番外編3 - 兄なのだから
衝動的にヤマト兄妹の短い話を書き上げてしまったのでアップ。
たぶん10歳とかそのあたり。
父に手を引かれて突然現れた男の子は、その日から彼の家族の一員になった。
彼の父の妹の子供――つまり従兄弟だ――とかいうその男の子の両親は、事故で2人揃って亡くなってしまったらしい。幼いころに母を病気で亡くしていた彼とは事情が違うが、親がある日突然いなくなってしまった男の子の気持ちは少しだけ理解できた。多忙な父と過ごす時間が極めて少ない彼にとっては、降って沸いたような男の子の存在はとても嬉しく、沈んでいる男の子を元気付けようと彼が思い至るにそれほど時間はかからなかった。
泣き腫らした目で怯えたような態度を見せる男の子だが、ツラいことがあったばかりなのだから仕方がない。男の子の気持ちを汲んでなおかつ励ましてあげるのが彼の役割だと思った。
兄なのだから。
「おめぇ、どっから来たんだ? ソメイか?」
「う、ううん。ヤエ」
「ヤエか! ソメイからすげぇ遠いな。オレ行ったことないぞ」
声を大きくして驚く彼に、男の子は頬をわずかに紅潮させてうつむいてしまった。
よくわからないが、少しでも大声を出すと男の子はそんな反応をする。声が大きくならないように気をつけてあげなきゃ。
兄なのだから。
「じゃあソメイに来たのはじめてなのか?」
「ううん。父上と来たことある」
「遊びにか?」
「父上のお弟子さんのお稽古に」
おずおずといった調子で話す男の子の手を引いて無理やり立たせる。中途半端な体勢でいるのに疲れてしまった。
いきなり立たされた男の子は驚いたようだけど、ずっと座ったままだと疲れるから悪いことはしていないはずだ。
「弟子ってなんのだ?」
「槍術の」
「おめぇの父上は槍術の先生だったのか?!」
思わず大袈裟に驚いてしまって声が大きくなる。男の子は怯えたように顔をくしゃっと歪めた。
しまった、と口を手で覆う。気を付けようと思ったばかりなのに失敗してしまった。
「流派はなんて言うんだ?」
「えっと……桜華二槍流」
「にそう? 一刀じゃなくて?」
聞き慣れていそうで微妙に聞き慣れない流派に首を捻る。
「桜華一刀流は宗家の嫡男しか継げないから、父上は桜華一刀流の分派の桜華二槍流を継いだの」
「へぇ、そうだったんだ。おめぇは習ったのか?」
「うん、ちょっと」
「ホントか!?」
また大声を上げてしまった。
だけど今度は男の子も驚かなかった。そろそろ慣れてきたのかもしれない。
「じゃあ明日からオレと修行しよう!」
言いながら右手を差し出す。男の子はそれをきょとんとした顔で眺めていたけど、すぐにへにゃっと笑って右手を重ねた。
「うん!」
裏設定として本編に特に出すつもりはなかったネタ。
トウナとシュキハは血のつながった兄妹ではなく、宗家と分家の従兄妹です。




