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第46話 中等部本校舎制圧作戦6

 無線機で志木さんと交信し、一階で隠れている少女、すみれの件を伝えておく。

 二階の生き残りについても話をする。

 さらに彼女たちが見たという黒い犬についても、報告する。


「二階の掃除は終わったのね」

「一通り、終わったよ。あとは三階だけ、なんだけど」

「ここまでね。撤退の判断は正しいと思うわ」


 志木さんの判断は迅速だった。

 退くべきときに、退く。

 まだぼくたちには、多少の余裕がある。

 だからこそ撤退するべきなのである。


 帰ればまた来られる。

 なんか軍人の言葉だったように思う。

 本物の戦場に身を置いたいま、その言葉の持つ意味が、ぼくの双肩に重くのしかかってくる。


 ぼくは天井を見上げる。

 三階には、まだ生き残っている少女がいるかもしれない。

 ぼくたちの助けを待って、ギリギリのところでオークたちの暴力に耐えているかもしれない。


 ここでぼくたちが撤退してしまえば、彼女たちは、明日の朝日を拝めないだろう。

 それは先刻、志木さんがいったことだ。

 ぼくたちは、そのタイムリミットが迫っているからこそ、危険な本校舎の強襲作戦を実行に移した。


 だがそれも、ここまでだ。

 これ以上のリスクは冒せない。

 ぼくたちは、三階にいるかもしれない少女たちを切り捨てる。


「ん。わたしのMP的にも、妥当」

「ミアちゃん、でも、あのさ」


 たまきが抗議するように、ミアを見る。

 だがミアは、ゆっくりと首を振る。


「わたしたちは、失敗できない。一度たりとも、ミスできないよ?」


 その言葉に、たまきは口をつぐむ。

 これ以上なく正論だった。

 たまきは不満そうにうつむく。


「仕方がないんですね、カズさん」


 アリスも少し、ぼくの決定に不満そうだ。

 だが彼女は、ぼくを信じ、いいたいことを飲み込んでくれた。


「ああ、ここまでだ。これまではうまくいった。でも、三階でも上手くいくとは限らない。ましてや上の階には、未知の敵がいる。この先はリスクがおおきすぎる」

「で、でも、カズさんっ」


 たまきが顔をあげ、なおも食い下がってくる。

 ぼくはたまきを見る。


「あ、あのさ、カズさん。上にはまだ生きてる子がいるかもしれないんだよ」

「わかってる。それでもだ」


 たまきは、泣きそうな顔でぼくを見る。

 アリスが、たまきの肩に手を置いた。


「カズさんを信じよう。ね?」


 たまきは、なにかに耐えるようにきゅっと口を引き結び、歯を食いしばる。

 それから、ぶんぶんと首を振る。

 ツインテールが上下に激しく揺れる。


「ごめん、わたし、わがままいった。最低だわ」

「気にするな」


 ぼくは、たまきの頭の上に手を置き、やさしく撫でた。

 彼女の感情は理解できる。

