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閑話1

 すれ違った身なりの良い男性からかすめ取った財布は、さすがジスターデ国の首都に住む人間だけあってスイーツ食べ歩きツアーを敢行しても余りそうな額が入っていた。上々の成果と言える。自然と鼻歌を口ずさんでいた。


『機嫌が良さそうだね』


 耳元で聞こえてきた声に片眉を上げる。こちらから呼びかけなければ応答しないのが常であるのに珍しい。

 近くの樹林でありえない魔力の残滓を見つけたときだって、明らかに適当とわかる対応をしてくれたことは記憶に新しい。相手は忘れているどころか、会話したことすら覚えていない可能性が高いところがなんとも悔しい。

 ということはつまり、常にないことをするような事情があるということなのだろう。ただでさえ面倒なことをわざわざしてやっているというのに、また面倒事が増えるのかと思うと気乗りしない。

 さりとて、このまま無視をしたところで勝手に話しだすのは目に見えている。どの道選択肢がないことに気付いて、ナルは本当に面倒くさそうに嘆息した。


「もうすぐ着くっしょ」

 程よい喧騒の中、寄り道ひとつせずに歩いていることを褒めてもらいたいものだ。いましがた手に入れたばかりのスイーツ食い倒れの軍資金をまだ使っていないのだから。


『それだけど、もう行かなくてもいいよ』


 造りの良い家並みが続く道を北上するナルの耳に、無情にも声は告げた。

 立ち止まる。道の往来で急に立ち止まったので後ろを歩いていた人に軽い接触事故を起こされた。ついでなので財布は失敬しておいた。

 指先でこめかみをかく。


「あたいが近づいてるのに気付いて逃げたんけ?」

『それはないと思うよ。ヤマトと違って私たちの行動理由は単なる興味だ』

「それは師匠だけだっしょ。あたいは師匠よりほんのちぃっと正義感あるけ」

『はは』

 笑われた。

『そういうわけだから、リスタの街に向かってくれるかな』

「そこ4日前に通ったっしょ。まーた戻るんけ」

『影の中を移動すれば明日の朝には着くよね?』


 耳障りだけは良い爽やかな声がナルから選択肢をひとつひとつ消していく。ちきしょうとは思わないが、ナルの反応を見越した上で逃げ道を封じ込めてくる師にいつか逆襲したいものだ。

 はぁ、と今度は正真正銘のため息。

 バンザイするように両手を上げる。

「わーかったっしょ。行きゃいいんしょ」

 通り過ぎる人々が訝しげに見ていくのも気にせず降参宣言をする。師は満足げにするでもなく、ただナルの行動に笑った。

 口元を歪めて天を仰ぐ。遮る雲が少ないくせに、間もなく頭上に到達しようかとしている太陽は陰って見えた。


「師匠が送ってくれたら手っ取り早いっしょ」

『これも修行』

「ちぇー」

 わかっていたことだが、お使い中に手助けはしてくれないらしい。

 ぶうたれるナルに師は言った。


『黄昏が世界にもたらすのは、希望か絶望か。少し楽しみだよね』


ひとまず一区切り。

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