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第52話 中等部本校舎決戦5

 すでに夕暮れ時。

 オレンジに染まる森を移動しながら、たまきとジェネラルは激しく切り結ぶ。

 たまきが両手に握る銀の剣と、ジェネラルが怪我した左手に持つ大斧が、何度もぶつかりあう。


 膂力はほぼ互角。

 一合ごとに、互いの身体が後ろにそれる。

 火花が飛び散る。


 いける、戦えている。

 ぼくは拳を握って、両者の戦いを注視する。

 付与魔法をたっぷりつけて、ヘイストまでかけているとはいえ、あのジェネラルを相手にくらいついていけている。


 それは、まだヘイストがきれる前のこと。

 唐突に、たまきが「あ」という声をあげる。


「レベ……」


 すぐに意味はわかった。

 ぼくたちが白い部屋に移動したのだ。


 白い部屋では、アリスとミアが待っていた。

 ミアも一時的にリパルション・スフィアから解放されている。

 なるほど、付与魔法といえど、この手の拘束系は白い部屋において剥げるのか。


 その場にぺたんと尻餅をつき、荒い息をつくミアに、アリスが駆けよってヒールする。

 ミアの顔にみるみる赤みがさしていく。

 リパルション・スフィアによる回復効果が少しはあったのか、さっき別れたときよりは状態がいいようだ。


「アリスちん、ありがと」

「ミアちゃん、無事でよかったです。本当にほっとしました」


 さて、ミアのスキルポイントはこれで4点になったはずだ。

 風魔法を上昇させるか、それとも地魔法のために温存か。

 いやその前に、ちょっと確認しておこう。


「アリス、オークを何体倒した?」

「ええと、エリートを二体、普通のオークを二体です。順番は、普通、エリート、エリート、普通です」


 げっ、あれだけの短時間でエリートを二体も倒したのか!

 す、すごいなそれは。

 驚いていると、アリスが慌てる。


「わたしひとりのちからじゃ、ないんです。志木さんと桜さんが手伝ってくれて……。桜さんがエリートの注意をうまく引きつけてくれたから、簡単に殺せたんです」


 うわあ、長月桜って子、さっきのヘルハウンドのときもそうだけど、レベル1でエリートを引きつけるとか、むちゃくちゃするな。

 まるで死に急いでいるようにも見える。

 いや……実際、オークへの憎悪でどうしようもないのかもしれないけど。


 怖いな。

 いつか彼女は、破滅的なことをやらかす気がする。

 そうなる前に、うまく志木さんがフォローしてくれればいいけど。


「あの、それで、桜さんが大怪我しちゃって、だからわたし、オークを始末したあと、治療を……いいですか」

「ああ、うん、治療してやってくれ」


 ぼくとたまきの応援には駆けつけられない、ということだ。

 どのみち、ぼくたちとアリスとの距離は、もうだいぶ離れてしまっている。

 パーティを組んでいても、距離が離れた者との間には経験値が入らない、と以前にQ&Aした気がするけど、今回はひょっとしたらその条件にあてはまったんじゃないかと思っていたくらいである。


