作戦
星野流星が口にした懸念は、現実的で、そして重かった。
四人同時に『重力軽減』を維持すれば、途中で法力が尽きる――その可能性は十分すぎるほどあった。
流星自身の法力は決して少なくない。だが、能力は“掛ける人数”に比例して消費が増える。途中で解除されれば、屋根の上、あるいは跳躍の最中で落下する。
失敗した時のリスクが、あまりにも大きすぎた。
陽介は一瞬、歯噛みした。
自分の能力――『法力吸収』。
指定した対象、あるいはその周辺に存在する法力を、自身の最大容量まで一気に取り込む能力。
単体で見れば、極めて強力だ。
事実、この能力は【管理者権限】や【能力創造】といった、莫大な法力を要求する能力との相性が異常なほど良い。
一度暴動が起きる。
記憶改竄や管理者権限で法力を消費する。
次の現場で再び法力を吸収し、また消費する。
理論上、体力さえ持てば無限に能力を使える循環構造。
だが――今回は意味がなかった。
『法力吸収』は、他者に分け与えることができない。
自分一人が潤っても、仲間が干上がれば作戦は成立しない。
なら、新しい能力を創ればいい。
“法力を譲渡する能力”を。
そう頭では分かっている。
だが、陽介の思考は、そこで止まった。
脳裏に焼き付いて離れない、あの日の光景。
初めてユラナスと出会った時の、あの視線、あの言葉。
能力創造を乱発すれば、ユラナスの主、”創造神”が動く。
排除命令が出ても、おかしくはない。
それは理屈ではなく、ほとんど呪いだった。
理解していても、指が動かない。
(……どうしろっていうんだ)
正面突破か。
野次に退避してもらい、ワープゲートを使うか。
どれも“今できる最善”ではあるが、どれも決定打に欠ける。
思考が渦を巻き、時間だけが削られていく。
その時だった。
遠慮がちで、それでいて覚悟のこもった声が、背後から響いた。
「あの……僕、法力を回復させられる能力も持っているんですけど……」
空気が、一瞬で変わった。
陽介。
ユラナス。
星野流星。
星野そら。
四人の視線が、まるで示し合わせたかのように一点へ集まる。
――高城陽。
驚きよりも先に、陽介はユラナスの視線を感じ取った。
言葉はない。だが、はっきりと伝わってくる。
(鑑定しろ)
陽介は無言で頷き、『鑑定眼』を起動した。
能力欄。
確かにある。
“自他の法力を回復する能力”。
次に、自然と視線が向かう。
法力総数。
1000。
思わず、息を呑んだ。
翔や野々花よりも多い。
これまで見てきた平均――およそ500前後。
その倍だ。
(……なるほど)
以前、何気なく「一般人は500くらいだ」と口にした時、
ユラナスが一瞬だけ見せた、あの驚いた表情。
この町には、もっと“持っている”人間がいる。
それを、ユラナスは知っていたのだ。
(……後で、絶対調べる)
だが、今は目の前だ。
陽介は皆に向けて、はっきりと言った。
「本当だ。この人、法力回復できる」
短い沈黙の後、作戦は即座に組み替えられた。
五人同時は危険。
回復が追いつかない可能性が高い。
――なら、三人。
陽介。
『重力軽減』を維持する星野流星。
そして、その流星を支える高城陽。
潜入方法は単純かつ無謀。
重力が半減した身体で、壁の凹凸を使い、跳躍で屋根まで駆け上がる。
もし落ちそうになったら、ユラナスの【事実凍結】で何とかしてもらう。
理不尽で、強引で、少し怖い。
だが、それしかなかった。
(……巻き込んだのは、俺だ)
陽介は一歩前に出た。
「俺が先に行く」
覚悟を決めた瞬間、星野流星が能力を発動する。
身体が、ふっと軽くなる感覚。
同時に、高城の回復が始まったのを感じた。
陽介は壁を蹴った。
跳ぶ。
掴む。
また蹴る。
視界の端で、二人が続いてくるのが分かる。
腕が張り、息が荒くなる。
それでも止まらない。
そして――屋根に空いた、侵入口。
陽介が辿り着いたのを確認すると、流星は即座に『重力軽減』を解除し、ユラナスを迎えに戻った。
穴の縁に手をかけ、陽介は中を覗き込む。
爆音。
能力の残滓。
交錯する殺気。
確認の意味を込めて、そして――
戦場に踏み込む覚悟を示すように。
陽介は、声を張った。
「大丈夫か、お前ら」




