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世界シリーズ

世界は崩壊中です。だけどね、

作者: 睦月山

 ある日、一人の少女が世界に現れた。


 少女は言った。


「世界が消えちゃうよ。壊れちゃうよ」


 皆、それを鼻でわらった。


「いったい何を言ってるんだ?」


 少女は西へ向かった。


「世界が消えちゃうよ。壊れちゃうよ」


 無知な子が尋ねた。


「それで、どうなるの?」


 少女は北へ向かった。


「世界が消えちゃうよ。壊れちゃうよ」


 床に伏せっていた老人が応えた。


「未練はないさ」


 少女は東へ向かった。


「世界が消えちゃうよ。壊れちゃうよ」


 料理屋の店主がせわしなく手を動かしながら言った。


「今、急がしいんだ。後にしてくれ」


 少女は世界を周り、渡り、超えて、結局最初のところに戻ってきてしまった。


 少女は立ちつくした。


 そして最後に言った。


「世界が消えても、壊れても。


 人はどうもしないんだね。


 人は未来を見ようとはしないんだね。


 人は世界に捨てられて、


 世界は人に捨てられるんだ」


 少女は消えた。


 そして、世界は崩壊の音を鳴らし始めた。


 世界は消えようと、壊れようと、していた。



         『とある五十二年前の伝承より』




◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇



 凪人なぎとの口から、くかぁーあ、と堪えきれずにあくびが漏れた。それに呼応してどこからか、カァーという鳥の鳴き声が聞こえた。きっと鳥も気持ちがいいのだ。これは、決して、馬鹿にされているとかそういうことではない。


 凪人は偵察、というか見張りとしてここにいるのだが、欠伸くらい、しょうがない。今日はとてもいい天気なのだ。雲一つない空。心地良い風と気温。ほんの二メートル先にはノイズが走り崩れていく世界。


 一昔前のゲームの映像のように荒いその景色をながめていると目が疲れてくる。あーあ、と言いながら仰向けに倒れると青い空と太陽が視界に広がった。制服が汚れてしまうが気にしない。


 このまま寝ちまおっかなー、という誘惑が襲ってくる。本当にいい天気だ。



――寝ている間に〝それ〟に呑まれてしまってもいいかなー、と思ってしまうくらいに。





 人類にとって忘れることができないであろう六十二年前の九月十一日。崩壊は太平洋のちょうど真ん中あたりから始まった。


 とある漁師船によって発見された――と、いっても各国の上層部は既に知っていたらしいのだが――〝それ〟はまだ三十メートルほどのものだった。ノイズとともに景色が崩れていく世界は何も知らなかった漁師たちを反狂乱にさせた。そのまま漁師たちは近くの国までがむしゃらに船を動かし、港にいた人々に泣きついた。それにより公がその存在を知ることになったのだ。


 〝それ〟は世界を支配していた人類に対する世界の反逆ともいえる〈世界崩壊の兆し〉だった。あと百年もたたずに資源がなくなると言われても、気温と共に海面が上昇し、ある国が沈むと言われても揺るがなかった世界じんるいが目に見える世界じんるい崩壊を恐れた。


 そして、それから四十年後つまりは十二年前。幾つかの島を呑み込みながら〈世界崩壊の兆し〉はとうとう大陸に上陸した。




「あっそうだ」


 ぐっと腹筋に力を入れて上体を起こす。そのまま立ち上がると二メートルの距離をつめる。


 今日はやりたいことがあったのだ。


 これが〈世界崩壊の兆し〉といわれ、恐れられているのはいくつか理由があるが、第一にこれを通った者が一度も帰ってきたことがないことが挙げられる。


 ロープで繋いだ動物を使って何度か実験したことがあるのだが、これを通ると景色と同化するようにぐにゃりと歪んで、次の瞬間そこには何もなかった。慌ててロープを引っぱると手ごたえなく、途中で引きちぎられていたそうだ。


 二、三回の動物実験の後は恐れをなして、公式的には実験は行なわれていないことになっていた。もしかしたら、行なわれたことがあるのかもしれないが、一般市民たる凪人の知るところではない。


 と、ここで一つの疑間が生じる。


 もし、体の一部を突っ込んだらどうなるのだろうか?


