㉑ 香子は未来思考
鷹志が運転席に、由理子は助手席、香子は後部座席に、それぞれ乗り込んだ。
鷹志は、全員の着席とシートベルトを確認すると、早速ビートル2号を地下駐車場から出し、光学迷彩をかけて垂直上昇した。
「ねえ。せっかくだから、座標の入力をやらせてよ。」
出発してすぐに、後ろから香子が言い出した。
「えっ、別にイイですけど。帰りのバッテリー充電の問題も有りますので、あまり極端に離れた時空を、設定しないで下さいよ?」と鷹志。
「分かってるわよ。私もソコソコ予習して来たのよ。」
香子はそう言った。
そうなのである。
真田三兄妹の中で、もっとも勤勉なのは彼女だった。
「ねえ。アナタたち?」
「なによ?」少しムキになる由理子。
「実はワタシ、ずっと疑問だった事があるのよ。」
「へえ〜、何かしらね?」
「アナタたちは、今まで何故ずっと…。」
何となく息を飲む鷹志。
「…"一度も未来に行かなかった"のかしら?」
「それは、サン・ジェルマン伯爵が…。」
何か言いかけた鷹志を、由理子が眼で制した。
「ワタシなら、未来が気になって仕方がないわ。ほら、バック・トゥ・ザ・フューチャーPART2だって、未来に行ってたじゃないの?」
香子は持論を話し続ける。
「そうねえ。どうせなら、あの映画の上を行きましょう。2015年の更に10年後の、2025年なんてどうかしら?」
「…イイわよ。」由理子が即答した。
「えっ?」鷹志は驚いた。
「実は私も、伯爵があまり未来に興味を示さない事が、前々から疑問だったのよ。」
由理子はそう言った。
「伯爵は"未来行きはあまりオススメしない"といつも言っていたよね?」
鷹志もそんな事を思い出していた。
「じゃあ、決まりね。座標を入力するわよ。2025年12月26日9時00分。北緯35度17分。東経136度90分っと。さあ、鷹志君、スタートボタンを押して!」
何だか罪悪感を覚えつつ、鷹志は時空転位のスイッチを入れた。
同じ場所、同じ時間軸上の35年後だったので、目的の時空への到着は、あっと言う間だった。
鷹志はビートルを地上に降ろして、光学迷彩を解除すると、ハザードを点滅させて、路肩に停めた。
サイドウィンドウを降ろして、周りの様子を窺う。
テレビ塔周りにある、セントラルパークの真新しい建物が、明らかに増えていた。
ブランドの店などが並んで、なんだか全体的に、小奇麗になっている。
緑が少なくなり、小鳥や小動物の気配が随分減ってしまったことが、由理子には気になった。
「…テレビ塔は…まだ健在のようですね?」
鷹志が言った。




