野々花の今まで
またもや別視点。嫌なら遠慮なく言ってくださいよ?
――「南家の人間なんだから、しっかりしなさい」
物心ついた頃から、何度も何度も聞かされてきた言葉だった。
言い方は人によって違うけれど、意味はいつも同じ。
期待されている、というよりも
――縛られている、に近い。
だから野々花は、頑張った。
認めてもらいたくて、否定されたくなくて。
学校ではなるべくおっとりと。
誰かが困っていれば声をかけ、自然に手を貸す。
友だちを作り、場の空気を和らげる役に回る。
顔立ちには多少恵まれていたし、勉強も嫌いじゃなかった。
努力を続ければ、学年の上位には入れる。
それくらいの位置には、いつの間にかなっていた。
――でも、それでも。
「よくやってるね」とは、言ってもらえなかった。
唯一、そんな息苦しさを和らげてくれたのは両親だった。
心配性で、少し過保護で。
でも、その小言の端々から、確かな愛情が伝わってくる。
(……それだけで、救われてるんだけどな)
今朝も同じような小言を思い出しながら、野々花は机に突っ伏していた。
少し、眠い。
そんなところに、陽介が教室に入ってくる。
「陽介くん、おはよー」
軽く声をかけると、相変わらず感情の読み取りづらい顔で、
「おはよう」
短く、それだけ返ってきた。
(今日も通常運転、っと)
野々花は頭の中で陽介の得意科目を引っ張り出し、それに合わせて会話を組み立てる。
「昨日の課題できた? 情報のやつ、難しくなかった?」
「ん、まあ普通」
「さすがは陽介くん! こういうの得意だもんね。ちなみに私は全然できなかった!」
少し大げさに肩を落としてみる。
……反応は、薄い。
でも、いい。
これが陽介だ。
朝のホームルームが終わり、授業準備の時間。
「ねぇ、今日も部活行くでしょ? コンピュータ部だったっけ」
好きなことには一直線な人だ。
行くに決まっている、と思いつつ聞くと、
「そうだよ。……まあ、たぶん行く」
“たぶん”のわりに、迷いのない顔。
野々花は小さく笑った。
「そっか。頑張ってね」
その後、翔に絡まれている陽介を見かけた。
どうやら一限目の教科を忘れていたらしく、少し困っている様子だった。
(疲れてるのかな)
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その予感は、翌日には確信に変わる。
――陽介の顔が、明らかにやつれていた。
「……陽介くん? 大丈夫?」
思わず声をかけると、彼は少し間を置いてから、
「え? あぁ……寝不足でさ。ちょっと」
軽く笑った。
でも、その笑顔は、寝不足だけで済ませていいものじゃない。
「寝不足の顔じゃないよ、それ。本当に平気?」
触れたら倒れてしまいそうで、思わず言葉が強くなる。
「平気だよ。ありがとう」
そう言われてしまえば、それ以上踏み込めない。
野々花は「じゃあね」と一言残し、その場を離れた。
その後、翔も同じように心配していた。
けれど、やはり流されて終わった。
それでも――
その日の陽介の目は、どこか“祈っている”ように見えた。
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翌日。
ついに、陽介は倒れた。
普段は落ち着きのない男子が肩を貸し、保健室へ連れて行く。
その背中を、野々花は何もできずに見送った。
午後になって、陽介は教室に戻ってきた。
顔色は少しだけ良くなっていたけれど――
悩みが減ったようには、どうしても見えなかった。
その日の帰り、陽介はぼんやりとしたまま校舎を後にしたらしい。
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――そして、ある朝。
『あなたには一つ、異能力を与えましょう。
異能力は、あなたしか持っていません。
口外することや、はっきりとした能力使用による破壊も禁止です。
どのようなものなのかは授かればわかります。
では、良い人生を。』
妙に落ち着いた、底の見えない声。
野々花は、早朝にその声を聞いた。
与えられた能力は二つ。
『硬化』と『軟化』。
(……なんだろう。これ)
どこか、既視感があった。
とても近くて、でも思い出せない何か。
考え込んだままでは埒が明かず、野々花は頭を振って外の空気を吸った。
冷たい風で、意識ははっきりしたけれど――
既視感だけは、霧のように消えてしまった。
学校へ向かうと、校内はどこか落ち着きがなかった。
ざわざわとした空気。
――ただ一人を除いて。
野々花は、迷わずその人物のもとへ向かった。
その頃には、胸の奥に一つの確信が芽生えていた。
(……この人、何か知ってる)
そう思いながら、彼の背中を見つめる。
陽介と野々花の関係、どーしよっかなー




