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第243話 梅屋敷の決戦

 交差点で車が玉突き事故を起こしていた。

 大騒ぎになっている。

 興奮した人々の話を総合すると、数体のスケルトンがものすごい速度で一台のワゴン車を追いかけていったとのこと。


 車を追いかけていたスケルトンたちは、みんな骨の馬に乗っていたという。

 そのカーチェイス、いや車と骨の馬のチェイスに多くの車が巻き込まれたようだ。

 いろいろとシュールである。


 しかもその馬、馬の下半身に人間の上半身だったとの話で……。

 つまりケンタウロスのスケルトンか。


「さっさと追いつこう」


 ぼくたちは交通事故を横眼に眺めながら、上空を飛ぶ。

 ときどき、ぼくたちに気づいたひとが上を向いてなにか叫んでいるが、全部無視である。

 ユーチューブに映像があがったりしたら、ワンさんのお仲間があとで削除してくれると思いたい。


 しばしのち。

 ぼくたちは、カーチェイスの現場を見つけた。

 本当に骨のケンタウロス・スケルトン部隊だ。


 五体のケンタウロス・スケルトンには、いずれも人型のスケルトンが騎乗している

 ケンタウロスのスケルトンが走りながら弓に矢をつがえ、射る。

 前方のワゴン車が慌ててハンドルを切り、ギリギリのところで矢をかわす。


 タイヤがアスファルトをこすって、けたたましい音を立てる。

 矢を避けたことでスピードが落ち、スケルトンとの距離が縮む。

 そこに馬上のスケルトンが光のビームを放ち……。


 もうだめか、というその一瞬。

 ワゴン車の後方に虹色の光の幕が出現した。

 ビームを弾く。


 でも無傷とはいられなかったようで、ぼんっ、と車の後部が爆発を起こした。

 ワゴン車は激しくスピンしている。

 神技的なテクニックでまわりの車を回避しているものの、このままじゃ大事故だろう。


「カヤ、たまき! 止めてこい!」

「うん、おっけっ」

「たまきママ、いくよっ」


 ぼくの指示通り、カヤがたまきの手をとってディメンジョン・ステップで消える。

 次の瞬間、ふたりはワゴン車の前方にワープアウトしていた。

 たまきが「よっしゃーっ」と声をあげ、回転するワゴン車に立ちふさがり、両手を前につきだして……。


「ぬおおおおりゃああああっ」


 ごすっ、とすごい音がした。

 たまきは、車体をがっしりと捕まえてその動きを完全に静止させている。

 ワゴン車のエアバッグがふくれあがっているけど、あれ、なかのひとたち全員シートベルトしてたかなあ。


 窓を突き破って飛び出たひととかはいないから、だいじょうぶだと思いたい。

 後部座席でもシートベルトは大事だね!

