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第1話(忙しい日)

 

 今夜は王宮でパーティが開かれる。

 先日国境線での攻防における功労者へ褒賞を与える式典が開かれた。その功労者達を王宮へ招いて祝賀会が催されるのだ。

 半年くらい前、王宮では王妃の座をめぐって妃達が争い、妃暗殺未遂事件が起こり、非常に騒がしかった。その頃、周辺諸国がこの国にちょっかいを出してたらしい。

 そこで国境線を守る騎士達が踏ん張り、大きな戦争になることなく各国は手を引いた、という。


 王宮の奥に住んでいたけれど、外国から危機が押し寄せていたとは、まるで知らなかった。

 この世界は、てっきり、戦なんてない平和な世界だとばかり思っていた。けれど、騎士達がたくさんいるんだから、いつでも戦争できる状態というわけで。剣は飾りで持ってるんじゃないんだった。

 平和をありがとう、国境線の騎士様方!

 

 そして、私は美しく着飾り祝賀会で彼等をもてなす仕事(妃業)をしなければならない。妃は私一人だからまわってきた仕事だけど、これでも私なりに頑張っている。元妃達のような美しさや華やかさに欠けることは重々承知しているので。


 祝賀会へ向けて、私は風呂に入って体毛剃って全身にクリームを塗りこまれ。夜を前に力尽きかけていた。

 セレブな奥様のエステ三昧だと思えば、思えなくもない、かもしれない。でも、くつろぐどころか疲れるのは私がセレブじゃなかったからなの? こういう大きなイベントの時はいつも以上に念入りに時間がかかってしまって大変。

 そんなに時間かけてもたいして変わらないって、だから毎日と同じでいいじゃない?と思いつつ。

 私は侍女や女官達の指示に黙って従った。それなりの人でも、それ相応に仕上げなければならない。それが彼女達の腕の見せ所。王宮勤めの女官には女官の仕事とプライドがあるのだ。


 時間のかかる準備の中で、私的にどうしても外せないことがある。それは、体毛剃り。面倒だから見えるところだけなんだけど。

 ここの人達は腕も足も毛がふさふさしていて全く気にしない。剃るという考えもない。

 だからと言って私も同じようには、できなかった。

 なぜか?

 もちろん、目立つから。

 ここの人達は金髪だから、体毛も金髪。多少ふさふさしていても太陽の光にきらりと反射していようとも大して違和感がない。

 でも、私の場合は毛が黒いので目立ち方が半端じゃない。

 この世界に一人だけという黒髪が目立つように、体毛も注目を浴びてしまう。

 妃業をする前、警護の騎士に差し出した手の甲をまじまじと見られたことがあった。眉やまつ毛を黒いと驚いて見られる分にはよかったんだけど。なんというか、腕とか手の体毛や毛穴をじっと見られるのは、恥ずかしさが半端じゃない。女子的にとっても情けなくて、走って逃げたかった。気持ちの問題だと思うけど、これだけは開き直れそうにない。

 そんなことがあったから、王宮のイベントに参加する時には自分で念入りに処理していたら、すぐに女官達が対処してくれた。

 王宮の女官はとっても優秀。というか、化粧品を非常に得意とする女官がいる。彼女は私の肌に合わせた化粧品を調合してくれるのだけど、研究熱心で日々進化しつつある。

 今は体毛を剃るのではなく、剥がすタイプの脱毛を今は試作中らしいけど。まだ実用化はしていない。

 彼女の腕が時々痛々しいのは見るに堪えない。あれをいつか私の腕や肩に使用されるのかと思うと。あのタイプの脱毛は、例え完成しても絶対に痛いって私は知っているのよ!

 彼女を説得しようとしたけど、そんなことで止める人ではない。研究熱心でね、本当に。

 そのうち脱毛じゃなくて、脱色できないか提案してみようかと思ったけど、薬品の調合具合とかでまた彼女が傷を増やすのではと言い出せないでいる。


 そうして何時間もかけて私が完成した。王宮のイベントというものは、イベント自体ではなく、その前が大変なのだった。


 大変な時間を乗り越え、ようやく祝賀会の時間がやってきた。こうなれば、後は私が笑顔を振りまけばいいから終りは見えたようなもの。

 会場へ私の登場が告げられ、いつものように視線を浴びながら私は会場へ入場する。でも慣れたから、視線集中くらいなんてことない。

 会場に現れた私を陛下が迎える。豪華な衣装をまとった陛下が私の手を取った。

 陛下を見て、散歩の時に考えていたことを思い出し、にんまりと頬が歪んでしまった。


「どうした、ナファフィステア?」


 青い瞳が私を見下ろし問いかけてきた。

 ナファフィステアは陛下がつけてくれた名前で、日本人の私には激しく似合わない。他の人に何度も呼ばれているうちにすっかり慣れたけど、現代日本でこの名前を呼ばれたら振り向けないと思う。でも密かに気に入ってる。

 名前はいいとして、陛下は訝しげに私を見ている。どうやら傍目にもわかるほど私の顔は崩れていたらしい。


「何でもないわ」


 陛下にはそう答えたけれど。

 私が何も答えないことが不満だったらしい。顔には出さないんだけど、陛下は不機嫌になった。

 いや、つい、ね。

 陛下が彼氏、とかいう妙な考えを思い出しておかしかっただけ。彼氏なんて軽い言葉が重々しい雰囲気の陛下に果てしなく似合わない。ギャップが面白くて。

 加えて、人生で一度も彼氏いたことないから、初彼氏なのかなとか。自分でも馬鹿なことを考えてるなって思うけど。嬉し恥ずかしで顔がニヤケてしまった。

 彼氏がいなかった人にしかわからない感覚だろうな、これは。威張れることではないけど。

 今日は自分でも浮かれ過ぎている気がする。妃業も板についてきたし、順調だし、夏だからかも。


 私は陛下の隣で顔を引き締めて笑顔を作った。陛下はなお不機嫌だったけど。

 さあ、真面目にお仕事(妃業)しないと。


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