 もはやアリスたちの援軍は得られない。

 とはいえ、いまジェネラルとたまきは、ほぼ互角。


 幸いにしてアリスが後続をシャットアウトしてくれた。

 なんとかこの状況を勝ちに持っていく。

 それがぼくの役目だろう。


 これでヘルハウンドの経験値もわかった。

 オーク十二体分だ。


 レベル12、ということなのだろうか。

 単純に計算すると、魔犬ランク6、とかになるが……。

 それにしたって、少しポイントが余るな。


 ヘルハウンドは、そこまで接近戦が強かった気がしない。

 槍術ランク4のときのアリスが、ブレス以外ならそこそこ食らいついていけたように思う。

 剣術ランク5のたまきの場合、ブレスを恐れてかなり及び腰だったから、なんともいえないところだ。


 うーん、いろいろと別の計算式があるのかもしれない。

 あるいは、そもそもぼくたちと同じようなスキルシステムで割りきるべきじゃないのかもしれない。


 それはさておき、これで後顧の憂いは絶つことができた。

 あとは……。


「任せて、アリス! わたしが勝ってみせるわ」


 元気よく拳を振り上げ、たまきはぼくの方を向く。


「カズさん、見ていてね。今度こそ、わたし、役に立ってみせるから」


 そうか、たまき、きみはまだ、自分が役に立たないと、そのことでぼくに見捨てられるかもしれないと、そう思っているのか。

 いやこれは、もう本能的なものなのだろう。

 昼の休憩時間における、志木さんとの会話を思い出す。


 シバという、ぼくの心に刻み込まれたトラウマ。

 志木さんの、男性に対する恐怖心。

 それと同様、たまきの心にも、強烈ななにかが刻まれているのだろう。


 ぼくや志木さんと同様、たまきもまた、それに向き合っていかなきゃいけない。

 これから先、ぼくたち全員が生き残るために、彼女はそれと折り合いをつけていかなきゃいけない。

 なら、せめてそのサポートをするのが、ぼくたち仲間の役目だろう。


「心配するな。ぼくは、きみを見捨てたりしない」


 そういって、たまきのブロンドの髪を撫でる。

 たまきが、くすぐったそうに笑う。

 それを見たミアが、てててと近寄ってきて、「ん」と頭を差し出す。


「おいこら」

「わたしも。がんばった、ご褒美」

「いくつご褒美が欲しいんだよ……」


 そういいつつも、ぼくはミアの頭を乱暴に撫でた。


「なんか、たまきちんと対応が違う」

「気のせいだ」

「利用するだけ利用して、価値がなくなったらポイ?」

「人聞きの悪いことをいうな」


 ちらりとアリスを見ると、少し離れたところから、寂しそうにぼくを見ていた。

 こっちにこい、と手招きして、ミアの次にアリスを撫でてやる。

 アリスは、気持よさそうに目を細める。


 その間も、片手はずっと、たまきの頭の上に置いたままだ。

 いまはたまきのメンタルに一番、注意しなきゃいけない。

 ちらりとミアを見ると、彼女もこくんとうなずいている。


 なんか、ミアが一番、わかってる風なんだよなあ。

 うーんなんかこう、助かるんだけど。

 助かるんだけどさ。


「ごめんね、カズさん」


 たまきが呟く。


「わたし、カズさんに気を使わせすぎちゃってるね」


 そんなことはない、というのは簡単だった。

 だがそれは、彼女にとってなんの慰めにもならないだろう。


 ぼくにはわかる。

 志木さんと、互いのトラウマについて話し合ったぼくには、彼女の苦しみも理解できると思う。

 いまはまだ、ぼくの胸中に渦巻くこの思いについて、彼女には話せないけれど……。


 でも、態度で示すことはできるだろう。

 そのうえで、彼女のために手を貸すことは可能だろう。


 そのために一番いいのは、いま彼女を信頼し、彼女に任せることだ。

 そのうえで、目の前の戦いに勝つことだ。


「あ、あのさ、カズさん。わたし、いまからでも、ポイントでなにかスキルを取って……」

「その話は、さっきもしただろう」


 たまきはいま、使っていないポイントが4点、余っている。

 集中投下すれば、ランク0のスキルをランク2まで上げられるだろう。

 そうでなくとも、肉体をランク2に上げることで、いっそう安定感を持ってジェネラルと戦えるようにも思える。


 だがそれはしないと、さきほど話し合ったばっかりだった。

 ぼくは、いまのたまきのちからを信じる。

 たまきとぼくのちからを信じる。


「取らなくていい」


 だからぼくは、再度、そう宣言する。


「きみなら、勝てる。ポイントは温存だ。きみは、ジェネラル一体ごときにこだわる必要なんてない。最速でランク6を目指すんだ」


 実際のところ、「ごとき」といえるほどジェネラルは雑魚じゃない。

 いまですらギリギリの戦いを繰り広げている相手だ。

 それでも、ぼくはこのやせ我慢を押し通す。


 たまきのために。

 ぼくたち全員の未来のために。

 ここは、いまあるちからだけで勝ちにいく。


「カズさん……」

「だいじょうぶだ。きみは強い。ぼくはそのことを知っている」


 だから自信満々、うなずいてみせる。

 内心、どれほど不安だろうと、そんなことはないと笑い飛ばしてみせる。


 そのあと、ミアのスキルを検討した。

 結局、地魔法をランク5にすることを優先する。

 ヘルハウンド戦で、遠隔攻撃魔法の重要性を再認識したのである。


 地魔法ランク5、ロック・フォールは大岩を落とす魔法だ。

 実質的にはランク4のストーン・ブラストの上位版といえる。

 ヘルハウンドがいくら強くても、物理的に押しつぶしてしまえばいい。


「ランクを上げて物理で殴る」


 隻腕でドヤ顔するミア。

