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第32話 第二次育芸館防衛戦 その3

 もとの場所に戻ってすぐ、離れていたミアが駆け寄ってきた。


「よいしょ」


 ぼくはミアを肩車する。

 ミアはぼくの肩を足場にして、樹の幹をよじのぼる。

 運動の苦手そうなミアだが、フィジカル・アップのおかげか、軽快な木登りだった。


 ミアは太く丈夫そうな枝に手をかけたところで立ち止まる。

 真下のぼくを振りかえる。


「ジャージのおしりより、スカートから覗くパンツの方がよかった?」

「いいからとっとと登れ」


 ほんとこいつ、緊張感がないなあ。

 いやまあ、大物だ、と思うことにしよう。

 彼女の場合、ある程度は強がりなんだろうけど。


 エリート・オークの咆哮で腰を抜かしていたし、怖がっていないはずはないのだ。

 それでも冗談を叩いている。

 それは強さだ、と前向きに考えたい。


「カズさん、お待たせしました」

「とうちゃーく!」


 アリスとたまきが、それぞれ狼を連れてぼくのもとに駆け寄ってくる。

 よし、これで準備は整ったな。

 ミアが丈夫そうな枝の上に立ち上がり、オークの群れを見下ろす。


「どのあたりに、かける?」

「真ん中あたりがいい」

「ん。アース・ピット。おまけにもひとつ、アースピット」


 ミアの穴掘り魔法によって、オーク集団の中心付近の地面が、立て続けに陥没する。

 オークたちは、慌てて左右の森に入るが……。


「ランペイジ・プラント」


 ここで、ミアの地魔法ランク3、ランペイジ・プラントが炸裂する。

 オークの周囲の樹木が広範囲に渡り暴れ出した。


 樹の枝が鋭い刃物のように尖り、オークの顔を、腹をえぐる。

 青い血しぶきが派手に飛ぶ。

 舞い散る落ち葉が、手裏剣のように豚人間の身体を切り裂く。


「もういっちょ、ランペイジ・プラント」


 反対側の森のなかでも、オークの悲鳴があがった。


 ランペイジ・プラントは、木々を凶暴な肉食獣のように暴れさせ、周囲すべてに無差別攻撃を放つ魔法だ。

 密生した木々のある場所でしか効果を発揮しない、という限定条件を持つかわり、こういった森のなかでは無類の威力を発揮する。

 ただし、効果範囲が広いことは別の問題も引き起こす。


 仲間まで攻撃されてしまうのだ。

 ゲームと違って、フレンドリィ・ファイアはごく普通に起こりうる。

 だからいったん、アリスやたまきをこちら側まで退避させなければならなかった。


 しかもこの魔法、取りこぼしが発生してしまう。

 木々による攻撃をくぐり抜けた血まみれのオークが、左右あわせて三体、飛び出してきた。

 凶暴に怒り狂い、さかんに指示を出すぼくを頭と見定めて、襲いかかってくるが……。


「アリス、たまき!」


 ぼくの護衛にまわっていたふたりが動いた。

 槍による鋭い刺突と大斧の一撃が、素早く二体のオークの命を狩り取る。

 だが残った一体がなおもぼくに迫り……。

 近くの木陰から投擲された槍によって、心臓を串刺しにされ、息絶えた。


「レベルアップ、しちゃったわ」


 志木さんが森から出てくる。


「カズくんが狙われていたから、念のため、ね」

「ああ、助かった。ま、白い部屋を温存する必要はなさそうだから、いいんじゃないか」

「そうね。わたしもレベルを上げておくにこしたことはなさそうだし。本当は、前には出ないつもりだったんだけどな」


 まあ、彼女が攻撃しなければ、狼たちがぼくの盾になったとは思うけど。

 それでも念のため、とぼくを守る行動に出てくれた志木さんは、普段からどちらかというと心配性で、面倒見がいい人なんだろう。


「なにかいいたそうね」


 だが志木さんは、ぼくの態度から、なにかけしからぬことを読み取った様子で、ジト目になっていた。

 ぼくは彼女に反論しようと、口を開きかけ……。


 レベルアップのメッセージが頭のなかで鳴り響く。


「ま、憎まれ口を叩きあえる仲ってことだよな」


 彼女がタフである限り、ぼくの心の負担は半分になる。

 だからこそ、大胆な手も打てる。


 白い部屋にて。

 きょとんとするアリスたちに、ぼくは肩をすくめてみせた。


