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第244話 志木さんの復讐

 渋谷区の戦いのあと、志木さんに頼まれたことがある。


「わがままをいっているのは、わかっているわ。でも、今回だけはわたしにも戦わせて。自分の手で母たちの仇をとりたいの」


 彼女はディアスネグスによって母と祖父と祖母を失った。

 唯一、生き残った父にはひとことも告げることなく、この地球から去ることになるだろう。

 だからこそ、と胸もとに手を当てて、志木縁子はいう。


「考えたの。わたしはこの憎悪を引きずったまま、向こう側の世界に戻っていいのかって。ほんの少しでも、亡霊王退治に貢献できることはないかって。幸いにして、わたしには偵察スキルがあるわ。誰よりもはやくディアスネグスの奇襲に反応できる。これは、わたしだけの利点よ」


 だから自分を囮として使って欲しい、と彼女はいった。

 ベストを尽くすために。


「それとも、カズくん。あなたは復讐なんてくだらないと思うかしら?」

「ぼくにそれをいうかな……。というかマウントとりに来るのやめて欲しいんだけど」

「ごめんなさい。でも、あなたならわかってくれると思ったから」


 ぼくの復讐は、ぼく個人に対してのものだ。

 彼女は肉親の死が引き金となった。

 そこになんの違いがあろうかといわれれば……いまのぼくに否定できる材料はない。


「わかったよ。でも」


 ぼくは傍らで目を細めて話を聞いていたワンさんを見た。

 ワンさんが、眉の片方を釣り上げる。


「志木さんを守っていただけませんか」

「なんのちからもないこの老人に、なにができますか」

「なら、あなたにちからを与えます」


 そういったやりとりがあった。

 いいだしっぺの志木さんとしては、ワンさんまで危険な目にあうことには反対だったようだが……。

 最終的には、これがいちばん効果的だと納得してくれたのである。


 結果。

 いまがあった。

 策士の亡霊王は、己の最大最強の魔法をリフレクションで反射され、その身に浴びることとなったのだ。



        ※



 激突の余波で建物が倒壊する。

 黒い破滅の波が青空に吸い込まれるなか、亡霊王の絶叫が響き渡る。

 土煙があがり、視界を塞ぐ。


 たったの一撃で町を半壊されたあの黒い波を受けて、よもや倒せなかったということもあるまいと思ったが……。

 神翼使徒ペヌーザが、土煙のなかに飛び込む。


 彼女が反応したということは、まだ亡霊王は生きているのか。

 なら、ぼくがするべきことはひとつだけだ。


「ペヌーザ!」


 ぼくは使い魔覚醒を使用する。

 アンデッドを滅ぼすことにかけては、彼女が最強だ。

 そこにぼくの全MPを注ぎ込む。


 ちらりと背後を振り返れば、アリスとカヤが的確にスケルトンたちを追い詰めていた。

 たまきが、打ち合わせ通りこちらに戻ってくる。


「たまき、ペヌーザに加勢してくれ。役目はわかっているな」

「まかせてっ」


 たまきは元気にうなずき、アリスのホーリーウェポンがかかった剣を手に土煙のなかへ躍り込む。


「ほう、これは」


 ワンさんが土煙のなかに目をこらし、感嘆の声をあげる。

 あのなかの戦いが見えているというのだろうか。

 さすがというほかないけれど……。


「どうやら、天使殿とたまき殿は意地でも敵を逃がさないようにと、拘束を重視しながら戦っているようです」

「わかりました。ルシア。最強の攻撃魔法、ぶっぱなす用意を」

「はい」


 強い風が吹き、土煙が晴れる。

 どうやらペヌーザの魔法の余波のようだ。

 戦場の様子があらわになる。


 使い魔覚醒によって全身赤く輝いたペヌーザは、白く輝く鎖のようなものを生み出し、幽霊のようなディアスネグスの四肢を拘束しようとしていた。

 無数の鎖が蛇のようにのたうち、次々と亡霊王にからみつく。

 亡霊王はなんとか拘束から逃れようと、必死で魔法を放ち続けるも……鎖は頑丈で、かつペヌーザは相手の攻撃を半透明のシールドではじき返し続けていた。


「いっくわよーっ」


 そこにたまきが襲いかかる。

 霧の身体は、輝く剣によって切り刻まれる。

 亡霊王の悲鳴があがる。


『どけ! われは魔王さまのおちからとならねばならぬのだ! このようなところで!』


 ディアスネグスは、四天王の一角たる最強クラスの魔物は、みっともなく暴れ続ける。

 ガイコツの顎がカタカタと鳴る。

 髑髏の眼窩の奥で輝く赤い光が、悲鳴をあげるように明滅していた。


 その強大なちからが失われつつあるのか。

 そのうえでなお、あがき続けようというのか。

 この魔物の、魔王に対する忠誠心は、それほどに高いということか。


 ならばこそ、こいつだけはここで滅ぼす必要がある。

 魔王と四天王の二正面作戦なんて、冗談じゃない。

 なによりこいつは、放っておけばこの地球に限りなく災厄を振りまくことだろう。


『舐める……なあっ』


 一瞬の隙だった。

 ペヌーザの拘束が緩んだその瞬間、ディアスネグスは近くのビルの壁面に飛び込む。

 こいつ、このごに及んで!


