⑦ 花婿の第二候補
翌日、雪子は、勝手知ったるサン・ジェルマンのシルバーのビートルを借りて、雪村とともに、カグヤを乗せて出かけることにした。
彼女は、久屋大通の地下駐車場から、ビートルを出すと、早速、光学迷彩をかけて垂直上昇した。
そしてそのまま操作パネルにナニやら座標を打ち込むと、次の瞬間にはもう、時空転位に移ったのだ。
「雪子さん、そんなに慌てなくてもイイですよ。」
後部座席の雪村は言った。
「いいえ。すっかり忘れてたけど、アナタは不老不死じゃないものね。だから、アナタの時間は貴重だわ。」
「はあ、お気遣い、どうも。」
じゃあ、最初から誘うなよ。という言葉は飲み込んだ雪村である。
「それで、彼女をどこへ連れて行くんですか?」
「彼女の身の上話から考えられる、花婿第ニ候補の所よ。」
「…それは、僕の次って事ですね?」
「そうよ。そして、生身のニンゲンの能力としては、日本の歴史上、恐らく最強と謳われる人物…。」
「…ああ、分かりました。」
「…?」
助手席のカグヤは、ピンと来ていないようだった。
「話は変わるけど…。」
カグヤは助手席をチラリと見る。
「アナタ、もう少し年齢を重ねると、背中の翼が大きくなって、髪の色が蒼くなったりするのかしら?」
「…そうなんです。よくご存じなんですね?」
「…ああ、もう、間違い無いわね。」
「…?」
「その件に関しても、後で確かめに行くから…。」
「…そう…なんですね?分かりました。お供します。」
そんな会話を交わしている間に、クルマは目的地の座標に出たようだった。
雪村は後部座席から、センターコンソールの表示を見た。そこには、こんな表示が出されていた。
1612年4月13日9時00分。
北緯33度56分。
東経130度56分。
山口県の…下関市のあたりかな?
彼には、何となく目的地の見当がついていた。
眼下に見えるのは、例のアノ島だろうか。
ビートルは光学迷彩をオンにしたまま、その島の浜辺へと静かに降下した。
三人はクルマから出ると、岩陰から、現場の様子をコッソリとうかがった。
そこでは、2名の立会人の元、二人の剣士が、今まさに、決闘の決着をつけようとしている最中であった。
「涼し気な目元でスマートな体格をした、長剣を構えた方が佐々木小次郎。野性的な目をしたガッチリ体型の、舟のオールを削って作った木刀を握っている方が、宮本武蔵です。」
ヒソヒソ声で、雪村がカグヤに解説した。




