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ぼくは異世界で付与魔法と召喚魔法を天秤にかける  作者: 横塚司


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第173話 亜種モンスター

 そうだ、忘れていた。

 ぼくはいまさらながら、ルシアに訊ねた。


「ヘルハウンドにアシッド・ハウンドってあたりで思ったんだけど、こういう亜種的なモンスターってたくさんいるの? たとえば、雷撃してくるサンダー・ハウンドとか」

「はい。まさにサンダー・ハウンドというモンスターが確認されています。ご想像の通り、フロスト・ハウンドというモンスターも存在します」

「本当にいるのか……」


 ミアが「色替えの手抜きモンスター」と余計なことをいった。

 うん、ぼくも同じこと思った。

 世の中にはポリゴンモデルの制約とかあるからね……。


 いや、このリアルな世界にはそんなの関係ない。

 じゃあなんで、亜種モンスターなんてものがいる?

 そのへんのところ、どうなんだろう。


「もともと、これらのモンスターは、古の時代、あるいは別の世界にて、錬金術実験によって生まれた人造生命体であったといういいつたえもあります。ゆえにさまざまな亜種が創造され、実験や戦闘用として用いられたと」

「あ、そうか。自然発生したわけじゃないってことなら、納得できる」

「どこまで本当かは、わかりません。ファイア・ジャイアントやフロスト・ジャイアントのような種族は、そういった地域に適応した結果であるのでは、という説もあります」


 なるほどなー。

 前も聞いたけど、モンスターは別世界から召喚されたものらしい。

 だから、本当はどうしてそのモンスターが生まれたのか、なんて正確なところはわからないのだろう。


「戦った感じですけど、酸を吐く以外は、ほとんどヘルハウンドと同じように見えました」


 アリスがいった。

 なるほど、実際に刃を交えたひとの言葉は説得力がある。

 すべての亜種モンスターがそうとは限らないけど。


「ん。糸じゃなくて鞭を出すウィップ・アラクネとか、下半身が馬じゃなくて魚のマリン・メキシュ・グラウとか考えた。どう?」

「どう、っていわれても……」

「出てきたら面白そう」


 面白いかもしれないけど、戦うこっちは必死だろ!


