㉕ 天孫降臨
「おい、コイツで間違い無いんだよな?」
二人組のうち、手前のヤツが、助手席の男に確認する。
「ああ、この時間にあそこを歩いていた。背格好、服装、髪型、大きなリュック。間違いない。あの家の息子だ!人通りの少ない路地裏に行ったら、その辺の公衆電話から身代金を要求しろ!」
「あら、やだ。ホントにコナン君的な展開じゃない?」
香子は思わず呟やいた。
「ぶつぶつ五月蝿ぇぞ!このガキ!」
奥の男が怒鳴った。
「ヤダヤダ。弱い犬ほど、良く吠えるってね。」
「何だとぉ!?」
「ねえ、ちょっと訊くけど、アナタたち、お金に困って仕方無く、こんな事をしているのかしら?」
「おい!ちょっとクルマを停めろ!」
助手席のヤツが指示した。
多分コイツが主犯だな。香子は見当をつけた。
「コイツ、あのガキじゃねえぞ!」
クルマを路地裏の公園横に停めると、ソイツが言った。
「そうよ。とんだ人違いだわ。分かったら早く解放してちょうだい。今日の私は機嫌がイイのよ。だから特別に見逃してあげる。」
「なんだあ?妙に落ち着きくさって…気に入らねえオンナめ。仕方が無え。コイツの家族からカネを取るか!?」
「…前言撤回よ。今の発言で、アナタたちを、許せない悪人と認定したわ。」
「何を偉そうに抜かしてやがる。だったらどうだって言うんだ!?」
「…だから、こうするのよ。」
香子がそう呟やいた瞬間、背中のリュックのフタが開いて、中から緑色の、複数の紐のようなモノが飛び出した。
数分後、香子は涼しい顔をして、ハイエースのスライドドアから出て来た。
「あら、ラッキー。ウチまで後少しだけ歩けばイイみたい。ちょっと乱暴なタクシーに乗ったと思えばイイわよね?」
そんな独り言を呟やきつつ、彼女は歩き出したのだった。
黒いハイエースの車内には、植物のツタでグルグル巻にされた4人の男と"コイツらは誘拐未遂犯です"と筆ペンで黒ぐろと書かれた、ルーズリーフの紙が一枚、残されていた。
彼等は別れ際に、彼女からこう言われたのだった。
「真冬の夜は気温が下がるけど、運が良ければ、凍死する前に、警ら中のお巡りさんに、見つけて貰えるかもね?ま、せいぜい皆で祈りなさい。」
そんなこんなで、師走の夜はふけていくのであった。
そして年は開けて、問題の1月4日の朝9時を迎えた。
亜空間レストランにやって来た真田香子は、開口一番にこう言ったのだった。
「ねえ?"天孫降臨"を見に行かない?」
「ええ〜っ!?」
鷹志と由理子は同時に叫んだ。
「…というのは、あくまでも言葉のアヤで…。」
それを聞いて何故かホッとする二人。
「今からおよそ1万年前の、日本のとある場所に行きたいのよ。ソコにはきっと、神々に等しいナニかが居るはずなの…大丈夫。歴史的資料に基づく私の予測は、いつも大体当たるのよ?」
香子はそう言って、ニッコリ笑ったのだった。




