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幸せな罰ゲーム

作者: 入川出水

 様々なざわめきが背景音となって昼休みの教室を賑やかす。

 日野唯人ひのただとは食べ終えた弁当箱を簡単に片付けると、そっと席を立った。

 近頃、日野の連れの間では食後の暇つぶしにと数人で集まってトランプの大富豪をするのが習慣になっている。この日も馴染みの顔ぶれが揃い、恒例通りに一つの机を囲んで向かい合う形をつくった。そこで面々の一人である黒井が、色白の顔を精一杯歪ませて居並ぶ面子に意地悪げな笑いを見せた。

「今回も、負けたやつは罰ゲームな」

 ぎらりと眼鏡の奥の瞳が光った。もはや定番となった黒井の挨拶。

 けれども、事の始まりはそんなたわいもない一言だった。

 またか、と日野はトランプを繰る手を止めて訝しげな視線を黒井に向けた。

「ちなみに、今回のお題は?」

「ふむ。そろそろ、ちまちました罰には飽きてきたところだからな。ここらでちょっと、でかいの一発お見舞いしようじゃないか。……『愛の告白』ってのはどうだ?」

 黒井の提案に、日野は首を傾げる。

「それって、甘くて酸っぱい、あの?」

「当たり前」

 まさか、そんな罰が認められるはずがない。

 日野は鼻の先で笑った。これまでの罰ゲームはきまって、休み時間や授業中に個人が恥を晒すといった極力無関係な人を巻き込まないような独立した代物だった。だが、告白となるとそうもいかない。必然的に相手が必要になってくるわけだ。

 日野は反対者の仲間を求めるように参加者の面々を見回したが、彼らはただ笑っているだけでほとんど食い下がる様子を見せない。面白ければそれでいいという風潮が漂っていた。

 その中で日野だけが納得できず、あたふたと黒井に尋ねる。

「なあ、やっぱりいくらなんでも告白は厳しすぎないか。だいいち、告白の相手はどうするんだよ」

 黒井はしばし考える素振りを見せて、面倒そうに眉根を寄せた。

「負けたやつの好きな人でいいじゃないか」

 さも他人事のように言ってのける黒井は絶対に負けない自信があるのか、もしくは負けても構わない理由があるのか。どちらにせよ日野には面白くない話だ。

「本気で言ってる?」

「本気さ」

 たわ言ばかりぬかす普段とは打って変わって、やけに真剣な表情の黒井はまっすぐに日野の目を見て言った。黒井が一体何を考えているのか、この時の日野には理解できなかった。

 すると教室内に散っていた級友たちが黒井の提案に興味を示し、外野となってあれこれと騒ぎ立てた。

 ここで抜けるのはありえないよな。雰囲気やムードといったものに敏感な日野は大きく嘆息すると、嫌々ながらにカードを配った。しかし、その内心では、自分だけはきっと負けないだろうという根拠のない自信が幅を利かせていた。

 各人が一斉に手札を引き、勝負が開始される。


 結果は日野の惨敗だった。

「嘘だろ……」

 勝負の終盤、黒井とのビリ争いであと一歩及ばず負けた。

 手元に残ったカードを忌々しげに見つめる。けれども、睨めば睨むほど『敗北』の二文字がより現実味を帯びて日野をどん底に突き落としていくだけだった。

 まさに茫然自失。

 こんなことになるなら抜けておけばよかった。日野は今さらながらに後悔した。

「なんと、君が負けてしまったか」

 黒井は黒井で微妙な表情で日野を眺め、考え込むように額に手を当てた。

「告白だっけ? 冗談だよな」

 はは、と乾いた笑いを漏らす日野を見て、黒井はすぐさま我に返ったように首を横に振った。

「何を言っているんだ君は。罰ゲームも了承済みでゲームに参加したんだろう? ここにきて冗談で済ますのは勝者に申し訳が立たないぞ」

 真っ当な理屈に言い返せない日野は、何とかしてくれよと他の参加者を見やる。しかし彼らの表情からは『同情はするが交代はしない』といった複雑だがとても人間らしい思考が見て取れた。加えて、観衆から浴びせられる好奇と期待の眼差しに日野はとうとう逃げ場を失った。

 今すぐにでも全てなかったことにして、昨日までのリスクもペナルティもない安全なゲームに戻りたかった。

「わかったよ」

 だが、日野はこう言わずにいられなかった。

「よし。お相手は?」

「わからない」

「はあ?」

 黒井を含め、その場に居た全員が呆気に取られた。それが日野の告白を逃れるための口実であると考えたのか、周囲の視線にわずかに棘が含まれたように感じられた。

「好きな人とかいないんだよ」

 日野が頭を掻きながら目を逸らすと、黒井は致し方ないとばかりに溜め息をついた。

「なら、気になる人は」

「これといって……」

「可愛いと思う人」

「可愛いって理由だけで告白するのか? そんなの相手に失礼だし、何より俺が平気でいられない」

「敗者のくせにわがままなやつだな! だったらどうする」

 黒井はいらいらと頭を掻きむしった。

「あたし、日野の好きな人知ってるよ?」

 その時、観衆の中からのんきな声が上がった。その場の全員が一斉に声の主を振り返ると、そこには日野と同じく剣道部の名田が何食わぬ顔で立っていた。

「おい、名田! 何言うつもりだよ!」

 日野の制止も無視して、名田は至って強引に続けた。

「あのねえ。たしか、E組の……」

「あーあーあー!」

 大急ぎで止めようとした日野は背後から黒井に羽交い絞めにされた。名田は身動きの取れない日野を見てにやにやと口元を緩ませると、全員に聞こえるように一際大きな声で一人の女子の名前を暴露した。

 すると、それを聞いた瞬間に黒井の両腕からふっと力が抜けた。抵抗がなくなった日野は勢いそのままに前へつんのめって名田にぶつかってしまい、「なんだよ……」と不審そうな顔で黒井を振り返った。

「どうした、黒井」

 同じく不思議に思った観衆の一人が黒井の肩に手をかけた。しかし黒井はやんわりと手をほどきながら、「なんでもない」と一言残して教室を去って行った。残された面々はお互いに顔を見合わせたが、理由はわからず終いだった。

 結局、午後の授業の間に黒井が帰ってくることはなかった。




     *




 翌日の放課後。

 閑散とした空き教室の扉際で一組の男女が向かい合っている。一人はもちろん日野唯人だ。

 そして相対しているのは、池原みのり。二年E組三番。女子バスケットボール部副部長。教室での席は最窓際の前から二番目。彼女について日野が知っている情報はこれだけだった。

 日野は昨日の昼休みから約一日半、あらゆる条件・場合を想定してシミュレーションを行ってきた。その間、食事は喉を通らず、授業には全く身が入らなかった。そして今、その地獄のような時間を耐え抜いて、決戦の時は訪れた。

 ところが、現実はそんなに甘くない。

 日野君? ――計画通りみのりを空き教室に呼び出したまではよかったものの、彼女と対峙した途端、日野は氷付けになったかのように動けなくなってしまった。生命維持を除く全ての活動を断ち切ったみたいに、何もできない。だが奇妙なことに、頭も体もうまく働かないのに、心だけが、早く何か行動を起こせとばかりに警笛を鳴らし続けている。

