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第57話 シバたちの所業

 ミアの兄である高等部三年生の結城先輩が教えてくれたところによると、今日の昼くらいまでは、高等部の三か所ほどで生き残っている生徒のコミュニティがあったようだ。

 ひとつはシバの率いる第一男子寮で、残りは第二女子寮と部活棟である。

 それぞれが、独自にオークと戦っていた。


 連携できなかった理由は、思想の違いであるらしい。

 第一男子寮では、シバを頂点とする独裁制が敷かれたという。


 どこからか猟銃を持ち出してきたシバは、そのちからでオークたちを倒し、取り巻きのレベルアップを助けた。

 本人と五人の取り巻きたちのちからによって、他の生徒に無理矢理、いうことを聞かせた。

 一部の教師もシバの軍門に下った。


 第二女子寮は、最初、そんなシバたちと交渉しようとしたらしい。

 だが交渉に出向いた女子たちは拉致された。

 彼女たちは、男子寮の幹部たちの慰み者にされたらしい。


 ひどい話だとは思うが、ぼくは高等部の女子がこれまでシバの行為を黙認していたことを知っている。

 ひとによっては、積極的に加担していた。

 せいぜい、ざまあみろ、といったところだ。


 部活棟では、運動部の生徒が中心となって、早期に数名がレベルアップして1になったらしい。

 運動部の教師数名を中心として団結していた。

 二日目の朝の時点で、レベル1以上の者が二桁を超えていたという。


 なんだ、みんながんばっていたじゃないかとぼくは思う。

 気に入らないけど。


 でもまあ、そうして彼らは、オークを倒してくれていたんだ。

 素晴らしいことだ、と無理矢理に納得する。


「でも、待って、忍者さん。お昼までは、ってどういうこと」

「昼過ぎのことでござる。大規模なオークの集団が、第二女子寮と部活棟を襲ったのでござるよ」


 それはおそらく、ぼくがカラスで偵察する少し前くらいなのだろう。

 百体規模のオークであったという。

 少数ながら、エリート・オークも混ざっていたという。


 育芸館のときと同じだ。

 ぼくたちは、育芸館手前の地形を利用して、かろうじて勝利した。

 犠牲は出たけれど、それも最小限で抑えることができたと考えていい。


 だが第二女子寮や部活棟では、そこまで都合のいい防衛ラインは形成できなかったのだろう。

 そして、ぼくたちにおけるアリスやたまきのような決戦要員がいなかったら。

 オークは倒せても、エリート・オークの咆哮を防げなかったら。


 実際、敵は圧倒的だったらしい。

 蹂躙された。

 抵抗した生徒は、そのほとんどが殺されたという。


「オークの群れは、第一男子寮には来なかったの?」


 たまきがきょとんとして訊ねる。


「オークたちをほかの二か所に誘導したのは、第一男子寮の面々でござるからな」

「え、ちょっと待って。それって……」

「シバという男は、自分に従わない者たちを潰すため、部下を使ってオークたちの注意を引き、二か所の抵抗拠点をオークに発見させたのでござるよ。ネトゲでいうなら、トレインでござるな。迷惑行為もいいところでござる」


 いや、迷惑行為というか、なんというか、これはもう……。

 ぼくは呆れ果てた。


 シバを昨日、殺そうとしていたぼくをして、ここまで呆れさせるとか……。

 なんかもう、すごいぞ。


 たまきはまだ理解が追いついていないようで、目をぱちくりさせている。

 トレインってなんだろう、というので、簡単に説明してやる。


「え、ちょっと待って、ちょっと待って! だって、生き残っているひとたちは、みんな仲間だわ。どうして仲間の邪魔をする必要があるの? ねえ、おかしいでしょう」

「おかしくないよ、たまき。実のところ、こういった行為を誰かがしてくる可能性も、ぼくと志木さんは考えていた」

「志木さんが……?」

「彼女も、シバのことはよく知っているからね。あいつならやりかねないって、そういっていた」


 その可能性があるからこそ、ぼくたちは高等部との接触に慎重だったのである。

 自分の邪魔をするやつを徹底的に叩きつぶすというのは、シバの性格ならありうることだ。


 なにせぼくは、彼のそういった逆鱗に触れた結果として、ひどい目に遭った。

 地獄の淵を彷徨った。


 結城先輩もそういった彼の性格を知っているのか、腕組みして唸る。

 忍者マスクに隠れた表情は、さぞ苦虫をかみつぶしていることだろう。


「結果として、昼過ぎには、三か所の拠点のうち二か所が潰されたでござる。かろうじて生き残った者たちは、シバやオークに見つからないよう何か所かに分かれて隠れたでござるよ。拙者、そういった拠点を繋ぎ、生き残りが隠れることを援助する方向で奔走していたでござる」

