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ぼくは異世界で付与魔法と召喚魔法を天秤にかける  作者: 横塚司


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第126話 浮遊要塞の偵察

 この異世界に飛ばされてから四日目の朝が来た。

 今朝もまた、サモン・フィーストによる宴会料理が、隠れ家の一階にところ狭しと並べられることになった。

 なお、サモン・フィーストで出現させることができる料理は、いくつかのレパートリーから組みあわせて選択できる。


 山菜が多めだったり、海産物が多かったり、肉料理中心だったり野菜ばっかりだったりお菓子ばっかりだったりと種類はいろいろ。

 どれを出すか、と皆に相談してみたところ、ルシアが「お菓子」といいだした。

 それは丁重に無視して、海産物系で攻めることにする。


 といっても、刺身のような生の魚料理はない。

 魚は蒸したものや焼いたものが中心で、貝や海藻をふんだんに使っている。

 香辛料がきいているおかげだろうか、食べ始めると手がとまらないほどおいしかった。


 たっぷりと朝食を腹に詰め込んだあと、出発の準備にかかる。

 といっても、この隠れ家は放置でいいし、持ち込んだ荷物もほとんどない。

 準備というのはつまり、どう動くか、その方針の決定ということで……。


 そのためにはまず、情報が必要だ。

 ぼくはいつものようにカラスを召喚し、リモート・ビューイングで使い魔の視界を得た。

 使い魔のカラスが、朝焼けの大空に舞い上がる。


 ぼくが偵察をしている間、少女たちは雑談に興じていた。

 アリスが、昨夜のことで問い詰められている。


「ん。それで、カズっちの態度はどうだった? 積極的な感じ? それとも……」

「い、いえ、そんなのじゃないです! わ、わたしは別になにも……」


 アリスは必死でごまかそうとする。

 うわずった声で断固拒否の姿勢を貫く。

 よし、がんばれアリス!


