目が覚めて驚いた!!
出オチな書き物で、どーもすみません。
午前六時。
可愛らしく憎たらしい歳の、十二歳の弟が我が兄、生田潤壱を起こしにゆく。部屋に忍び込んで敷き布団に横たわる兄を、枕でもって叩き起こすのである。愛らしくも悪戯な笑顔でニヤケて、両手で枕を掴み天井高く振り上げると、全力投球で兄の腹目掛けて叩き降ろした。
「兄貴! あーーさーーだーーぞぉーー! 起きろや起きろ!」
弟が嬉々として、容赦無く枕を幾発も叩き込んだ。だが、兄の腹筋は日頃に空手で鍛えているので、大丈夫。
しかし、余りに執拗だと目を覚ます。
「分かった、分かった……。やめんね、やめんね……。今から起きっけんさ……。叩くなて」
昨日から蒸し暑くて、寝間着の上着とトランクスで、掛け布団無しに寝ていた。彼が平手を上げて合図すると、弟は素直に枕を下ろす。何だか肩に触れる感覚がして、己の肩を寝ぼけまなこで見ると、黒く細い糸の束があった。
引っ張ってみた。
頭がその方向に動く。
再び引っ張ってみた。
再び頭がその方向に動く。
三度目引っ張る。
三度目頭が動く。
四度目…クドいから、やめる。確かに彼は、空手の道場生では髪の毛が襟足に掛かる“やや長髪”ではあるが、寝ぼけた脳味噌を使って一応推理した。腕を組み、暫く思案。そして弟を見て、ひと言。
「ヅラ?」
何だか自身の耳に入る声に、違和感を覚える。弟は丸い瞳を輝かせ、指を差して声をあげた。
「にっ!! 兄ちゃんが、姉ちゃんに!!」
「なっ、何だと! 俺の部屋に忍び込だ、ちち痴女はっ。何処だあっ!?」
勢いよく立ち上がって、半身に構えて周りを見渡し警戒態勢。
「違う違う違う違う。兄貴が、姉貴になっとると!」
「ばばば馬鹿言えっ。俺は、そがん趣味持っとらんぞ!!」
「ほらっ、よおー見てみんね!」
弟は何処からとも無く、壁掛け鏡を取り出して兄の目の前に突き出した。
その鏡に写った人物とは、細面のソフトマッチョな爽やか高校男子……ではなく、細面の色白な美しい少女が居た。鼻筋高く瞳大きめな、どちらかと言えば可愛い方か。艶やかな黒髪はセミロング。
鏡を渋い表情で凝視しつつ、手で輪郭を触り。胸と尻に手を当てて感触を確かめると、小振りながら柔らかい膨らみが脳神経に伝わって来た。血の気が引く。
「マジでっ!!」
マジで。
この日を境に、彼は彼女に変身したのであった。