姿が見えないと思ったら……。


 いや、いいけどさ。

 ぼくは、いまやレベル19。

 志木さんたちの五倍近いレベルを持っている。


 ぼくなら、矢や針が当たってもそうそう死なないだろう。

 どうせ、戦闘中はほとんどなにもしないのだ。

 ならせめて、肉の盾になろう。


 最悪なのは、ぼくをかばって仲間が死ぬことだ。

 仲間が死ぬよりは、ぼくが少し痛い思いをする方が、よほどいい。

 下山田茜しもやまだ・あかねさんのときのような思いは、もう二度としたくない。


 フレイム・アローによって、ばたばたとジャイアント・ワスプが落ちていく。

 ミアは竜巻を何個か出してアーチャーを牽制したあと、ワスプ狩りに参戦し、こちらも一体を落とす。

 アーチャーの方には、たまきとアリスが別々の目標に切り込み、共に一合で切り伏せて次の目標へ向かう。


 ふたりとも、ぶっつけ本番でフライを使いこなしている。

 本当は一度、白い部屋で練習したかったところだけど、よくもまあ人生初の飛行なんて制御できるよなあ。


「わっ、わあっ、わーっ、止まらないーっ」


 と思ったら、たまきが次のアーチャーをすれ違いざまに切って捨てたあと、そのまままっすぐ空中を突進して、いずこかへ消えてしまう。

 ……おい、こら。


 一応、アリスの方は少し速度を落とし、きちんと二体目を倒してそのまま方向転換する。

 安全運転だ。


 彼女は将来、免許を取ってもだいじょうぶだろう。

 たまきはたぶん、迷惑ドライバーになるだろう。


 あ、たまきが戻ってきた。

 ものすごい勢いで三体目のアーチャーに突進して……方向が外れてるぞ。


「こなくそだわーっ」


 たまきは、近くの樹を蹴って、強引に方向を転換する。

 きりもみ飛行しながら、三体目のアーチャーに激突。

 文字通り、剣を構えてただ突進しただけの無茶な攻撃で、アーチャー・オークを串刺しにする。


 ここでたまきがレベルアップだ。



        ※



 白い部屋にて。

 たまきが、しょぼん、と肩を落としている。

 アリスが困ったような笑顔で、たまきを慰めている。


 そしてミアが腹を抱えてげらげら笑っていた。


「最高。たまきちん、面白い」

「あんまり笑ってやるな」


 ぼくはミアの頭をぽかりと叩いた。

 落ち込むたまきのもとへ赴き、頭を撫でてやる。

 顔をあげたたまきは、涙目だった。


「うう、カズさぁん。わたし、わたし……」


 ああ、ダメな子モードが発動しちゃってるなあ。

 捨てられた犬のような目でぼくを見上げてくるたまき。

 ぼくはだいじょうぶ、を連呼しながら彼女を慰め続ける。


「こんなことで見捨てたりしないから。せっかくだから、ここで練習すればいい」

「うん。わたし、がんばって練習するわ」

「ついでにぼくも、練習させてもらおう。ミア、きみもだ」

「ん。任せて」


 皆で飛行訓練を行った。

 結果、判明したことがひとつ。

 四人で一番、空を飛ぶのが上手いのは、ミアだった。


「楽しい……」


 そういえばこいつ、以前も、運動とか好きっていってたな……。

 そしてもちろん、一番、飛行が下手なのはぼくだった。

 たまきにすら心配されるほど、きりもみ回転の連続だった。


「カズさん、気にすることなんてないわ。別に空を飛べなくても、カズさんは困らないじゃない」

「そうとも限らない。みんなで断崖絶壁を渡るようなことも……ある、かも? まあ、当分は、空を飛ぶことが必要なときはグリフォンを使うよ」


 召喚魔法のランク6には、サモン・グリフォンという巨大なワシのような生き物を召喚する魔法がある。

 このグリフォンという使い魔は、戦闘力こそ低めだが、背にひとを乗せて飛ぶことができるらしい。

 ついでに、ということでこのオオワシを召喚してみる。


 白と黒茶色のまだら模様を持つ、巨大な鳥が出現する。

 馬よりふたまわりほどおおきい。

 翼を広げれば、差し渡し八メートルくらいになるんじゃないだろうか。


 グリフォンは、つぶらな瞳でぼくを見て、鋭いくちばしをひらいて、クァー、と鳴いた。

 翼を少しばたばたさせると、白い部屋のなかに突風が巻き起こる。


「うわあ、すごいわ。ねえねえ、カズさん、わたしが乗ってみたい!」

「いいけど……よく考えたら、この部屋のおおきさだと、グリフォンってほとんど飛べないよなあ」

「うー、そうね……。残念だわ」


 まあ、グリフォンの試乗はまた今度、ということにしよう。

 やわらかくて暖かい毛並みを撫でてから送還する。


 それからしばらく、全員で飛行の訓練をした。

 互いにアドバイスを与えあい、コツを学び、飛ぶという行為に習熟していく。

 でも最後まで、ぼくの飛行は下手なままだった。


「一緒に空を飛ぶときは、わたしがカズさんの手を引いてあげるわ」


 すっかり上機嫌になったたまきが、そういって笑う。

 彼女は、最初こそひどいものだったけれど、たちまち三次元の動きに習熟した。

 カンそのものは悪くないのである。


 でも、なんだかぼくが不当に貶められている気がする。

 いや、まあいい。

 たまきの調子が戻ってくれてなによりだよ……。


 ため息をつくぼくに、アリスが笑いかけてくる。


「カズさんに戦わないでもらうために、わたしたちが戦うんです」

「そうだね。ぼくが殴り合うようならもう、それは負けだ」

「カズさんは、わたしたちを生かすために頭を使ってください」


 わかってる、とぼくはうなずく。


 充分に練習したところで、もとの場所に戻る。

 たまきのスキルポイントは温存だ。



たまき:レベル17 剣術7/肉体1 スキルポイント5



        ※



 もとの場所に戻ってすぐ。

 アリスも別のアーチャーの喉を一撃で貫く。

 ここでアリスがレベルアップする。


 白い部屋では、もうさすがになにもすることがない。

 すぐ部屋を出る。



アリス:レベル17 槍術5/治療魔法5 スキルポイント4



 その後も、順調に掃討が続く。

 志木さんたちのパーティも、すでに全員が1レベルあがっているようだ。


 桜が槍術をランク4にしたらしい。

 前衛のオークはほとんど彼女ひとりで殺していた。


 一応、ぼくの近くまで来たオーク二体だけを、ぼくの使い魔であるウィンド・エレメンタル三体が倒す。

 瞬殺だ。


 さすがに敵わぬとみて、残ったオークが逃げ出す。

 森の奥へ消える敵を、無理には追わないよう指示する。

 全滅させられない以上、隊列が伸びきるのはヤバい。


 たまきがようやく安定した飛行でアーチャーの一体を倒し、それが今回の戦いにおける最後の戦果だった。


「逃がしたのは、アーチャー三体、あとはオーク七、八体といったところかしらね」


 目のいい志木さんが、そう告げる。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
[気になる点] 山の中にある育芸館に殺虫剤は常備されてないのだろうか? ジャイアントワスプに特攻があるかも?
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