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第一話  揺れる馬車の中で

――――――――――ガラガラガラガラガラ―――


一台の馬車が何もない平坦な道を進んでいく。

それを引く二頭の馬は長時間走らされて不満なのか、時々ブルル、と鼻を鳴らしながら走っている。

その馬車の中には二人の少年が景色は見飽きたとばかりにうつらうつらと船をこいでいた。


―――ガラガラガラガラガラガラ――― ガゴンッ


直後、ゴツ、と鈍い音が響く。


「痛ッ!?」


石にでも乗り上げたのか、馬車が一際大きく揺れる。壁に体をあずけて浅い眠りの中にいた少年は見事に窓の淵に頭をぶつけた。壁にぶつけるのならまだいいが、さすがは窓の淵、つまり九十度の角である。

痛みに思わず頭をおさえていると、そこに声をかけられた。


「ははは…。最悪の目覚めだね」

「本当にな」


顔をしかめつつ斜め向かいにいる親友へ視線を移すと、同じく頭を抑えて苦笑いしていた。

どうやら俺と同じ末路をたどったらしい。


「うわ。ルーク、お前痣になってるよ?」

「…マジで?」

「マジで」

「ったく、どうりで痛いわけだ。“治癒ヒール”」


打ったところに手をかざし、詠唱する。別にイタイイタイとんでいけーの代わりのアイタタタなことを言ったわけではない。パアア、と白い光を発し、光が消えると同様に痣も消えていた。

これは治癒魔法。


――――そう、この世界には魔法が存在する。





遡ること十四年前、[雨宮優]は密かに恋をしていた幼なじみを身を呈してトラックから守り、この世界にクロサイト辺境伯爵家の次男、ルーク・クロサイトとして転生した。

この世界には魔法が存在し、炎、水、氷、雷、風、土、闇、光、の八種類の属性とどの枠にも入らない無属性魔法からなる。治癒魔法や防御魔法がこれにあたる。皆が全ての属性を使えるわけではなく、普通は一つか二つ、三つ以上使えるものはそういない。それに対して無属性魔法は魔力さえあれば誰でも使えるといったところだ。

魔物なども存在し、それを討伐する冒険者ギルドもある。


そして前の世界と違うところがもう一つ、人間以外の他種族が存在するのだ。

人間族、竜族、獣人族、ドワーフ族、エルフなどなど。

そしてルークは人間族。特に変わったところはない平均的な種族だ。強いて言うなら魔力保有量が少々多いくらいか。


「―――ん。そろそろ着くみたいだね」

「ああそうだな…ってお前も痣になってるからな」

「バレたか」

「馬鹿言うな。色が白いから目立つんだよ」


ほら見せろ、とシートを横にスライドするように移動し、軽く治癒魔法をかける。髪が少し長めなのでわかりづらいが、打ったところがくっきりと赤くなってしまっていた。

手をかざしているレイディの頭には角が2本、後ろへ、斜め上へと流れるように生えている。

これは竜族の特徴、レイディは火竜族だ。竜族は種族の中で最も力が強く、その中でも火竜族は最大の力を持つ。しかしその分魔力が少ない傾向にある。


「八時に出発して…今は三時か。七時間とか長すぎるだろ」

「しょうがないけど背中が痛い。早く降りたい」


ふう、と息を吐き、窓の枠にほおずえを付きながら不満の声を上げる。

男子とはいえ二人はまだ十四歳、長時間馬車に揺られて移動しているとさすがに疲れてしまう。そのせいで先ほどの悲劇が起こったわけだが。


「お、入国審査が見えてきた。いよいよ馬車とはおさらばだな。」

「残念ながら入国してからもまだ走るけどね。…あ、審査でどんな反応されるか賭けない?」

「……前回と同じ、に一票」

「ははは、俺もそれで」


賭けにならねえだろ、と二人して乾いた笑いを漏らす。なんて話をしてる間に到着。兵士が二人、長い槍を持って気だるそうに敬礼している。御者が彼らに手紙を渡す。


「王都マギアヴェルトへようこそ。……クロサイト辺境伯家第二子、ルーク・クロサイト様。セルヴァン伯爵家第三子、ルディア・セルヴァン様ですね。密入国防止のため中を確認させていただきますが、よろしいでしょうか?」

「どうぞ」


ビシィッ!と二人が貴族だと分かった瞬間に姿勢を正した気がするが、気のせいだろうか。


ガチャリ、ともう一人の兵士が馬車の扉を開く。そして二人の予想は的中することとなった。

兵士が、扉を開けた姿勢のままで口を半開きにして固まっている。視線の先にはもちろんルークとレイディ。人間はもちろん、竜族が珍しいというわけではない。普通に町や村にもいる。

