⑩ 武蔵の中のムサシ
「…どう?少しは何か思い出した?」
カグヤは武蔵に問う。
「…待て。こんな事が前にも…アレはサン・ジェルマンとか言ったか?」
「そうよ。その調子で、どんどん思い出して!」
カグヤは必死に重ねて問う。
そして、そんな武蔵に向かって、次々に剣を打ち込んで行った。
その剣を、一太刀一太刀受け止めながら、少しずつ記憶を取り戻す武蔵。
「…その後、妙なトカゲの化け物たちと闘って…そして…ああ、お主は…カグヤ!」
「ムサシ!」
その瞬間、二人とも刀や剣を投げ出して、抱き合った。
「…やっと逢えた。」
感無量のカグヤ。
「忘れていて、済まなかった。」
オトコ泣きのムサシ。
「まずは、めでたし、めでたし、ってところかしらね?」
と、その様子を眺めながら、隣に居る雪村を見る雪子。
「…はあ。でも、この後はどうするんです?史実を変えると、マズイですよ。」
何時もながら、慎重に考える雪村。
「それに確か宮本武蔵には、お通さんという恋人が居たのでは?」
「それは、吉川英治センセイの創作よ。むしろ彼は生涯独身だった。でも野獣のように精力の強い彼が、何時までも、一人切りの夜が耐えられたとは考えられない…。」
「…つまり?」
「だから、このカグヤとの出逢いは、必然なのよ。彼のようなオトコを、イロイロな意味で、昼も夜も満足させられるようなオンナは、他に居ないわ。」
「…なんか、生々しいお話ですね?」
「あら、アナタだって、弓子さんとヤルことヤッてるでしょ?中学生じゃあるまいし…。」
「…雪子さん、言い方!」
「気に障ったのなら、ごめんなさい。不老不死になると、何だかデリカシーが足りなくなるのよ。自覚はしているの。」
「はあ…そんなモノですか。」
「そういう訳だから、ムサシとカグヤが史実の裏側で、コッソリ男女の仲になっても、何のモンダイもないのよ。さらに乱暴な事を言えば…仮に子供がデキたとしても、ソレを養子の宮本伊織にしてしまえばイイのよ…ううん、むしろソレこそが歴史的には正解なんだわ。」
雪子は一人で勝手に納得していた。
そして彼女は、やおら抱き合う二人に声をかける。
「ねえ、お二人さん。」
「こんな所に何時までも居られないから、もっとイイ場所に移動しましょう。」
雪子は、カグヤとムサシをビートルに案内すると、二人を後部座席に押し込んだ。
雪子は運転席に収まり、雪村は助手席に戻った。
「どこに行くんです?」
「この時空内のイイ所よ。」
雪子はそう言って、雪村にウインクした。
後部座席では二人のイチャイチャが止まらない。
さては、アドレナリンと吊り橋効果の相乗作用だな。
雪村はそう思った。
クルマは光学迷彩をかけたまま、一路空を飛んで熊本市近郊へ向かった。
そして、とある山中に降りて行った。
そこは金峰山の霊厳洞という洞窟前だった。
「さあ、一晩だけ待ってあげるから、アナタたち、ここで好きなだけイチャつきなさい。でもその後は、私の言うことを聞いて貰うわよ?」
ウムを言わさないという態度で、雪子は二人に言い放ったのだった。




