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第02話 白い部屋

 気づくと、ぼくは白い部屋にいた。

 天井全体が蛍光灯のように光っている。

 そのせいか、真昼のように明るい。


 部屋の広さは、教室ひとつくらいだろう。

 でも机と椅子は、ひとつきりだった。

 机の上には、ノート型のPCが置かれていた。


 机、椅子、ノートPC。

 それが、この部屋にあるもののすべてだった。


 ノートPCはすでに起動していて、エクセルのような画面がフルスクリーンで映っていた。

 ぼくはおそるおそる、机に歩み寄った。

 PCの画面を覗き込んだ。


 画面の上部にぼくの名前が書かれていた。

 その下に、レベル1、スキルポイント2、と書かれていた。

 さらにその下には、剣とか槍とか魔法とか、そんな単語がずらずらと並ぶ表があった。


 ぼくは困惑して首を振った。

 なんの冗談なのだろう。

 これはいったい、なんなのだろう。


 いや、これがなにかまったくわからない、というわけではない。

 これはステータス表だ。

 ぼくのステータス表だ。


 まるでコンピュータゲームのように、ぼくのステータスが表示されている。

 といっても、筋力とか知力とかHPとかMPが書いてあるわけではない。

 このゲームじみたなにかでぼくにわかるものは、レベルとスキルだけ、ということなのだろう。


 そういうゲームは実際に存在する。

 なかにはキャラクターの能力がすべてマスクデータのゲームもある。


 さて、この画面の意味だが……。

 ぼくは混乱した頭で考える。


 レベルが1でスキルポイントが2ということは、ぼくはこれからスキルをふたつ取ることができるということだろうか。

 それとも、スキルごとに取得に必要なポイントが違って……。


 いや、そんなことはどうでもいい。

 どうでもよくないかもしれないが、いまは置いておく。

 もっと重要なのは、いま、ぼくの身になにが起こっているのか、ということだ。


「誰か!」


 ぼくは叫んだ。


「誰かいませんか! 説明してください。これがなんなのか、どういうことなのか、説明を要求します」


 期待はしていなかった。

 ダメモトだったのだ。


 説明しろといってほいほい説明してくれるほど親切な世のなかなら、ぼくだってもっとうまく生きてこられたんじゃないだろうか。

 少なくとも、あいつを殺そうとするくらい追い詰められなくて済んだかもしれないではないか。


 だが。

 この空間の主は、どうやらぼくの世界のあれこれよりも、よっぽど親切なようだった。


 PCの画面に、ポップアップで文字が表示された。


「質問をどうぞ」


 親切に入力ウィンドウまで現れた。



        ※



 ぼくとコンピュータの応答については省略したい。

 すごく長くて、しかも無駄な部分が多いからだ。


 ぼくはこれでもかとばかり細部の質問を続けた。

 ここはなんなのかとか、あなたは誰なのかとか、そういったことから始まり、このPCのメーカーはとか、クロックとかまでだ。


 たいていの質問には、答えられないという返答が返ってきた。

 それでよかった。

 答えなし、というのも立派な情報のひとつだからだ。


 結果としてわかったことは、以下の通りだった。



・これは夢じゃない。もっとも、「わたしは嘘つきじゃない」というひとが本当に嘘をついていないかどうかわかるのは、その当人だけである。つまりこれは、夢であるかもしれないし、夢じゃないかもしれない。個人的には、夢であって欲しい。


・この部屋にはぼくしかいない。プライベートルームということだ。寮は四人部屋だから、これはちょっと嬉しい。


・この部屋にいられるのは、ぼくがPCを操作してスキル取得画面を閉じるまで。その操作を行った瞬間、ぼくはもとの場所、つまり森のなかに戻されるのだという。すごい技術だ。


・この部屋のなかにいる限り、外では時間が経過しない。何年いても、コンマ一秒たりとも経過しないという。時と精神の部屋より高性能だ。びっくりするほどすごい技術だ。


・この部屋に来るための条件は、レベルアップすること。ふたたびこの部屋にやってくるには、再度、レベルアップする必要がある。レベルアップするためには、敵を殺して所定の経験値を貯めなければならない。正直、なんといっていいかわからないが、とにかくすごい。


・レベルアップするごとにスキルポイントが得られる。スキルポイントを消費してスキルを得られる。一度、取得したスキルの払い戻しは、基本的に不可能。これは不便だ。


・スキルとは、いまのぼくの身体に付与されるボーナスのようなものらしい。つまり、剣術スキルを得た瞬間、ぼくは剣の達人になる。


・いや、それはさすがに嘘だ。スキルにはスキルランクがあって、ランク1では達人というほどじゃないらしい。ランクを上げるには、やはりスキルポイントを使う。


・ランク1にするためには、スキルポイント1が必要。ランク1からランク2にするためには、2ポイントが必要。同様、2から3にするには3ポイントが必要らしい。スキルランクの最大値は9だという。剣術一本伸ばしの場合、レベル23でスキルランク9に到達するな。


・レベルがあがると、それ以外にも、人間としての頑丈さとか精神の強さみたいなのが上昇するらしい。HPとMPか。ますますゲームじみている。


・スキルランクは、あくまでもともと存在するぼくという肉体に与えられるボーナスだという。つまりもともとぼくが剣の達人なら、剣術スキルが9の人間に勝つこともできる、かもしれない。ぼくは竹刀すら体育の授業でしか握ったことがないけれど。


