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第136話 幻狼王の意地

「ストーム・バインド」


 ミアが漆黒のオーガ王に対して、さきほど恐竜型モンスターを縛ってみせた風の拘束魔法を行使する。

 ぬめる大気が黒いオーガの周囲をとりまき、その四肢にからみつくが……。

 ザガーラズィナーは、嘲笑するように口の端をつり上げる。


 なにごとか、聞きとれないほどちいさな声で言葉を紡ぐ。

 その全身に、赤黒いオーラのようなものが立ち上る。

 ミアの生み出した魔法の拘束は、そのオーラに触れた瞬間、溶けて消える。


 アンチ・マジックの類いか。

 ま、そりゃ対抗手段くらい、あるよな。

 でも、それでいい。


 一瞬でも、気が散れば。

 それで、充分。


「レンジド・ヒール」


 漆黒のオーガとの距離を詰めたアリスが、少し離れたところから治療魔法を使う。

 たまきの身体が光輝に包まれる。

 直後、全身をバネにして跳ねあがり、ザガーラズィナーの間合いから離脱する。


 たまきは苦痛に顔を歪め、必死で漆黒のオーガから距離を取った。

 サステナンスはかかっていないが、やはりそれでも、なんとか動けるようだ。

 まだ手足はひどく痛むのだろうが……。


 とにかくいまの状態で追撃が来ることだけは避けることができた。

 最悪の状況は脱した。

 その間、またシャ・ラウが突撃し、ザガーラズィナーと組み合う。


「ほほう」


 オーガの王が、にやりとする。

 ぼくたちが必死で抵抗するそのさまが、よほど楽しいのか。


「インシネレート」


 アリスを追ってきたオーガの群れに、ルシアがランク8の火炎魔法を叩き込む。

 地獄の業火に身を焼かれ、オーガたちは悶え苦しむ。

 おそらくメイジのレジストはかかっているのだろうが、ランク8の暴威は、魔法的な防護を貫き、オーガの身を溶かす。


 二体、三体とオーガが倒れる。

 よし、残りは手負いのオーガ五体とメイジだ。

 たまらず、メイジが立ち止まり、杖を天に突き上げる。


 メイジ・オーガが空に舞いあがった。

 自分だけでも生き延びるか。

 なら、こいつはあとでいい。


「ルシア、雑魚を」

「はい。インシネレート」


 よろめきながらもアリスに殴りかかろうとした満身創痍のオーガたちを、追い打ちの業火が焼き払う。

 残る五体が、すべて倒れ伏す。

 よし、これであとはメイジ・オーガとザガーラズィナーだけだ。


 いや、その「だけ」が問題なんだけど。

 ザガーラズィナーは、しつこく飛びかかるシャ・ラウを左手で払い、右手一本でたまきの斬撃を受け止める。

 たまきの銀剣とザガーラズィナーの掌の間に、赤いオーラのようなものが浮かんでいる。


 マナの盾だろう。

 あれも魔法の一種か。

 イメージとしては、気功っぽい感じだけど。


 つーか、まだ素手で戦うのかよ、こいつ……。

 これで本気なのか、それとも舐められているのか。

 もし舐められているなら、チャンスだと思うことにしたい。


「カズっち、来るよ」


 ミアの声でメイジ・オーガに目を転じれば、ぼくたちよりさらに上空から氷の刃を打ち下ろして来るところだった。

 昨日もさんざん、喰らった冷気魔法だ。

 ぼくはリフレクションで跳ね返そうとするが、失敗。


 まともに氷弾の雨を浴びる。

 顔を手でかばうものの、頬が、腕が、そして腹や脚、あちこちが切り裂かれる。

 くそっ、でも、こんな程度!