「拙者、人生エンジョイ勢ゆえ」

「あーまあ、この状況すら楽しめているなら、ぼくとしては心強いよ……」

「でもカズっち冷たいのが最近のストレスです」


 ぼくは苦笑いして、ミアの頭を撫でた。


「はいはい。これでいいか」

「もっとやさしく、ねぶるように」

「贅沢いうな」


 ま、それはさておき。

 ぼくはミアの頭を撫でながら、またルシアに訊ねる。


「もうひとつ、いいかな。光の民の……リーンさんの親衛隊って、実力はあんなものなの?」

「あんなもの、というと……アシッド・ハウンドに対してひどく苦戦していたことでしょうか」

「苦戦、といっても何体かは倒したみたいだけど、うん、そのこと。戦士の実力のことじゃなくて、水レジとかなかったのかなって」


 ぼくたちだって、ランク8のハイ水レジがなければ相応に苦戦を強いられたはずだ。

 以前、ヘルハウンドと戦ったときはランクの低いレジだったけど、それでも結構、熱かった。

 このモンスター、レジストなしで戦える相手じゃないように思える。


 ぼくたちはこれまで、ほかにもこの手のモンスターと戦ってきた。

 さっき地底神殿で戦ったゾラウスの精神攻撃も、そのひとつだ。

 付与魔法のなかでも味方に耐性を与える魔法は、生死のかかったこの世界での戦いにおいて、はかりしれない価値があるように思う。


 ってぼくたちでもわかっていることだから、この世界で厳しい戦いを生き抜いてきた人々は当然、それを理解しているだろう。

 そうした魔術師を優先的に育成するのは、間違いない。

 でも現実として、あそこにいた親衛隊の面々は、水レジをもらえていなかった。


「おっしゃる通りです。あの部隊には、水の精霊を使役できる魔術師がいなかったのでしょう」

「そういえばこの世界の一般的な魔法って、精霊を使役して使うんだっけか」

「はい。しかし一般的に、ひとりの魔術師が使役できる精霊は一種類です。光の民の魔術師は、すべての部隊に全属性使役者を配置することができるほど多くないのが実情です」


 属性は四つだから、ひとつの部隊に魔術師が四人も入れられないってことか。

 聞けば、一部隊の魔術師は、せいぜいふたりか三人。

 少ない部隊だとひとりということもあるとか。


 もっとも、必要に応じて部隊を合流させ、部隊全体に精霊の支援を与えることもあるらしい。

 そうした差配が、大隊長の腕の見せ所とのこと。

 今回はそのへんに大失敗したのかなあ。


「敵の侵攻速度が速かったため、思うような対応を取れなかったのでしょう。本来であれば、しっかりとした索敵を行い、もっと多人数であたるべきモンスターです」

「そりゃそうか。リーンさんは、とりあえず親衛隊を投入して遅滞作戦を行った、みたいなこといってたしね」

「彼らは、最大限にちからを尽くしました。わたくしたちが到着するまでの時間を稼ぎきったのです。賞賛するべきでしょう」


 彼女のいう通り、彼らは命を賭けて作戦を遂行した。

 親衛隊があそこで足止めしてたおかげで、ぼくたちはアシッド・ハウンドの一部隊を潰せた。

 合流しかけていたアシッド・ハウンドも、問題なく全滅できるだろう。


 あそこでアシッド・ハウンドが抜けていたら、啓子さんの部隊が襲われていた可能性もある。

 啓子さん自身はなんとかするにしても、闇から奇襲を受けて、水レジを張る前に酸のブレスを浴びたら……。

 育芸館組は、下手したら、ひどいことになっていたかもしれない。


「アシッド・ハウンドを潰したあとも、ほかの親衛隊を助けてまわるべきかな」

「それがいいと思います。わたくしたちであれば、さしたる消耗もなく始末できますから」

「経験値もおいしい。じゅるり」


 ミアさん、ほんとにブレませんねえ。



        ※



 当面の方針が決まったあと、ぼくたちは隣の部屋を草原にして、並んでお昼寝をした。

 ミアが転がって抱きついてきたので、こめかみをグリグリする。


「ひぎい」

「へんな悲鳴を上げるな!」

「あ、ミアずるい。楽しそう」


 たまきが反対側からくっついてきた。

 それを見て、アリスとルシアが、遠慮がちに覆いかぶさってくる。

 あー、さすがに重いんですが。


「カズっち、カズっち、わたし軽いよ?」

「そういう勝負じゃないから!」


 結局ぼくは、四人の少女に抱きつかれたままお昼寝することになった。

 目をつぶると、わりとすぐに眠りに引き込まれる。



        ※



 目を醒ますと、アリスがぼくを覗きこんでいた。

 どうやら、ぼくは思った以上に疲れていたらしい。

 当然か、あんな激戦のあと、すぐにまた出撃なんだから。


 ミアとたまきは、隣の部屋をプールにして、水泳しているという。

 元気だなあ、あいつら。


 まだ寝ているのはルシアだけだった。

 彼女は……そうか、さっきまで地底樹を操っていて、戻ってすぐこの戦いだもんなあ。

 神経の休まるときがなかったのだろう。


 こうして休んでも、白い部屋を出るとすぐ肉体の疲れはもとに戻る。

 あんまり意味はないのかもしれない。

 でも、こうして一度はリラックスした、という記憶があれば……いや、どうなんだろう?


「気づいてませんか。カズさんも、お疲れなんですよ」


 ぼくの寝顔を覗き込んでいたらしいアリスが、心配そうにそういった。


「あー、すまない。気を使わせてるっぽいな」

「気を使わせてください。わたしたちに、もっとカズさんのこと、心配させてください」


 なるほど、そういう考え方もあるか。


「アリスに全部任せたら、ダメ人間になりそうだ」

「ん。カズっち昼間からごろごろして女にパチンコ代を要求して飲み屋でくだを巻く?」

「それいつの時代のヒモだよ!」


 濡れた水着でこっちにやってくるミアに、ツッコミを入れる。

 ぼくとしては、きみたちみんなを養っていきたい所存なんですが……。

 いや、現在進行形で彼女たちに守られて、後ろでぼーっと見てるだけの人生だけど。


「そうだ、ミア。このところ、余所との交渉はきみに任せきりだけど……」

「任された。カズっちは後ろでドンと控えていればいい」

「……助かるよ」


 ミアはえへんと胸を張った。

 しかし、水着ごしに見える胸のラインはぺったんこである。


「カズっち。わたしたちはチームなんだから、それでいい。客観的に考えて、わたしは交渉ごとが得意」

「伊達に忍者の妹じゃないわね!」


 ミアの後ろから、これまた水着のたまきが余計なことをいった。

 ミアが無表情になって、彼女に振り向く。

 たまきは遅まきながら、慌てた。


「え、えっとね、そのね、ミアちゃんは……」

「たまきちんのそういうポンコツなとこ、嫌いじゃない」

「え、ええと……ありがとう?」

「でも許さん」


 ミアはリバース・グラビティでたまきを浮かせ、ワールウィンドで吹き飛ばした。

 宙を舞ったたまきの身体は、見事、プールの一番深いところに落下する。


「ふう、いい仕事した」

「危ないから、命にかかわるようなお仕置きはやめておけ」


 そんな風に騒いでいると、ルシアが起きてきた。

 ぼくたちは最後に細かい打ち合わせをする。

 今後のことをいろいろ想定して、頭をひねる。


 ルシアがお菓子を所望した。

 ぼくがいろいろ召喚して、ティータイムを楽しんだ。

 ルシアはお腹が痛くなるほど食べていた。


「わたくしは、決めたのです」


 かたい決意を持って、亡国の王女は宣言する。


「もう、自分の気持ちに嘘はつかないと」


 そういって、ショートケーキを口に放り込む。

 ばくばく食べる。

 とことん食べる。


 普段から無表情な少女は、なんだかいま、とても幸せそうだった。

 本人が幸せなら……いいのかなあ。


 食事のあと、また会議をした。

 議論に飽きたたまきが隣の部屋のプールで遊んだり、アリスがそれにつきあったりといったこともあったけど……。

 だいたい、ぼくとミアとルシアだけで話が進むからなあ。


 最後に、各自のステータスを確認。

 アリスは現在、槍術が9、治療魔法が6になっている。

 たまきは剣術が9、肉体が6だ。

 ミアは風魔法が9、地魔法が6。


 うん、ぼくたちと別行動だった間の能力は間違いない。

 それじゃ……戦場に戻ろうか。


たまき:レベル34 剣術9/肉体6 スキルポイント2

 ミア:レベル34 地魔法6/風魔法9 スキルポイント2


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― 新着の感想 ―
[気になる点] 自分に正直になったルシアがプクプクと、ふっくらとした体型になってしまったら………ヤダね。 いや、エルフは太りにくいかも知れないけど。
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