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ぼくは異世界で付与魔法と召喚魔法を天秤にかける  作者: 横塚司


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第197話 神兵級部隊2

「そいつが使える魔法は、最低でもふたつ。かなり広域に展開されるバリアと、透明化だ」

「インヴィジだったら、カズっちがシーインヴィジすれば見えるんじゃ」

「隠密は看破できても、ぼくの視力じゃ数百メートル先の目標を詳細に観察するのは、な……」


 使い魔で事前偵察するべきだったかもしれない。

 いや、そんなことをしても、メキシュ・グラウかレジェンド・アラクネに察知され、使い魔が撃墜されるだけだろう。

 これまで、さんざん撃墜されてきたわけだし、だからリーンさんの鷹も、かなり遠方から観察したにすぎなかったはず。


「そうでなくても、メキシュ・グラウの背中にうずくまってたりしたら、きっと見えないと思う」


 たまきが、さらっとまっとうな意見を出した。

 いやほんと、今回ばかりはたまきのいう通りだわ。

 身の丈六メートルのケンタウロス型モンスターの巨体なんて、その気になれば隠れる場所いっぱいあるよなあ。


「バリアの対策だけど、あれは桃色に輝いていた。視認できる持続型魔法なら、アリスのディスペルかグレーター・ディスペルで解除できるだろう」

「はい、爆風が消えたら、すぐにディスペルをかけます」

「それだけじゃ、一応、不安だから……ぼくたちも、すぐそっちにいく。ミアのディメンジョン・ステップを使う」


 もう、砦を守ることにこだわる必要はないだろう。

 メキシュ・グラウたちは、近接戦闘で手いっぱいである。

 ぼくとミア、啓子さんだけでも距離を詰めるべきだ。


 風魔法ランク9のディメンジョン・ステップは、ミアが手を握ったふたりを900メートル以内の視認できる目標地点に転移させる。

 今回に限っていえば、連れていけるのがたったふたり、というのは弱点にならないだろう。

 乱戦に潮音、百合子コンビを連れていくのはまだ怖い。


「あとは、でたとこ勝負で」

「情報が足りないですから、それ以外にないでしょうね」


 ルシアのお墨つきも得られた。

 なお、彼女には再三、休んでおくよういい含める。


アリス:レベル40 槍術9/治療魔法7 スキルポイント7

ルシア:レベル39 火魔法9/水魔法7 スキルポイント5


 スキルポイントは当然、貯めておき……。

 ぼくたちは、白い部屋から出る。



        ※



 戦闘、再開。

 ぼくはフライで舞い上がり、ミアと啓子さんのもとへ。

 飛行しながら、身をひねり、慌てている潮音と百合子に「ふたりは待機!」と声をかける。


「は、はい! お気をつけて!」


 潮音が、すぐに事情を把握し、うなずいた。

 彼女たちに見送られ、ぼくはミアの左手を握る。

 すでに啓子さんは、ミアの右手をとっている。


「いってくれ」

「ん。ディメンジョン・ステップ」


 ぼくの視界が、切り替わる。

 周囲はむせかえるような焼けた空気と、土煙。

 ぼくたちは、一瞬で二百メートルの距離を縮め、戦場のすぐ手前に辿りついたのだ。


 ちょうど、一体目のメキシュ・グラウを倒したアリスが振り返り、バリアを張ったメキシュ・グラウに腕を伸ばすところだった。


「グレーター・ディスペル」


 彼女が解除の魔法を使った瞬間、桃色のバリアがふっと消える。

 巨大ケンタウロスの背中に乗ったローブを着た人影が、慌てて次の魔法を使おうとするが……。

 十数メートルの間合いから、長月桜が槍を突き出す。


 彼女がコマンド・ワードを唱える。

 桜の槍の先端からエネルギー波が飛びだして、謎の人影に命中した。