「全部で、何人くらいがそうして生き残ったんです」

「シバのもとへ下った者を除くと……二十人といったところでござろうな。そのうち、レベル1以上の者は三、四名でござろう」


 思った以上に多いと見るべきか、少ないと考えるべきか。

 その数も、これからさらに減るだろう。

 彼ら、彼女らは、今夜を生き延びることができるのだろうか。


「いま、シバのもとには何人くらいいるんだ」

「奴隷同然の扱いをされている女子を含め、五十名といったところでござるな」


 結構、いるな。

 そのうちどれくらいがレベル1以上なのかは不明だけど、戦闘員の数だけなら育芸館以上かもしれない。


 彼らがぼくたちの味方なら、どれほど心強いだろう。

 現実問題として、それはありえない。

 彼らは潜在的な敵だ。


 シバがリーダーであるから、というだけではない。

 シバに飼いならされている以上、シバがいなくなっても、彼らは同じようなことをするだろう。

 そうすることでしか、集団としての統率がとれないだろう。


 そんな彼らでも、ぼくら育芸館組に手出しをしないのなら、利用価値はある。

 彼らが高等部のオークを倒してくれるなら、放っておいた方が都合がいい。

 敵の敵は味方なのだ。


 だが、シバはアリスに手を出した。

 ぼくたちにちょっかいをかけてきた。

 志木さんを銃で脅して、ミアの腕を奪い、おそらくはそれを脅しに使った。


 彼は一線を越えてしまった。

 ぼくの本心をいえば、いますぐ殺してやりたい。

 全力で使い魔を呼び出し、いますぐ第一男子寮に向かって、シバをはじめとする生き残りの生徒と教師を虐殺してやりたい。


 そのうえで、アリスを取り戻すのだ。

 そうできれば、どれほどいいだろう。

 現実問題、適切な行動とはなにか。


 交渉だろう。

 拒絶されるとはいえ、交渉のかたちを取る。


 その間も、裏では動いて……。

 交渉決裂と同時に、一気にカタをつける。


 うん、ほかにもいくつか手は考えられるが、そのあたりが妥当だろう。

 ぼくはだいたいの作戦をふたりに説明する。

 ふたりとも、納得してくれた。


 特にやる気だったのは、意外にも結城先輩だった。

 彼には、妹であるミアの左腕をこっそり取り返すという役目を受け持ってもらう。


「兄として、せめてそれくらいはしてやりたいでござるよ」


 そういって、結城先輩は笑った。


「任せてくだされ。じつは第一男子寮内部に草がいるでござる。その者と連絡を取り、うまくシバを出し抜いてご覧にいれるでござるよ」

「ねえカズさん、草ってなあに」

「隠密、密偵のことだよ。スパイってこと」


 なるほど、第一男子寮組も一枚岩ではないということか。

 そのあたりを利用し、うまくスパイをつくってしまうとか……。

 ほんと凄い手腕だな、このひと。


 格好はアレだけど。

 口調もアレだけど。

 というかいろいろアレだけど。



        ※



 そうして、綿密に立てた作戦は、無駄になる。

 ぼくたちが忍者部の小屋を出て第一男子寮に近づくと、行く手から戦いの音が聞こえてきたのである。


 ぼくたちは顔を見合わせる。

 深夜だけど、結城先輩にもナイトサイトをかけてあるから、全員が明かりなしで互いの顔を見ることができる。


 なお結城先輩には、ほかにもぼくの付与魔法をあらん限りかけてあった。

 忍者装束にはハード・アーマーを、各種忍者武器にはハード・ウェポンもかけてあげている。

 ついでに、サモン・ウェポンで長剣を召喚し、ハード・ウェポンをかけて渡した。

 戦力はそうとうに強化されたはずで、結城先輩はたいへんに感謝していた。


「かなりの数のオークがいるようでござるな」


 偵察スキルを持つ結城先輩が、しばし耳を澄ませて、そう語る。

 と、遠くここまで聞こえてくるほどの、おおきな咆哮。

 あ、こりゃエリートもいるなあ。


「百体規模、かな」

「えーと、第一男子寮って守りやすいの?」


 ぼくは記憶のなかの男子寮周辺を思い出す。

 俯瞰的に見て……どうかなあ。

 いちおう、きちんと事前に襲撃を察知できれば、でもって途中に穴を掘ったりして邪魔できれば、うまく分断できなくもない……かも?