「たまきっ!」

「任せてーっ! マキシマム・ウルトラ・ゴージャスデラックス!」


 よくわからない必殺技名とともに、破竜斬が放たれる。

 標的は、亡霊王が壁に溶けたビルそのものだ。

 黄金の輝きを伴ったたまきの一撃はビルそのものを粉々に破砕し、さらに内部のすべての物質に甚大なダメージを与えた。


『馬鹿な、馬鹿なあっ』


 苦悶しながら、霧の亡霊が飛びだしてくる。

 風に吹き飛ばされるようにくるくる回転し、霧のその身をまき散らしながら、それでも亡霊王は執念で逃げようとするも……。


「ルシア。いけ」

「コールド・インフェルノ」


 冷気をまとった黒い炎が、螺旋を描いてルシアの掌から飛び出す。

 実戦では初めて使用する、火水合成魔法だ。

 しかもおそらく、その威力は十倍まで高められているのだろう。


 黒い炎が、もはや虫の息となったディアスネグスに衝突した。

 幽体が凍りついたように硬直し、続いてその末端から燃えあがっていく。


『馬鹿……なっ。われが滅ぼされる……など……っ』


 ディアスネグスは、ぼくたちを睨む。

 瞳のかわりの赤い光が、しゅっとしぼむ。


『そうか。おまえたちは、ヒトであったな。経験し、成長するモノであったな』


 ああ、そうだ。

 ぼくたちは戦って経験値を得るだけじゃない。

 いちど食らった戦法は対策するし、常に相手の裏をかくため全力を尽くす。


 亡霊王、おまえは策士であったかもしれないけど……。

 それはきっと、生前の努力の結果とか、そういうものなのだろう。

 死後のおまえは、アップデートされないまま使い続けられたコンピュータのようなものなのだろう。


 だからこそ、二度目はぼくたちの罠にはまった。

 ひょっとしたら、おまえの魔王に対する妄執も、そのアップデートされないまま強固に凝り固まった精神のせいなのかもしれない。


『魔王……さま……っ』


 断末魔の悲鳴があがり、その身が消滅していく。

 白い宝石が、地面に転がる。


 今度こそ、本当に亡霊王ディアスネグスがちから尽きた瞬間だった。

 宝石が落ちたということは、あれが本体だった、ということだ。


 と……。

 そこでぼくたちは、白い部屋へ。

 背後の戦闘音を聞くに、向こうの戦いもほぼ同時に終わったようである。



        ※



「終わった、わね」


 白い部屋にて。

 志木さんがため息とともに、ぺたんとその場で尻もちをつく。

 ちからなく笑って、ぼくを見上げる。


「少し、疲れちゃった」

「あれほどの相手に狙われたんだ、無理もない」

「それもあるけど、ね。母たちの仇を討てたんだ、と思うと。……肩の荷が下りた気がするわ」


 そうか、とぼくはうなずいた。

 彼女の感情は、彼女にしかわからない。

 少しでも志木さんが救われたなら、それはぼくにとっても嬉しいことだ。


 志木さんは天井を見上げる。

 白い、真っ白い天井だ。


「これでもう、こっちで思い残すことはない、かな。せいぜい、もう少しレベルアップしておきたかったくらいね。このレベルじゃ、さすがに魔王戦は……」

「無理だね。魔王はきっと、もっとずっとレベルが高いんだろう。魔王も、モンスターやぼくたちと同じようなシステムで動いてるっぽいし」


 もっとも、魔王が手に武器を持って襲ってきたりはしないだろうけど。

 そのあたり、未だにこのシステムはよくわからない。


「まったく同じシステム、とは限らないわ。なにせこのシステムは、わたしたちに最適化されすぎているもの」

「そうだね。このシステムは、まるでぼくたちに合わせて構築されたかのようにぴったりフィットしている。正直、未来のぼくがつくったっていわれても……」


 ふと、気づく。

 なにかが頭の隅にひっかかった。

 考え込む。


 いや、そうか。

 いまさらだけど、理解したような気がする。

 いろいろなことを、そして大切なことを。


 ぼくはひとりでPCの前に向かい、キーを叩いた。


『きみはミアか』


 答えは、ひと呼吸置いたあとに来た。

 NO、であった。


『きみはミアにつくられた存在か』


 答えは、YESだった。