 しかし彼女は、いかんせん、とても素直な性格だった。

 そしてミアは、老獪な話術の持ち主だった。

 それはさながら、急ごしらえの砦が、巧みな攻め手によって崩落していくかのようで……。


 やっぱりアリスに隠し事は無理だったよ……。

 たまきが「でも、よかった。アリスが結ばれてくれて、わたしもほっとした」とかいってる。

 おまえはお姑さんですか。


 いや、たまきのいいたいこともわかるけど。

 彼女は心から、アリスとぼくの幸せを願っている。

 そのついでに自分も幸せになれたらいいなと思っているのも、もちろん知っているけれど。


「ん。カズっち、アリスちんはこういってるけど、実際のところどうなのよ?」

「あ、あのね、カズさん。わたしも、その、次の機会には……」


 うう、この魔法、聴覚遮断できないのかな。

 ぼくは『任務に集中するため』両手で耳を塞いだ。


 そうこうするうち、ぼくの視界のなかで、山の表側、つまり学校がおおきくなってきた。

 無残に崩れた校舎。

 その周囲をわが物顔で徘徊するモンスターたちの姿。


 オーガの姿が多いものの、オークもちらほら見える。

 あのでかい蜂は発見できなかった。

 早朝だし、森のどこかに隠れているのかもしれないけど。


 昨日いっぱいでみんながだいぶ狩ったみたいだしなあ。

 火魔法がランク2まで上がっている使い手にとっては、ボーナスステージのような敵であったようだ。

 育芸館ではある程度意図的に火魔法使いを養成していたから、かなりオイシイ狩りだっただろう。


 さて浮遊要塞は、中等部の上空、五十メートルほどの地点に静止している。

 育芸館の付近に五十人もいたから、あれがぼくたちの本部だと思ったのか。


 だとしたら……。

 ぼくは、ふと気づく。


「ひょっとして、ドッペルゲンガーはオーガたちと合流していない? オーガたちに、ぼくたちの情報は伝わっていない?」


 この点はとても重要なところだ。

 ドッペルゲンガーたちは、オーガと合流するため、皆から離れたのではないか。

 その目的を果たす前に、ミアとたまきが彼らを見つけて……。


 ミアたちは、ドッペルゲンガーの変装した生徒に対して、「ワープで光の民という現地民のところに逃げる」と伝えたそうだ。

 ドッペルゲンガーとしては、こちらの情報をより重要だと認識したのだろう。

 だから、味方であるオーガたちに己の持つ情報を伝えるより、連中の一部を世界樹のもとに忍び込ませ、そのうえで転移装置を破壊しぼくたちを孤立させることを優先した。


 いや、そう決めつけることは早計か。

 実際のところ、育芸館はぼくたち中等部在留組にとって本拠地であったことは間違いないのだし。

 そこを占拠したという示威行動の可能性もある。


 モンスターのメンタリティなんて、わからないしなあ。

 ましてや魔王の側近がどう考えるかなんて、想定することすら難しい。


「みんなはどう思う?」


 いつまでも続く猥談をやめさせ、皆の意見を聞く。

 唯一、この猥談に無関心を貫いていたルシアが「一理あると考えます」と答えた。


「ですが、ほかにもドッペルゲンガーがいた可能性はあります。わたくしたちの情報がまったく伝わっていないと考えるのは、あまりに楽観的すぎるかと」

「ん。昨日、シバに変装して生き残りを扇動していたドッペルゲンガーがいたはず。そいつはまだ見つかってない。わたしたちの倒したドッペルゲンガーが、シバに変装していた可能性はあるけど」