 そのあたりの事前準備がどうなのか、ぼくは結城先輩に訊ねる。

 予想通り、返答は「否」だった。


「彼らは昼間、ほかの拠点の邪魔をすることに専念して、あとは個々のレベルアップに忙しかったようでござるよ」


 なるほど、ぼくがシバを見たのも、第一男子寮ではなく、第二男子寮の付近だった。

 あのあたりまで出張し、オーク狩りをしていたのだろう。

 しかし、となると……。


 ぼくは唇を噛む。

 高等部の拠点が壊滅するのは、別にいい。

 シバが危険な目に遭うのも、ざまあみろといったところだ。


 だが、あそこにはいま、きっとアリスがいる。

 彼女はきっと、先頭に立って戦わされるだろう。


 昼の戦いでは、極力、彼女が敵に囲まれないよう、ぼくと志木さんが必死で采配を振るった。

 囲まれるような突撃の場合でも、敵に混乱をもたらしたあとで、組織的な反撃が来ないタイミングを狙った。


 アリスやたまきには、信頼できる仲間が常にそばにいた。

 ぼくやミアも、必ず援護できる位置にいた。


 しかもいまは、夜だ。

 彼女にかけたぼくの付与魔法なんて、とっくに切れている。

 いまのアリスが、たったひとりでオークの群れを塞ぎとめることは……。


 不可能だろう。


「助けに行こう」


 ぼくはためらいなく、そう宣言する。

 アリスの笑顔が脳裏をちらつく。

 やっぱりぼくはアリスが好きなんだと、苦笑いする。


「シバとか高等部とか、もうどうでもいい。とにかくアリスを助ける。そのために参戦する」

「わかったわ、任せて! 正直、難しい話はよくわからないけど、アリスを助けるなら問題ないわ!」

「そうで……ござるな。よし、ミアの腕の方は拙者に任せるでござる。どさくさにまぎれて、なんとかしてみせるでござるよ。成功したら、狼煙がわりに花火を打ち上げるでござるから、期待するでござる」


 ぼくたちはうなずきあい、行動を開始する。

 結城先輩はぼくたちと別れ、おおまわりして第一男子寮の裏から侵入するらしい。


 ぼくとたまきは、オークたちの側面にある丘に登る。

 小高い丘から第一男子寮前の広場を見下ろす。

 広場を埋め尽くすように、オークたちが詰めかけている。


 男子寮付近に机や椅子でバリケードができている。

 バリケードの上に、煌々と蛍光照明がついていた。

 発電機をまわして、ライトアップしているのだ。


 バリケードの裏から、生徒たちがものを投擲したり、隙間から槍でオークを突いたりしている。

 そんななか。


 ひとりの小柄な女子が、槍を手に、バリケードの外で大暴れしている。

 アリスだった。

 アリスはオークの群れを相手に孤軍奮闘していた。


 彼女が槍を振るうたび、数体のオークがなぎ倒される。

 槍を突くたび、一体のオークが絶命する。

 あまりの無双ぶりに、彼女の周囲だけ、真空地帯のようにオークの姿がない。


 それでも、アリスだってそうスタミナがあるわけじゃない。

 いつかちから尽きるだろう。

 そうなったら、もう、数のちからに抗うことはできない。


 いま前衛となっているオーク軍団の背後には、督戦役のエリート・オークも複数いる。

 そして厄介なことに、ヘルハウンドの姿すらある。

 ジェネラル以外は総登場だ。


 敵は本腰。

 アリスがいなければ、第一男子寮はたちどころに陥落するだろう。

 いや、たとえアリスがいたとしても……。


「いくぞ」

「うん、任せて!」


 ぼくは使い魔を呼び寄せ、付与魔法をかけていく。

 ランク5の使い魔のうち、今回はファイア・エレメンタルを四体。

 炎に包まれた裸の男が出現する。


 頭と下半身は炎に包まれ、地面から少し浮いている。

 右手には曲刀を持っている。

 ちょっと中東っぽい雰囲気だ。


 これでぼくのMPは、残り一気に60だ。

 だが、これでいい。

 これだけあればいい。


 ディフレクション・スペルで拡散し、たまきとぼく、四体のファイア・エレメンタルにキーン・ウェポン、フィジカル・アップ、マイティ・アーム、レジスト・エレメンツ:火をかける。

 自分とたまきに、クリア・マインド。

 最後に、やはりディフレクション・スペルで、ヘイスト。


 ぼくたち全員が赤い光に包まれる。

 残りMPは22。


「突撃!」


 ぼくは、叫ぶ。

 ぼくたちは、一斉に丘を駆け降り、オークの群れの側面に突っ込んでいく。


 深夜の戦いが始まる。

 これはアリスを助けるための戦いだ。


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