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(2)-4

 今日から晴れて団欒部の部室となった教室で、円を描くように椅子を並べて座る四人。

「で。なにすんだ、これから」

 夕之助がだるそうに背もたれに体を預けて足を組み替える。

「うーん、家族らしいこと?」

「家族らしいこと……ねえ。なんかやってみたいこととかないわけ?」

 改めて問われると困惑と共に、胸が高鳴るのを感じた。

 やってみたいこと――それは麻妃にとってありすぎてわからないぐらいなのだ。

 麻妃は考える。家族でやってみたいことの中で今最も旬なものはないか、尚かつこの面子で楽しめそうなものはないのか。

「あ」

 麻妃は手の平を拳で叩いて、気の抜けた声を出す。

「あれやろうよ、花見。みんなでお弁当持っていってさ」

 季節的にも今ならまだ桜も残っているだろうし、気温も温かくて外に出やすい。そしてなにより家族でお弁当持って花見なんて、想像しただけでも涙が出そうになる。

 花見すらやったことがない麻妃にとって、初めて行く花見が団欒部の面子ならそれだけで胸が躍る思いだった。

「花見いいでありんすなぁー!」

 最初に盛大なリアクションで同意したのは、言うまでもなくサリーである。

「花見か。せっかくなら夜桜とか綺麗なんじゃねーの」

 二人は同意前提で良い反応をくれたのだが、まだ一人何も反応を示してくれていない人物がいた。

「おの……あ、いや、深夜はどう?」

 麻妃は口ごもりながらも勇気を出して下の名前で呼び、問いかけてみる。

 カリカリ、とボールペンが紙を引っ掻くような音がして、

「いいんじゃない、か。よし、じゃあ決まりだな」

 麻妃に差し出した紙には、意外にも良い返事だった。

 やはり仲を深めるには何かイベントが必要なのだ。これを機会にもっと親密になれるといいな、なんて思うだけで麻妃の口元は緩んでいく。

「んじゃ日曜日の昼に麻妃んちで集合して弁当作って、そんでそのまま行くか」

 夕之助が話をまとめてくれ、団欒部初の部活動内容が決定したのだった。

 そんな盛り上がり絶頂……とはいっても、もちろん深夜は座ったまま微動だにしないし、夕之助ははいはいといった感じで上から目線な笑みを零しているし、立ち上がって高校生らしくわいわいやっているのは麻妃とサリーだけだったが。

 丁度その時、廊下を通る女子生徒二人組が騒がしい空き教室に気づき、何事かと覗き込む。

「なにやってるんだろうね」

「あれ? あれは確か……」

「どうしたの? 五月」

 五月と呼ばれた女子生徒は唸りながら麻妃達を眺める。

「うーん……あとちょっとってところで思い出せない」

「知り合い?」

「知り合いのような知り合いじゃないような……」

 五月は窓から顔を離すと腕組みして目を細める。記憶を辿り、その見覚えのある顔を過去の人物と照らし合わせていく。

「ああっ! 思い出した!」

 歩き出した足を一旦止め、その場で声をあげる五月。記憶の破片から見つけ出すことが出来た答えに満足し、すっきりした顔をする。

「やっぱり知り合い?」

 再び問われた五月はその問いに答えず、更に掘り下げて記憶の破片を掻き集めた。

 一つ思い出すと芋づる式に次々と蘇ってくる過去。まさに完成していくパズルのように、その記憶の映像は鮮明になっていくのだった。

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