 だけどそのうえで、全員が生き延びる道を選ぶのがぼくの役目なのである。


 さて、撤退となると段取りが必要だ。

 助けた少女たちに「歩けるか」と訊ねる。

 少女たちは、よろめきながら立ち上がろうとする。


 だが途中でふらついて、アリスとたまきに支えられる。

 ひとりで歩くのは……ちょっと無理そうだな。

 ま、仕方がない。


「わかった。志木さんたちを呼ぶ」


 無線機で、サポートパーティに二階へあがるよう促す。

 その間、アリスとたまきには、廊下を見張らせる。

 志木さんたち四人にすみれを加えた一行が、おそるおそる階段を登ってくる。


 ぐずぐずしてはいられない。

 この教室にいた三人とたまきが連れてきたひとりを、志木さんたちに預ける。


「さて、じゃあ順番に階段を下りて……」


 と、全員が廊下に出たときだった。

 ぼくたちは、三階の階段を下りてきたオーク三体と、ばったり遭遇する。


 見張りの交代かもしれない。

 ここにいる少女たちを嬲りにきただけなのかもしれない。

 オークたちもびっくりして硬直しているが……。


 とにかく、最悪のタイミングだった。

 ぼくは即座に叫ぶ。


「アリス、たまき!」

「はいっ」

「わかったわ!」


 アリスとたまきは、素早くオークたちに肉薄する。

 オークたちはまだ慌てつつも、大声で上階に警告の叫びをあげ、同時に迎撃の構えを取る。


 だが、遅い。

 たまきが、あっという間に距離を詰める。

 大斧がオークの一体を真っ二つにする。


 ここでたまきとミアがレベルアップした。

 ぼくたちは白い部屋に飛ぶ。



        ※



 白い部屋で、ぼくたちは顔を見合わせる。

 まずいことになった、と一様に難しい顔をしている。


「いまの、三階に気づかれた……わよね」

「気づかれただろうな」


 三階にどれだけのオークがいるかは、わからない。

 だがやつらは、群れをなして襲ってくるだろう。

 志木さんたちが撤退するまで、わずかながら時間を稼ぐ必要がある。


「階段でアリスとたまきが壁をつくって、その隙に、ってあたりか」

「それしかないと思います。でも、反対側の階段も使われたら……」


 アリスの懸念はよくわかる。

 この本校舎、階段は両端にあるのだ。

 どちらも一階から三階まで、さらに屋上まで続く。


 オークが両方の階段から降りてきたら、片方は一階まで下りてしまうだろう。

 志木さんたちが危険に晒される。


 どうすればいいだろうか。

 ぼくは腕組みして考える。

 ふと、ミアを見る。


「そうだ。パス・ウォールはどうだ」

「ん。天井に穴をあける? 床?」

「いや、壁でいいだろ」


 ぼくはにやりとする。


「南側の教室の外壁に穴をあけると、校庭から丸見えになってしまう。でも北側の教室の外壁に穴をあけるなら、校舎裏に出られる。飛び降りて、そのまま森に逃げ込んでもらおう」