 みのりが教室の扉を開けて姿を現した瞬間から、日野は彼女を直視することができずにずっと俯きっぱなしだった。だから現在、彼女がどのような表情で日野のことを見ているのか、はたまた見ていないのか、それすらもわかっていなかった。

 ちくしょう。なんで俺、フリーズしちゃってるんだよ。

 いざとなれば告白なんて何とかなると頭の隅で考えていた。以前、告白できずにもじもじしているい友人を見た時、日野は少なからず軽蔑していた。

 だが違った。思った通りにはいかなかった。百聞は一見に如かずとはよくいったものだ。日野は自分が情けなくて涙が出そうだった。

 油の切れた機械のようにわずかに首を回して横目で窓の外を見ると、ベランダから覗く目玉が数個。黒井と、その他男子数名だ。無論、日野の恥姿を見届けに来たに違いない。雪の降り積む屋外はさすがに冷えるのか、黒井たちは男どうしで肩を寄せ合って寒さを凌いでいた。みのりは窓に背中を向けているので彼らに気付いていない。

 黒井、見に来たのか。

 日野は昨日の黒井の異変の理由を知らない。いつだってあいつが何を考えているかなんてさっぱりわからない。ただ言えることは、あの冷静沈着な黒井が昨日はひどく取り乱していたということだ。

 心なしか、窓越しの黒井の視線は刺さるように痛かった。

「あの、なんというか」

 日野は先程から無意味な単語ばかり繰り返しいた。告白などするのもされるのも経験はないし、言ってしまえば、漫画や小説の中だけのおよそ自分には関係ない類の文化であるとすら考えていた。ところが実際にその状況に立ってみると、思っていた以上に肝心の言葉が出てこない。ただ一言好意を伝える台詞さえ捻り出せれば、それで罰ゲームは終了だと言うのに、その一言がどうやっても出てこない。

「まあ、その」

 単純に好きですと言うのも陳腐な気がしたし、だからといって愛しているなんて大層なことは天地がひっくり返っても言えるはずがない。振られるのが目に見えている告白のディテールなどどれだけこだわろうとも無駄であることは重々承知しているのだが、それでも、下手に済ますのは最も許せなかった。

 難儀な性分だ。

 日野は覚悟を決めて大きく息を吸うと、腹の底から声を張り上げた。

「もしよろしければ、俺と付き合ってくださあああい!!」

 叫んだ。

 残響が空き教室にこだまする。元から静かなこの場所がさらに静まり返ったような錯覚に陥った。

 少しして廊下を運動部が走り抜ける足音が響いたが、日野にはそれがはるか遠くの出来事のように感じられた。彼らが過ぎた後には再び、世界からあらゆる音を消し去ってしまったかのように、ひたすらに穏やかな静寂が訪れた。

 やり切った。これならば振られても悔いはない。日野は心の中で何とも形容しがたい達成感に浸り、固く目を瞑って断頭の瞬間を待った。

「……いい……よ……」

 みのりの消え入りそうな声。日野の目ががばりと見開かれる。

 第一に、自分の耳を疑った。次に、それが日本語の『いいよ』に当たる言葉だったことを確信して、その意図を分析した。分析して、吟味して、理解しようとして、失敗した。

 謎の緊迫に息が詰まり、空気が抜けるような変な音が喉の奥から漏れた。

 いいよ。いいよってどっちだ。遠慮? 了承? それとも、良い世か。何を言っている、全然良い世の中なんかじゃない。なら、E代? 誰だよ。

 受け容れがたい現実から逃れるようにして、支離滅裂な思考が濁流となって頭の中に溢れ出た。

 何がなんだかわからなくて、顔を上げることもできない。

 免疫不足という言葉が脳裏を過ぎる。日野は激しくなる動悸と裏返りそうな声を必死に抑えようと、拳を強く握った。

「いいって、何が」

 ついぶっきらぼうな言い方になってしまう自分に嫌気が差す。だが、それも致し方ない。このような不慣れな状況で平静を保てというほうが土台無理というものだ。

 おそらく一生慣れることはない。むしろ、慣れたくもなかった。

「さっき、付き合おうって言った。ちがうの?」

 みのりの不安げな声に、日野は慌ててかぶりを振る。

「いや、言ったけれど」

「うん」

「本当に、いいの?」

「……うん」

 ここにきて日野は初めてみのりの顔を見た。

 艶のある短い黒髪に、二重目蓋の黒目がちな瞳。女子にしては長身の彼女の目線は思っていた以上に高い。絶世の美女というわけではないが、整った目鼻立ちは十分に可愛いと見なせるレベルだと日野は思った。

 違う。ずっと思っていた。

 友達と廊下を歩く姿、体育館でボールを追いかける姿、玄関で雨空を見上げる憂鬱そうな姿。日野はそれら様々な姿の彼女に何度も目を奪われてきた。

 遠くで見ていられればそれでいい。進歩もないが退歩もない。ノーリスク・ノーリターン。そんな弱気な考えに落ち着いていた。

 ところが、もはやそれでは満足できなくなってしまった。至近距離で見るみのりが美しすぎたからだ。遠目ではわからなかった顔の細かなパーツや、自分だけに向けられる純粋な視線。その中毒的な魅力を知ってしまった今では、この距離を諦めようとは到底思えない。

 心臓も腎臓も動脈もリンパ管もすべてが脈打つような心地よい高鳴りが日野の全身を支配する。感覚神経のハイウェイが大渋滞を起こし、全身の至る所でクラクションが絶え間なく鳴り響いている。

 やがて、日野の視線はみのりの潤いに満ちた柔らかな唇の一点に固まった。

 みのりは今、何を考えている? こういう時は男の方から積極的に攻めるべきか? それとも……。

 疑問が際限なく沸いてくる。胸を突き破らんばかりに鼓動が加速していく。

 だめだ。一旦退こう。

 日野が決断して口を開きかけたその時、みのりは紅潮させた顔を隠すようにぱっと背を向けてしまった。

「は、恥ずかしいね、こういうの。わたし、あんまり経験ないからちょっとよくわかんなくて。でも、嬉しかったな。やっぱり覚えててくれたんだなあって。……えっと、どうしよう。今日から一緒に帰ったりする? 家、おんなじ方向だから、わたしは大丈夫だよ。片付けとかあるからわたしのほうが遅くなっちゃうかもしれないけど、待っててくれるかな。あ、そうだ。名前は? どんなふうに呼んでほしい? 呼び捨てにされるの好きじゃないなら――」

「あのさっ!」

 もはや限界だった。日野は語気を強めてみのりの言葉を遮り、緊張でうまく回らない舌を無理矢理に動かす。

「……ごめん。続きはメールでいいかな。ほら、お互い部活もあることだしさ」

「うん、わかった」

 先程まで故障したロボットみたいに止め処なく喋り続けていたみのりはそれきり口を閉ざしてしまった。けれども、振り返った彼女のほころんだ表情を見る限り、さほど傷ついたりはしていなさそうだ。

