アフターストーリー2 レベルアップと肉体強度の上昇について
告知です。
本作品、ぼくは異世界で付与魔法と召喚魔法を天秤にかける、ですが。
本日より、コミック版の連載が開始されました。
リンクの方はこちら、瀬尾つかさ名義のブログからどうぞ。
http://blog.livedoor.jp/heylyalai/archives/55901069.html
異世界に召喚されて8日目の午後。
ぼくは志木さんに叱られていた。
午前中、たまきを酔っぱらわせてしまった件についてである。
「不可抗力だったのはわかっているわよ。別にもとの世界の法律がどうのなんてうるさいこともいわないわ」
樹上都市の木のうろにつくられた家、志木さんの常駐しているぼくらの事実上の会議室。
今、そこにいるのはぼくと志木さん、そしてベッドで寝ているたまきだけだ。
志木さんは腰に手を当ててぼくを睨んだあと、ため息をついて、気持ちよくすぴすぴ鼻を鳴らしながら寝ているたまきを見下ろす。
酔っぱらったといっても、酒を呑んだわけではない。
彼女は酒精の匂いだけで酔っぱらってしまったのだ。
まあ……彼女はつい最近までごく普通の中学二年生で、お酒なんてまったく飲んだことがなかったのだろうから仕方がない。
「駄目出ししているのは、毒ガスでもばらまかれていたら彼女が危険に晒されたっていうこと。あなたのことだから、次はこんな失敗しないだろうけど」
「うん、そこは肝に銘じるよ。叱ってくれてありがとう」
「どういたしまして。皆の手前もあるから、いちおうわたしが綱紀粛正を兼ねて、ね」
外で誰かが聞き耳を立てているかもしれない。
そうでなくても、ここに入ってきたぼくとたまきを見て、志木さんは少し怒っていた。
いや、怒った風を装って、他の人たちを追い出した。
そのときの志木さんの目は笑っていた。
それはきっと、そこまで慌てていないぼくの様子から、深刻な事態じゃないと判断したからなのだろうけど。
実際のところ、ぼくもたまきも、よほどのことがない限り敵に不覚を取ったりしない。
レベルアップによって少しずつ上昇した身体能力は、今や雑魚のオーク程度の槍では傷ひとつつかないくらいになっている、らしい。
これは実は、昨日ちょっと騒ぎがあって、ぼくの娘のカヤが胸に短剣を受けたから判明したことなんだけど……。
カヤは無傷で、ただずっと着ていたワンピースが破れてしまったせいでちょっとむくれていた。
あれ、あいつに……カヤにとっての母親に貰ったものだろうしなあ。
その後、志木さんは低レベルの人を捕まえて自分の腕に刃を立てて貰ったりと、ちょっとした実験をしたという。
回復魔法があるからって、ずいぶん無茶をする……。
結論からいうと、そんなすごい身体になっているのはぼくやアリス、たまきたちレベル50オーバーの面子だけだった。
志木さんの腕は傷ついて赤い血が流れ、彼女は顔をしかめて「痛いわね」と呟いたという。
レベル25の志木さん程度じゃ、皮膚の強度は普通の人とさして変わらなかったのだ。
もっとも、経験上でいうとそれでも普通の人よりずっと身体は頑丈になっているだろうし、その作用は深刻な怪我ほど強く働く。
だからってオークにぶん殴られにいくわけにもいかないし、きちんとした検証は後日ということになった。
「レベル50以上のあなたたちが毒で死ぬかどうかは、よく分からないのよねえ」
「怖いことをいわないでくれ。毒の実験なんてごめんだよ」
「わかっているわよ。実験は、こっちで志願者を募ってやるから」
できれば、それもやめて欲しいなあ。
とはいえ、今後を考えると必要なことではあるか。
治療魔法のランク2にキュア・ポイズンという毒を治療する魔法があるから、それの効用を含めて検証が必要ではあるのだ。
ちなみにキュア・ポイズンは過去、ジャイアントワスプの麻痺を治療するために使用している。
毒魔法自体は水と風にあって、ミアがランク5のポイズン・スモッグを使ったこともある。
自分たちが利用するなら、敵が使ってくることも考えるべきだろう。
「実のところ、怖いのは暗殺なのよねえ」
「やってきそうな相手がいるの?」
「たくさん、ね。だってわたしたち、魔王を倒した英雄なのよ。いまはまだ残党狩りに必要だけど、それが終わったら……どうかしらね」
数日前は乾坤一擲の勝負に出るため全人類で団結していたというのに、魔王が倒れたと思ったら、もうこれか。
せちがらい話だ。
「もちろん、リーンの目が黒いうちは、そんな人たちをわたしたちの住むこのあたりに近づけないと思うわ。でも本気で暗殺するなら、そんなこと関係なくやってくるでしょうね。あなたの場合、常時、ボディガードを召喚しておくくらいでいいと思う」
「そうした方がいいなら、そうするよ」
召喚魔法ランク8のインヴィジブル・ナイトあたりがいいだろうな。
文字通り、不可視の剣士だ。
それでいて、この世界でも最高クラスの戦士を相手にしたって互角に戦えるほどの実力者である。
うーん、こいつを複数呼び出して、志木さんの護衛にするか?
