法力総数
更新なかなかできなくて申し訳ない。今週にはこれを含めてあと七話更新、すべて終わらせるつもりですので、待っていてください。
午後も、午前中とほとんど同じだった。
能力が原因で起きかけた揉め事や暴走を、陽介とユラナスで“なかったこと”にして回る。
人の記憶を少しずつ歪め、行動の結果だけを消し、誰も深く疑問を持たない形に整えていく。
それを何件も、何件も。
終わる頃には、夕方の空がオレンジ色に染まり始めていた。
「……やっと終わったな」
そう呟いて、陽介は自宅へ戻る。
ユラナスも、いつものように窓から帰るらしく、そのまま同行した。
夕飯は二人で簡単に済ませた。
普段は何でもない食事なのに、今日は妙に静かで、ユラナスもどこか疲れた様子だった。
「先に風呂入っていいぞ。今日はさすがに疲れただろ」
そう言うと、ユラナスは少し驚いた顔をしてから、素直に頷いた。
その背中を見送ったあと、陽介はソファに座り、クッションを抱き寄せる。
テレビではニュースが流れている。
能力絡みの事件については、当然ながら一切触れられていない。
(……いや、それ以前の問題だ)
陽介の意識は画面に向いていなかった。
(ユラナスは“監視役”として学校に来てる。
しかも、ほぼ毎日だ。
じゃあその間、日本全体の記憶改変は誰がやってる?)
考えれば考えるほど、違和感が強くなる。
一つ、可能性は思い浮かんだ。
ユラナスの主――“創造神”。
その配下が、日本用にもう一人来ているのではないか。
だが、それ以上は考えても答えが出ない。
結局、当人に聞くしかなかった。
風呂上がりのユラナスに、陽介はストレートに尋ねた。
「なあユラナス。
お前が学校に通うようになってから、日本の事件処理って誰が代わりにやってんだ?」
少しは含みのある答えが返ってくると思っていた。
だが――
「まあ、そうでしょうけど……分かりません!」
やけに堂々とした返事だった。
「……は?」
思わず間の抜けた声が出る。
「え、いや、普通そこは知ってるだろ」
「知らないものは知らないので!」
なぜか胸を張られて、陽介は脱力した。
その後もしばらく、そんな取り留めのない会話が続いた。
今日の出来事、学校の様子、そして自然と話題は“能力値”の話へ移る。
「そういやさ、ユラナスって法力どのくらい持ってんだ?」
ふと思いついて聞くと、
「分かりませんね。知る機会がなかったので。
でも、他の使徒たちが興味本位で主に聞いて、調べてもらったという話は聞きました。」
あっさりした答えが返ってきた。
「じゃあ、今見るか」
「いいんですか?」
声が、少し弾んだ。
どうやらそれなりに気になるらしい。
陽介は能力を起動し、ユラナスの数値を確認する。
一瞬、目を疑った。
「……15000くらいだ」
「それって、凄いんですか?アイツと同じくらいなんですが…」
何も知らない顔で首を傾げるユラナスを見て、陽介は深く息を吐いた。
(基準が違いすぎる……)
言葉にするのはやめておいた。
説明するだけで頭が痛くなりそうだったからだ。
「大体俺が10000前後だし、地球の一般人は、すごくても1000いかないと思う。だから……まあ、凄いんじゃね?」
そう言って肩をすくめると、ユラナスは一瞬だけ首を傾げた。
「すごくても千いかない」という部分が、どうにも引っかかったらしい。
だが、その疑問はすぐにどこかへ消えた。
代わりに、ぱっと花が咲くように表情が明るくなる。
「……そうなんですね!」
声も、少しだけ弾んでいる。
(あー、これ完全に褒められたと思ってるな)
たぶん内心では、
(やった! 陽介くんに認められた!)
くらいの勢いだろう。
気づかないふりをして、陽介は視線をそらした。
(そういや……)
ふと、昼間の光景が脳裏をよぎる。
巨大な氷塊を、あの細い腕で、ためらいもなく粉砕していたユラナス。
(パワーは、どのくらいなんだ?)
興味本位で数値を覗く。
――500。
一瞬、見間違いかと思った。
もう一度確認する。
……やっぱり、500。
法力の基準でいえば500が平均なので、筋力は平均値だ。
突出しているわけでも、特別低いわけでもない。
「……平均?」
思わず小さく声が漏れる。
あの氷塊を砕いた腕力が、平均?
正直、納得はいかなかった。
だがすぐに思い当たる。
(あれ自体が能力の一部か……。氷って言っても、見た目だけで脆い仕様なのかもな)
そう結論づけて、深追いはしないことにした。
次に、何となく、自分自身の数値も確認してみる。
――475。
「……だよな」
自覚はあった。
運動が得意なわけでもないし、力仕事をしてきたわけでもない。
それでも、数字として突きつけられると、少しだけ胸の奥がざらつく。
(弱いな……)
そんなことを考えながら、ぼんやりと数値一覧を眺めていた、そのときだった。
視界の端に、見慣れない違和感が引っかかる。
――法力総量。
一瞬、理解が追いつかなかった。
表示されている数値が、記憶と合わない。
「……は?」
思わず、目をこする。
もう一度、しっかりと見る。
間違いない。
(増えてる……?)
ほんのわずかじゃない。
確実に、はっきりと、数値が上がっている。
陽介は、言葉を失ったまま、その数字を見つめ続けた。
その総量、15000。