 若干気まずい空気の中、二人はメールアドレスと電話番号を交換する。赤外線の送受信の間も、日野は今すぐにも逃げ出したい気持ちを抑えるので精一杯だった。

 とにかく今は時間が必要だ。

 日野は画面内の『受信中』の文字を睨む。

 まさか了承をもらえるとは思ってもみなかった。この不測の事態に対応するにはひとまずこの場を去り、心身ともに落ち着かせなければならない。黒井たちに助言を仰ぐのもいい。その上でゆっくりと考えて、状況を見つめていけばいい。

 でないと、興奮と狂喜で何か突拍子もない行動に出てしまいそうだった。現に今も額に汗が滲み、携帯を持つ手が震えて仕方がない。

「大丈夫?」

 みのりが日野の異変に気付いて顔を曇らせた。

「あ、ああ」

 見ないでくれと日野は念じた。今だけは、このみじめな姿に目もくれずに携帯の画面でも眺めていてほしい。

 ちらりと窓の方を見やると、既に黒井たちの姿はなかった。おおかた事の終わりを察して、ベランダを通じて隣の教室から抜け出したのだろう。

 ややあって通信が終了し、二人は近づけていた携帯電話を離した。

「じゃあ、今晩にでもメールするから」

「うん、ばいばい」

 お互いに別れを告げると、日野は武道場に向かって一目散に駆け出した。

 よし。よしよしよし!

 体が軽い。心が軽い。

 今なら誰よりも速く走れる気がした。この上ない高揚感が源となって足に活力を与え、ぐんぐんと走る速度を上げていく。途中見知った顔に声を掛けられたりもしたが、悪いが今はそれどころではない、無視して駆け続けた。

 胸の辺りがうずくような妙な興奮はいつまで経っても消えることを知らず、みのりから遠ざかれば遠ざかるほど先程の出来事が夢でも幻覚でもなくれっきとした事実として日野の頭に刻みつけられていくようだった。

「いやっほおおおおおう!!」

 日野は感極まって吼えた。

 本日二度目の叫びは校舎を揺るがす大音響となって学校中に轟いた。




     *




 翌朝のこと。

「OKされた!?」

 黒井が椅子を蹴飛ばして大声を上げた。

「ばか、お前!」

 日野は慌てて黒井の首根っこを掴んでぐっと引き寄せると、人差し指を口元に当てた。黒井はばつが悪そうに顔を歪めて周囲の人間に何でもないことをアピールすると、椅子を戻して座り直した。

「あのな、唯人。いくら悲しくてやりきれないからって、嘘はよくないと思うぞ。だって君、昨日、告白してからもずっと下を向いていたじゃないか。その哀れな姿を見てしまった僕たちは無念とともに友の敗北を悟り、静かにその場を去ったんだ」

「ああ、なるほどね……」

 たしかに日野は告白後もしばらく顔を上げることができなかった。しかし、それはみのりの意外な返答に戸惑って目を合わせられなかったからであり、決して振られたわけではない。

 もしや嫉妬か。人生初の告白が成功して強気になっている日野は嘲るような視線を黒井に向けた。それから、わざとらしく溜め息をつくと、制服のポケットから携帯電話を取り出して電話帳を呼び出した。

「見てみろよ。これが全てを物語っているから」

 黒井が飛びつくように画面を覗き込むと、そこにはまぎれもなく『池原みのり』の名前が表示されていた。

「嘘だ! リストにあるだけで中身はカラだろう!」

 黒井は日野の手から携帯電話をひったくると、夢中になって弄り回したが、ほどなく「そんな……」と苦虫を噛み潰したような顔で日野につき返した。

「唯人」

 黒井は小さく呟いた。

「うん?」

「これから、どうするんだい」

「どうするって?」

「言い方が悪かったね。唯人自身は結局どう思っているのかってことだよ。いや、ね。別に君を責めたいわけじゃない。昨今、男女交際に果たして好意が必要とされているのかと問われれば微妙なところだ」

 黒井らしからぬ回りくどい言い方に、日野は違和感を覚えて口をつぐんだ。

「だけどね。唯人はそういうタイプの人間じゃないと僕は思ってる。君は何でもそつなくやり過ごす器用なやつだけど、それは物事を粗末に扱ってるのとはイコールにならないだろう? それに君は一昨日の昼に、可愛いという理由だけで告白するのは間違っているとも言った。正確には『平気でいられない』だったかな。ああ、くそ。何が言いたいかというと、つまり……」

「つまり?」

「……それで、いいのか?」

「え?」

 そこでちょうど始業のチャイムが鳴り、担任が教室に入ってきた。あちこちに散在していた生徒たちはそそくさと自分の席についていく。

「悪い。今のは忘れてくれよ」

 黒井は申し訳なさそうに手を振ると、追及を逃れるようにくるりと背を向けて席に戻った。日野はわけがわからず呆然とその背中を見送った。


 朝のホームルームが始まり、担任が連絡事項を伝える。それを聞き流しながら、日野は昨日の出来事に思いを馳せていた。

 本来ならば昨日のうちからでも一緒に下校するべきだったかもしれない。けれども実際は、日野の気持ちの整理がそこまで追い着いていなかったというのが正直なところだ。

 昨日、部活が終わって家に着いたときには既にみのりから受信があった。

『今日はありがとう! また会えて嬉しいな』

「また会えて?」

 どういうことだ。

 たしかに面と向かって話したのは今回で二回目だった。だが、それを指すにはやや表現がおかしい。煮え切らない思いを抱えながらも、簡単に自己紹介の文で返した。その後、たわいもない話題で何度か往復させた後、みのりの方から「疲れたから寝るね」と来たので打ち切った。文体にはまだ少しぎこちなさが目立つが、普段から女子とメールをするわけではない日野にとっては、やり取りができるだけでも感涙ものだ。

 でも、どこか無理していたような。

 特に、みのりの一通目と二通目との落差が気になった。突然、他人行儀になったというかなんというか。愛想笑いをしている時に少し似ている。元より他人だったのだから気にするだけ筋違いなのかもしれないが。

 ところで、日野がみのりを意識しだしたのは約四ヶ月前、後期中間考査のしばらく前の話だ。

 発端は、名田の赤点回避のためと称して、部活動があるわけでもないのに休日の学校にわざわざ集まって勉強会を行ったことにあった。ちなみに主催は黒井。その時会場となったのがみのりの教室であった。何の気なしに彼女の席に座った日野は、そのままうっかり課題用のノートを置いてきてしまった。

 週明けの月曜日、登校したみのりはおそらくノートを発見したはずだ。表紙には『課題用』という文字と、日野唯人の名前。きっと困ったに違いない。

 同日、ノートをなくしたことに気付いた日野は血眼になって探した。まさか他の教室にあるとは露とも考えず、必死に身辺ばかりを漁っていた。終いには名田あたりが怠け目的に持ち去ったかとも疑った。だが、シロ。

