翔と同じく。
これで今年最後になると思います。
翔と野々花は、その声に確かな聞き覚えがあった。
混乱と怒号、能力がぶつかり合う音の中でも、不思議とはっきり届いた声。
――影浦陽介。
最後まで一緒に戦おうと、そう決めた人物の声だった。
二人は顔を見合わせ、ほんの一瞬だけ、張り詰めていた肩の力が抜けるのを感じた。理由は分からない。ただ、「もう大丈夫かもしれない」という根拠のない安心感が、胸の奥に広がったのだ。
だが、その安堵はすぐに別の疑問に置き換わる。
(……陽介って、直接攻撃できる能力、持ってたっけ?)
次の瞬間、その答えは身体で理解することになる。
急激に、全身が重くなる。力が抜けるような、頭がぼんやりするような、あの感覚。
「……来た」
野々花は歯を食いしばった。
一度だけ、体験したことがある。あの時と同じだ。
――【法力吸収】。
攻撃ではない。破壊でもない。
能力そのものを、根こそぎ削ぎ落とす力。
周囲を見渡せば、侵入者たちの動きが明らかに鈍っていく。能力の発動が途切れ、焦りと困惑が顔に浮かぶ。
一方で、南家のメイドや執事、そして翔と野々花自身の身体には、不思議と力が戻ってきていた。
「……回復、してる?」
翔が呟いた通りだった。
法力が戻っている。しかも、侵入者側だけが一方的に削られている。
能力戦になるはずだった戦場は、一瞬で様相を変えた。
そこに残ったのは、能力を失った侵入者と、十分な法力を保った守る側。
――結果は、言うまでもなかった。
制圧は速やかに終わった。
侵入者たちは抵抗する間もなく地に伏し、拘束されていく。
縛り上げられていた糸は、古参メイドの能力によるものだったらしい。
蜘蛛へと変じる能力で生み出された糸は頑丈で、逃げる余地を与えない。淡々と作業するその姿から、これが“初めてではない”ことが嫌でも伝わってきた。
翔と野々花は、制圧が完了したのを確認すると、陽介のもとへ向かった。
感謝を伝えなければならない。そう思ったからだ。
その途中で、南家のメイドや執事たちも次々と合流してきた。
事情を聞かされ、「あの人たちが助けてくださった」と知ったらしい。
「ありがとうございます」
「助かりました」
「まさか、あの状況から……」
言葉は様々だったが、込められている感情は同じだった。
深い安堵と、心からの感謝。
その様子を受け止めながら、陽介は静かに視線を屋敷の外へ向けた。
野次馬の気配は、まだ消えていない。
――これは、まずい。
屋根は一部とはいえ吹き飛び、侵入者が複数いた。
能力者同士の戦闘。騒ぎとしては十分すぎるほどだ。
放っておけば、記事になる。噂になる。余計な詮索を招く。
【管理者権限】を使えば、記憶を歪めることはできる。
だが――。
躊躇いが、ほんの一瞬、陽介の中に生まれた。
そんな時だった。
振り返ると、そこに立っていたのは、野々花の父親と母親と思しき人物だった。
気品と緊張を併せ持った表情。
状況を完全には理解していないが、陽介の表情からただ事ではないと察している顔。
その瞬間、陽介の脳裏に、先日の翔と同じくどうでもいいはずの記憶が蘇る。
ユラナスを女子扱いして言い逃れた時の、あの空気。
――やばい、今吹き出したら全部台無しだ。
必死にこらえ、真面目な表情を作る。
こうして、戦闘は終わりを迎え、
次の段階――この事件をどのような方向にしたいか、の会議が、静かに始まろうとしていた。
この可愛らしくないヒヨコにも休息を!(元ネタ:この素晴らしい世界に祝福を!)
ということで、しばらく休ませていただきます。1/5までです。
それでは、良いお年を!




