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第247話 魔王討伐3

 真っ暗闇のなか、ぼくはカヤを胸に抱き、落下していく。

 いや、魔王の「中心」めがけて吸い込まれていく。

 さて、とりあえず視界を確保しよう。


「ナイトサイト」


 暗闇でも目が見えるようになる魔法をかける。

 周囲は、しかし真っ暗なままだった。

 どうやら、マジで無限になにもない空間を飛んでいるようだ。


 しゃあない、こうなったらぼくの頼もしい仲間たちに頼ろう。

 ひとまず……うん、やっぱりナハンとシャ・ラウかな。

 使い魔強化7で二体を呼び出した。


「適当になんとかしてくれ」

『御意』

『承ったぞ』


 怒られるかと思ったけど、ナハンもシャ・ラウもあっさりと命令を受け取ってくれた。

 シャ・ラウの唱えた魔法によって、ぼくたちの身体はぴたりと静止する。

 ナハンの唱えた魔法によって、周囲の空間が引き裂かれた。


 ぼくたちは、石造りの建物の床に着地する。

 よろめいたカヤを、慌てて支えた。

 カヤは天使の照れ笑いを浮かべる。


「神殿……なのかな」


 純白の太い柱が前後左右無限に立ち並ぶ、不思議な空間だった。

 天井の高さは二十メートルくらいで、蛍光灯のような光を落としている。

 床も柱も天井も、すべてが大理石のような物質でできていた。


「カヤ。どうすればいいか、わかるか」

「んー」


 カヤはあごに手を当てて考え込む。

 彼女が悩んでいるうちに、床がぐらりと揺れた。


『気をつけられよ、主! なにかが来る!』


 天亀ナハンが警告のテレパシーを送ってくる。

 幻狼王シャ・ラウが、そっとぼくたちに寄り添った。

 直後、周囲の白い床が割れて黒い影が飛びだしてくる。


 まるで魔王の子供ともいうべき、漆黒の黒い球体だった。

 サイズは直径五メートルほど。

 それがぼくたちの前後左右に一体ずつ、合計四体も展開している。


「ベビーデビル、とでも呼ぼうか。シャ・ラウ、ナハン、迎撃だ。カヤ、距離をとろう」

「はい、パパ!」


 命令と同時に、皆が動き出す。

 もはや細かい指示は必要なかった。

 誰もが己のやるべきことを知っている。


 カヤはぼくの手をとって、ディメンジョン・ステップで囲みを突破する。

 シャ・ラウとナハンはその場に残り、雷撃と炎の魔法でベビーデビルたちを攻撃する。

 四つの黒い球体も、反撃とばかりにその身を震わせ、青白いビームを放つものの……。


 ナハンが事前に張っていたバリアが四方に展開され、二体の使い魔は無傷だった。

 対して黒い球体は雷撃を受けてよろめき、炎を浴びてその身を溶かしていく。

 実力の差は、誰の目にも明らかだった。


 加えて、カヤが参戦する。

 ぼろぼろとなった黒い球体にホワイトカノンを放ち、さらにパチンコで容赦なく追撃。

 直径五メートルの球体は、パチンコ玉をその身にめりこませ、床に墜落する。

 激しい爆発が起きた。


 爆風が去ったとき、そこにはもう黒い球体はなく、かわりに黄色い宝石が一個、落ちているだけだった。

 って、え?

 ベビーデビルって、神兵級だったのかよ。


 あまりにも呆気ない相手だったから、てっきりもっと格下かと……。

 いや、無理もないかもしれない。

 神兵級とはいえ、しょせんはスキルランク9相当にすぎない。


 いまやぼくの使い魔たちは実質的にスキルランク10.5相当なのだから。

 カヤに至ってはスキルランク11相当なのである。


 残る三体に対して、シャ・ラウとナハンが苛烈な攻撃をかける。

 カヤも雑にその尻馬に乗り……。

 三体目が倒されたところで、ぼくたちは白い部屋に。



        ※



 白い部屋にいるのは、ぼくとカヤだけだった。

 まあ、当然か。

 アリスたちとは距離が離れすぎているし、そもそもこの球体内部は、例によって別世界のようなものだろう。


「カヤ、ひとつ聞いておきたい。さっきいっていた、きみがミアと交信したっていうのは……結界が展開される前か」

「うん、パパ。わんちゃんがね、ごしゅじんさまと、おはなししてたから。カヤもママとおはなしできるかな、って」


 クァールはあくまで、わんちゃんなんだな……。

 まあ、どうでもいいか。


「クァールがアルガーラフと連絡をとりあっていたこと、すぐにわかったのか」


 ひょっとしてカヤのやつ、妙な超感覚を持っているのか?