 かん高い、男の悲鳴があがる。


「よし……っ」


 桜が、ちいさく、しかしちから強くうなずく。

 彼女はああみえて、心のなかで熱い想いを抱えた少女だ。

 ぼくも、そのあたりの機微がだいぶわかってきた。


 メキシュ・グラウの背中でバリアを張っていた人影は、長月桜の放ったエネルギー波をまともに食らって、よろめく。

 だが、それだけだった。

 人影が、顔をあげる。


 ローブのフードがはだけた。

 南中する太陽の光を浴びて、青白い肌が見える。

 一見、ただの人間の男に見えた。


 なかなかにハンサムな男なんじゃないかと思う。

 腰まである長髪は、銀色に輝いていた。

 ただしその目は真っ赤に染まり、凶暴にひらいた口からは猛獣のような鋭い牙が見える。


「吸血鬼です!」


 ルシアが叫んだ。


「おそらくは、その最上位種、不死者の王クラス! 気をつけてください、あれは……」

「ん。以後、ノーライフ・キングと呼称」

「しまった、ミアに命名権を取られたでござる!」


 おい兄妹、なにを争ってやがる。

 いや、いいけどさ……。


 吸血鬼、ヴァンパイア。

 たいへん有名なファンタジー種族だ。

 作品によってアンデッドだったり、ただの種族のひとつだったりする。


 基本的には、人間の血を吸って生きたり、それで眷族を増やしたりする。

 コウモリに変身したり、女性を魅了したり、なんやかやと特殊能力てんこもりだったりも。

 同時に、これも作品によって違うけれど、日光が弱点だったり流れる川を渡れなかったり十字架やニンニクが苦手だったりすることもあるけど……。


 この吸血鬼、思いきり日光を浴びてるなあ。

 この世界の吸血鬼は、太陽の光とかは全然平気のようだ。

 あるいは進化しちゃって究極完全生命体なのかもしれない……いや、それはないか。


 そのノーライフ・キングが、長月桜を睨む。

 不死者の両目が、怪しく輝く。

 だが……彼女の態度は変わらなかった。


 これはたぶん、いまのが魅了ビームかなんかで、ぼくたち全員にアイソレーションがかかっているおかげだろう。

 いまのぼくたちに精神攻撃は通じない。

 男なら、正々堂々、殴りかかってきて欲しいものである。


 いや、嘘。

 別に攻撃してこなくていい。


「ならば拙者がいくでござるよっ」


 桜の槍がビームを放ったその隙に、結城先輩はメキシュ・グラウの反対側からまわり込んでいた。

 たまきと同じ白い剣を手に、ノーライフ・キングに接近戦を挑む。

 ノーライフ・キングは反射的に振り返り、鋭い爪を伸ばしてこの攻撃を受けた。


 ふたりが刃を交える足場であるメキシュ・グラウも黙ってはいない。

 四本の腕のうち右の一本で剣を構え、少し離れた間合いから桜めがけて振り下ろす。

 その刃先から、稲妻が飛びだす。


 邪雷斬だ。

 あらかじめこれを予測してたとおぼしき桜は、すっと落下してこれを回避、一度樹下へ身を隠すと、位置エネルギーを運動エネルギーに変えて少し離れたところから飛び出る。

 だがそこを、別のメキシュ・グラウの背中に乗ったレジェンド・アラクネの伸ばした鋼糸が襲う。


「させないわっ」


 たまきが、そこに割って入る。

 白い剣を振るって鋼糸を断ち切り、態勢を崩した桜を守る。


「桜ちゃん、ニンジャ先輩のサポートを!」

「はい」


 完全に、乱戦だった。

 敵部隊は、メキシュ・グラウが二体、レジェンド・アラクネとノーライフ・キングが一体ずつ。

 こちらはルシアたち火魔法使い三人が戦力外で、残りはぼくを含めて七人。


 七人のうちぼくとミアは、これだけ乱戦になってしまうと魔法の援護を飛ばしにくい。

 付与魔法は基本的に接近してかけるものだけど、いまのぼくの技量であのなかに飛び込むのは無謀すぎる。

 いちおう、賭けの要素が強い切り札はあるけども……いまは賭けなんてするべき状況じゃない。