カヤはまあ、わんこという心強い護衛がいるとして。
アリスは自前で治療魔法があるからなんとかなるだろうし、たまきは……ぼくかアリスのどちらかと、だいたいいっしょだ。
ルシアは水魔法のランク5にアクア・レストレイションという魔法があるから自分でなんとかするだろう。
もし暗殺者がいたとして、正面から来るなら、ぼく以外はなんとでもなるんだよなあ。
ぼくは……ぼくひとりの力じゃ、無理だよ?
世界を救った英雄といっても、誰かに守って貰わなきゃろくに戦えない、それがぼくである。
えっへん。
………。
笑えないなあ。
※
「あ、わたしは護衛、いらないわよ」
志木さん用のインヴィジブル・ナイトを召喚しようと提案したら、そうすげなく返された。
「偵察スキルのおかげで、気配に敏感なの。あなたのインヴィジブル・ナイトが隠れていてもだいたいわかるくらいよ。前もいったと思うけど、忘れちゃった?」
「そういえば、そんなこともあったかな」
「あなたのMPは貴重なんだから、わたしなんかのために割かないでいいの」
それは、志木さん。
きみは自分の価値を低く見積もりすぎだと思うよ。
という目でじっと彼女を見つめる。
志木さんは、肩を落とした。
「ごめん、ちょっといまの言い方はよくなかった。別に卑下しているわけじゃないの。偵察スキルもあるし、わたしは基本的に誰かがいっしょにいるから……だからなおさら、大丈夫」
「ほんとでござるかぁ?」
「結城先輩みたいな口調はやめなさい、カヤちゃんが真似したらどうするの」
それは困るな、やめよう。
カヤの場合、もういろいろ手遅れな気がするけど。
話を戻して……。
「寝ている間も、偵察スキルの効果ってあるの?」
「あるみたいね。この家で書類整理しながらぶっ倒れていたとき、こっそり人が入ってくる気配で目が醒めたもの。忘れていた書類を取りに来た子だったわ」
「さりげなく事務班の闇を暴露しないでくれませんかね」
彼女を始めとした、リーンさんたちから貰った資料を整理したりリーンさんをはじめとする各国首脳と折衝したりする人材は貴重で、魔王を倒してからも仕事の量はたいして減っていないようだ。
むしろ、忙しくなっているかもしれない。
今後ますますたいへんになる気もする。
「安心して。レベルが上がると、寝なくてもある程度大丈夫になるのよ。刺されても平気になるより、こっちの方が重要よね」
「それはたしかに重要だけど、活用して欲しくない力だなあ」
「低レベルの子にも魔物の残党を狩ってもらって、全体のレベルを底上げしないと」
レベル上げして徹夜耐性をつける事務班とか、もうブラック企業ってレベルじゃないぞ。
「今後、どの子が敵対的な組織に襲われるかわかったものじゃないもの。最低限の自衛はできるようにしておきたいの」
「それはあるか。みんな中学生の女の子なんだもんな」
レベルの恩恵がスキルだけではないなら、今後一生、この世界で暮らしていく彼女たちにとってそれはとても重要なことだ。
残念なことに、すぐレベル上げに行けるほどの余裕は、いまの彼女たちにはないのだけれど。
ぼくたちも事務仕事とか手伝った方がいいのかなあ。
「カズくんたちは、いいの。あなたたちには余計な仕事をまわさない。バックアップはわたしたちが完璧にやる。これは総意よ。みんなの好意と誠意。受け取ってもらわないと困るわ」
「あんまりちやほやされると増長しそうだ」
「少しは増長してくれていいのよ。それだけのことはしたんだから」
少し考えてから、ぼくは首を横に振る。
「どうも、性格的にそういうのはできないみたいだ」
「そこがカズくんのいいところね。だからみんな、あなたについていくの」
そうなのだろうか。
ぼくは首をひねる。