「ここから先は、アリス、たまき、きみたちふたりにすべてがかかっている」

「はい、期待にこたえてみせます」

「う、うん、がんばるわ」

「……たまき、いまさら弱気か? ちびったか?」

「もーっ、なんでそういうこというかな! カズさん、ほんと、デリカシーがない!」


 顔を真っ赤にして怒るたまきに、ぼくはにやりとする。


「たまき、ぼくはきみを信じる、っていってるんだ」

「あ、えと、うん! わかっているわ、今度こそ、やってみせる」


 たまきは、ぐっと拳を握る。

 そのあと、ぼくをすがるような目で見つめて……。


「なんだ」

「あ、あのね。ぐしぐしして、欲しいの」

「ぐしぐし?」

「えと、髪を……ね?」


 ああ、とぼくはうなずいた。

 たまきのブロンドの髪に手を起き、乱暴に撫でる。

 普段、快活ながらいまは少し肩を縮込めていた少女は、ぼくを見上げて、恥ずかしそうに笑った。


「元気、出たか」

「ええ、任せて。わたし、勝ってくるわ!」


 ぼくは、よし、とうなずき……。

 再度、作戦を確認したあと。

 付与魔法をランク4に上げた。



和久:レベル8 付与魔法3→4/召喚魔法3 スキルポイント4→0



 付与魔法をランク4にすることは、ぼくのひとつの目標だった。

 充分な時間さえあれば、待望の、あるもの、が手に入るからだ。


 昨日の地震のあと、ぼくたちはスキルというちからを得た。

 オークと互角以上に戦えるようになった。

 まるでコンピュータ・ゲームのRPGのように、戦えば戦うほど強くなった。


 でも、コンピュータ・ゲームなら当然あるはずのものが、ぼくたちにはない。

 それは、レベル相応の武器と防具である。


 ハード・ウェポン。

 ハード・アーマー。


 付与魔法のランク4に存在するそのふたつの魔法の効果は、武器と防具をランク相応のものに強化するというものだ。

 つまり、いまアリスが使っている鉄槍が、鉄槍+1のようなものに変化するということである。


 武器についてはまあいい。

 鉄槍が鉄槍+1になって、どれくらい変化するのか、ぼくにはよくわからない。

 ノートPCでの質疑応答では、切れ味がよくなる等のあいまいな答えしか得られなかった。


 問題は防具である。

 いまアリスたちが着ているのは、学校指定のジャージだ。

 ゲーム風の防御力にすれば0か、せいぜい1というところだろう。

 紙装甲ならぬ、布装甲だ。


 そこでぼくは、ハード・アーマーをジャージにかけたらどれくらいの防御力になるかと、白い部屋のPCに問いかけてみたのである。


・Q:ハード・アーマーがかかったジャージの防御力はどれほどか。

・A:定かならず。


・Q:付与魔法ランク4のハード・アーマーがかかったジャージを着たアリスが、オークのさびた槍の刺突を胸に受けた。アリスはどれだけの怪我を負うか。

・A:オークの槍はジャージを貫通できない。衝撃は一部、減衰される。場合によっては打撲もありうる。


 返答があった瞬間、骨折しないのかよ! と思わずツッコミを入れてしまった。

 詳しく質問を繰り返した結果、なにか魔法的な効果によってダメージの吸収が起こる、といった感じのようである。

 本当にゲーム的な防御力だ。


 正直、召喚魔法のランク3より優先して付与魔法のランク4を取得したかったほどである。

 ぼくのジャージにかければ、ぼくの身も安全になるしね。

 結局、女子寮の戦いにおいて想定外のことが起き、召喚魔法を優先せざるを得なくなったのだが……。


 そういうわけで、このハード・アーマーは念願の防具を手に入れる魔法なのであった。

 しかも、一度かければ永続である。


 白い部屋からもとの場所に戻ってすぐ、ぼくはアリスとたまきを呼びつけた。

 それぞれのジャージの上着にハード・アーマーを、武器にハード・ウェポンをかける。


 本当はジャージのズボンにもハード・アーマーをかけたいところだが、一気にMPを16も消費してしまったいま、ぼくのMPはほとんどからっけつだ。

 あと一回、リフレクションあたりをかけられる程度。

 これは切り札として取っておきたい。


「今回はヘイストなしでいってもらう。まずはできる限り、雑魚オークを倒してくれ」


