番外編4 - 旅の仲間は規格外
三魔人の生前のある日の話。
本編でナルが大変だけど構わず番外編。
今さらながらしみじみ思う。
このメンツでよく今まで旅を続けていられたな、と。
クレープをおいしそうに頬張っているオルフェを見ながらジーモは思う。
問題児と言えばまだまだ生意気盛りのニッチもそうだったが、問題を起こす頻度や問題を解決しようという意欲度から見てもオルフェは相当なトラブルメーカーだった。
昨夜もナンパがしつこいからというだけの理由で、男性を酒場の天井から吊るして楽しんでいた。男性の連れが泣いて土下座をしてもなお遊び続けようとしていた時には、ジーモもさすがに止めに入ったが。
旅を始めるようになってからジーモの常備品の中に胃薬が増えた。タバコの本数も増えた。酒の摂取量も増えた。
すべてがすべてオルフェのせいだとは言わないが、確実に原因の一端は担っている。
最近髪に白いものが混じり始めたのも彼女の与えるストレスが原因だ。これは間違いない。30も近いと言ってもジーモはまだ20代。白髪などあってもダンディーなおじ様を気取れる歳ではない。
「ねぇ、リーダー」
自身の不遇を嘆くジーモの耳に舌足らずな甘ったるい響きを持つオルフェの声が届く。
ジーモとそれほど歳も離れていないはずなのに、10代の娘のような若々しさを保つオルフェに不公平さを感じつつも、ジーモはオルフェの呼びかけに反応を返した。ここで変に刺激して機嫌を悪くさせてもどうせ被害に遭うのはジーモだ。その辺りは諦めという名の割り切りをしないとオルフェとは付き合っていけない。
「明日ここにサーカスの人が来るんだって」
「そうらしいな」
言いながらクレープ屋の屋台の隅に貼られたポスターに目を移す。
隣国から有名なサーカス団がやってくるとかなんとか書かれており、開催日を見ると確かに明日の日付が記されていた。
派手なこと、面白そうなこと、賑やかなこと、が好きなオルフェにとっては三拍子揃ったサーカスは願ったり叶ったりなイベントだろう。常日頃から子どもじゃないと背伸び発言をするニッチにしても、サーカスは心躍るイベントに違いない。実際、オルフェに同調するように目を輝かせている姿は子どもそのものだった。
頭をかいてポスターから視線を外す。
「今日出発する予定は変更せんぞ」
「えーーーー!!」
「リーダーのケチィ!!」
「ぃやかましい!」
無情に告げた宣言に脊椎反射のような早さで批判が返ってくる。
予想はしていたが、自分たちの娯楽のためにジーモの立てた予定を変更する気満々だったらしい。
頬を膨らませて睨んでくる2人をちらりと盗み見し、視線に負ける前にさっと視線を外す。押し切られて予定を遅らせてなるものか。
「でもでもぉ、一日くらい遅れても変わんないじゃん」
「そうだよ、オジサン」
「オジサン言うな」
オルフェの反論を無視してニッチの発言にのみ訂正を入れる。
どつぼにはまるパターンは既に学習済みだった。今回ばかりはしくじったりしない。
ぷくぅっとオルフェの頬が膨らむ。無視されたことに腹を立てているのだろう。
まだ彼女のことを詳しく知らなかった時代ならば『かわいい』くらいは思ったかもしれないが、彼女の本性を知ってしまった今となってはなんの効力もなかった。
「ミスタイガーも動いてるんだ。こんなとこで道草食えるか」
「トラちゃんならオルフェがキュッとしてあげる」
「空恐ろしいことを平気で言うな」
冗談でなく言うオルフェに半眼を向ける。
ミスタイガーと呼ばれる盗掘屋とは因縁のライバルのような関係を築いているが、さすがにどうにかしたいとは思っていない。性格がかなり歪んでいても、ミスタイガーは曲がりなりにも女性だ。フェミニストを気取るジーモには手をかけられるはずもなかったし、手をかけて欲しいと思ってもいなかった。
ぷくぅっとまたオルフェの頬が膨らむ。
基本的に自分の思う通りに事態を転がすのが好きな彼女にとっては、ジーモに口で負かされるのは不満だろう。
たとえ形だけとは言え、この3人組のリーダーをやっているジーモにオルフェも強く押し切ることはできないでいた。時折ニッチと暴走して好き勝手なことはするが。
「じゃあ reader がおもしろいことやって」
「は?」
防戦一方のオルフェを援護するようにニッチが口を挟んでくる。
頭の上に疑問符を飛ばすジーモとは逆に、まさに名案とばかりにオルフェの顔がパッと綻んだ。
「やぁん、それいいかもぉ」
具体的に何を要求されているかは分からないが、とりあえず悪い予感だけはした。
そして残念なことに、それは往々にしてよく当たる。
ひくっと頬を引きつらせるジーモをよそに、実に楽しそうにオルフェが笑いかけてきた。
「リーダー」
「よし出発だ。行くぞ、遅れるな」
すべてをオルフェが言いきる前に遮って歩き出す。
何事においても後手に回ってはいけない、というのは師の教えだ。ことさらオルフェに対してはそれはよく当てはまった。
「ニックン、リーダーが鬼ごっこしてくれるって」
「Good! それはおもしろそうだね」
背中にぶつかる声を聞きながら地面を蹴る。初めから全力疾走でジーモはその場から逃げ出していた。
不摂生な生活を改めようとジーモが決意したのは、2人に捕まって無茶ぶりに付き合わされた後だった。
結局サーカスは見に行きました。