 ……モンスターに追いかけられて女の子に受け止められるような事故がそうそうあるとは思えないけど。


「なに、だいじょうぶでしょう。内部で結界を張っていたようですので」

「結界って、慣性の法則とかも捻じ曲げ……ああ、魔法って普通に慣性とか捻じ曲げますもんね」


 グラビティとかそのへんの魔法、アインシュタインさんと真っ向勝負でガチバトルしてるしなあ。

 さっきカヤが使ったディメンジョン・ステップにしてもそうだし。

 そもそも、いまぼくたちが使っているフライなんて……ねえ。


「それじゃ、打ち合わせ通りに」

「ええ、カズくんたちも、気をつけて」


 ぼくは今日何度目かの神翼使徒ペヌーザを召喚し、バフをかけてアリスと共に送り出した。

 あの骨たちの強さはかなりのものだろうが、アンデッドに強い彼女たちなら問題ないだろう。

 ルシアとぼくは、ふたりのあとを追いかける。


 志木さんとワンさん、クァールはそのさらに後方だ。

 高度をとっていると魔法で狙われかねないので、適当なところで地上に降りてもらう手はずになっていた。


 さて、これで……。

 相手はどう出てくるか。

 なにせ策士とおぼしき亡霊王だからなあ。



        ※



 敵は全部で十体。

 うち五体はケンタウロス型のスケルトンで、背に人型のスケルトンを乗せている。

 人型のうち二体はぼろぼろのローブをまとっているから、魔法使い系だろう。


 さっき使ってきた魔法を見るに、どちらもハイウィザード・スケルトンと見て間違いない。

 そうなると残りの三体は、スケルタル・ゴッドブレイカーか。

 さっきと似たような構成だけど、ケンタウロス型の強さが問題だなあ。


「ケンタウロス・スケルトンですが、弓の腕はすさまじいのひとことですね」

「え、でも、さっき矢を外したよね」

「あれはおそらく、ワン殿の仲間が動く箱のなかで魔法を使ったのでしょう」


 なるほど、ルシアにはそれが見えたのか。

 ぼくと違って魔法とかの専門の教育を受けてきただけのことはある。

 頼もしい。


「ですが、メキシュ・グラウとは比べるべくもありません。恐れることはないかと」

「そりゃまあ、神兵級と比べたらさすがに」


 敵の群れにアリスとペヌーザが斬り込んでいく。

 対アンデッド魔法をぶちこみながらの攻撃に、スケルトンたちは必死で反撃するも……。

 カヤとたまきもディメンジョン・ステップで近づいて参戦したあたりで、すでに実力差は明らかだった。


 武器スキル9相当のゴッドブレイカーも、実質スキル10クラスにまで腕を上げたいまのアリスやたまきにとってはさしたる難敵ではない。

 ペヌーザも戦力的には同レベルだから、そりゃまあ彼女たちに敵う相手など、もはや四天王クラス以外には存在しないはずである。

 いや、ヴォルダ・アライとかいう例外はいたけど……あれはかなり後衛よりのモンスターだったからなあ。


 ぼくとルシアは少し離れた地面に降りる。

 すでに周囲の人々は逃げ去っていた。

 無人の商店街だ。


 志木さんたちのグループは、止まったワゴン車に駆け寄り、ワンさんの仲間の安否を確かめようとしていた。

 戦闘が終わってからでもいいんだろうけど、あっちの行動にも意味がある。

 と……。


「来た、かな」

「はい」


 二度目、だからだろうか。

 なんとなく、気配を感じた。

 ルシアとうなずきあう。


「いまっ」


 背中で志木さんが叫んだ。

 ぼくとルシアは弾かれたようにその場から飛び退く。

 アスファルトを突き抜けた幽霊の身体が、一瞬前までぼくたちのいたあたりに出現していた。


「同じ手は二度もきかないよ、ディアスネグス」

『さて、どうかな』


 え? と思う間もなく、ディアスネグスの身体が霞のように揺らぎ……。

 かき消えた。


 これはまさか……幻?

 じゃあ、本当の亡霊王は。


 その答えは、すぐに出た。

 背後で志木さんの悲鳴があがる。

 慌てて振り返れば、ビルの壁から現れたディアスネグスが志木さんとワンさんに襲いかかるところだった。


「ちょっと、なんでわたしを狙うのよ!」

『きさまらが大切に守る対象、そこから始末しようということだ』

「そう」


 志木さんがにやりとする。


「じゃあ、これはどうかしら」


 彼女は隠し持っていた虹色の宝石を掲げる。

 蓄魔石だ。

 さっき、白い部屋にいったとき、追加でミアベンダーから手に入れていたものである。


 志木さんが蓄魔石を手前にかざす。

 そう、この石に入っているのは……。


「トランスポジション」


 込められていた魔法が発動する。

 志木さんの姿が消え、入れ替わりに神翼使徒ペヌーザが出現する。

 このことをすでに予期していたペヌーザは、いましも迫る亡霊王めがけて魔法を発動しようというところだった。


「バリア・ブレイク」


 青白い輝きが亡霊王の膨大なバフをまとめて消滅させる。

 さすがに三度目ともなれば、警戒されるだろうと考えていた。

 だからこっちも、少しばかり策を弄させてもらったのである。


 無論、こうならない場合のことも考えてはあったが……。

 どうやらディアスネグスとの知恵比べ、その第一ラウンドはこちらの勝ちのようだ。

 己にかかった数千の防護魔法をいちどに剥ぎ取られて、亡霊王は怒り狂っている。


『ならば、まずは邪魔なこの使い魔だけでもっ』

「そうはいきませんね」


 そこで、すっと前に出たのはワンさんだった。

 レベルすら持っていない彼、向こうの世界の住人でも使い魔でもマレビトでもない老人が、まさか自分の前に立つとは思っていなかったのだろう。

 ディアスネグスはほんのわずか、動揺する。


 だがそれも一瞬。

 亡霊王はいっそう激昂した。


『われを馬鹿にするかっ』


 右手を突き出す。

 その掌の先から黒いなにかが発射された。

 これは、間違いなく先刻、渋谷近傍を破壊し尽したあの一撃だ。


「馬鹿になどしていませんよ」


 だがワンさんは、その致命的な攻撃を前にしても慌てない。

 ディアスネグスの髑髏の眼窩を冷静に見つめ、すっと右手を掲げる。

 そこには、さっき志木さんが使ったものと同じ虹色の宝石がある。


『なっ』

「むしろ、あなたが侮るからこそ、わたしがここにいる意味がある」


 そう、これこそが攻防戦の第二ラウンドだった。

 普通に戦っていては、このこざかしく立ちまわる最強の敵を倒せない。

 ならばこちらから隙を見せて、懐深くに誘いこむしかない。


 これを提案したのは志木さんなのだけれど……。

 ぼくやアリスをはじめ、ほぼ全員が反対した。

 面白いからやってみよう、といったのはカヤだけで……いや、カヤはまあ、うん。


 とにかく、志木さんとワンさんが後ろに無防備でいれば。

 ディアスネグスは、必ずやふたりを狙ってくるに違いない。

 そのときもし、ワンさんがアタッカーになることができるなら、さすがのディアスネグスも、守りを忘れて飛びこんで来るに違いがないのである。


 なにせ、普通に考えてこんなにおいしい獲物はいないのだから。

 カモがネギをしょってやってくるようなものなのだから。


 そう、相手がただの老人ならば。

 でも。


 ぼくたちは啓子さんを知っている。

 そしてワンさんが、啓子さんの師匠であるということも。

 なら、そんな彼に作戦の決定的な局面を任せることだって……まあ、おかしい話じゃないだろう?


『それひとつで、なにができる!』


 黒いオーラが扇状に広がる。

 普通なら反応することも叶わぬ超スピードの一撃だ。

 ぼくたちの誰も、これにタイミングを合わせることなどできはしない。


 でもここにいるのは、ワンさんだった。

 グレーター・ニンジャのお師匠さまだった。

 彼は落ち着いて、宝石のちからを解放する。


「リフレクション」


 虹色の宝石が輝きを放つ。

 ワンさんの前方に出現したバリアは、ジャストタイミングで黒いオーラをはじき返し……。


『馬鹿なっ、そんな、ことがっ』


 驚愕する骸骨の幽霊の全身を、己の放った致死の攻撃が襲う。

 大爆発が起こる。


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[気になる点] 二分の一だから負けたのか、二分の一じゃなくても負けたのか………。
[一言] ワンさんがレベル部屋に行けるようになったらとんでもないことになりそう
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