「最悪だ……」

 せっかく終わらせた課題を一からやり直すことを思って途方に暮れた。

 しかし、部活帰りに廊下で日野を待ち受けていた人物がいた。みのりだった。手には見慣れたノート。E組に忘れていたのを届けに来たという。

 とっさに日野は勉強会のことを思い出し、心から彼女に礼を言った。いつから待っているのかと尋ねると、「ついさっきだよ」と答えた。その体は震えていた。

 これが一度目の会話だった。

 その夜、名田に謝罪のメールとともに事情を伝えると、意外な返信が来た。

『あれ、今日女バスは部活なかったはずだけど? 一日早くテスト休みになったって黒井君が言ってた』

 黒井は男子バスケットボール部なので、女子部の情報にも詳しい。それで日野は全てを悟った。

 嘘をつかれたのだ。みのりは本当は何時間も待っていた。日野がそ知らぬ顔で竹刀を振っている間も、隙間風の吹きつける寒い廊下で、ずっと、一人で。

 しかし、日野に遠慮した。

 勝手に忘れていったノート一つ渡すのに、どうしてそこまで親切になれるのか。日野には非常に解しがたい事件だったのを覚えている。

 それからだ、みのりを目で追うようになったのは。

 だが、これはきっかけに過ぎない。本当の理由は別のところにあるのを日野は自覚していた。


「今日から定期考査一週間前になるので、全ての部活は停止となります。学校に残って勉強する人は電気とストーブの管理をしっかりして、完全下校時刻には校舎を出ているように」

 えっ、もうそんな時期か。

 担任の声でふと現実に呼び戻された。

 あれから四ヶ月、あっという間に後期期末考査の番がやってきた。あの時にはまさかこんな事態になるとは予想だにしなかった。

 いつもならこの期間の放課後は黒井や名田と一緒に試験の山を掛けるのに費やすが、今回はいささか勝手が違う。みのりがいるからだ。

 彼女――この場合は恋人を指したいところだが、付き合っているという実感はまだ薄い――と肩を並べて勉強ができるなど夢のようだ。

 夢のようだけど、でも……。

「とりあえず、誘ってみるかな」

「え、何が?」

 隣の席の名田が疑問符を浮かべている。無意識に口に出していたらしい。

「名田……今回はお前の勉強、見てやれないかも」

「ちょっと待って、それすっごく困るんですけど」

 名田ががやがやと責め立てたが、その時には既に日野の頭はみのりへの誘い文句を練ることに切り替わっていた。




     *




『新着メールはありません』

 みのりは寂しげに溜め息をついた。

 逸る気持ちを抑えつつ、携帯電話を握り締める。ひんやりとしていた無機質な表面がみのりの体温で温まった。部活が終わった後もしばらく反応がなかったのでこちらから送ったのだが、返事はなかなか来ない。

 思い出されるのは昼間の出来事。まさか彼の方から言ってくれるとは。もう忘れられていたとばかり思っていた。

 そう、あの時だって――。


 入学したての頃、みのりは日野に会っていた。残念ながら一年生の時も違うクラスだったので教室で話す機会はなかったけれども、ある日の休み時間、教室移動の際に前方から日野が歩いてくるのが見えた。みのりはいつ気付いてもらえるかとそわそわした。

 だが、日野は何も言わなかった。

 立ち止まって自分を見つめてくるみのりに目を留めて一瞬驚いた顔をしたが、結局そのまま通り過ぎていった。「久しぶり」とか「どうしてここに」とか期待していた言葉は一つも返ってこなかった。

 ううん、そうじゃない。覚えていなくて当然なんだ。

 あの頃のみのりとはずいぶんと外見が変わってしまった。髪の長さも、背の高さも、顔だってきっと。同じなのは、中身だけ。


 電車を降りて家路を歩いていた時、ぶるぶると携帯電話が震えた。みのりは反射的にフリップを開くと、画面端のデジタル時計にちらりと目を向けた。送ってから数十分ほど経っている。この時間差が意味するところは、何だろうか。

 気にしちゃだめだ。

 みのりは頭をもたげる邪な考えを振り払うように、メールの本文に視線を移した。

『改めて、日野唯人です。これからよろしくね。また会えて、って前にノートを届けてくれた時の話だよね?』

「あっ……」

 足が止まる。わずかに残っていた希望の灯火はあっけなく吹き消されてしまった。

 やっぱり、覚えていなかった。

 悪いとは思いながらも、どうしても気になって、さりげなくカマをかけてしまった。だが、結果は凶。

 じわりと涙が滲む。持ち上げて落とされた気分だった。舞い上がっていた自分が馬鹿らしい。一度は諦めた思いを、諦めたつもりで燻っていた思い出を見えないナイフでざくりと切りつけられたかのようだった。

 でも、それでもいいや。

 別に覚えていなくたっていい。同じ高校に通う他のクラスの女子として新たにみのりを選んでくれたのなら、それはそれで嬉しい。昔のみのりではなく今のみのりを好いていてくれるのなら、わざわざ正体を明かす必要もない。何よりもおそろしいのは今の関係が崩れることだ。

「しかたない。うん、しかたないよ……」

 みのりは自分に言い聞かせるように呟くと、返事の内容を考えながら歩き出した。




     *




 しくじった。

 隣に座るみのりの横顔を気にしながら、日野は二つの点で失敗を痛感していた。

 一緒に勉強することの最大の利点はお互いにわからないところを聞き合えるというところにある。ところが、試験の内容が異なっていてはそれもままならない。日野は文系で、みのりは理系なのだ。これが、一つ目の失敗。

 国語なんて、聞くも何もないからなあ。

 日野は必死になって共通の教科の質問を探したが、やがて諦めたように溜め息をついた。みのりは日野の心情を察して遠慮がちに声を掛ける。

「たーく……唯人君。無理しなくていいよ。わたしのことは気にしないで、自分のペースでがんばって」

「みのり……。わかった」

 それじゃ一緒にする意味がない、と思いながらも素直に数学の問題集を取り出す。

「でも、もしわからないことがあったら聞いていいからね。理数系の科目なら、わたしたちの方が進んでるからたぶん答えられると思うよ」

 そう言ってにこりと笑うみのりのペンを持つ手は止まることを知らない。すらすらと問題を解いていっては、軒並み丸で囲んでいく。時折「あっ」と声を上げて赤で訂正を書き込んでいるかと思えば、ただの計算ミスだったりして日野は少しがっかりする。

 二つ目の失敗はこれだ。

 みのりは頭が良かった。成績が良いという意味合いももちろんあるが、日野が言いたいのは彼女の知識量というよりは頭の回転の速さ、飲み込みの良さ、記憶力といった『賢さ』の面だ。設問をこなすスピードも、模範解答を理解する能率の良さも飛び抜けている。その上、努力家。

 これじゃ男も形無しだ。

 肩を落として問題を睨みつけるが、数学が苦手な日野はさっそくわからないことだらけだ。だが、ひょいひょいとみのりに頼ってしまってはそれこそ面目が立たない。なるべく自己解決を目指そうと頭を働かせた。

「なんでこうなるんだ……」

 途中計算がうまくいかないのだが、解答を見ても丸ごと省略されていて役に立たない。ぐるぐるとペンを回しながらあれこれ考えてみてはいるが、その間も隣からは赤ペンの快音が次々と聞こえてきて日野を焦らせる。

