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ぼくは異世界で付与魔法と召喚魔法を天秤にかける  作者: 横塚司


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第236話 住宅地の戦い4

 たまきがスケルトンを一体、捕獲した。

 これで、こちらのミッションはコンプリートだ。

 あとは残りの敵を殲滅するだけである。


「フレイム・ジャベリン」

「ホワイト・カノン」


 ルシアが炎の槍を放ち、スケルトンの一体を焼く。

 カヤが白いビームで別のスケルトンを塵に返す。

 その間にもアリスが疾風のごとく駆けまわり、その刺突の一発ごとに骨が倒れていった。


 途中でアリスと志木さんがレベルアップした。

 ふたりとも、スキルポイントは温存である。


アリス:レベル51 槍術9/治療魔法9 スキルポイント2

          聖槍術2(強化槍技2、槍楯技2)

 志木:レベル18 偵察7/投擲3 スキルポイント2



        ※



 九体のスケルトンを倒し、残る一体の手足を破壊したのち捕獲した。

 ぼくたちは近くの学校の敷地に移動する。

 数名の男女がグラウンドの中央付近で待っていた。


「ワンさんのお仲間ですか」

「はい、そうです。やあケイさん。あなたの仕事だ」

「ええと、あの……わたしにできるでしょうか……」


 丸い黒ぶち眼鏡をかけた小柄な女性が、少し戸惑いがちに進み出る。

 赤い和服を着ている、二十代の後半くらいに見えるひとだ。

 少し足を引きずって、手には長杖を持っている。


「あなたにできなければ、誰にもできないでしょうね。頼みましたよ」

「はあ……。それで、触媒はどこに……」


 なるほど、彼女が探索の魔法を使うのか。

 ちょっと頼りない感じだけど、それをいったらぼくたちなんてただの子供にしか見えないだろうしなあ。


「たまき」

「はいはーい、カズさん!」


 愛すべきぽんこつ娘は、上機嫌で金髪を揺らしながら、ケイと呼ばれた女性のもとまでスケルトンを持っていった。

 四肢を失ったスケルトンは、それでも歯をガチガチいわせて暴れている。

 でもたまきに首を握られているせいで、なにもできなくて……。


「ひっ、な、なんなんですかこれっ」

「触媒だよっ! わたしが捕まえたのよ!」


 えへんと胸を張るたまき。

 アリスに手伝ってもらったくせに……いや、別にいいけども。

 で、小柄な女性は、暴れるスケルトンにびくびく怯えていた。


 ははは、なにを小心者な……。

 ってそりゃ骸骨が暴れてるんだから怖いよなあ。

 平然としている、それどころか笑っているぼくたちの感覚がマヒしすぎだ。


「わたしが押さえているから、へいきだわ! これをどうするのか知らないけど」

「え、ええと……触ってもだいじょうぶでしょうか」

「だいじょうぶ、だいじょうぶ」


 ケイさんはおそるおそる骸骨の背骨に触れる。

 背骨が、びくんと跳ねた。


「ひ、ひいいいいっ」

「あ、もうっ、おとなしくしなさいっ」


 たまきは、ぺしっ、とスケルトンの額を叩く。

 でもスケルトンは暴れるばかりで……うーん、困ったな、これ。

 あ、そうだ。


「アリス、ホーリー・サークルを使ってみてくれ」

「は、はいっ」


 治療魔法のランク2、ホーリー・サークルは、清浄な結界を張る魔法だ。

 アンデッドを少しだけおとなしくさせる効果もあるという。

 といっても、これまでの敵は、少々おとなしくなったところで意味がなかったからなあ。


 はたして、淡く白い光のサークルがスケルトンの周囲に生まれる。

 暴れていた四肢のないスケルトンは、ぐったりとしてしまった。

 おいおい、完全に消滅してもらっちゃ困るんだけど……うん、なんとかだいじょうぶっぽいか?