 というわけで、基本的には前衛五人にお任せ状態だ。

 メキシュ・グラウが弓を使おうとするときだけ、ミアがテンペストなどで邪魔をする。

 さて……このおおむね拮抗した状況、どう打開するべきかだけど。


 やはりここは、ぼくの切り札にお願いするか。

 ぼくは、幻狼王シャ・ラウを召喚する。

 使い魔強化の分をあわせて、MP消費は90強。


 樹上の空中に出現したシャ・ラウがすぐに落下を始めるなか、ミアが彼に素早くとりつく。


「ん。ウィンド・ウォーク」


 シャ・ラウの蹄が、空中の足場を踏む。

 ふう……あっぶね、忘れてた。


「カズっち、ここが空の上だと忘れてた?」

「えーと、うん、ちょっとは」

『問題ない。いまのわれであれば、自らのちからで空を飛ぶ魔法を行使できよう』

「あ……それって、使い魔強化のおかげ?」


 ぼくとミアは、少し自信ありげにうなずくシャ・ラウに目を瞠る。

 たしかに、Q&Aした使い魔強化の説明が正しければ、ランク0.5分、強くなっているはずである。

 召喚されたシャ・ラウはこころなしかいつもより元気そうに見えた。


 じつに頼もしいことだ。

 ぼくは、シャ・ラウに手早く定番の付与魔法をかけた。


「いま敵の四体は互いによく連携している。あれを切り崩したい」

『主よ、われはどこを狙う』


 さて、どこにするべきか。

 ノーライフ・キングとレジェンド・アラクネが周囲のサポートをし、二体のメキシュ・グラウが暴れてアリスたちを寄せつけない。

 敵の戦い方の基本は、そんなところだろう。


 ノーライフ・キングに時折、結城先輩か啓子さんがとりつく。

 しかしレジェンド・アラクネのサポートがタイミングよく入り、なかなか孤立状態をつくり出せていない。

 ぼくはちょっと考えたすえ、よし、とうなずいた。


「レジェンド・アラクネだ。あいつをほかから引き離す。ぼくがきみの背中に乗る」

『それは、いささか危険度が高い』

「きみの背中なら、だいじょうぶだ」


 ぼくは、シャ・ラウの毛皮をぽん、と叩いた。

 巨大な狼は、目を細める。


『よかろう、勇敢なる主に最大の敬意と無限の幸運を』

「ん。これ使う」


 ミアが、自分の安産祈願のお守りを、シャ・ラウの太い首にかける。

 わざわざ、あらかじめ糸を長く伸ばしてあった。

 きみ、最初からこの可能性も考慮していたのか?


『レディ、素敵な贈り物をありがとう』

「うむ、なんという紳士。カズっちもシャ・ラウを見習って……」

「はいはい、いくぞっ」


 ぼくはシャ・ラウの背にまたがると、合図のかわりにヘイストを唱えた。

 銀の毛が赤く輝く。

 シャ・ラウは、駆け出した。


 光となる。

 ぼくの意識が、一瞬、途絶え……。

 次の瞬間、強い衝撃がある。


 気づくと、ぼくの目の前、シャ・ラウの頭がレジェンド・アラクネに体当たりしていた。

 レジェンドは、メキシュ・グラウの背中から弾き飛ばされ、そのままの勢いで吹き飛ばされる。

 で、その強い衝撃によって、ぼくの身体もまたシャ・ラウの背中から飛ばされかけ……。


「う、うわあっ」


 ぼくは必死で、背中の毛にしがみつく。

 強い風圧に身体が翻弄される。

 で、目の前のレジェンドは、ぼくを赤い双眸で睨みすえ……。


 蜘蛛男が、両手をぱっとひらく。

 粘糸が、傘のように広がってぼくとシャ・ラウを襲うが……。

 ぼくたちの首からかかった安産祈願のお守りが、二重に青白い光を放って爆発する。



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[気になる点] あれ? シャ・ラウって、狼なのに蹄なの?
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