 きりのよいところまで終わったのか、みのりが椅子にもたれ掛かって「うーん」と背伸びをした。すると、先程から手が止まったきりの日野の様子に気付いて、その顔を覗き込む。

「難しいのあった?」

 どきりと胸が跳ね上がる。

 いつ聞かれるかとびくびくしていた日野はぎこちない笑みを浮かべながら、無言で書き途中の解答を指差した。みのりは日野の解答と問題を交互に見比べて、合点がいったようにうんうんと頷いた。

「わかるわかる。わたしもこれ、けっこう悩んだんだ」

 みのりの言葉に多少救われながらも、やはり頭が上がらない思いだけは拭えなかった。




     *




 考査開始の前夜。

 日野は自室のベッドでうな垂れながら、この一週間を振り返っていた。

 これといって不都合はなかった。仲睦まじい恋人模様。一緒に勉強して、一緒に帰って、一緒に笑う。心配は無用。

 ところが何かが腑に落ちない。引っ掛かりの原因はおそらく黒井の言葉だろう。

『……それで、いいのか?』

 どうなんだ。

「いいのかよ? 俺」

 悪くはないと思う。だが、いいとも言い切れない。

「だから困ってるんだろ……」

 ずっとそんな悶々とした思いが巡っている。みのりの隣に居ても、心の底から笑えない。

『唯人自身は結局どう思っているのかってことだよ』

 何を? 無論、みのりのことをだろう。好きか、嫌いか、もしくはそれ以外か。そういう意味だとはわかっている。

「似てるんだよな……」

 りーちゃん。あれから会っていない。

 あれは入学したばかりの頃だったか、初めて廊下でみのりを目にした時は正直『りーちゃん』かと思った。だが、それはありえない。彼女は遠くへ行ってしまったのだ。ここよりずっと都会だと言っていた。

「似てるからって理由じゃ、だめかな……黒井」

 最近、黒井とあまり話していない。普段ならにやけ顔で勝手に近寄ってくる黒井が、今はこちらから話し掛けなければ会話さえ生まれないような変わり様だ。しかも、その時だって無表情で「そうかもな」と相槌を打つだけで長くは続かない。

 理由が明確でないだけにつらい。

 明日から試験が始まるというのに、日野の胸中は迷いと惑いでいっぱいだった。




     *




 四日間に及ぶ苦しい考査期間を終え、しばらくぶりに羽を伸ばせる休日。

 日野が昼過ぎまでベッドに潜って惰眠を貪っていると、着信音が鳴った。

「みのりか?」

 寝ぼけ眼で携帯電話を手に取ると、黒井からだった。少し霞んできた親友の顔を思い浮かべながら電話に応じると、懐かしい声がした。

『日野。……寝起きか?』

 さすがは黒井。全てお見通しというわけだ。

「……ああ」

 隠す必要もないので素直に認める。

『今すぐ学校来れるか?』

「はあ? どうして」

『話がある』

 有無を言わさぬ声色に、一も二もなく了解の返事をする。

 電話が切れた後も、日野はしばらく動けなかった。なぜ、わざわざ学校なのか? 電話では不都合がある話なのか? 久々に黒井と話せる機会を設けられたというのに、どこか気が晴れない。

 だが、ここで探っていても仕方がない。日野は私服か制服か悩んだ挙句、ぱっと制服に着替えると、飯も食わずに外に出た。

 三十分ほど掛かって学校に着いた。

 校内のどこかまでは聞いていなかったが、直感で自分の教室に向かった。立て付けの悪い扉を開くと、中に制服姿の黒井がいて少し安心した。

「来たか、唯人」

「黒井……いきなりどうしたんだよ」

 教室の中央に立つ黒井は無言で手招きすると、適当な椅子を引っ張ってきて座った。日野もそれに倣う。

 沈黙が流れた。

 粉雪の混じった晩冬の風が窓をがたがたと揺らす。

 以前の黒井の気軽さはそこにはなかった。日野に向けられた背中が、言葉なくして話し掛けられることを拒んでいるように感じられた。

 どれくらい経っただろうか。

 黒井はすっと眼鏡を直すと、乾ききった喉からやっとの思いで言葉を捻り出した。

「……僕は」

 所在なさげに机の木模様を見つめていた日野は、その声にゆっくりと顔を上げた。

「僕は、池原のことが好きだ」

 頭をハンマーで殴られたかのような衝撃が日野を打ち付けた。そして同時に、映画の逆再生を見るようにこれまでの出来事が頭の中を走馬灯のように流れていく。

 これまでの黒井の行動について、様々な点で納得がいった。名田がみのりの名前を暴露した時に失踪した謎も、『それでいいのか』と日野を問いただした意図も、ずっと日野を避けていた態度も、全てはそこに起因していたのだ。

 黒井はぽつぽつと真情を吐露する。

「あの日……大富豪をした日、僕はわざと負けるつもりだったんだ。なぜか? 自力で池原に告白する勇気がなかったから、罰ゲームという大義名分をつくることでそれを補おうとしていたのさ。もし振られても、罰ゲームだから仕方ないって逃げ道が欲しくて……」

「黒井……」

 知らなかった。あの何気ない提案にそこまでの深い意図があったとは。

「でも、だめだった。僕はやっぱり小心者だったんだ。君と僕が残って一対一になった時、ふと手札を見てみた。そしたら、どうだったと思う? なんと、僕はいつでも勝てるようにカードを残していたんだ! あんな茶番まで執り行っておいて、最後の最後まで逃げる用意をしていたんだ! 笑っちゃうだろう!?」

 日野は何も言えなかった。隠された真実を知れば知るほど、黒井の本心を聞けば聞くほど、みのりと結ばれて有頂天になっていた自分が腹立たしかった。

 日野は手が真っ白になるほど強く拳を握った。

「それで終わりじゃない。一度逃げた僕はまだ諦め切れなかった。今度は、もし唯人が振られたら次は僕が告白しようと考えたんだ。『唯人にもできなかったのだから』という前提を求めてね。……ひどいだろう。我ながらこの捻じ曲がった性格には反吐が出るよ。でも、君はなぜか振られなかった。はあ、本当にどうしてだろう。今でも不思議で仕方がないよ」

 そんなの俺だってわかんねえよ、とは口に出さなかった。

「今さら、君たちの関係に水を差すみたいにこんな話をされて、君はきっと怒っているだろうね。言い訳はしないつもりだよ。あんな不当なゲームを仕掛けたことも、君が振られることを望んだことも、振られなかった君を妬んで避けていたことも、全部含めて……すまなかった」

 黒井は立ち上がって深々と頭を下げた。

 日野は黒井のつむじをぼんやりと眺めながら、唇を震わせた。

「黒井、お前、何で」

「ああ、非難の言葉ならいくらでも受け付けよう」

 違う。違わないけど、違う!