「素晴らしい結界ですね……。こ、これなら、なんとか」


 ケイさんは、動きを止めた骸骨におそるおそる近づき、その肩に触れる。

 スケルトンはおとなしい。


「い、いきますっ」


 拳にちからをこめてそういうと、ケイさんは張りのある声で歌い始めた。

 滔々と和歌を歌いあげるようなそれは……。

 ああ、これは呪文の詠唱なのだろう。


 ためしにマナ・ヴィジョンを使ってみる。

 すさまじい量の赤い光が、彼女とスケルトンを中心にして膨大な魔力が渦巻いているのがはっきりと見てとれた。


 やがて、ひときわ詠唱がおおきくなる。

 スケルトンを中心とした魔力が、いっそうの圧力を増して一本の塔となり、天を貫き……。

 赤い光が四方に散る。


 探査魔法、これで発動した、ということか。

 しばし場に静寂が戻る。

 小鳥の鳴き声すら聞こえない、奇妙なほどの静けさのなか……。


 最初に違和感に気づいたのは、マナ・ヴィジョンを使用していたぼくだった。

 どす黒い光が四方の空から迫ってきている。


「ダメだ、みんなスケルトンから離れて!」


 ぼくの叫びとほぼ同時に、黒い輝きがスケルトンに吸い込まれ……。

 耳を聾する音とともに爆発を起こす。

 たまきがとっさにケイさんをかばい、至近距離からの衝撃を背中で受けた。


 少し離れていたぼくたちは身を低くし、爆風をこらえる。

 あちこちで悲鳴があがった。


 ぼくは爆心地を見る。

 爆発の煙のなかで、なにかがゆらめいていた。

 触媒となったスケルトンだ。


 四肢を失ったスケルトンが、黒い霧のようなものをまとって、ゆっくりと浮き上がる。

 髑髏の奥で、双眸が赤い光を放っていた。

 その光に見つめられた瞬間、背筋に冷たいものが走る。


「おまえ、は……っ」


 半身を起こし、スケルトンを睨む。

 いや、スケルトンの奥にいる、その存在を。


 周囲で起き上がってきているのは、アリスとルシア、それとカヤだけだ。

 たまきはケイさんを抱えて転がったまま、苦痛に呻いている。

 そのケイさんは、胴体こそたまきに守られたものの、四肢がへんな方向にねじまがり、赤い血の海に沈んでいた。


 ワンさんをはじめ、ほかにも何人か、ヤバいダメージを受けたひとがいるみたいだ。

 こっちでいちばん貧弱な志木さんは、幸いにして少し離れたところにいたため、まったくの無事である。


 まずいな……これ、一般人は放っておいたら死ぬかもしれない。

 かといってアリスがヒールをかけにいく暇はない。

 範囲ヒールじゃ届かないだろう。


 なにより問題なのは。

 目の前で浮いている、さっきまで瀕死だった骸骨だ。


 この威圧感。

 おそらくは探知魔法を逆にたどってやってきた、あの黒い光。

 同じような魔法を使うから、ぼくにはわかる。


「憑依、か」


 そう、目の前のスケルトンには、あれの召喚者が憑依しているのだ。

 すなわち……。


「おまえ、亡霊王ディアスネグス、なんだな」

「然り」


 スケルトンは、けたけた笑った。

 ぞっとするような、不気味な笑い。

 周囲に黒い瘴気がたちこめていて……あ、これぼくがマナ・ヴィジョンだから見えているのか!


「アリス! あの骸骨に聖魔法をぶちこめ!」

「は、はいっ! ホーリー・レイ」


 アリスの腕から飛び出た白いビームが、ディアスネグスの憑依したスケルトンを撃ち貫く。

 スケルトンは、その一撃でバラバラになった。

 黒いオーラも四散していくが……。


「見つけた! 見つけたぞ!」


 不気味な声が、どこからともなく聞こえてくる。

 声を聞くだけで震えが走るような、おぞましい響きだ。


「きさまたちがわれを探す必要などない! 怯えて待っているがいい!」


 高笑いが響いた。

 耳ざわりな声。

 聞くだけで怖気が走るような声は、それを最後に聞こえなくなる。


 ようやく。

 金縛りが解けたように、皆が動き出す。

 苦痛の声と悲鳴がいっそうおおきくなる。


「探知魔法で相手を捕まえるつもりが、よもや逆探知してくるとはね。やれやれだわ」

「呑気なこといってないで、志木さん! アリス、ルシア! みんなの怪我を! 一般人からだ!」

「は、はいっ」


 ぼくも天亀ナハンと神翼使徒ペヌーザを召喚し、治療に当たらせる。

 天使のような美しい翼人であるペヌーザも、ナハンほどではないが治療魔法の使い手なのだ。

 どのみち、ディアスネグスと戦うなら、先の戦いのように彼女は切り札である。


 よろめきながら立ち上がったワンさんが、スマートフォンでほかの仲間と連絡をとっている。

 漏れ聞こえる声から判断して、北の方から高速で飛翔する物体がこっちに近づいているとのことだ。

 同時に、あちこちからスケルトンが現れ、ここに走ってきているとも。


 町はあちこち大混乱で、暴れまわるスケルトンのせいで悲惨なことになっているらしい。

 短時間での住民の避難は、さすがにこのへん一帯だけで精いっぱいだったのだろう。

 スケルトンは、いまぼくたちがいる学校を取り囲むように出現しているみたいだ。


「ディアスネグスの到着まで、あとどれくらいですか」

「十分少々、というところでしょう」

「わかりました。みなさんはそれまでに避難を。……志木さん、たまきといっしょに彼らの護衛を頼む」


 志木さんが偵察スキルでスケルトンの位置を把握し、攻めよせる敵をたまきが潰す。

 このふたりに任せておけば、いままで戦っていたスケルトン程度はどうとでもなるだろう。

 どのみち、ディアスネグス相手にはたまきの物理攻撃は効果が薄い。


「カズさん……」

「みんなの安全は、きみにしか任せられないんだ、たまき。特に志木さんを守ってくれよ」

「そ、そうね。わかったわ! 任せてちょうだい!」


 治療を受けて起きあがったワンさんの仲間を引き連れ、志木さんとたまきが駆け出す。

 さて、包囲網の突破に時間をとられなきゃいいけど……。


「無事でいてくれればよいのですがね」

「ってワンさん、なんで残ってるんですか。あなたも逃げてくださいよ」

「連絡役がひとりは必要でしょう?」


 いやいやいや、これから来るのは四天王だよ!

 っていっても、彼にはわからないか……。

 うーん、正直、森そのものを動かしてみせたアガ・スーや浮遊島をかち割ってみせたあのザガーラズィナーと同格、ってモンスターの規格外さ、とんでもなさを口で説明できる気がしないんだけど……。


「せめて隠れていてください。くれぐれも死なないでくださいよ」

「なるべく逃げまわるとしましょう」


 老人は、小走りで無人の校舎に駆けていく。

 だいじょうぶかなあ……。

 いや、ひとの心配をしている場合じゃないんだけど。


 ぼくは皆を見渡す。

 アリス、カヤ、ルシア。

 天亀ナハン、神翼使徒ペヌーザ。


 あとは、そうだ、幻狼王シャ・ラウも召喚して……。

 よし。

 これが、亡霊王ディアスネグスとの決戦の布陣だ。



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