問題は二人の容姿にあった。レイディは目と角が同色の深紅、深い色合いのルビーを思わせる―――って角は本当にルビーなのだとか。その鮮やかな色とは対極的に、後ろで一つに結んだ長い髪と尾は白。尾は硬い光沢のあるウロコに覆われていて日光を受けて白く光っている。漂白剤ぶっかけても色は変わらないのではないだろうか。

白化個体、つまりはアルビノである。

アルビノは非常に珍しく、そうなかなかいない。

それに対してルークは髪も目も黒。なんの混ざりけのない、生粋の闇の色。黒色も珍しく、髪と目の片方だけなら極たまにいるが両方揃っているのは今までに見たことがなかった。ただでさえ色のせいで威圧感があるというのに目つきも少し鋭いため、こう言ってはなんだが近づきがたい雰囲気が出てしまう。

こんなカラーリングのため初対面の人はたいてい驚く。さもありなん。もう慣れた。しかしこんな露骨な反応はいささか失礼ではないだろうか。

埒があかないので、じっ、と目で訴える。


「…あ、も、申し訳ございません!し、失礼いたしました!」

「別にいいですよ。確認はもういいですか?」


レイディが気にしてないというふうに笑顔で言った。洗練された愛想笑いだな。苦労してるのだろう。と人ごとのように思う。主に自分もだが。


「は、はい。どうぞお通りください」


深々と頭を下げ、早口で言った。二人はこれでも一応貴族であるので先程のような反応は大変失礼にあたる。上司にに言いつけられれば部署移動は間違いなしである。再度走り始めた馬車から後ろを振り返ってみてみると頭を叩かれ注意されていた。


「あー。なんというか罪悪感があるな」

「いや、あそこまで露骨だと逆にざまあって思う」

「やめろお前、白いくせに黒いこと言うな」


黒髪をいじりながら言うとひどい答えが返ってきた。確かにあれはどうかと思ったがそこまでではない、はず。


「ルークも思っただろうに。というか睨んでたよね?」

「は?い、いや、あれはちょっと視線で理解して欲しかったっていうか…!」

「うん、あの慌てっぷりは十中八九睨んでると思われたね。どれだけ目つき悪いの。あはははっ!」


言葉を濁そうと思ったが失敗に終わる。…こいつ楽しんでやがる。


「笑うな!生まれつきなんだから仕方ないだろ!…そう言うならお前は女顔だろうが!」


レイディは中性的な顔立ちでルークとは対極的な印象だ。だが本人はやはり気にしてはいるようで。


「うるさいな、ルークよりはまだマシだから。今に小さい子に泣かれるよ?」

「余計なお世話だ!それは普通に傷つく!」


そして軽い取っ組み合いへと発展。馬車がガタガタと揺れ、馬が不満そうな声を上げる。そのついでとばかりに御者がやれやれとばかりに肩をすくませた。


「はっ、力比べで勝てると思うな!」

「ぐ、このっ……“腕力向上パワーアップ”!」


青色を帯びた光がルークの身体を駆け抜け、とたんに腕に力が入る。

火竜族であるレイディには単純な力では到底敵わないがルークは得意な身体強化魔法によってその差を埋めることができる。当然その分レイディは炎属性の魔法を使うことができるが、ここは馬車の中なので危なくて使うことができない。


それを知ってのこの暴挙である。


「ちょ、馬車の中で魔法は卑きょっ…!」

「卑怯?はッ、これは戦略というものだ!勝てばいいんだよ勝てば!」

「今さらだけどお前最悪だね!?」


ルークが押し返し、ぐぐぐ、と二人の力が拮抗する。互いに諦めが悪く、なかなか決着がつかない。


「この白トカゲが…ッ!」

「外見詐欺にだけは言われたくない…!」


そして少し経った頃。


「……御二人共、着きましたよ」


いつの間にか馬車は止まっており、御者がかなり呆れた目でこちらをみていた。

ちなみに今の状況はルークが関節技をかけられている。腕を締められる感じで。

敗因?それはとても単純。腕力向上の効果が切れただけ。


「ああ、いつの間に」

「痛い痛い痛い!いい加減離せよ!とゆうかまじで頼む!」



「長い道のりお疲れさまです。―――王都魔法学院、ご入学おめでとうございます」


窓の外を見ると、敷地に踏み入れるのがはばかれるような、壮大で厳格な校舎がそびえ立っていた。



――――二人はこの、魔法学院に入学するために王都へやって来た。













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