 日野は黒井の肩に手を掛けて怒鳴る。

「何で俺に言わなかったんだよ!!」

「えっ……?」

 黒井が目を白黒させる。

 どうしてもっと早くに打ち明けてくれなかったのか。どうして相談に乗ってやれなかったのか。日野はそれだけが心残りだった。それだけが、ずる賢い黒井の犯した唯一の失策だった。

「水臭いっつってんの! ……今の俺がこんなこと言っても説得力ないかもしれないけど、もしお前がみのりに告白したいって俺に相談してくれてたら、俺は何でも手伝ってやったよ。だって、俺なんかよりお前の方が何倍もみのりのことを想ってるからな。……それに、俺はな、本当はみのりの傍にいる資格なんてないんだ」

「おい、唯人。あれ、後ろ……」

 黒井が驚いた顔で何やら指差しているが、日野はもう止まれない。

「いいか、よく聞け黒井! 俺にはなあ! みのりじゃなくて! 他に! ずっと前から好きな人がいるんだよ!」

 がしゃん、と何かが派手に落ちる音がした。

 日野は血の昇った顔で振り返った。開けっ放しにしていた扉の向こうに誰かが立っている。

「あ……」

 絶句。

 なぜか、制服姿のみのりがぼたぼたと目から大粒の涙を流しながら立ち尽くしていた。

 みのりは日野と黒井の視線に気付くと、はっとしたように涙を拭いた。それから、かすれた声で小さく「ごめんなさい、筆入れ忘れて……」とだけ搾り出すと、中身の散らばったペンケースを置いたまま逃げるように走り去って行った。

「日野!」

「……え?」

 視線を戻すと、黒井が怒りを露にしている。

「何をしている! 早く後を追え!」

「追えって……」

 日野は戸惑った。仮に今から本気で追いかけてみのりをつかまえたとしても、掛ける言葉など到底見つからない。

 だって、もう恋人失格なんだから。

「それでいいのか!?」

 またそれか。黒井はいつもそうやって追及してくる。でも、今度ははっきりと『それでいい』と思った。

 日野は力なく頷くと、自虐的に笑った。

「これでいいんだよ。無理に繕って、嘘を重ねて、それでいて平気な顔してみのりの隣にいることなんて、俺にはできない。本心を伝えてきっぱりと別れた方がお互いにとっても幸せなんだよ。そうだろ? それに、お前だって俺たちが離れた方が嬉しッ……!」

 突然、黒井の拳が飛んできた。

 思い切り頬を殴られた日野は体勢を崩すと、そのまま整然と並んだ机の列に突っ込んだ。

 黒井は憤怒の形相で日野を見下ろすと、「ちっ」と舌打ちして教室の外へ駆け出していった。

 それでいい。

「……ごめん、黒井。後は任せた」

 俺じゃあだめなんだ。

 日野はふらふらと立ち上がると、机を元通りに直し、床に散らばったみのりの筆記用具をペンケースに戻して、E組の彼女の机の中に仕舞っておいた。




     *




 週明け、みのりは学校に来なかった。

 名田は頬に青あざをこしらえてきた日野を見て何事かと問いただしたが、まるで答える気になれなかった。

「ん?」

 適当にあしらっていると、登校してきた黒井が沈痛な面持ちで一直線に日野の元へとやってきた。

「……間に合わなかった」

 一瞬何のことかと思ったが、おそらくみのりを追いかけたことについてだろう。

「そう」

 日野のそっけない返事に黒井は反射的に手を出しかけたが、やめた。嘲りに顔を歪め、話はそれで終わりとばかりに机を蹴り上げると、自分の席に戻っていった。

 殴る価値もない、か。

「なんかあった?」

 名田は殺伐とした空気の二人を見て首を傾げた。

「いろいろ」

「ふーん……」

 名田は納得していない様子だったが、口を挟める問題でないと判断したのかそれきりその話題には触れなかった。




     *




「今日もみのりちゃん休みだってさ。今週一回も来てないよ」

 授業中、名田が思い出したように囁いてきた。

 黒板の日付を見やると、金曜日だった。一週間が過ぎるのは早い。それは充実しているからなのか、そうでないのか、正直どっちでもよかった。

「最近、みのりちゃんとうまくいってないの?」

「いってないの、って聞くってことはうまくいってないと思ってるんだな」

 つい憎まれ口がこぼれた。

 名田は日野が怒っていると勘違いしたのか、申し訳なさそうに顔を曇らせた。

「ごめん……。休んでるんだから、うまくいくも何もないよね」

「いや」

 もう別れたよ、と言おうとして、口ごもった。面と向かって別れを告げたわけではないので、まだ付き合っていることになるのだろうか。少し逡巡して、言い回しを変えた。

「もう終わったよ」

「終わった?」

「別れたも同然ってこと」

「え……」

 そこでちょうどチャイムが鳴った。日野や他の生徒は一斉に立ち上がって礼をする。名田だけが座ったまま、立っている日野の腰の辺りを呆然と見つめていた。

 そのまま何もなかったかのように立ち去ろうとする日野の服の裾を、名田が掴んで止めた。

「待って」

「俺、トイレ……」

「いいから座って」

 半ば強引に席に戻される。

「理由、聞いていい?」

「何の」

「とぼけないで」

「言いたくない」

「ダメ」

 はあ、と日野は嘆息すると、名田に告白してからあった出来事を全て話した。名田は息を呑んで聞き入っていたが、話が終わると真っ先に日野を指差した。

「アンタ、最低」

 失望したわ、と名田は切り捨てた。日野は鳩が豆鉄砲を食ったような顔で聞き返す。

「どのへんが最低?」

「自分で考えろ」

 うーん、と真面目に悩んでいる日野を見て、名田は信じられないといった表情で立ち上がる。

「いい? 男女の恋仲にはね、告白した側から振るのは御法度っていう暗黙のルールがあんの! だから今回、日野の方から別れるのは不可能なわけ。インポッシブル。わかる? てか、そもそも好きじゃないのに告白すんじゃねえよ! このたらし野郎!」

 えええええ。

 日野は名田の変貌に面食らう。だがその時、日野はある矛盾に思い当たった。

「好き勝手言ってくれてるけどな! 元はと言えば、お前が勝手に、俺がみのりを好きってことにしたんだろうが! 早とちり女!」

「はああ!? アンタねえ、前にあんだけ『池原さんって何組?』とか『池原さんって何部?』とか『池原さんって彼氏いる?』とかあたしに聞いてきたくせに、よくそんな口が利けるわね!」