 顔を入れて、向こうの景色を見れたらすごいことだし、面白い。高校二年生の凪人は好奇心いっぱいのやんちゃな子なのだ。常人では考えつかないこと――半径一メートルの大木を倒すため三六五日間毎日飛び蹴りしたり、空を飛ぼうと布を持って学校の屋上から飛び下りたり――をやったりする。それは決して、馬鹿ではない。並々ならぬ才能を持っているはずだからだ、と本人は思ってたりする。


 と、いうわけで、


「レッツ、チャレンジ!」


 ちょんちょんと凪人は指先でつつく。異常なし。


 今度は手首まで入れて、すぐに引く。問題なし。


 そして、次に顔を、


「何やっとんじゃバッカ野郎おおぉぉお!!!!」


「ぐぅうぇ!」


 思いっ切り襟元を後ろから引っ張られた。





「何が言うことあるか」


「首いってえ……」


「それじゃすまなかったのかもしれねぇんだぞ! ロープの如く引きちぎられてたかも。お前バカだろ。なぁ、バカはバカだろ!」


「残念だが、俺はバカではなく才能ある若者だ。うらやましかろう」


「もうちょっと黙ってろ! 具体的にいうと一年間ぐらい!」


 頭を抱えて唸っているのは凪人の悪友である将輝まさきだ。凪人と同じ高校二年生だ。


「というか将輝。学校は? さぼったのか? けしからんな」


「そのままそっくりお前に返すぞ」


「俺には見張りという任務があるからな」


「あぁもう! せめて柵を越えずに見張っててくれよ」


「よく見えない。あと触れない」


 二人の遥か三十メートル後方に地面に差し込んだだけの簡易な柵がある。つまりは本来ここは立ち入り禁止なのだ。


「というかさ馬鹿らしくないか、学校とか。五年も経てば、この県、なくなるんだぞ。あと半年後には引っ越しだ」


「そういう問題じゃないだろ。大人になったら、働けない性格だよな。凪人って」


 はっ、と凪人は鼻で笑った。


「働けると思ってるのか? どんどん住める陸地が少なくなって、人口密度が高くなって……。これからどんどん世界がなくなってくんだぞ。働くために学校行くとか、時代についていけてないなぁ。将輝くんは」


「お前それ、学校行きたくないだけなんじゃあ……。まぁ、いいや。実は今日の日替わり学食が凪人が好きなオムライスだったりするんだが、まぁ学校に行く意味がないなら、学食も必要ないしな」


「よっし、レッツゴートゥースクールだ。学生たるもの勉強しなくては。勉強は仕事、いや俺たちの存在意義といってもいい!」


 意気揚々と学校へと歩き出す凪人の後ろで将輝はため息をつく。柵までもう一歩というところで、あ、そういえば、と何か思い出したかのように凪人がぽんっと手を叩いた。


「なんか幼子が俺と同じような実験をしていたぞ。きっと俺のような天才になるに違いなぐへぇお。だから、首、しまって、ちょ、やめ」


 将輝は凪人を掴み、全速力で駆け戻る。






 幼子――正確には六歳くらいの女の子だったのだが――は〝それ〟のほんの一メートル手前に座り込んでいた。短パンに襟付きのシャツ。後ろからだと、綺麗な色の銀髪が目立った。外人だ。


 右手に箒、左手に金属製のちりとりを持ち、そしてその箒を無造作に〈世界崩壊の兆し〉に突っ込もうと――。



「あぁもう! なんだよ! 最近の流行なのかこれ!?」


 したところで首根っこを将輝に掴まれていた。


「は、離して下さい! 苦しいです!」


 意外にも日本語で女の子は叫び、じたばた暴れる。振り回した箒の柄がみぞおちにヒットすると、将輝は手を思わず開いて、うずくまった。


「ぐぅっ。痛ってえ……」


「子供相手に容赦ない将輝が悪い」


 女の子はタンッと綺麗に着地すると同時にちりとりを横に一閃した。


 おっと、と凪人が避けると、ブォンッとバカにならない音がした。さぁー、と凪人の顔が青くなる。


「お、お前異常種なのか!!」


 距離をとるその子に向かって叫ぶ。対し、返ってきたのは不満そうな声だった。


「お前……というのは誰でしょう。私にはタンという名前があります。それに異常種というのは昔の差別的な言い方です。才能ギフト持ちと言ってください」


 異常種、または才能ギフト持ちというのは、〈世界崩壊の兆し〉が現れてからしばらくして時々生まれてくるようになった驚異の身体能力を持つ人たちのことだった。幼子でさえも鉄を曲げ、三メートル跳び上がり、五十メートルを六秒で駆け抜ける。