「ミア、あいつを叩き落とせ!」

「ん。グラビティ」


 ミアの重力魔法によって、メイジ・オーガは無理矢理、地面に引きずり倒される。

 紫のローブを着た巨人が、地面にはいつくばる。

 そこに……。


「インシネレート」

「ライトニング・アロー」


 雷の矢と、業火による連続攻撃。

 メイジ・オーガがのたうちまわり……やがて、抵抗が止む。

 鬼の魔術師はようやく息絶え、青い宝石三個に変化する。


 よし、これで。

 準備は、整った。


「撤退するぞ、こっちだ!」


 ぼくの合図で、たまきとアリスを含めた全員がきびすを返す。

 ちらりと、腕時計を確認する。

 使い魔覚醒を使用してから、五分が経過していた。


「シャ・ラウ、あと少しだ!」

「心得た」


 幻狼王が、ザガーラズィナーにしつこく食い下がる。

 ぼろぼろだが、それでもかろうじて急所を狙った攻撃をかわし、巨躯の黒オーガと渡り合っている。

 いまは、これでいい。


 シャ・ラウをしんがりに置き、ぼくたちはフライの全速力で逃げる。

 これは賭けだ。

 ぼくは風をきって飛びながら、腕時計を見る。


「使い魔を囮として逃げるか。なんと臆病な」


 ザガーラズィナーが、皮肉交じりにそう叫ぶ。

 振り返れば、シャ・ラウが咆哮し、全身に赤いオーラをまとう。

 黒いオーガと同じ、マナのシールドだろう。


「ならば、よい。こいつを潰し、追いかけるまで」


 ザガーラズィナーが、構えをとる。

 シャ・ラウの突撃に備える。

 五秒、四秒、三、二、一。


 シャ・ラウが地面を蹴り、残像を残して突進する。

 ザガーラズィナーは腰を落として左手を前に出し、これを迎撃する構え。

 そして……。


「タイムリミットだ」


 ぼくは笑う。

 直後、幻狼王の姿が、ふっ、とかき消える。

 ザガーラズィナーは、しばし、呆気にとられた。


 だが、そう、これでいい。

 使い魔覚醒から三百二十秒が経過したのだ。

 この特殊能力の効果時間を超えたため、使い魔は送還された。


 最初から、こうすることが狙いだった。

 ただ最後の数秒、ザガーラズィナーを足止めできれば、それでよかった。

 それだけで、ぼくたちは百メートル以上の距離を稼げる。


「おのれ!」


 漆黒のオーガが怒り、吠えたける。

 ぼくたちをものすごいスピードで追ってくる。

 ザガーラズィナーが地面を蹴るたび、派手な土煙があがった。


 彼我の距離が、みるみる距離が縮まる。

 森に逃げ込む前に追いつかれるだろう。

 ここまでしても、わずかな時間しか稼げなかった。


 これでいい。

 計算のうちだ。


「たまき!」

「うん、任せて!」


 身をひるがえしたたまきが、地面に降り立ち、ザガーラズィナーを迎え撃つ。

 裂帛の気合のもと、銀の剣の刃が長く伸びる。

 黒いオーガは、右手を無造作に振って、その一撃を打ち払う。


「無駄だ、小娘」

「そうでも、ないわ」


 たまきが後ろに飛びすさる。

 ザガーラズィナーがすかさず距離を詰める。

 ふたりが、開けた場所に出た。


 校庭だ。

 いまは瓦礫と化した高等部校舎の前にあるグラウンドに、ふたりは足を踏み入れる。

 そして、この地下には。


 謎の壁画がある。

 さきほどアリスとミアが調査したばかりの空間がある。


 彼女たちは、そこで、あるものを見たという。

 本来、学校などにあってはいけないもの。

 いやそもそも、日本にこんなものがこんな大量にあるところなど……。


 それは、そう。

 大量の爆弾だった。


「グラビティ」


 ミアの重力魔法が、ザガーラズィナーを押さえつける。

 すぐに破られてしまうだろうが、必要なのはその一瞬だった。

 たまきが宙に舞い上がる。


「いけるわ、やっちゃって!」

「んでは。ぽちっとな」


 ミアは、右手に握る掌サイズのスイッチを、ぐっと押しこむ。

 地下で、腹に響く低い音が響いた。


 次の瞬間。

 グラウンド全体が、砂煙に包まれる。

 四方から爆発があがる。


「ぬ……おっ、これは、罠か!」


 ザガーラズィナーの叫び声。

 この程度で、彼は死なないだろう。

 ただ、意表は突けた。


 彼の強い警戒心をかいくぐることができた。

 時間を稼ぐくらいはできた。

 そして、彼の視界を塞いだ。


 そう、ぼくたちがこの地を離脱するための転移門を展開するための、わずかな隙が生じた。

 空を仰げば、一羽の鷹がすかさず急降下してくる。

 リーンさんの使い魔だ。


 きっと、前の使い魔が撃墜されてからすぐ、ほかの使い魔を急行させたのだろう。

 そして、チャンスを待っていた。

 ぼくたちがザガーラズィナーを抑え込むその一瞬を、いまかいまかと待ちわびていた。


 白い部屋でこの提案をしてきたのは、ルシアだ。

 彼女は、「リーンならば、こうする」と自信を持って宣言した。

 だからザガーラズィナーの警戒心をぼくたちに向け、リーンさんの使い魔にチャンスを与えて欲しいと。


 正直、半信半疑だった。

 でも、ぼくとアリスたちが強い絆で結ばれているように。

 ルシアとリーンさんも、なんらかの絆で結ばれているのだろうと、そう思ってみた。


 すると、これは悪くない作戦に思えてきた。

 はたしてルシアの宣言通り、鷹はやってきた。

 ルシアとリーンさんを信じたぼくたちの苦労は、報われた。


 ぼくたちの前に着地した使い魔の鷹は、即座に転移門を展開する。

 青白いサークルが、地面に生まれる。


「みんな、飛びこめ!」


 ミアが、ルシアが、青白いサークルに飛び乗る。

 その姿が、次々と消えていく。

 アリスが、それから急いでこちらに合流したたまきが。


 ちらりとグラウンドの方を見れば、爆風のなかで黒い影が咆哮をあげていた。

 聞くだけで身が震える、恐ろしい叫び声。

 やばい、さっきまでとは比較にならないほど、威圧感が半端ない。


 本気になったのか。

 というか、これまで本気じゃなかったってことか。


 やっぱり、ぼくたちは手加減されていたのか。

 ザガーラズィナーのやつ、遊んでいたのか。

 だけど。


 それが、やつのミスだ。

 ぼくたちは、賭けに勝った。


 黒い疾風となった巨漢のオーガが、土煙から飛び出してくる。

 その右手の指先が光る。

 光線が、ぼくの肩をかすめる。


 血しぶきが舞う。

 ぼくは苦痛に眉をひそめる。


 慌てて、青白いサークルに飛びこむ。

 最後に見た、ザガーラズィナーは。


 嗤っていた。

 とてもとても嬉しそうに、自分を出し抜いたぼくを見て、哄笑していた。


「楽しみにしている! 次に会うときを!」


 ああ、こいつは。

 唐突に、ぼくは理解する。

 戦闘馬鹿なんだ、と。


 転移に伴う意識のブラックアウトが起こる。



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― 新着の感想 ―
[一言] ザガっち「戦うのとかぁ、好きだからぁ───っ!」
[一言] ぼくは異世界で鬼の王をペテンにかける
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