「おい、都合の良い部分だけ抜き取るな! その話の始まりはたしか、お前が『可愛い子がいるんだけど』とか言って俺に持ちかけてきたことにある!」

「うーわ、細かいオトコっ! だから振られたんじゃないの!?」

「うるさい! 振られてない! さっきまで俺から振るのは御法度とかぬかしていたのはどこのどいつだよ!」

 ヒートアップした二人の言い争いは、再びチャイムが鳴るまで続いた。


「で、何でみのりちゃんじゃダメなんだっけ。けっこう可愛いのに。日野にはもったいないくらい」

 部室の電気を消すと、名田は投げやりに問い掛けた。

「だから、俺には他に好きな人がいるの」

 すっかり暗くなった外の風景を眺めながら、日野は何の気なしに答えた。

「あー、そうだったね。誰? みのりちゃんより可愛いコ?」

「雰囲気は似てた……と思う」

「覚えてないの? 幼馴染ってやつ?」

「いや、りーちゃんは幼馴染って言うより……あ」

 言ってからしまったと思った。名田との問答にいい加減うんざりして、つい口を滑らせてしまった。

 日野はおそるおそる名田の顔を見やると、案の定、にたあと意地悪い笑みを浮かべていた。

「だれだれ『りーちゃん』って。元カノ?」

「違う」

 日野はさっさと退散を決め込もうと武道場の出口に急いだが、すり抜けるようにして名田が先に外に出た。そして、目にも留まらぬ速さで開き戸に鍵を掛けた。

「ここの戸口って、外鍵なんだよね」

「は?」

 名田はそのまま去ろうとする。

「ちょっと待て! 開けろよ!」

 どんどんと扉を叩く日野を見下すように、名田は嘲笑を浮かべた。

「『りーちゃん』って?」

「誰だそれ」

「じゃあね。明日の朝に凍死体になって発見されても、あたしはシラ切るから」

 名田は踵を返して本当に帰ろうとする。

「あ、待って!」

 名田は足を止めると、首だけ振り返った。

「りーちゃんについて教えてくれたら開けてあげてもいいけど」

「教えます! 何でも教えますから!」

 日野はこの時初めて女を恐ろしい生き物だと思った。




     *




 懐かしい夢を見た。

 あれはたしか、わたしがまだ小学校の低学年だった頃の話。

 蝉時雨の騒がしい夏休み、わたしは実家の近くの公園で一人、ブランコを漕いでいた。

 幼少時のわたしは、父親の仕事の都合で各地を転々とする子で、転校も多かった。仲の良い友達ができたかと思えば、すぐ別れがやって来る。その繰り返しだった。

 幼いわたしにはそれがとてもつらくて、いつしか友達をつくることをやめていた。出会いがなければ別れもない。そんな変に達観した考えを体得してしまっていたのだと思う。

「夏休みはおばあちゃん家で過ごそっか」

 ある年、母は言った。人間不信になりかけていた当時のわたしを案じての提案だったと今ならわかる。

「おかあさんは?」

「お母さんは、お父さんの傍にいなきゃいけないの」

 そうしてわたしは祖母のいる実家に預けられた。

 本当は母と離れたくなかった。大好きな母と一緒ならば、別にどこへ行っても苦ではなかったのに。当の彼女はそれをわかっていなかった。

「子供の遊びはわからないよ」

 祖母は優しかったが、あまり構ってはくれなかった。

 わたしは仕方なく、近くの寂れた公園で一人で遊ぶことが多かった。この辺りはあまり子供が住んでいないのか、公園にはいつもわたししかいなかった。お花を摘んだり、泥遊びをしたり、野良猫を追いかけたり、退屈ではなかったけれど、物足りなさは拭えなかった。


 ある日、知らない男の子が自転車に乗って公園にやって来た。珍しい訪問者に戸惑っていると、男の子はわたしに気付いて話しかけてきた。

「ここ、どこ」

「……あなたはだあれ?」

 わたしが名前を聞くと、彼は『ひのただと』と答えた。

 ただとくんは『旅』の途中で道に迷ったと言っていた。『旅』とは、ただとくんとその友達の間で流行っている遊びで、自転車で見知らぬ土地を探検することをいうらしい。

「ひとりなの?」

 ただとくんの問い掛けに、わたしは素直に頷いた。

「おれもひとりになっちゃったから、いっしょにあそぼうぜ」

 ただとくんは戸惑うわたしを差し置いて砂場に置いてあったシャベルを勝手に拾い上げると、「はやくこいよ」とわたしを呼んだ。わたしはまた『別れ』の恐怖に駆られて足が竦んだ。けれど、彼は怪訝そうな顔で戻ってくると、そんなの知るかとでも言うように強引にわたしの手を引っ張っていった。わたしはびっくりしてされるがままに砂場へと連れて行かれた。

 ただとくんは明るい子だった。会ったばかりなのに物怖じすることなく、引っ込み思案なわたしをぐいぐい先導してくれた。わたしの知らない遊びをたくさん教えてくれた。

「ねえ、りーちゃん」

「……りーちゃん?」

「みのりの『り』をとって、りーちゃん」

 あだ名も付けてくれた。

「じゃあ、ただとくんはたーくんだね」

 お返しに付けてあげたりもした。

 楽しい時間はあっという間に過ぎて、夕暮れが訪れた。わたしがまた会えるかと聞くと、たーくんはわからないと言った。わたしは悲しくなった。


 次の日、わたしがまた公園でブランコを漕いでいると、たーくんが現れた。わたしは嬉しくてすぐ駆け寄って行った。

「これ、いらないからあげるよ」

 たーくんはわたしが一人でいるときも退屈しないようにと図鑑や漫画をたくさん持って来てくれた。繰り返し読んで擦り切れた本だった。彼はいらないからと言っていたけれど、本当は大事な物だとすぐにわかった。そんな大事な物をわたしにくれるということが何よりも嬉しかった。

「ありがとう、たーくん」

「……うん」


 次の日もたーくんはやって来た。今度は一緒に雑木林に出かけた。

 落ちていた木の棒でチャンバラごっこをした。たーくんは剣道教室に通っているらしかった。棒に振り回されているわたしと違って彼は頼もしく、テレビで見るヒーローよりもずっとずっとかっこよかった。


 次の日も、次の日もたーくんはやって来た。晴れの日は外で遊び、雨の日はわたしの家で一緒に本を読んだ。

 いつも二人きりだった。わたしはたーくんを独り占めしているような気分で幸せだった。

 ある日、わたしが「ほかのともだちとあそばないの?」と聞くと、彼は笑顔で「りーちゃんといるほうがたのしいから」と答えた。

 また違う日に、わたしはたーくんに尋ねた。

「どうしてわたしといてくれるの?」

「……りーちゃんがすき、だから」

 彼は照れくさそうにそう言ってくれた。

「どうしてすきなの?」

「うーん。りーちゃんが、かわいいから」

 かわいい。たーくんが、こんなわたしを「かわいい」と言ってくれた。わたしはすごく嬉しくて、胸がどきどきした。

「わたしもたーくんのこと、すき……」

 思い切って口に出した言葉はかすれてしまって、掻き消えそうなほどだったけれど、たーくんはしっかりと聞き取ってくれた。

「おれ、だれかにすきなんていったのはじめてだからな」

「わたしも、はじめて……」

 二人は顔を見合わせると、照れ隠しに笑った。目が合うたびに、笑い合った。

 いつでも、いつまでも。


 たーくんと過ごす夏休みはこれまでで一番楽しかった。けれども、終わりが近づいてきた。

 新学期になればわたしは両親の下へと帰らなければならない。そのことを伝えようと、夏休み最後の日に、わたしはいつも通り公園で待っていた。

 しかし、たーくんは来なかった。

 その理由は今でもわからない。




     *




 日野は目を覚ました。

 懐かしい夢を見た。大好きだった『りーちゃん』との美しき思い出だ。

 あの日、夏休み最後の日、日野は風邪で寝込んでいた。うっかり浴槽で一晩を明かしてしまったツケだった。

 風邪が治ってからすぐに『りーちゃん』に会いに行った。しかしいつもの公園にも、一緒に本を読んだ『りーちゃん』の家にも彼女はいなかった。彼女の祖母に行方を尋ねると、「遠い、都会の方だよ」とだけ教えられた。