 アリスとたまきがレベルアップするためには、あと十体のオークを倒すことが必要だ。

 ふたりとも、次のレベルで、武器スキルをランク4にできる。

 それとハード・アーマー、ハード・ウェポンのちからが合わされば、エリート・オークとも互角以上に戦える……。

 といいなあ。


 いや、弱気になってはいけないんだけど。いけないんだけど。

 せいぜい自信があるふりをして、ぼくはふたりに「無茶はダメだが、頼んだぞ」という。

 ふたりとも、元気よくうなずいた。


「いってこい!」


 たまきの頭とアリスの尻を撫でて送りだす。

 アリスが、「あの」と困ったようにぼくを見上げるが、にやりと笑ってごまかす。


「もーっ、カズさんには、あとでお説教です!」

「カズさんはほんとえっちだなあ」


 アリスはぷんすかして、たまきはにやにやして、それぞれ左右の森に消えていった。


「えっち」


 いつの間にか樹から降りてぼくの横に立っていたミアが、ジト目で睨んできた。

 ごめんなさい。


 さて。

 これで、ぼくがやるべきことは、やった。

 人事を尽くして天命を待つ。

 あとは皆に託すしかない。


「ミア、ランペイジ・プラントの効果は……」

「もう切れた。もっと援護、する?」

「いや、ヒート・メタル三発分のMPはとっておいてくれ」


 ミアは「ん」とうなずき、ひょいと手を差し出してくる。


「なんだ」

「やっぱ、ここじゃ視界、悪い。木登り、手伝って」

「……じゃあ降りてくるなよ」


 もう一度肩を貸して、手近な樹の上によじ登らせた。


「わたしのお尻、いまなら触り放題」

「はいはい」

「お肉だけは、アリスに負けない」

「おまえのは贅肉だろ!」


 だいたい、アリスのお尻はなあ、とっても肉づきがよくて、すべすべで、しかも撫でるといい声で……。


「あ」


 木登りの途中でオークたちの方を見たミアの視線が、くぎ付けになる。

 どうしたと、ぼくもそちらを見れば……。


 オークたちがひときわ混乱している。

 悲鳴があがっている。


「ふたり、真ん中に乱入」

「おい、マジか。無茶するなっていったのに……」


 ぼくは両手でミアのお尻を支えたまま、顔をしかめる。


「って、さっさと登れ」

「いま、いいとこ。たまき先輩、大斧で、大回転。わっ、かっこいい」


 あ、こら、ちくしょう。いい感じに実況してるんじゃない。

 ぼくはさっさとミアを樹上に押し上げると、自身も手近な樹によじ登った。


 樹上から見下ろせば、オークの集団はいまや大混乱に陥り、右往左往していた。

 アリスとたまきは、当たるを幸い、左右からオークの群れを挟み込み、八面六臂の活躍をしている。

 前線では相変わらず先頭のオークが後ろに押されて大穴に落ち、槍使いの少女三人がそれに適宜、トドメを刺していた。


 そして。

 その後方では、混乱して逃げようとしているオークを、青銅色の肌のオークが蹴り飛ばす。

 オークたちは慌てふためき、ふたたびアリスとたまきの方へ向かう。


「なるほど、これだけの被害でどうして逃げないのかと思ったけど、エリート・オークが督戦隊の真似をしていたのか」

「え、なんですか、リーダー?」


 隣の樹の少女が、ぼくのひとりごとに反応して訊ねてくる。

 ぼくは、昔、なんかの本で読んだソ連軍や中国軍の話を簡単に語った。

 後ろから銃を突きつけて、素人同然の兵士に突撃を強いるとか、そんな陰惨な内容だ。


「なんか、オークがかわいそうになりますね」

「だからって、手加減していたら、死ぬのはこっちだよ」

「それは……そうなんですけど」


 少女が苦笑いする。

 まあ、その気持ちがわからないではない。


 もっとも彼女は「気の毒だ」といいつつ、容赦なく火球の魔法を飛ばし、なるべく真ん中あたりのオークを焼き殺していた。

 それが絶好の援護になり、周囲のオークが混乱したところをアリスが片端から突き殺していく。


「お」


 ミアが呟いた。なるほど、もう十体目か。

 案の定、ぼくは次の瞬間、白い部屋にいた。

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