「おお」


 ミアは感心したように、手をぽんと叩く。

 よし、作戦は決定した。



たまき:レベル9  剣術5/肉体1 スキルポイント2

 ミア:レベル9  地魔法4/風魔法3 スキルポイント2



        ※



 白い部屋からもとの場所に戻ってすぐ、ぼくは少女たちに肩を貸す志木さんを呼び止める。


「北側の教室へ! 外壁に穴をあけるから、飛び下りて!」


 それだけで、志木さんはすべてを理解したようだった。

 ほかの少女たちを呼び戻す。


 ミアがその間に、北側の教室に飛び込む。

 奥の外壁に手を張りつけ、パス・ウォールを使う。

 壁面がぐんにゃりと歪む。


 窓があるとどうなるかわからないから、窓がない部分で魔法を使ってもらった。

 結果、ひとがふたり、並んでくぐれるくらいのおおきな穴があいた。

 穴の向こう側には、校舎裏が見えた。

 すぐそばまで森が迫っている。


 ぼくたちは皆、同じ教室に飛び込む。

 ぼくは穴のもとまで駆けていき、周囲の机と椅子を蹴飛ばして志木さんたちに道をつくる。

 こうなったらもう、上の階に気がねする必要はない。

 遠慮なく物音をたてる。


「さあ、はやく!」

「わかったわ」


 志木さんは率先して、肩を貸した少女と共に、壁面の穴から飛び降りる。

 着地に失敗して、転んだ。

 だけどすぐ起き上がり、こちらを見上げる。


 よし、だいじょうぶみたいだ。


「あ、あの、こんな高いところ……」

「すみれちん、がんばっ」


 ためらうすみれのお尻を、ミアがぺしんと叩く。


「急いで。食い止められるうちに」


 叱咤されたすみれを始めとした少女たちが、焦った様子でうなずき、次々と飛び降りていく。

 ちなみに、もちろんミアの方が年下である。

 まあ、いまさら年齢なんてなんの関係もないけれど。


 一方、教室の入り口では、アリスとたまきが奮闘していた。

 最初のオークたちを全滅させ、さらに増援として現れたオーク四体も倒す。

 そのうえ、第三陣として出現したエリート・オーク二体を相手どっている。


 さすがにエリート・オークを二体同時では、ふたりも苦戦は免れない。

 エリート・オークたちは大斧を振るい、凶暴に暴れている。


 ぼくは慌てて彼女たちのもとに駆け寄り、まず距離を取って戦っているアリスの肩に触れる。


「ヘイスト」


 アリスの身体が赤い光に包まれ、その動きは俄然、機敏になる。

 エリート・オークが驚くその隙に、たまきが下がる。


「カズさん、お願いするわ」

「おう。ヘイスト」


 たまきの身体も赤い光に包まれる。

 たまきが飛び出す。

 大斧を振るって、自分が相手をするエリート・オークとの間合いを詰め……。

 気合いと共に一閃。


 しかし一撃は、天井の蛍光灯を破砕しただけだった。

 いや、彼女は狙って蛍光灯を壊したのだ。


 ガラスの破片が床に落ちる。

 エリート・オークは、一瞬、戸惑って動きを止める。

 その隙に、今度こそたまきは相手の懐に飛び込み……。


 大斧を捨てる。

 懐から取り出した果物ナイフを抜く。

 あれはたしか、予備の武器が欲しいといわれた彼女に渡したものだ。

 いちおう、ハード・ウェポンで強化してある。


 たまきは果物ナイフを逆手で握り、頭上に振り抜く。

 エリート・オークの喉を切り裂いた。

 ハード・ウェポンがかかった果物ナイフは、青銅色の肌の分厚い外皮をあっさりと両断する。

 首の半分くらいまでを、一撃で断ち切った。


 エリート・オークは、意表をついたたまきの一撃によって、青い血を噴水のように吹きだし、床に倒れる。


「よおしっ、やったわ!」


 たまきは果物ナイフを仕舞うと、落ちた大斧をすぐ拾い、アリスの助けに入る。

 ふたりがかりで攻め立て、もう一体のエリート・オークもほどなく仕留める。

 ぼくがレベルアップする。



        ※



 白い部屋では、もうとくに打ちあわせることがない。


「付与魔法のレベルを上げるよ」


 この戦いは、もう終わりだ。

 ならば次の戦いのために、付与魔法を強くしておいた方がいい。

 異論は誰にもなかった。


 あとは、撤退するだけ。

 今回の危機も、なんとか切り抜けることができた。

 ぼくはエンターキーを叩く。



 和久:レベル11 付与魔法4→5/召喚魔法3 スキルポイント6→1



 もとの場所に戻って、すぐ。

 まだ三階から降りてくるオークたちの足音がするものの……。


「よし、穴から逃げるぞ!」


 ぼくはそう叫び、率先して穴から飛び降りる。

 かたい地面に手をついて着地、衝撃を分散する。

 ぼくの身体はレベルアップのおかげでだいぶ頑丈になっているのか、たいして足も痺れなかった。


 すぐ場所を譲る。

 ミアが続いて飛び降りる。

 すぐにアリスとたまきも落下してくる。

 最後に狼たちが着地する。


 そして。

 ぼくは不意に、全身に怖気を感じる。

 頭上を振り仰ぐ。


 三階の窓を割って、なにかが落ちてきた。

 ぼくのすぐ近くだ。


 黒い四足歩行のなにか。

 灰色狼より巨大ななにか。

 黒い巨大な犬。


 それが、ぼくの至近距離に落下した。

 地響きがして、地面が激しく揺れる。

 ぼくは思わず、尻餅をつきかけ、なんとかこらえる。


 顔をあげると、すぐ目の前に、全長三メートルを超える巨躯を持つ獣がいた。

 爛々と輝く赤い目で、ぼくを睨んでいた。

 ぼくは恐怖に立ちすくんだ。


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