侵入者
翔たちは、静まり返った屋敷の一室で夕方まで勉強を続けていた。分厚い本と紙の擦れる音、時折聞こえるペン先の音だけが空間を満たしている。
窓の外はいつの間にか夕焼けに染まり、長く伸びた影が床を横切っていた。
「そろそろ……帰ろっか」
翔がそう切り出した、その瞬間だった。
――ドンッ!!
屋敷の一角から、腹に響くような爆発音が轟き、ほぼ同時に複数の悲鳴が重なった。
空気が一瞬で張り詰める。
「今の……!」
翔と野々花は顔を見合わせる暇もなく、音のした方向へ駆け出した。廊下を曲がり、視界が開けた先――
そこは、もはや勉強会の屋敷とは思えない光景だった。
崩れた壁、焦げ跡、舞う粉塵。その中に、複数の“影”が蠢いている。敵対者と思しき人物たちは、それぞれが異なる能力を発動させ、屋敷のメイドたちと激しくぶつかり合っていた。
だが、メイドたちもただ守られている存在ではない。視線、動き、合図――無駄のない連携で、能力を織り交ぜながら敵を追い詰めていく。その動きは、日常の所作と戦闘が完全に一体化していた。
「……すご」
思わず翔が呟く。
しかし、状況は良くないらしい。近くで応急処置を受けていたメイドが、荒い息の合間に教えてくれた。
「数が……多すぎます。少しずつ、消耗が……」
翔は天井を見上げる。そこには、不自然に穿たれた大穴があった。夜空が覗いている。
「上から……侵入されたのか」
状況を理解した瞬間、翔たちは頷き合い、それぞれの能力を解放した。戦線に加わったことで、場の均衡は一気に変わる。敵の動きが鈍り、押し返されていく。
――その時だった。
天井の穴の向こう、闇の中から、軽い調子の声が降ってきた。
「大丈夫か、お前ら」
その声に、戦場の一瞬の静寂が訪れる。
敵か、味方か。
誰もが、次の一手を測りかねていた。
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陽介とユラナスは、これまで解決してきた事件のことを振り返りながら、最寄り駅から陽介の家へと歩いていた。二人ともどこか満足そうで、緊張の抜けた会話が続いていた。
しかし、それは突然終わる。
「……ユラナス」
「うん」
二人の表情が、一瞬で変わった。
周囲を流れる法力――その“向き”が、明らかに歪んでいる。
「一点に……集まってる。しかも量が多い」
「能力の使用頻度も異常だね。戦闘規模、かなり大きい」
視線を交わすまでもなく、目的地は一致していた。
ある“屋敷”へと、法力の流れが強く引き寄せられている。
「行くぞ」
「はい」
言葉はそれだけ。二人は一気に走り出した。
迫るのは、ただの小競り合いではない――そんな予感だけが、背中を押していた。