 ドッペルゲンガーのはっきりした能力は判明していない。

 そもそも、その存在が判明したのは昨日の夕方。

 戦闘したのも、ただ一度きりである。


 彼らは自由自在に姿を変えることができたのだろうか。

 だとしたら、その本来の姿かたちはどうなっているのだろう。


 このモンスターには、謎が多い。

 そもそもドッペルゲンガーという名前だって、とっさにミアがつけたものだ。

 ぼくたちが知るゲーム的なそれとは、その本質がぜんぜん違う可能性もある。


「どっかの有名RPGだと、ヤマタノオロチやボストロルが卑弥呼や王様に変身してた」


 ミアがいう。

 なるほど、ボスオーガみたいな魔法使い系の変種がいる可能性か。

 ラーの鏡とか、どこかで手に入らないかなあ。


 いやまあ、ドラクエの話はいいんだ。

 使い魔のカラスが、滑空しながらあちこち見てまわっている。

 いまはこっちの様子に集中しよう。


 生き残っている高等部男子の姿は発見できなかった。

 隠れているのかもしれないし、まだ朝も早いから、どこかで寝ているのかもしれないけど。

 でもなあ、昨日、あれだけのオーガが降りてきたし……。


 普通に考えたら、全滅しているよな。

 ざまあみろ、とまでは思わないけれど、彼らの場合自業自得すぎて欠片も同情できない。


 カラスはひととおり地上を見てまわったあと、翼をはためかせ、上昇する。

 浮遊要塞へ。

 この敵拠点の偵察こそ、今回の最優先事項だ。


 一気に高度を上昇させ、一度、浮遊要塞の上空に出る。

 カラスは滑空し、眼下を見た。

 島の様子が一望できた。


 いちめんに、深い森が広がっている。

 緑豊かな広葉樹林だ。

 奥深いところだと、かなり密に木々がそそり立っている。


 枝葉のせいで、あまり地面付近の様子はわからない。

 それでも、森のあちこちで、動きまわるオーガの姿を発見した。

 やはり、すべての戦力が地上に降りたわけじゃないのか。


 見張りなのか、島の縁で外を向いて立っているオーガの姿もある。

 最低限の警戒はしているな。


 もちろん、それは普通の軍隊に対する警戒だ。

 もしぼくたちがここに強襲をかけるなら、グレーター・インヴィジビリティを使えばいい。

 彼らの目くらい、簡単に欺ける。


 とはいえ、モンスターといっても、オーガたちは馬鹿じゃない。

 特にメイジ種は、昨日もきちんと戦術を駆使して、ぼくたちを苦しめてきた。

 ましてやザガーラズィナーという特殊なリーダーがいるなら……透明化程度、なんらかの対策があってもおかしくないかもしれない。


 ここは魔法の世界だ。

 魔法でできることは、魔法で対策される可能性がある。

 そういう特殊な侵入者に向けた備えは……カラスだけじゃ、わからないかな。


 できれば、この偵察でザガーラズィナーの姿まで発見できればよかったのだけれど。

 さすがにそうそう、ボスの姿までは拝めないか。

 島のどこかに城でもあれば、そこに乗り込めとは命令してあるんだけど……。


 残念ながら、ぱっと見てわかる城や砦のような場所はない。

 居城があるとしても、隠されているのだろうか。

 あるいはそもそも、城なんてものに価値を見出していないのか。


 モンスターが権勢を誇るために豪奢な居城をつくる意味とか、ちょっとなさげだしなあ。

 そもそもモンスターとは召喚された使い魔っぽいナニカらしいし。

 でも、そんななかでもザガーラズィナーは、魔王と専従契約っぽいナニカを結んだ存在らしいから……。


 わからないことが多すぎるな。

 とりあえず、わからないことがわかった、というのも情報のひとつだ。

 いまのところは、これくらいで満足するとしよう。


 ところで、なんだけど。

 さっきから、あんまり考えないようにしていたんだけど。

 森のなかをのっし、のっしと歩いている、あの象よりでかい生き物はなんなんだろう。


 恐竜。

 ぼくの脳裏をよぎったのは、そんな単語だった。

 爬虫類のような鱗が全身を覆う、四足歩行の巨大生物だ。


 全長は、十メートルを超えるだろう。

 キリンのように高い首が、樹上から時折、にょっきりと突き出る。

 双眸が赤く爛々と輝いていることから、モンスターなのは間違いない。


 そんなやつが、少なくとも二体、森のなかを我がもの顔で歩きまわっている。

 こいつは、いったい……。

 あとでルシアに聞いてみよう。


 カラスはおおきく旋回し、浮遊要塞から離れるべく山の方に向き直り……。

 そこで、気づく。

 遠くからこの山に近づいてくる鳥がいる。


 鷹だった。

 その鷹は、とても自然にぼくのカラスの方を見る。

 その瞳の奥を覗きこんで……ああ、そうか。


 これは、リーンさんの使い魔だ。

 リーンさんが新たに送り出してくれた、助け船だ。


 よかった。

 あとはうまくあの鷹を誘導して……。

 下から放たれた、一筋の光線が、鷹を討ち貫いた。


 え……?

 次の瞬間、ぼくの視界はおおきく揺れた。

 なんだ!?


 カラスが落下する。

 その視界の隅で、ぼくは見た。

 一体のオーガが、その指を上空に突き上げているさまを。


 そのオーガの肌は、どす黒く染まっていた。

 一本角で、身の丈はほかと変わらぬ三メートル程度か。

 だがその全身から発する威圧感は、遠隔地から見ているぼくが、びくっとしてしまうほどだった。


 ちょっと距離がありすぎて、表情までは確認できない。

 下半身は木々の陰に隠れていて、装備まではわからない。

 それでも理解できてしまうことがある。


 強さの桁が違う。

 なんだか漫画みたいな表現になるけれど、そのオーガのまとうオーラが、目に見えるような気がする。

 そこだけ、空気の質が違うというか……。


 とにかく、あいつはヤバいものだ。

 尋常じゃなくヤバいものだ。

 そのことが、直感で、五感を超えたなにかで、わかってしまう。


 ダメだ。

 こいつがいる限り、リーンさんの使い魔が何匹来ても、山には近づけない。


 カラスが地面に墜ちる前に、ぼくはリンクを切る。

 荒い息をついて、床に倒れこむ。


「カズさん!」


 アリスが慌てて駆け寄ってきて、ぼくの身体を支える。


「大丈夫。ちょっと、びっくりしただけだ」


 たまきがコップに水を入れて持ってきてくれる。

 ぼくはそれを一気に飲み干し、口もとをぬぐう。

 心配そうにしている皆を見渡し、うなずく。


「見たよ。ザガーラズィナーが、いた」


 端的に、事実だけを伝える。


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