 いやまあ、だいたい合ってるし、実際、火力は重要だけど。


 そのあと、ぼくたちは再会を約束する。

 必ずこの戦いに勝って、ふたたび合流することを誓い合う。


「待ってて、アリス、ミア。必ずカズさんと一緒に戻ってくるから」


 たまきも元気を取り戻し、うん、と胸もとで拳を握ってみせる。

 その拍子に、ツインテールが生き物のようにぶらぶら揺れる。


 ぼくたちは、白い部屋を出る。

 ジェネラルの待つ地へ戻る。



        ※



 そして、おそらくは今日最後となるであろう、決戦が始まる。

 白い部屋から戻るやいなや、たまきは裂帛の気合いと共に銀の剣を振りおろす。


 強烈な一撃に、受ける側のジェネラルもたじたじとなる。

 よし……いまだ。


「戻れ、たまき」

「うん、カズさん!」


 ジェネラルがあとずさったその隙に、たまきはぼくのもとへ駆け寄る。

 その間に、ぼくは魔法を唱える。


「エクステンド・スペル」


 付与魔法のランク5、エクステンド・スペルは、次に唱える魔法の持続時間を倍にする魔法だ。

 これを用いたあと……。

 ぼくはたまきの肩に触れる。


「ヘイスト」


 まだヘイストは切れていなかったが、これは補充だ。

 さきほどまでに倍する時間、激しい打ち込みを続けることができるようになった。

 少なくともヘイスト切れで負けるということはないだろう。


 ジェネラルが迫ってくる。

 たまきは一度、打ちかかり、それからまた最適の足場を求めて移動を繰り返す。

 って、おい、その立ち位置はまずい!


「たまき、そっちは崖だ!」

「え?」


 呆けたようなたまきの声。

 次の瞬間、ジェネラルが痛烈な一撃を繰り出す。

 げっ、まだあんなパワーが。


 崖の淵で、たまきの体勢が崩れる。

 ああもう、こんなところで彼女の迂闊が!

 ぼくは慌てて戦場に飛び込み……。


「たまき!」


 バランスを崩した彼女を支えるため、手を伸ばす。

 そんなぼくに、ジェネラルが大斧を振りおろしてくる。


 ええい、それは読めてるっての!

 そりゃ、こんな不用意に飛び込んでくるやつがいればさ!

 だから、ぼくはこの魔法を置く。


「リフレクション」


 結果的に、ぼくの行動は相手の攻撃を誘うかたちとなった。

 攻撃が来るタイミングすら、わかっていた。

 なら、罠を張るのは簡単だった。


 ぼくの顔の前にバリアが出現し、大斧の一撃を弾く。

 ジェネラルは、たまきよりおおきくよろめき……。


 立ち位置が入れ替わる。

 ジェネラルが崖を転がり落ちていく。


 崖、といってもちょっと険しいだけの山の斜面だ。

 がんばれば、登れないこともないだろう。

 ましてやあれだけタフなジェネラルならば、少なくとも死にはすまい。


「たまき、いくぞ」

「うん!」


 ぼくたちふたりは、どちらもためらわず、崖に飛び込む。

 急な斜面を滑っていく。


 追い打ちをかけるのだ。

 ここでジェネラルを仕留めるのだ。

 その意思に迷いはない。


 はたしてジェネラルは、斜面の途中で樹に足をかけ、ストップしていた。

 ぼくとたまきが、そこに滑り落ちていく。


 膝をついた状態のジェネラルがこちらを向き……。

 その顔が、驚愕に歪む。


「カズさん、危ないから……」

「いや、このままだ」


 ぼくはたまきと手を繋いだまま、一気に斜面を駆け下りる。

 ぼくが先頭に立って彼女を引っ張り、勢いをつける。


「ぼくのことは構うな。一撃必殺だ」

「でも」

「いけっ」


 ジェネラルが、不完全な体勢から、振りかぶる。

 来るか。

 とはいえ、今回は正確なタイミングが測れない。


 リフレクションは、ジェネラルが穴に落ちたときと合わせ、すでに二度も見せている。

 さすがに次は警戒してくるだろう。

 ぼくには、相手の斬撃を見きれるほどの目などない。


 このままだと、ぼくは真っ二つにされる。

 ひょっとしたら、後ろにかばったたまきも、ふたりまとめて真っ二つだ。


 でもそれは、ぼくがなにもしない場合である。

 ぼくはたまきを背中にかばい、ギリギリまで引きつけたあと……。


「リパルション・スフィア」


 自分にバリアをかける。

 周囲の音がきえた。


 ジェネラルが斜めに大斧を振りおろしてくる。

 ぼくとたまきを同時に真っ二つにできるような軌道。

 そして、加速したぼくたちでは避けられない軌道。


 ジェネラルの斬撃が、バリアに弾かれる。

 巨体がおおきくよろめく。

 いまだ、いけ!


 ぼくの声は聞こえない。

 仕草も、見えたかどうかわからない。


 でもたまきは、反応した。

 ぼくの背後から飛び出し、ジェネラルに飛びかかる。

 銀の剣を、横薙ぎに振るう。


 その一撃が、オークのリーダーの首を刈り取る。

 ジェネラルの首が、宙を舞った。


 首が、急な坂道をころころと転がっていく。

 同時に胴体が、その場に倒れる。

 ゆっくりと消えていく。


 あとには、青い宝石が四個も残った。

 そして、頭のなかでファンファーレが鳴る。

 ぼくのレベルアップだった。


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― 新着の感想 ―
[気になる点] そういえばこのリパルション・スフィアも、レベルが上がれば回復力があがるのかな? もう、これ以降使ってなかったような気がするけど、回復力が上がってるなら実は使えるコだった?
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