㉒ 微妙な変化
取り敢えず鷹志が、地下駐車場にクルマを入れたので、皆で付近を探索することにした。
まず驚いたのが、テレビ塔の名前だった。
1階エントランスに掲げてあるプレートに"中部電力MIRAI TOWER"と書いてある。
いつの間にか、名護屋市のテレビ塔は、中部電力の持ち物になったようだ。
まあ、どの道、サン・ジェルマンのアジトは、その裏側の亜空間だから、影響は無いはずだが…。
取り敢えず、皆でエレベーターに乗ってみる。
2階はイベントスペース。3階はグッズショップ、ラウンジ、カフェだった。そこは伯爵のアジトにむしろ似ていた。
そして驚くべきは、4階、5階だった。なんと、ホテルになっていたのだ。当然部外者は立ち入れない。サン・ジェルマンは、地下に居住区を広げていたが、表の時空では、上階が発達していたのだ。
更にその上の展望デッキは、2008年に"恋人の聖地"に選定されたらしい。
「ねえコッチには、2022年にこのテレビ塔が、国の文化財に指定されたって書いてあるわよ。」
香子は嬉々としていた
そして3階の窓から、南側を眺めていた由理子が言った。
「取り敢えず、空飛ぶクルマは実現してないわね?誰一人、伯爵の技術力に追いついていないってことかしら…ねえ、ちょっと、中日ビルが変な事になってるわよ?それに手前にある、あの空中の、楕円形のプールみたいなモノは、何かしら?」
「あ、こっにも、やたら背の高いビルが建ってる…あれっ、東急ハンズのビルはどこに行ったんだ?」
鷹志も違和感を感じたようだった。
「なんだか楽しいじゃない。そこのテレビはやたら薄くて横長だし…まるで映画館の、ビスタサイズ画面みたいね?」
香子もはしゃぎ出した。
そのテレビでは、丁度NHK総合チャンネルで、ニュースを流していた。 それを見た香子の気分は、いよいよ最高潮に達したようだった。
「ねえ、みんな。ついにやったわよ。高市早苗が、総理大臣になってるわ。ついに日本で初めての、女性総理が生まれたんだわ。」
香子はもう、狂喜乱舞の様相を見せていた。
香子は生まれてからこの方ずっと、日本の伝統的な、いつまでもどこか、封建社会を引きずったような雰囲気が、大嫌いだった。
彼女は"オトコは度胸、オンナは愛嬌"なんて言葉はクソ喰らえと、常々公言して憚らない人物であったのだ。
まだまだある。"オトコに二言は無い"とか、"オンナの腐ったような事を言うな"とか、"女々しい"とか、もっと"オトコらしく、オンナらしく"しろとか…キライな言葉には枚挙に暇が無かった。
そうなのだ。
彼女こそは、SDGsや多様性社会を先取りしたような、先進的な思想の持ち主だったのだ。そして2025年こそ、そんな彼女が永らく追い求めて来た、時代そのモノだったのだ。