 持っていても不思議じゃないんだよなあ。

 どうもミアのやつ、カヤを生むときにいろいろ細工したフシがあるし。


 はたしてカヤはきょとんとしつつも、「きこえるのよ?」といった。

 そうかー、聞こえるのかー。

 じゃあしょうがないな。


 どうやらカヤには、ぼくたちにはない感覚が備わっているご様子であった。

 パパ、思考停止しちゃうぞーあははー。

 えーいもう、どうにでもなーれ。


「でもね、カヤ、うれしいです」

「うん?」

「もうすぐ、パパとママが会える」


 笑顔でそんなことをいうカヤ。

 もうすぐ……会える?

 ミアに、会える?


「それはつまり、魔王を倒して……」

「わたしが、まおーを、たおします。パパは、むこうにもどるとき、ママとあえます」


 そういえば、向こう側からこっちの世界に来るとき、ミアはカヤを送り込んだって話だった。

 逆に向こう側に戻るときも、ぼくたちに介入できるということか。

 ひょっとして、彼女はいま、世界の外側、みたいな場所にいるんだろうか。


 ぼくはため息をつき、あぐらをかいて座った。

 カヤを手まねきし、脚の間に乗せる。

 ぼくの愛する娘は、ぼくを見上げてはにかんだ笑みを見せた。


「カヤ、きみのことをもっと教えてくれないか」

「カヤのこと? どんな?」

「なんでもいい。きみの好きなこと、嫌いなこと。楽しいこと、やりたいこと……なんでも話してくれ」


 カヤは語った。

 でも彼女の話はとりとめもなくて、ときにあっちからこっちへとすっとんでいき、よくわからないことになるのもしばしばだった。

 ひとつわかったのは、彼女が語る「ママ」はその姿かたちが一定ではないことだった。


 それはときに大樹であり、ときにメカのようなものであり、ときにひとのかたちをしていた。

 おおきかったり、ちいさかったり。

 言葉を使うこともあれば、無言でいることもあった。


 ミア。

 きみはいったい、どこまでヒトと離れてしまったんだ。

 ぼくはきみと会って、どんな話ができるのだろう。


 そんなぼくの不安が伝わったのだろうか。

 カヤはぼくを見上げ、「だいじょうぶ、です」と笑う。


「ママは、パパのこと、だいすきです」

「そうか。……うん、そうか」

「はい。だから、だいじょうぶ、です」


 娘に励まされてしまった。

 ぼくは苦笑いして首を振る。


「わかった。そうするよ」

「そうして、ください」

「カヤ、きみもいっしょに」


 カヤは笑ってうなずいた。

 でも。

 なぜかぼくは、その笑顔にいいしれない不安を覚え……。


 いや、そんなはずはない。

 首を振って、胸のなかに芽生えたそれを打ち消す。

 立ち上がって、PCのもとへ。


 白い部屋を出る。


 和久:レベル64 付与魔法9/召喚魔法9 スキルポイント3

          強化召喚7(使い魔強化7、使い魔同調3、使い魔維持魔力減少4)

 カヤ:レベル56 風魔法9/射撃9 スキルポイント2

          風射術4(強化射技4、自在弾3、破壊弾1)



        ※



 そして、もとの場所に戻ったあと。

 カヤは笑顔で、背伸びをして。

 ぼくの頬に、そっと口づけをした。


「これは、わたし(・・・)だけの、とくべつです」


 呆気にとられてぼくは動けなかった。

 カヤはその隙に、そっとぼくから距離をとる。


「それじゃあ、パパ。バイバイ」


 少女がそういって。

 とても気持ちのいい笑顔で。

 ベビーデビルが現れた亀裂に飛びこむその瞬間まで、硬直してしまった。


「カヤっ!」


 慌てて亀裂の端に向かう。

 落下しながら、カヤはぼくを見上げた。


「ここからは、わたしの、しごとです。カヤは、だいじょうぶです」

「待て、すぐに追いかけて……」

「ダメ!」


 強い声で、カヤは叫ぶ。


「さよなら、パパ」


 亀裂が自動的に修復されようとしていた。

 カヤを呑みこんだ深淵が、消える。

 白い床に戻る。


 すぐに飛び込めば、カヤを追いかけることができたかもしれない。

 でも、なぜか身体が動かなかった。

 それはぼくの臆病ゆえか、それとも本能がそうさせたのか。


 ぼくは床に両膝をつき、呆然としていた。

 どれだけの時間が経ったのか。

 この無限に柱が続く空間全体が、揺れ始めた。


「カヤが、やったのか」


 なんとなく、理解した。

 理屈ではなく、感覚でわかった。

 ぼくの愛娘は、やるべきことをやり遂げたのだ。


 彼女はどうなってしまったのか。

 無事なのだろうか。

 いや、最後の言葉から鑑みるに……。


「なんでだよ!」


 ぼくは叫ぶ。


「どうしてだよ! カヤ、きみは、命の危険はないっていったじゃないか! 嘘をついたのか! このぼくに! 父親のぼくに!」


 ぼくは、直感で理解していた。

 カヤはもう、いない。

 ぼくの娘は、魔王を討伐することの代償として、その身を散らしたのだ。



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[気になる点] そして、何の命令もなかった使い魔たちはじっとその様子を見てた………?
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