 ぼくの異様な様子に、いったいなにごとかと後で見守っていた皆が息を呑む。



        ※



「カヤ、きみはこのこと、知っていたのか。ええと、この白い部屋の主をつくったのがきみのママだってこと」

「んっ」


 愛娘は、びしっと元気に右腕をあげる。

 知ってたかー、そーかー、うーん。

 適切に質問すれば、教えてくれたのかな……。


 ちなみにPCは、それ以上の情報を提供してくれなかった。

 ミアがどうこうは戦いに直接的な影響を及ぼさない。

 ならば、不必要に情報を与える意味はないということか。


「どういう経緯か、知っているか」

「ママは、かこと、みらいに、ひろがりました」

「過去と未来に……意味はわからないけど、すごいことになったのは理解したよ」


 カヤから聞き出したことをまとめると、以下の通り。

 ミアはあの空間を支配する魔王と同じ種族の者たちとの意思疎通を優先して、己を変化させた。

 その結果として、ぼくたちとはちょっとばかり形態が違う存在になったという。


 それは、時間と空間を等価としてひろく展開する連続体であるらしい。

 ゆえに彼女は、過去にさかのぼり、この白い部屋システムの根幹を設計した。

 最初からそのようになっていたのか、彼女がそれを選んだからこそぼくたちは白い部屋に来ることができたのか……そのあたりはさっぱりわからなかった。


 というか、カヤは自分のいっていることをよく理解していないようだった。

 無理もないけど……。

 昔、ミアがいっていたことを思い返しながら、ミアの言葉をオウム返しに語っているだけのようだ。


「ミアは、いまこの部屋を、ぼくたちを見ているのかな」

「さー?」

「そうか。……ミアに会いたいよ」


 思わず、ぽつりと漏らしてしまった。

 ため息が出る。

 カヤは、座っているぼくの頭に背伸びして手を乗せ、よしよしと撫でてくれた。


「パパ、いーこいーこ、です」

「カヤは天使だな」

「いーえ。カヤは、むすめです!」


 えっへんと胸を張るカヤ。

 うちの娘は、本当に天使である。



        ※



 さて、どうやらこの情報についてはここまでのようだ。

 気持ちを切り替えよう。


 今回、レベルアップしたのは全員だ。

 特に志木さんは一気にレベルが三つもあがり、レベル25になったという。

 ぼくは強化召喚を7にし、使い魔強化と使い魔維持魔力減少を上げた。


 アリス、たまき、ルシア、カヤもそれぞれ己の派生スキルを上昇させた。

 カヤの場合、自在弾は3で打ち止めのため、新たに破壊弾1を取得している。

 志木さんはポイントを温存だ。


 ディアスネグスは始末した。

 やるべきことはやった。

 あとはもう、魔王に立ち向かうだけである。


 和久:レベル63 付与魔法9/召喚魔法9 スキルポイント6→1

          強化召喚6→7(使い魔強化6→7、使い魔同調3、使い魔維持魔力減少3→4)

アリス:レベル53 槍術9/治療魔法9 スキルポイント6→1

          聖槍術2→3(強化槍技2→3、槍楯技2→3)

たまき:レベル53 剣術9/肉体9 スキルポイント6→1

          重剣術2→3(強化剣技2→3、破竜斬2→3)

ルシア:レベル53 火魔法9/水魔法9 スキルポイント6→1

          火水合成魔法(コールド・インフェルノ2→3、ウォーター・フレア・シール2→3)

 志木:レベル25 偵察7/投擲5 スキルポイント7

 カヤ:レベル55 風魔法9/射撃9 スキルポイント5→0

          風射術3→4(強化射技3→4、自在弾3、破壊弾0→1)


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― 新着の感想 ―
[一言] 馬鹿な、馬鹿なあっ > ホントにな。 ママは、かこと、みらいに、ひろがりました > それ、何処のニャルラトホテプ?
[一言] 卵が先か、鶏が先か OVAエルハザードみたいな
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