肺活量の広告
久々の陽介パートです。
何度も確認した。
目を閉じて、もう一度開いて、それでも――やはり数値は変わらない。
「……一万五千、か」
陽介は小さく息を吐いた。見間違いだと思いたかった。だが、何度見直しても、法力総数の表示は確かにそこにあった。以前より、明らかに増えている。それも、誤差や一時的な揺らぎでは済まされない量だ。
理由が分からない、というのが一番気持ち悪かった。
総量が増えるような能力を使った記憶はない。大きな事件に巻き込まれたわけでもない。なのに増えている。
一応、ユラナスにも聞いてみた。
だが返ってきたのは、首をかしげる仕草と、「分かりませんね」というあっさりした一言だけだった。嘘をついている様子はない。むしろ本当に知らない、と言われた方がしっくりくる態度だった。
「……俺だけ、おかしいのかもな」
そう呟いて、陽介はこの件をひとまず保留にすることにした。考え続けても答えは出ないし、今は疲れも溜まっている。深追いするのは得策じゃない。
総結論が出ると、ユラナスがもう帰る、と言ってきた。
いつものように窓際まで見送りに行き、夜風が入り込む中で短く別れの言葉を交わした。
特別な会話はなかったが、それがかえって日常感を強める。
窓を閉め、鍵を確かめてから、陽介は風呂へ向かった。
湯に浸かると、張りつめていた思考が少しずつ緩んでいく。
肩まで沈み、天井を見上げながら、法力の数値のことを考えないようにした。だが、完全には追い出せない。湯気の向こうで、数字だけがぼんやりと浮かんでは消える。
風呂から上がったあと、ふと「そういえば」と思い立ち、久々に机の前に座った。
散らかり気味だった机を軽く整理していると、奥からノートパソコンが顔を出す。
「最近、全然触ってなかったな……」
そう思った瞬間、なぜか懐かしさが込み上げてきた。
電源を入れ、なんとなくネットを眺める。特に目的はない。ただ指が動くままに、画面を切り替えていく。
すると、不思議と同じ広告ばかりが目に入った。
やたらと強調された「肺活量」の文字。健康系なのか、トレーニング系なのか、自分でもよく分からないが、妙に主張が強い。
「……なんでこればっか出るんだ」
小さく苦笑しつつ、しばらく時間を潰したあと、陽介はパソコンを閉じた。
もう十分だ。今日は考えることが多すぎる。
布団に潜り込むと、身体の重みが一気に押し寄せてきた。
目を閉じても、しばらくは法力総数の増加について考えてしまう。理由の分からない変化、不気味な沈黙。
だが、その思考も長くは続かなかった。
疲労が勝り、意識はいつの間にか闇の中へ沈んでいく。
静かな夜だった。




