⑳ 香子の冬休み
1990年12月26日水曜日の朝9時丁度。
カグヤの事件も一段落して、落ち着いた頃。
23歳の真田香子は、久しぶりに、名護屋テレビ塔の亜空間レストランにやって来た。
小学校教師としての、冬休みの仕事も粗方終わったので、サン・ジェルマンのチームに合流しようと考えたからだった。
今日の香子も、ショートカットの髪に丸ぶちメガネ。シャツは白地に水色のチェック。ボトムはブルージーンズという、いつものスタイルだった。ただ、ここのところ冷え込んで来ているので、グレーのダッフルコートを羽織っていた。
フロアには、メイド姿の由理子と、こちらは珍しくバーバリーチェック柄のジャケットを羽織った杉浦鷹志が、毎年恒例となった、昨日までのクリスマスデートの余韻に浸って、ニヤニヤしながらマッタリ見つめ合っていた。
「なによ。二人してニヤケて。いやらしいわね!」
思わず呟く香子。
「焼かない、焼かない。お姉ちゃんも早く彼氏を作ったらイイのに。」
「私はアナタと違って、オトコをその場のノリで選んだりしないわ。もっと慎重に…。」
「何よ。失礼ね!鷹志は素敵な男性なんだから。何にも知らないクセに!」
それを横で聞いている杉浦鷹志は、すっかり困り顔だ。
誰か助け船を…と思っているところへ、エレベーターのドアが開いてサン・ジェルマンが遅れてやって来た。
「やあ、すいません。ちょっとヤボな用事が入りまして…ああ、香子さん、おはようございます。」
「おはようございます。サン・ジェルマン伯爵。」
香子はすぐに、他所行きの笑顔になって挨拶した。
「今日の任務は何ですか?」
「今のところ、コレといった緊急の案件は無いので…ですから、今日はお二人とご一緒に、タイムマシンの試乗でもしてもらいましょうか?」
「え〜?」由理子は不満気だ。
「まあ、まあ、ユッコ。確か僕等も、最初ヤッたじゃない。」
鷹志は、あの恐ろしい"本能寺の変"の事を思い出していた。
「今回は、久しぶりに鷹志君専用の、グリーンのビートルで行って来て下さい。今日の目的地は自由課題とします。香子さんは、後部座席からイロイロ見て、勉強してもらえばイイと思いますよ?」
「は〜い。了解です。」香子は快く承知した。
「は〜い。」由理子の返事のトーンは低かった。
「じゃあ、早速、地下駐車場に行きましょうか?」
鷹志はもう、早くこの場の空気から逃れたかった。
三名はすぐにエレベーターでクルマの所に向かった。
駐車場には、シルバー、グリーン、レッド、イエローの車体色の、4台のワーゲンビートルが並んでいた。
一見ただの、2003年製のクラシックカーに見えるそれらは、全てサンジェルマンによって、タイムマシンに改造されているのである。
それぞれ通称1号、2号、3号、4号と呼ばれている。
理由は、昔の人形劇"サンダーバード"に因んだものだった。分かる人には分かる話である。