「ふーん。じゃあ、タン。才能ギフト持ちさん。こんな所で何やってるんですかー?」



 凪人のだらけた声色に頬を引き付かせながら、タンは応えた。


「別に。〝それ〟について調べようとしてたんです。これを無くすことができないか」


「それって誰かにそうしろって言われたとか、宗教的にどうこうって感じのやつか?」


「お、復活した」


 腹を押さえつつ、立ち上がった将輝にタンは警戒心を多いに含んだ視線を向ける。


「ロリコンと話をすることなんてありません」


 ふんっとタンは顔をそむけた。


「ちょ、俺がいつロリコンになったんだよ!」


「背後から私を襲いました」


「わぁー。将輝くんこわーいってぇ!!」


 頭をぶたれた。


「俺は普通の人だから! それよりも……」


「何よりもだよ? 将輝くんが変質者ってことよりもですかいってぇな!」


 すねを蹴られた。


「仕方ないですね。会話してあげましょう。何ですか?」


 しばらく将輝がしつこく話し掛けていると、タンは肩をすくめ、やっと口を開いた。


「えっと、〝それ〟を無くしたい理由だよ」


「理由っていっても世界の大半の人が無くしたいって思ってますよ」


「そうじゃなくて、将輝が言いたいのは神さまが遣わし者だ、とか言われたんじゃねぇのかってことだよ」


 〈世界崩壊の兆し〉が現れた後から生まれるようになったため、才能ギフト持ちは神さまが崩壊を止めるために遣わしたのだ、などという話ができてしまった。


 それを元とした宗教や教育思想も生まれたりして、才能ギフト持ちの子どもが自分が本当に神さまが遣わし者だと思って育ってしまう、なんていうこともあるそうだ。そんな子は〈世界崩壊の兆し〉を消滅させるため、日々無望なことを繰り返している。


 その話もタンは知っていたのだろう。あぁ、と納得し、


「私はそういう感じじゃないから安心してください。私はみんなのためにやっているわけじゃないですから」


「じゃあ、何のためだ?」


「そりゃ、みんなのためじゃないなら、自分のために決まってるじゃないですか」


 すこし恥ずかしそうに、へへっと笑ったタンは言った。


「私、目標があるんです。約束……とも言いますが」


 いかにも聞いてくださいオーラを出しながら、タンはちらちら凪人と将輝を交互に見つめる。将輝はため息をつき、


「約束って?」


「引っ越してしまった親友との約束です! お互いが大人になったらまた会って、年と取ったら縁側に座って一緒にお茶を飲むっていう!」


「随分渋いな。なんというかタンの銀髪だと似合わなそうな……。ま、ともかくそれがなんで〝これ〟をなくすことになる――」


 んだ?っと言いかけて凪人は囗をつぐんだ。


「〝これ〟があると年寄りになれないからですよ。正確にはその前にこの国がなくなってしまうだろうから、です」


 僅か四十年で太平洋を覆い尽くした〈世界崩壊の兆し〉は近年広がる速度を落としてはいるが、あと五十年も経たずにこの国がなくなってしまうのは確かだ。タンは見た目六歳程なので、この国で六十歳を迎えることは絶対にない。この国特有の縁側に座ることもできないだろう。



――だから、


「私、世界の崩壊を止めたいんですよ。止めたい、と言っても私がおばあちゃんになるまでこの国が残っててくれればいいんですけどね」


 へへっと今度は苦くタンは笑った。


 凪人と将輝は何も言えなかった。この国で大人になれないのは二人も一緒だった。


「と、いうわけで私は実験を再開するので」


「ちょっと、待った! やっぱ危ないって! 海外に逃げて縁側を造りなさい。それで万事解決です」


「逃げの姿勢は嫌いですので」


「じゃあ、いっそ責めの姿勢で〝これ〟を飛び越えてみるとかどうだ? 案外、呑み込まれた部分が普通に残ってるかもしれないぞ」


「いやなにお前名案みたいに顔輝かせてんだよ。全然名案じゃないからな」


「なるほど」


「タンちゃんも頷くなって! ちょ、何〝それ〟に向かってってるんだよ!」


「きゃー、この人私の腰にしがみついてきますー。たーす一けーてー」


 全く感情がこもっていない声で叫ぶタン。


「おぉ、とうとう将輝がロリコンに。……いや、俺が気づいてなかっただけか……。くくっ!」


 笑顔で嘆く凪人。


「凪人! お前も笑ってないで止めろって! 才能ギフト持ち相手に力勝負はきついって!!」


 必死にタンを止めて、凪人に怒鳴る将輝。







 未来も危ういし、世界は崩壊していくけれど。




 世界には不安と絶望と悲しみで溢れていたりするけれど。




 世界に捨てられたはずの世界の一部(とある三人の子ども)は笑って、ある一日を楽しんで過ごしている。

書いてて凪人が友達だったら、うざそうだなーと思った睦月山です。

と、いうかこの小説のジャンルってなんでしょう?SFであっているのかとても不安です。間違ってたら教えてくださると嬉しいです。


他にも感想、評価、誤字脱字があったらお願いしますm(_ _)m


とりおえず、読んでくださりありがとうございました!

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― 新着の感想 ―
[良い点] 世界は崩壊しつつあるけども、この瞬間の彼らの笑顔は間違いなく本物だと感じた。 様々な疑問はあるが、中々興味深い世界でした。 [気になる点] 太平洋が丸々消えたと言うことは太平洋の漁業資源…
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