⑨ カグヤとムサシ
「さあ、私たちも彼の後を追うわよ。」
雪子はそう言うと二人を促し、ビートルに戻った。
彼女の操縦で光学迷彩を掛けたまま、急速上昇したクルマは、そのままひとっ飛びで、直ぐに武蔵の小舟に追いついた。
雪子はビートルを、武蔵の小舟の真上に移動させると、四つのタイヤの車軸を下に向かって伸ばし、それをアームのように使って、真下の武蔵の小舟をガッチリ掴んでしまった。
そしてそのまま小舟を持ち上げると、下関市の上空を越えて、最寄りの馬島まで運んでしまったのだ。
もしもその時、空を仰ぎ見た者が居たなら、不思議な空飛ぶ小舟が見えたことだろう。
運良く誰にも見られなかったからいいものを、急いでいたにしろ、雪子も随分と乱暴なことをしたモノである。
突然空を飛んだ後、馬島に小舟を降ろされた武蔵は、目を白黒させて面食らっていた。
三人はクルマを出て、そんな武蔵に近づいて行った。
「お、お主らは何だ!?妖怪変化のたぐいか?」
流石の武蔵も、平常心を失いかけていた。
無理も無い事である。
「私の名は雪子。妖怪変化のたぐいかと問われるなら、否定できないわね。それより、アナタに会わせたい女性が居るの。」
雪子はそう言うと、カグヤを前に出した。
「アナタ、この娘に見覚えは無いかしら?」
「なんじゃと?」
そう言って武蔵はカグヤをじっと見る。
「…大層美しい娘ごだが、知らぬ顔だな。」
「そんな。あんなに真剣に勝負した間柄なのに…。」
思わず、そう言うカグヤ。
「勝負した?拙者が?貴様のような女ごと?そんな訳あるまい。」
「アナタの方から、寝ている私をわざわざ起こして、勝負を挑んできたのに…忘れるなんて酷いわ。」
「…聞き捨てならぬ事を言う女ごじゃ。それ程までに言うからには、何か証拠でもあるのかのう?」
「アナタのその身体に、思い出させてあげるわ!」
カグヤはそう言うと、まだ小舟の中に立っていた武蔵に向かって飛びかかって行った。
武蔵は素早く、小舟の後ろへ飛び退く。
「おう、おう、活きのイイお嬢さんだ。キライじゃないぞ。」と、まだ余裕の武蔵。
するとカグヤは、少しチカラを使って、5m程上に飛び上がると、そのまま空中で、まるで目に見えない剣を上段に振りかぶったような姿勢を見せた。
それを下で待ち構える武蔵は、本能的にナニかを感じ取り、思わず腰の刀に手をかけた。
構わず、その武蔵に向かって、上空から見えない剣を打ち降ろすカグヤ。
次の瞬間、ガキン!という金属音が、辺りに響き渡った。
武蔵は瞬時に、両手で大小の二刀を抜いており、それを頭の上でクロスするようにして、カグヤの攻撃を防いだのだった。
カグヤが打ち降ろした、見えないはずの剣は、確かにそこに有った。
それは、こんなこともあろうかと、雪子が助手席に忍ばせておいた、オリハルコンの剣だったのだ。