・武器攻撃スキルは六種類。素手戦闘、剣術、槍術、棍術、そして射撃、投擲。


・剣術スキルを持つことで、剣を持ったときの身のこなしなども上手くなる。また、斧なんかも剣術スキルの範疇であるらしい。つまり切りつける武器全般か。


・同様、槍術スキルは、竹槍のみならず突き刺す武器全般を持ったときに効果を発揮する。


・シャベルで戦うときはどうなのだ、と訊ねたところ、剣のように使うなら剣術スキル、平たい部分で叩くなら棍術スキル、先を尖らせて突き刺すなら槍術スキル、という返答があった。シャベル万能だな。


・弓もパチンコも拳銃も機関銃も射撃スキル。手榴弾やコーラの瓶を投げるのも野球のボールを投げるのも投擲スキル。サッカーボールを蹴る場合はどうなるんだと訊ねたら、そんなスキルはないと返ってきた。


・ジャベリンなどの投擲にも使える槍を投げるときはどうなのだ、と訊ねた。こういった場合、槍術スキルでも投擲スキルでもOKとのこと。シャベルとの違いが微妙なところだなあ。ダガーを投げたり、手斧を投げたりする場合も同様とのこと。


・ぼくが殺した生き物は、現地でオークと呼ばれるモンスター。現地ってなんだ。モンスターってなんだよチクショウ。


・魔法とは、マナというものを使って火をおこしたり風をおこしたりする技術らしい。なんだよマナって。ファンタジーかよ。……うん、ファンタジーだな。クレイジーだ。


・魔法スキルは、七種類。地水火風の四種類に、付与魔法と召喚魔法、それと治療魔法。スキルごとに、まったく違う魔法が用意されている。


・そのほかにも、以下のようなスキルが存在する。肉体、運動、偵察、音楽。


・肉体スキルは、筋肉増強剤みたいなもの。重いものも持てるようになる。身の丈よりでかい剣とか振りまわせるってことだろう。


・運動スキルは、身軽に動いたり、高くジャンプしたりできるらしい。足のはやさそのものは変化しないけど、瞬発力は上がるみたいだ。


・偵察スキルは、隠密行動をとったり、遠くの音を聞き分けたり、遠くのものを見たりするスキル。つまりレンジャー隊員に必要な能力とかすべてひっくるめているのか。


・音楽スキルは、音感がよくなり歌が上手くなるらしい。歌で巨人を従えたりできるなら一考するけど、どうやらそういったわけでもないとのこと。よくわからん。


・こんなものを用意した存在に関する質問には、なにひとつ回答なし。クレイジー極まりない。


・なぜぼくがレベルやスキルなんてものを与えられたのか、という質問に対しては、これからのぼくに必要だから、という返答が返ってきた。そうかい、そうかい。勇者にでもなれってのかい。お断りだ。


・これは現実らしい。最悪である。


・死んだら蘇生する方法はない。最悪すぎる。


 なぜぼくがスキルを得る必要があるかとか、今後とはなにかとか、マナとかモンスターとか不穏当な単語は、ひとまずすべて横に置いておこう。

 なにせ情報が足りない。いろいろ考察できることはあるけど、いまそれをしても仕方がない。


 いま重要なのは、ぼくがスキルを得られるということだ。

 そしていまを逃すと、次にスキルを得られるのはレベルアップしたとき。


 レベルアップするためには、あのオークとかいうモンスターを倒さなきゃいけない。

 スキルがなきゃ、そんなの無理ゲーだ。


 よって、スキルについてまとめる。

 現在、PCの画面に表示されているスキルは、以下ですべてだ。


・物理:素手戦闘、剣術、槍術、棍術、射撃、投擲

・魔法:地魔法、水魔法、火魔法、風魔法、付与魔法、召喚魔法、治療魔法

・その他:肉体、運動、偵察、音楽


 合計で十七個のスキルからひとつ、あるいはふたつを選んで、ランク1にしなければならないらしい。

 ポイントは使いきらなくてもいいとのこと。

 ふむ。


 ぼくは熟考し、さらにいくつかの質問を行った。

 さらに思案を重ねた。これでもかというくらい、頭をひねった。


 この部屋に来てから何時間が経ったか、わからない。

 お腹はすかなかった。喉の渇きすら覚えなかった。なんかもうそういう部屋なんだろう。知ったことか。


 ぼくは、ついに決意して、ノートPCの前に立つ。

 スキルリストから、ふたつのスキルを選んで、ランク1にする。



和久:レベル1 付与魔法0→1/召喚魔法0→1 スキルポイント2→0



 決定のボタンにカーソルを合わせ、エンターキーを押した。

 次の瞬間、ぼくの身体は森のなかに戻っていた。



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― 新着の感想 ―
[一言] 素手戦闘、運動とたまに偵察上げてスピード系格闘キャラにしたい! 3つだと多いか。
[気になる点] アルファポリスに 「女神様から同情された結果こうなった」 という作品があるのですが、内容があまりにも似ていて同じ作者なのかと疑問に思いました。 この作品、知っていますか?
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