⑪ 雪子のアイデア
「さあ、そうと決まれば、雪村。」
「はい?」
「せっかくだから私たちは、江戸時代初期の、九州観光でもしましょう。」
「はあ、イイですけど…。」
「それじゃあ、お二人さん、明日の朝迎えに来るから、それまでどうぞごゆっくり。」
最後に雪子が声をかけた。
「イロイロありがとうございます。」
ムサシにしっかりと抱きしめられているカグヤは、やっとのことで返事をした。
その後は、ビートルを、光学迷彩で貴族風の牛車に擬装して、茶屋で団子を食べたり、阿蘇山の火口を見に行ったり、熊本城を見学したりと、本当に観光三昧だった。因みに茶屋のおばちゃんは、お代に砂金を受け取って、面食らっていた。
こんなノンビリするのは久しぶりだったので、雪村もまんざらでは無かった。
「ここまで姉弟水入らずなんてことも、珍しいわよね?」雪子が言う。
「僕と雪子さんが、初めて出逢ったころ以来ですかね?」雪村も言う。
「ねえ、雪村。」
「なんです?雪子さん。」
「私はアナタが弟じゃなかったら、多分この世で一番好きなオトコよ。」
「ボクもそうですよ。でも残念ながら、僕らは時空を超えた姉と弟だ。」
「しかも、私はアナタの一部なんですものね?これじゃあまるで、お互い、度を超えたナルシストね?」
「そうなりますかね?」
最後に雪村がそう言って、二人で笑った。
その夜は、加藤清正の肝入りで整備された、宿場町の旅籠で泊まりとなった。
翌朝、雪子たちはカグヤたちを迎えに行った。
昨日二人を送り届けた洞窟に行くと、丁度二人が出て来るところだった。
カグヤは、昨日より何故か顔の色艶が良く見えた。
ムサシは、ナニか憑き物が落ちたような顔をしていた。
「さあ、カグヤ、取り敢えず私と一緒に、次の目的地に付き合って貰うわよ。」
「はい。あのう、それで…ムサシ様は?」
「ムサシは今後も、この世界線で、宮本武蔵として61年間過ごさないとマズイのよ。だからそれまでは、私が定期的にアナタを20世紀からこの時空へ連れて来てあげるわ。」
「…ありがとうございます。」
「それからムサシさん。」
「おう、何だい?」
「アナタは、ココから自力で熊本城下まで、辿りつけるわね?」
「おうよ。オレは健脚だからな。」
「まあ一晩で、誰かさんに、相当体力を奪われたでしょうが、大丈夫でしょう。」
「…少し反省してます。」とカグヤ。
「いいのよ。今後は時々しか逢えないんだから!」
慰める雪子であった。