 それ以来、日野はずっと『りーちゃん』を想い続けている。

 だが、一つ思い出せないのは『りーちゃん』の本名だ。何をもってして『りーちゃん』と呼んでいたのか、どうしても思い出せない。おそらく『り』から始まる名前なのだろうが、女でそんな名前はありふれている。

「それにしても、どうして夢になんか……」

 そこで一昨日、名田に『りーちゃん』に関するエピソードを洗いざらい吐かされたのに思い当たった。

 なるほど、そのせいか。

 せっかくだから続きでも見ようかともう一度布団にくるまった時、携帯電話が鳴った。

「あっ」

 先日の黒井の呼び出しを思い出して、伸ばした手が止まる。恐る恐る画面を見ると、しかし名田からだった。通話ボタンを押す。

『もしもし日野!? 今どこ!?』

「どこって、家だけど……」

『りーちゃんの公園覚えてるよね?』

「ああ、まあ……」

 一瞬、夢で見たことがバレたのかと思ってひやひやした。

『じゃあ、今すぐそこに来て!』

「はあ? 来てって……お前今あそこにいるの?」

『あー……いない、よ?』

「……ふーん。まあいいや。行ってみるよ」

 日野は釈然としなかったが、名田は放っておくと何をするか知れたものではないので素直に従うことにした。




     *




 自転車を走らせること二十分ほど。

 日野は数年ぶりに例の公園を訪れた。当時はかなり広く感じていたこの公園も、大きくなった今では少し手狭だ。よく遊んでいたブランコはすっかり錆びてしまって、もはや漕げるかも怪しい。

「名田、来てるのか?」

 日野は敷地内に足を踏み入れる。思い出の砂場を横切って、雪解け水で湿った古びたベンチに腰掛ける。

 懐かしいな。

 風の吹きすさぶ無人の公園はひどく物寂しいが、これこそ『りーちゃん』と過ごした青春に相違ない。初めて遊んだ小さな砂場も、高さのない滑り台も、一つしかないブランコも、全てが彼女との追憶だ。

「リーチャンノ家ニ行クトイイヨ」

「ん?」

 ベンチの背中側にある植え込みの向こうから甲高い声がきこえてきた。振り返るが、ずいぶんと長い間手入れされていないのか、植え込みの草は伸びっぱなしで向こう側の様子はわからない。しかし、誰の仕業かはわかりきっている。

「名田、何してんの?」

「ナダ? 知ラナイナ。僕タチニハ構ワズ、早ク行ッテコイ!」

 今度は男の声だ。

「黒井か?」

 しいん。日野が尋ねても返事はない。

「お前ら……ただの悪ふざけなら俺帰るぞ」

 背を向けて去ろうとすると、慌てたように声が飛んできた。

「待ッテ! リーチャンノ家ニ行ッテカラニシテ!」

「早ク行ケ!」

 意味がわからない。今さら『りーちゃん』の家に行ってどうしろと言うのだ。

「なんなんだよ……」

 不承不承見慣れた家の前までやって来たが、これといって何も起きない。昔のままの『りーちゃん』の家があるだけだ。

 懐かしいなあ、ここも。

 感慨に浸ってあれこれ見回していると、ふと表札が目に留まった。

 どうして今まで気付かなかったのか。表札を見れば『りーちゃん』の名字だけでも知れるではないか。薄汚れた板の掠れた文字を読み取ろうと、顔を近づける。

「むかしむかし、あるところに、孤独な女の子がいました」

 すると日野の後ろから声がした。

「女の子には、友達がいませんでした」

 ずっと、聞けなかった声だった。

「ある時、一人の男の子と出会いました。彼は女の子を『りーちゃん』と呼びました。りーちゃんは彼を『たーくん』と呼びました」

 もう聞けないと思った声だった。

「りーちゃんは優しいたーくんのことが大好きでした。……やがて二人は離れ離れになりました」

 だが、最近聞いたばかりの声だった。

「ですが、高校生になる時、実はりーちゃんは帰って来ていました」

 この一週間、聞いていない声だった。

「りーちゃんは、今でもたーくんのことが大好きです。さて、たーくんはどうなのでしょう?」

 表札には『池原』の名前。確定だった。

 日野はゆっくりと振り返ると、気恥ずかしそうに口調を真似た。

「たーくんも実は、ずっとりーちゃんのことが忘れられない寂しがり屋なのでした」

 みのりは涙を目一杯に溜めてにこりと笑うと、日野の胸に飛び込んだ。その感触を確かめるようにきゅっと抱きつき、声をころして泣いた。

「……思い出して、くれた?」

「ああ、全部思い出した」

「……もう、忘れない?」

「絶対に忘れない」

 日野からも抱きしめようと手を回しかけたところで、視界の端に黒い影が過ぎった。庭の梅の木の裏から、ぐっと親指を立てた拳が二つ、覗いていた。

 名田、黒井、ありがとな。

 日野はおせっかいな親友たちに心の中で感謝すると、みのりを強く強く抱きしめた。もう離さないぞ、もうどこへも行くなよ、という思いが伝わるように、ぎゅっと。

 ふわりとシャンプーのいい香りがした。

 冬の寒さをものともしないくらいに、みのりの体は温かかった。

「……まだ」

「ん?」

 胸の中のみのりが思い出したように呟いた。

「わたし、好きって言われてない……」

「そうだったか?」

 でもそんなの言わなくたってわかるだろ。そう目で訴えかけるが、みのりはいやいやをするように首を振った。

 そういえば、罰ゲームの告白の時も『付き合ってください』としか言わなかったか。日野はそう遠くない過去を振り返り、そんなこともあったなと懐かしんだ。

 この距離に辿り着くまでは、一瞬のように短かった気もするし、永遠のように長かったとも感じられる。でも、そんな過程の話はもうどうだっていい。この腕の中にみのりがいるうちは、いてくれるうちは、過去じゃなく未来に目を向けたいと思う。

「俺はりーちゃんのことが……いや、みのりのことが、大好きだ! この先もずっと、ずっと俺の隣に居てほしい!」

 みのりは目をしばたたかせると、涙で濡れたきれいな笑顔で、こくこくと何度も頷いた。

「うん、うん。ありがとう」

 二人は見つめ合う。

 もう迷いはない。今なら胸を張って言える。俺はみのりを愛している、と。

 二人の距離が縮まる。

 どちらともなく目を閉じ、自然に唇が重なった。




     *




 きっかけはただの罰ゲームかもしれないけれど、

 こんな幸せな罰ゲームがあるのなら、

 時には負けてみるのも悪くはないと思った。


短編第二弾です。感想待ってます。

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